カツコツと、質の良い革靴とリノリウムの廊下が音を奏でる。
人気のない廊下を優雅に歩く長身の男。
羽織った白衣と首元に掛けた聴診器が、彼を医師だと示す。
形の良い唇には薄っすらと笑みが乗っているれど、シルバーフレームの眼鏡の奥、完璧な造形美を描く切れ長の瞳には何処か歪んだ狂執さえ浮かんでいた。



夕暮れも過ぎ、薄っすらと暗く染まってゆく白い廊下の行き止まりにその病室はあった。
カツンと鳴る靴音が止まり、白衣の医師がそこを目指して歩いていたのがわかる。
他の病室とは一線を画すカードキーのリーダーが付いた重厚なドア。
備え付けられたプレートは空白で、その部屋にいる者の名を外へと教えることはない。
コンッコンッとそのドアをノックする男の手。中からの返事も待たずに白衣の胸ポケットから取り出したカードキーをかざし、扉を開ける。
その部屋の中は病室としては十二分に広く、居心地の良いように配備された家具と大きなベッドが置かれていた。そこは病室と言うより高級なホテルの一室のように見受けられる。
ベッドの上にちまっと座っているのは黒髪のまだ幼さの残るひとりの少女。
彼女は………入って来た医師を
「……敦賀先生」
と、呼んだ。
その声は震え、あきらかな怯えを含んでいた。


にっこりと唇で笑む男、白衣が示す通りの医師である敦賀蓮。
蓮は彼女の怯えなど意にも解さずに少女の元へと歩き、ベッドへと腰掛けその硬い表情を覗き込む。その距離は医師と患者にしては違和感のある程に近い。
「いい子にしてた?……キョーコちゃん」
しっとりと滴るような低い声が少女をそう呼ぶ。
蓮の手がキョーコの髪に触れようと伸びると、その指から逃げるようにビクッとキョーコの肩が竦む。
そんなキョーコの様子に、蓮の唇が楽しそうに歪む。まるで、猫が捕らえた獲物をなぶるみたいに嗜虐的な笑いと仄暗い欲が覗く黒い瞳。
「さぁ、診察してあげるから前を開けて?」
蓮の指先がすぃっとキョーコのパジャマのボタンを指す。
キョーコは、イヤイヤと首を左右に振りながらパジャマ胸元フロントをぎゅっと握りしめる。
「ぃや……こんなの、おかしい……です。お願い、家に帰して……」
小さく震える身体と声。涙を貯めて潤む琥珀色の瞳。
「駄目だよ。触診を嫌がるなんて、キョーコちゃんは悪い子……だね?」
クスクスと酷薄に笑う蓮からは濃密な夜の気配が漂っているかのよう。
白衣を纏ったその腕がまるで焦らすようにゆったりとキョーコを捕まえるべく伸びていく。




キョーコを悩ませた止まらなかった咳も、重りでも乗せられたみたいに苦しかった胸も、ずっと続いていた熱も、すべて癒えた。
なのに、キョーコがこの病室を出る事は許されていない。
いや、出来ない。不可能だった。
何故ならば、キョーコの白くほっそりとした首にはベッドヘットから伸びる細い鎖と首輪が繋がれていたから。



それは、優しかった担当医の蓮が突然にキョーコへと架せた狂気さえ孕んだ執着の拘束だった。




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なんぞこれ?
((((;゚Д゚)))))))

いや、気が付いたらいつの間にやらアメンバーさんが三桁を超えてたんですよ。
んで、じゃぁ記念(?)してちょいと久しぶりに限定な感じのものを書こうかなぁ………って、考えた時に頭をよぎったのがタイムリーな『白衣のお医者様な蓮さん』でした。笑
猫木、コミック派なんで実際に見てはいないんですけどね。
(;´▽`A``

よし、折角のお医者さんだし(?)へん◯いな監禁ものっぽいのを目指してみたら、思った以上に危ない感じのものになってしまった………どうしよう?続けてよいのか、これは?
続いてしまうとたぶん、限定行ってそのまま通常に戻らずに終わりそう………



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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