〔IMF世銀総会〕ギリシャ財政健全化目標でIMFが柔軟姿勢、ドイツは反発
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPTK825238920121012
2012年 10月 12日 19:11 JST

 [東京 12日 ロイター] 国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会で東京を訪れているラガルドIMF専務理事は12日、ギリシャの財政赤字削減目標について、経済情勢などを踏まえると、目標達成に一定の猶予が必要との認識を示した。だがドイツのショイブレ財務相は、ギリシャに猶予を与えてよいかどうか判断するのは時期尚早と指摘した。

 IMFは、ギリシャなど財政問題を抱えた欧州の国の財政健全化努力をめぐり、過度に急激な赤字削減を強いれば、経済に打撃を与えるため逆効果と、態度を軟化させた。厳しい条件付与に反対していた人々や一部新興国はこれを歓迎。

 ブラジルのマンテガ財務相は「われわれはかねてより、ひたすら過酷な財政政策は逆効果で反発を招きやすいと主張してきた」と述べた。


 ラガルドIMF専務理事は討論会で「成長力の乏しさ、市場の圧力、これまでの努力を考えれば、もう少しの時間が必要だ」と述べた。

 しかし、討論会に出席したドイツのショイブレ財務相は、赤字削減の約束を覆せば信頼に傷がつくと反論。

 IMF、欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)で構成する「トロイカ」がギリシャ調査の報告書をまとめる前にラガルド専務理事が猶予に言及したことを批判し「トロイカの報告書が出るまで憶測は禁物」と述べた。


 <トーン変化>


 IMFのトーンが変化した背景には、今週IMFが発表した報告書で、積極的な財政立て直し措置による経済への打撃が予想以上に深刻なことが判明したことがある。さらに、欧州問題にIMFが真剣だということをアピールしたい、というフランス出身のラガルド専務理事の意向もある。

 ラガルド専務理事は「勘違いしてはならない。成長がなければ、世界経済の将来は危うい」と述べ「歴史から得られる教訓は、公的債務の削減は成長なしでは信じられないほど困難ということだ。逆に、高水準の債務は成長をより困難にする」と指摘した。

 ノーベル賞受賞者の経済学者、ポール・クルーグマン氏は、最新のIMF世界経済見通しに盛り込まれた分析は、かなり悲観的としたうえで、有力な意見に対抗して自らの分析の誤りを認める「勇気を称賛する」とブログで語った。

 欧州中央銀行(ECB)のアスムセン専務理事は12日の講演で、ギリシャが来年財政目標を達成する心強い兆しがあるとの認識を示した。

 アスムセンECB専務理事は「ギリシャ当局は、コミットメントの堅持が可能であることを示すべき」とする一方で、来年の財政目標達成に向け心強い兆しがみられると指摘した。 ギリシャの危機脱出については「ユーロ圏内で改革を進めることが最善」と語った。


 <スペイン「支援要請に関する圧力ない」>


 ラガルドIMF専務理事が11日の会見で、ギリシャとともに赤字削減達成猶予に言及したのがスペイン。スペインは支援要請するかどうかが焦点となっているが、デギントス経済相は12日、支援要請で圧力は受けていないと述べた。

 同相は、記者団から、支援要請するか決定する上で必要なのはテクニカルな詳細でなく政治的な明確性か、と問われ「どのような意味であれ圧力はない」と発言。さらに支援申請に関する決定が格付けに左右されることはないと語った。

 サンタマリア副首相は11日、「スペイン(の赤字削減に向けた取り組み)は計画に沿っており、赤字削減目標を達成する。政策および目標は変更しない」と述べている。

 ようやっと、よおおおおやっと、IMFが過去の過ちを認め、不況時(低成長時)における緊縮財政の害毒について、触れるようになってくれました。正直、あと2~3年早く気づいてよと思わないでもないですが。
 この記事では深く触れられていませんが、IMFが発行してる世界経済見通しでは、さらに深く触れられている模様。

■「過小評価された財政乗数」 by Antonio Fatás(翻訳:道草の中の人)
http://econdays.net/?p=7183
この度発表されたばかりのIMFの世界経済見通し(IMF World Economic Outlook)では世界経済の回復を鈍化させるリスクの高まりに対して強い警戒が示されているが(報告書はIMFのウェブサイトで閲覧することができる)、その第1章ではこれまでの成長予測において財政乗数の大きさが過小評価されていた可能性をめぐって優れた分析がなされている。以下は第1章からの引用である。

“多くの国々が財政再建に乗り出す中、財政乗数の大きさをめぐって激しい議論が繰り広げられることになった。財政乗数の値が小さければ小さいほど、それに応じて財政再建に伴うコストは小さくなる。実際のパフォーマンスに目を移すと、財政再建に着手した国々の経済活動は期待を裏切るものであった。そこで当然次のような質問が問われることになる。財政乗数の大きさは過小評価されていたのではないか? そのために財政削減に伴う短期的なマイナス効果が予想を上回る結果となってしまったのではないか?”

その答えは「イエス」(財政乗数は過小評価されていた)である。
(後略。非常に有意義なエントリーなので、リンク先を精読するのをお勧めします)

 財政支出の乗数効果を低く見積もられていたからこそ、不況時においても財政再建が優先課題と唱えられ、また、財政再建こそが不況脱出の鍵のような、倒錯した主張がまかり通っていたという次第。
 世界経済の重鎮たるIMFが財政乗数を低く見誤ってたことが、世界経済の低迷に一役買ってた可能性は、大いに高そうです。

 さて、IMFのこうした方針転換は、なにも欧州だけに限らず、我が国に対しての提言にも影響を及ぼしています。

■日本は低金利ゆえ急激な財政再建の必要ない=IMF調査局長
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE89801920121009/
 同局長は、「日本は多くの問題に直面している」と述べ、「外需の弱さ、デフレ、財政再建という3つの課題」を挙げた。財政再建については、「そのスピードが重要。財政再建による(マイナスの)乗数効果は、通常より強まっている。流動性の罠に陥っている先進国もあり、金融政策の効果が通常より期待できないため」と指摘、財政再建をあまり急ぐと世界経済にとって好ましくないとの認識を示した。


 と、まあ、この通り。財政再建を課題に挙げちゃいますけど、それはあくまで中長期的な物という位置づけ。
 考えてみれば当然の話なんですけど、民間の誰もがリスクを忌避し、借金してまで事業を拡大せず、逆に自社の負債を可能な限り減らそうとしているような状況なのに、政府が公共事業などで景気を下支えしないで、財政再建もクソもないだろうってこと。
 最初に転載した記事にもあります通り、『公的債務の削減は成長なしでは信じられないほど困難』ってのは、様々な事例が証明してますし。
 各国の財政に対して一定の発言力がある機関の方針転換は、喜ぶべき出来事と言えましょう。

 ただ……IMFの方針が変わったと言っても、即座に各国政府、とりわけ日本がそれに従うかというと、ちょっと楽観的にはなれません。
 これまで散々、財政危機だの行政の無駄遣いだのと刷り込まれてきたおかげで、国民の側にそれを受け入れる素地がなくなってますし、なにより大手メディアの論説委員だの、経済評論家(笑)だのが自分達の過ちを、すぐに認めて持論を翻すとは思えませんしね。
 実際、NHKなどは最初の記事が出た後ですら、このような見出しをつけた上、財政再建は中・長期的な課題であるとのIMFの認識を報じてはいませんし。

■IMFが声明 日本などは財政再建を
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121013/k10015720771000.html


 こうした報道が改まった上である程度の期間を経た後でなければ、おそらく世論の反対を受けて大規模かつ、ある程度以上の期間に及ぶ景気刺激策は不可能でしょう。
 さらに頭が痛いのは、日本だけではなく、他国の経済誌も財政再建最優先みたいな論調をとってきたおかげで、今回の方針転換が実行に移されるのは、だいぶ遅れる事になるんじゃないかということ。特に合衆国は、次の選挙でロムニー氏が勝ってしまうと、絶望的な展開になってしまうのではないでしょうか?

 ついでに、財政規律を緩めるなんて話になれば、発言力を大いに削がれることになる財務省も激しい抵抗を示すことになるでしょうし、方針転換はかなり困難になるんじゃないかと思います。


 世界の経済動向について大きな発言力をもつIMFの方針転換自体は喜ぶべきことですが、どこを見渡しても明るい材料が見えない状況で、それが間に合うのかどうか。かなり怪しいところなんじゃないかと思います。
 財政再建という誰も幸せにしない政策遊戯に興じてる暇なんか、もうどこにもないと思うのですけど……


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