【軍事のツボ】「空母キラー」の打撃力に疑問符
http://www.sanspo.com/shakai/news/110308/sha1103080955006-n1.htm
2011.3.8 09:51

 中国の2011年度の国防予算が前年度比12・7%増の約6011億元(約7兆5137億円)と3月4日に公表された。実際には1・5~2倍に上ると推測されている。

 相変わらずの軍拡路線が目指すのは、勢力圏を伊豆諸島からグアム諸島を結ぶ「第2列島線」まで伸ばすこと。台湾有事の際などに米海軍の空母打撃群を寄せ付けないためだ。

 この「接近阻止戦略」の“切り札”のひとつが「対艦弾道ミサイル(ASBM)」。大陸間弾道ミサイル(ICBM)や中距離弾道ミサイル(IRBM)のような弾道ミサイルに、核弾頭ではなく通常弾頭を搭載して、艦船を狙うミサイルだ。

 2010年12月にウィラード米太平洋軍司令官が「米国流に言えばIOC(初期運用能力)に到達した」と語っている。さらに2011年2月には「人民日報」系列の国際問題専門紙「環球時報」がASBM「東風(DF)21D」の配備を既に始めたと報じた。

 IRBM「東風21」を改良した弾道ミサイルで、射程は1800~2800キロ、弾頭搭載能力は約600キロ、半数必中界(CEP)は300~400メートルと推測される。

 通常の弾道ミサイルとは違って、これは動く標的を追尾し、目標に到達すると多数の子弾を広範囲にばらまく。そのため空母は飛行甲板などに穴を開けられて、撃沈を免れても航空機の運用能力を失う-とされる。

 潜水艦戦力と並んで「空母キラー」とも呼ばれるDF21Dだが、実際に有効な打撃力となりうるのか。答えは「大きな疑問符が付く」ではないだろうか。

 最大の問題が空母をどうやって探し、どうやって精密に照準するかだ。探知方法として考えられるのは、合成開口レーダーや光学センサーなどを備えた衛星やOTH(超水平線)レーダー。

 旧ソ連は複数の衛星からなる海洋監視衛星システム「レゲンダ・システム」を構築していた。これを哨戒機が補完して米艦隊の位置を割り出し、大まかな位置情報をSS-N-19シップレックなどの対艦ミサイルに入力し発射。目標に近づけばミサイル自身のレーダーや赤外線センサーで照準をつけて目標に突入-という流れだった。

 中国も同じような方法をとると思われ、「遥感衛星」という地球観測衛星を打ち上げていて、表向きは民生用だが軍用のセンサー類も搭載。2006年の初打ち上げ以降、次々と増え、現在10基ほどが稼働中とみられている。

 OTHレーダーは波長の長い短波帯を使用するために精密な位置は割り出せないが、水平線を越えて数千キロ先の目標を探知できる。「浙江省沿岸部に設置されており、2007年に能力試験を実施したと考えらる」(防衛省関係者)。

 こうした手段を複合的に使えばある程度は何とかなる可能性があるが、それでも海自関係者が「広大な海域では空母もごく小さい存在。探すのはものすごく大変」というように、困難さはつきまとう。

 もうひとつのポイントである最終段階での精密な照準はどうだろう。こちらにはもっと問題がある。弾道ミサイルは大気圏再突入時には電波が遮断され、高温に包まれる。つまり「自ら目標を探知することも、外部からの誘導を受けることもできない」(日米軍事筋)。

 そして着弾間近のターミナル段階。弾頭がマッハ10前後に達するなかで、シーカー(目標探知センサー)が赤外線の場合、冷却の問題がある。レーダーの場合でも空力的な問題で軌道制御は非常に困難。できても微調整程度だ。

 以上のような理由からASBMをピンポイントで着弾させるのは至難の業だ。多数の子弾をばらまくようにしているのはこうした欠点を補うためだが、限界がある。

 そしてミッドコース段階なら、現状のミサイル防衛(MD)能力を備えたイージス巡洋艦・駆逐艦・護衛艦のSM-3ミサイルで迎撃可能である点も見落とせない。(梶川浩伸)

 なんでこれを本誌に載せずにサンスポに載せるか産経ェ…

 それはともかく、ここ最近の中国脅威論で語られる事の多い対艦弾道弾ですけど、この記事を読む限り弾道弾という物自体、本質的には船のような小型でなおかつ動き回る目標に対しては無力ではないものの有効的ではないって事でしょうか。
 数が揃えられるならそれなりに脅威かもしれませんけど、ただでさえ値が張る弾道弾で飽和攻撃なんて贅沢、そう何度も繰り返せる筈もないですし、どーも騒ぎすぎのような気がします。もし有効に機能して米艦隊の対空網を突破して空母をしとめたとしても、せいぜい一回かそこらでしょうし。もちろん、それで稼げる時間は中国を利しますから、脅威ではないとは言えないですけど、現状だと分の悪い賭けになりそうですね。

 米軍などが騒ぐのは、予算獲得って側面があるのでしょうが。仮想敵の脅威を声高に言って、なおかつそれに対して自軍が脆弱だなんて言うのは、どこの国でも見られる話ですし。
 ただ、それにメディアが踊らされて、殊更に危機感を煽るってのはどうかと思います。確かに中国の軍拡は脅威なんですけど、それへの対処はやはり正確な情報からだと思うんですよ。
 その意味で、この記事はスポーツ新聞の一角に埋もれさせとくには惜しいですね。


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