「ジョニーのロック・フェス直前」
7月26日現在。国内最大のロック・フェスティバル、フジの名を冠した音楽の祭典が開催されている時刻である。
そこには国内外、ジャンルを問わず、また数多い有力新人もそこにいるだろう。
可能性こそ秘めてはいるが、いまのところそこにはまだ参戦できていない男たちと彼らに関わる人々もやはり真夏を生きていた。
かの地の祭典とは規模こそ違えど、彼らは彼らでフェスティバルに挑むのだ。
「ジャズやれるかなぁ……。どんな音楽なのか、それが分からないんだよなぁ」
細い指がフレット上を左右に動く、手首を返してパワーコードが鳴らされる。
リハーサル・スタジオに彼らはいた。緊張感も殺気立つ雰囲気もない。いつも通り、やる気のない部活動のような光景がそこにある。
「知らないくせにやれるかどうかって。なんかすごいなジョニー……」
「いや、ジャズっても俺らはジャズをやるわけじゃない。イベント名だよ。ジャズをやれって言われてるわけじゃない」
とは言えヒラサワくんはイベンターでもあるダーティ・スター・オーケストラに在籍していた、彼が主に使うのはウッドベースであり、タイム感とルートは体得している。
だが、本来、彼らが活動してきた場所とは違う。言うなればアウェイだ、客層が変わる以上、従来の音圧まかせ、速度に特化したパフォーマンスでは好結果は得られないだろう。
キャリアだけには換算できないバンド・スキルを持つヒラサワくんならではの不安だった。
バンド唯一の頭脳といえる43歳は迫る出演に思いを巡らせ、そして打開策を練り続ける。
一方、頭脳にはあまり自信がない25歳のドラマーと、頭脳や知能という概念そのものが怪しい25歳のヴォーカル兼ギターの両名はすでに楽器から離れ、揃ってお昼寝の準備をしていた。
「おい、スタジオで寝るなよ……」
「夏にあちらこちら旅行できて……バンドって最高だね」
「旅行じゃないけどな。仕事だから」
「こーゆーのを豊かな生活って言うんだろーなー」
早くも夢見心地でジョニーが言う。
違うぞ、売れてもないバンド生活を楽しむなんてどうかしてるぞ。そうは思うヒラサワくんだがそれが通じるわけもない。
「起きたら海行こうぜ」
天野くんは浮き輪を持ち込んでさえいた。
「俺たちは客じゃねえぞ、出演者だぞ」
何を言ってもムダだろうなぁ。ヒラサワくんは自身が引率者になりつつある現状を憂う。
「楽しいね、毎日。ね?」
無邪気そのものの笑顔だった。
そして夏がはじまる。
<長く書いちゃったので半分にしたらオチもなにもなくなってもたわ。続きはまた次回♩>
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あの夏、ぼくらは流れ星になにを願ったんだろう……
流星ツアー(表題作を含む短編小説集)
あの人への想いに綴るうた