世界のカメラマンから 自然賛歌

Nature's Best Photography Japanが監修する、世界のカメラマンのエッセイです。

Nature's Best Photography Japan 2013
コンテスト応募は締め切りとなりました。
たくさんのご応募ありがとうございました。
審査結果発表は2014年1月~2月を予定しております。お楽しみに!
詳しくはこちら⇒http://www.nbpj.org/

テーマ:
By 大谷洋介



九州南端からさらに約60㎞、黒潮に浮かぶ屋久島は1993年に白神山地と共に日本で初めて世界自然遺産として登録された。 九州最高峰である宮之浦岳(標高1936m)を擁するこの島は、海岸近くの一部を除くほぼ全域が山岳地帯であるため、洋上アルプスの異名を取ることでも知られる。 同島の大きな特徴のひとつであり、世界遺産登録の大きな要因になったと言われるのが、「垂直分布」と呼ばれるものだ。 海岸から山頂まで、ひとつながりの森林がほぼ人の手の入らないまま連続的に残されている。 森林は標高が上がるにつれ徐々に様相を変化させていき、九州から北海道までの気候・植生が水平距離でせいぜい10kmの中に凝縮されている。


【二千メートル近い山々が連なる】




【低標高域の植生】


【高標高域の原生林には大木が多く、地面や樹皮は苔で覆われている】

海岸付近ではイチジクの仲間であるアコウが互いに寄り集まり大樹を形成するなど、亜熱帯特有の光景が広がる。 すこし斜面を登るとシイやウラジロガシなど葉の厚い照葉樹の仲間が、その名の通り陽光を照り返す姿を目にすることが出来る。 さらに標高が上がると、スギやモミなどが目立つようになる。大樹が林立し、あらゆるものが苔に覆われた原生の森が、そこには存在する。


【左:アコウ、右上:スギゴケ、右下:コケシダ】

苔蒸す森を支えるのは多量の雨だ。 暖かい海から流れ込む水蒸気は高山にぶつかり、雨となる。 その雨天の多さたるや、「屋久島は月のうち、三十五日は雨」(林芙美子著「浮雲」より)と言われた程だ。






【高標高域は特に雨が多く、雨と霧で前が見えなくなることもある】

屋久島では樹齢千年を超えるスギを「ヤクスギ」と呼んで区別しており、有名な縄文杉などは樹齢2千年とも4千年とも言われている。 通常数百年程度の寿命であると言われるスギが、屋久島においてこれほど長寿である理由はその厳しい環境にある。 屋久島の山岳部はほぼ花崗岩の塊であると言って良く、急峻で雨量が多いため土壌がなかなか堆積しない。 植物は、栄養素が少なく薄い土壌の上に生育するしかない。こうした環境に晒された杉は成長が非常に遅くなる。 すると年輪が密になり、タンニンやリグニンを多く含む腐りにくく頑丈な樹になる。厳しい環境が杉を強くし、結果的に千年を超える長寿たらしめるのだ。



屋久島の森には何種かの哺乳類が生息している。 コイタチもそのうちの一種だ。ニホンコイタチの亜種であるが、その生態にはいまだ不明な点が多い。


【コイタチ。個体数が少ないわけではないが、動きが速く臆病であるため近くで見られる機会はめったにない】

森の中で最も簡単に見られる哺乳類はヤクシマザルとヤクシカだろう。 両種はともに屋久島の固有亜種である。 他の中型哺乳類としては、イヌやネコを別にすると島外から持ち込まれたタヌキぐらいしか屋久島には生息していない。


【本土に生息するシカよりも小さいのが特徴。樹上から落とされる食べ物のおこぼれを狙って、サルと一緒にいることも多い】

研究者として、私は長い時間をサルと共に森の中で過ごしている。 目的はヤクシマザルの社会や生態を明らかにすることだ。 彼らの後ろを付いて回り、どこで何を食べ、誰と毛づくろいをし、誰が誰を攻撃するのか、そういったことを秒単位で記録していくのだ。



細かいデータを記録する前に、やらなければならないことがある。 対象に定めた群れのサルの顔を1頭1頭覚え名前を付ける、個体識別と呼ばれる作業だ。 これは非常に難しいことのように思われるが、サルの研究者を志してこれが出来なかった人はいないと言われている。 彼らの顔にもそれぞれ個性があるため、実は意外に簡単なのだ。試しに、何頭かのサルの顔を並べてみよう。



いずれもオスのヤクシマザル。左の個体は目の下がくっきりと白く、眉間の毛が薄い。 真ん中の個体は口回りの毛が濃く、鼻の頭が黒ずんでいる。右の個体は比較的若く、顔が小作りであることと額の生え際がはっきりM字型になっているのが特徴。

こうして見比べるとそれぞれに特徴があることが見て取れるだろう。 さて、下にもう一枚サルの顔写真がある。実はこの写真、上に挙げた3枚のうちいずれかと同じ個体なのだが、どれだか分かるだろうか。



この個体も口回りの毛が濃く、鼻が黒ずんでいる。 正解は真ん中の写真だ。違いが分かった方も多いのではないだろうか。 我々が調査を行うとき、最初は細かい特徴をノートに記録し、逐一確認しつつ個体を特定するが、 慣れてくると人の顔を覚えるように漠然とした全体の雰囲気で名前が分かるようになってくる。 場合によっては後ろ姿やお尻だけでも個体が特定することが出来る。

個体識別が終わったら後はひたすら群れの後ろを付いて歩く。 とは言え彼らが我々に配慮してくれる訳ではない。 彼らが川を渡れば我々も渡り、崖を登れば我々も登る。彼らの行動を逐一記録しながらだから、これはかなり大変な作業だ。



しかしそうやって長い時間を共に過ごすと、自然の中で自由に暮らす彼らの、時に激しく、時にユーモラスな、実に多様な行動を目にすることが出来る。 道無き道を分け入り泥と埃にまみれて彼らを追いかけているとき、ふとした拍子にとても興味深い行動を見せてくれたりする。 そういうとき、やはりサルはおもしろいと、つくづく思うのだ。


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