ただそばに | 久保田 智博 official blog

ただそばに

 病院の中を歩いていたら、「お母さん、お母さん!」という大きな声が聞こえる。とても大きな声なのに、誰もその部屋に近づかない。そしてしばらくしたら「お姉さん、お姉さん!」という大きな声と、ナースコールが鳴り続けている。


 僕は不思議に思って、その部屋の前へ行った。ベッドにいた100歳近くのお婆さんは私を見て、今度は「お兄さん、お兄さん!」と大きな声で私を呼ぶのである。私は一瞬悩んだが、心の声に従ってお婆さんの部屋に近づいてみた。


 すると、お婆さんは私に「どうしてもこのペットボトルが開かないの。開けてくれる?」と仰るので、私は開けて「どうぞ」と手渡した。するとお婆さんは「ありがとう、ありがとう」と繰り返し言われる。


 そして、「今、何時?」と聞かれるので、私が目の前の時計を指し、「夜7時ですよ」と言うと、「そう、昼の1時なのね。だからみんな忙しくて誰も来てくれないのね」と仰る。耳は聞こえず話はほとんど通じないが、僕は先日101歳で亡くなった祖母と、そのお婆さんが重なって、思わず背中をさすって色々なお話をした。お婆さんは本当に喜んで「ありがとう。ありがとう」としきりに仰るのだ。


 しばらくすると、医師と看護師の方が現れた。「身内の方ですか?」と聞かれたので、「いえ、ペットボトルを開けて欲しいと頼まれたので開けたのです」と答えながら身分証を示したら、その看護師さんは「本当に助かりました」と言って、血圧や脈を測り始めた。その時も僕はお婆さんの「ただそばにいた」のだが、お婆さんは最初の興奮状態とは正反対に、とても穏やかになった。


 そして、医師と看護師さんが顔を見合わせて、驚いて僕にこう言ったのだ。


 「私は何年も多くの患者さんを診てきました。今この方を担当しておりますが、こんなに穏やかになられたのを初めてみました」と。


 正直、僕がやったことは何もない。「ただそばにいる」ことしかできなかった。しかし、その「ただそばにいる」ということ、真剣にその人を想う気持ちが伝わって、何か化学反応が起きたのかもしれない。僕は少しお役に立てて良かったと思いながら、この超高齢化社会の現実に、色々思うことがあった。


 そもそも、僕がペットボトルを勝手にあけ、飲み物を渡すべきではなかったかもしれない。勝手に話しかけるべきでなかったかもしれない。結果として、皆さんが喜んでくださったから良いものの、これは非常に難しい問題だと感じたのだ。


 時として、決断の判断基準は難しい。今回はたまたま全てがうまくいき、僕はお婆さんと、目と目を合わせ、魂のコトバを交わし、感じあうことができた。決断に迷った時、私達はどうすべきなのか。大切なのは、何かをやろうとする時、心の叫びや直感というもの、自分がどうありたいのか。全身で考えるということだ。そして、時に自分が無力と感じる時に、ただそばにいる、ただそこにいるということは、非常に重要なことなのだと、私はお婆さんから教わったのだ。


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