憩いの場

テーマ:
 最初は頭。
洗った顔にシャンプーがかかるのがイヤだから最初。
顔、首ときて、下へおりる。
最後は脚、足。

 泡をすすぐ。
それから、温、冷、温、冷、温。
仕上げにかぶり湯。成分を着けたままにするためだ。

 宮崎にきてから毎晩行っている行動だ。
一回目か二回目の「温」が露天風のさるのこしかけ湯のときもある。
交代浴は、サンちゃん(※注1)に勧められて以来、習慣となっている。
ぽかぽかする。


 しかし、風呂にはいろんなひとが浸かっている。
このホテルはリゾートホテルであり、ゴルフをプレーするために
中国や韓国から宿泊にきている客も多い。習慣が違うことは分かる。
チャイニーズキッズがシャワーのホースを持ってお湯をかけ合ってるのは
子供だからまだ許そう。しかし、入口にサンダルが散乱していたり、
浴槽の脇にぐちょぐちょになっているサンダルがあったり、サウナの
石に水をばしゃしゅわっとするおっさん達の行動はどうか。


 結構みんな風呂好きで、憩いの場となっている。
何時に行っても誰かがぷかぷかしている。そういうとき、リラックスした
状態で会話したりするので、気が付けば長風呂。ふりむけばヨコハマ。
言ってみただけ。

 さて、空気も寒くなってきたので風呂に行くとするか。

                    つづく

※注1:カルロス・アルベルト・サントス(鹿島・清水・神戸・草津)。
    彼の鉄人ぶりの秘密のひとつは、毎日欠かさなかった
    身体のケアに組み込まれていた、この交代浴だった。
    もうひとつが、超マイペース(※注2)な性格。

※注2:オレが言うな。
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柑橘系

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 ハイスクール時代、オレはバス通学だった。
一時間に一本のバス。定刻通りに来る方が珍しいバス。
20分待たされるのはざら。それよりヒドいのは乗客の少ない日。
時間通りに行っても、15分前に通り過ぎていたり...
調整しろよ。

 あの日も、いつも通りバスを待っていた。帰りのバスを。
「よっ、元気か?」いきなり声をかけてきたのは、知り合いの
大学生だった。「あっ、そういえば、この子知ってる?」と、
同じバス停で待っていたオレより一つ年上の女の子を紹介して
くれた。私立ハイスクールの制服がよく似合う小柄な子だった。

 オレのハイスクールは、1・2年生と、3年生の一部が午後の授業。
残りの3年生と、4・5年生が午前、という構成だった。オレは2年生。
それ以来、特に用事がない限り、夕方の同じ時刻のバスで帰った。
その子が乗る確率が高かったからだ。

 いろんな話をした。
どんな音楽を聴くの? テレビは何が好きなの?
学校おもしろい? 今日こんなことがあったよ。
そんな会話の中で、どっちかがアホなことも言うと、脇腹につんつん。
それがツッコミになった。「やめろよ!」と相手の手を押さえるたびに
10秒、20秒の時間が流れる。すぐには離さない。オレも、彼女も。
お互い心臓がドキドキしているのがよく分かる。しかし、二人とも
「じゃれあっているだけよ」という姿勢を見せようとする。だが、
目がそうではないことを訴えていた。「ねえ、ところで...」と
話題を変えて手を離していたのは、お姉さんぶっている彼女の方だった。

 「好きなひとはいるの?」
という質問にはお互い、相手とは違う名前を言っていた。
会うまで好きだったひとの名前を。


 3年生になり、午前の授業に変わった。
彼女をバスで見かけることもなくなり、彼女がいないことが日常になった。
そんなある日、昼過ぎの帰りのバス停に彼女がいた。「あっ、久しぶり...」
「元気...?」「うん...」バスに乗り、何とも表現しがたい雰囲気の中で
会話する。   キキキッ!  「乗客のみなさん、バスが故障しましたので、
次のバスを待って下さい」と運転手に言われる。


 待っている1時間もの間どんな会話をしたのだろう。記憶にない。
バスが来る。乗る。アホ話。つんつん。「やめろよ!」手を押さえる。
握り返される。
        沈黙...
                1分。
                       2分。
目を合わせることもできないほど、心拍数は上がっていた。

 どれくらい時間が過ぎたのだろう...
「あなた、怖いの?」と聞かれた。
その直後に唇を重ねた。

「それじゃ、また」
そういい残し、逃げるようにバスを飛び降りるまで、オレの初キスは続いた。
唇を離した瞬間、何て言えばいいのか分からなかったからだ。


 数日後、またバスで一緒になった。「元気?」 「うん」 沈黙。
「あっ、あの」とオレ。「何?」「今まで通り...友達どうしでいよう」
女性と付き合ったことがなかったオレはビビりながらそう言った。

            「...うん」

                   安堵とともに、寂しさを覚えた。


 それから、同じバスに乗り合わせたことはない。


 想い出のなかでは確かにレモン味だ。

                    つづく


 この物語は事実をもとにしたフィクションである
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夏の宴

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 一月中旬。
オレの出身地でもあるラプラタでは、地元の日本語学校の維持会が
主催する「盆踊り」が近年復活し、毎年開催されている。

 ラプラタ日本人会会館のグラウンドの中央に櫓が設置される。
その周りをぐるっと露店の大きな輪が囲む。露店の内側をぐるぐると
ベンチが3周4周し、その更に内側が踊るスペースだ。かなり広い。

 元々日本人や日系人が中心に参加していたのだが、年々人数が増え、
最近はたくさんのアルゼンチン人を含む4、5千人ものひとが集う
一大イベントとなり、ブエノスアイレス州文化財にも指定された。
えへん。ちょっぴり誇り。

 露店。
日本語学校維持会が焼く焼き鳥、日本人会青年部が運営する
ブフェ buffet(ハンバーガー、アルゼンチンの適度にスパイシーな
チョリソをフランスパンで挟んだチョリパン、ソフトドリンク、
ビールなど)をはじめ、個人や団体が運営する売店などで日本食の弁当、
焼そば、たこ焼き、お好み焼き、和菓子、かき氷などが食べられる。
その他、様々な企業がプロモーションに来ていたり、スポンサーに
なっていたりする。豪華賞品の抽選会もある。

 曲の方は、Repeat 1?とたまに感じる「炭坑節」を中心に、
「河内音頭」、「東京音頭」や「アラレちゃん音頭」、更には
太鼓叩きショーってな感じで時間が流れる。

 ♪つっきがぁ、でったで~たぁ つっきがぁでた~
に合わせて踊るアルゼンチン人を見るのも、なかなか味がある。

 「日本人の移住者はまとまっていていいよね」とアラブ系の
同級生にも言われたのは、この盆踊りを見ての感想だった。

 日本でも盆踊りが「夏のお祭り」になったことを考えると、
アルゼンチンの夏に開催されるこの盆踊りもあながち時期外れでは
ないかも知れない。


 しかし、盆踊りのひとつの解釈である「死者と踊る」というのを
アルゼンチン人に言えば気持ち悪がるのだろうか。

                    つづく


 今年は参加できなかったが、インターネットで調べものをしていると、
下記のブログと出会い、様子を伺うことができた。
「12325km」 http://tomokoy77.exblog.jp/2554768/
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チパ、チピータ、チパ!

テーマ:
 パラグアイは、何度か行ったことがあるワンダーランドだ。

 Ciudad del Este(スィウダー・デル・エステ:東の街)は、
怪しい店や露店がずらーっと並んでいる混沌とした空間。

 そこのほぼ全ての取扱製品が盗品や密輸品、コピー商品である。
例えば、一目で明らかに同じ工場で作られていると分かるポロシャツが
大量に販売されているところをがあったりする。しかし、胸の部分を
見ると、「Nike」「Fila」「Adidas」などと、全く違うロゴが入って
いたりする。OEM ではないとみる。

 電化製品は、聞いたこともないメーカーのものが多い中、
細かくチェックして「本物だ」と納得して購入しても、保証書が付かない。
家に帰ってから更に詳細に確認すると、製造番号があった筈のところは、
高温の針金のようなものでしゃかしゃかとされていて、溶けている。
正規のルートで入ってきたものではないとみる。

 中国人系 CD ショップ。
薄っぺらい紙に素人以下のクオリティでジャケットがプリントされた
鄧麗君の盤があったりする。ローマ字表記をみると、「Lisa Teng」。
「なあ、この Teng Li Chun さあ、洋名なんだっけ?」
「知らんよ。リー・チュンだから、リサでいいんじゃないの?」
「あっ、そうか!」カタカタ「リサ・テンっと。 出来た!」
 テレサだよ。

 
 日本で盗まれた車が香港へ流れるように、
ブラジルの盗難車は、パラグアイへと流れる。

 とあるブラジル人に聞いた、そいつの父親の話。
車が盗まれた。すかさずパラグアイへ渡る。中古車販売のところへいくと、
予想通りマイカーがあった。破格のプライスなので、即購入(注)。
書類はくれないが、元々自分が持っているので、ブラジルに持ち帰り、
普通に乗る。

 このスムースな行動が出来たのは、前回同じ車が盗まれたときの
経験が生きたからだ。って、二回目?

 高級車は、政治家など権力者にそのまま流れるので、
あまり深入りして追跡しない方がいいらしい。


 こんなパラグアイは、基本的におおらかなので、その全てを
受け入れながらみんなが生活している。

                    つづく

注:アメ玉を買うときと同じように、お金を払えば、車が手渡される。
  手続きは一切なし。

インプット

テーマ:
 選手の名前が、自分自身の予想以上に速く記憶できてる。
すごいぞ、オレ。

 ポジション別に顔を整理し、ニックネームも大体覚えた。
なので、フルネームが全てポンと出てくるワケではないが、
名字、名前、ニックネームのいずれかは言えるようになった。
厚着をしているこの時期、背番号は見えないのでまだ顔と
一致しない。しかし、なかなかえらいぞ、オレ。

 元々知り合いだったのが、白井、昇平、潤(清水エスパルス)
と康也(東京ヴェルディ)だ。名前を知っていた選手達も何人か。

 新たに覚えた選手達の中で一番速かったのは、
とある選手リストで「Kitane」となっていたり、
「コシケ」や「コシュケ」とたまに呼ばれている(注)、
公式の183cmより大きく見えるアイツだ。


 昨日の午後の練習はプールでのフィジカルトレーニングだった。
殆どの選手がホテル着のスウェット(紺)か練習着(ライトブルー)
でホテルからプールまで歩いていった。が、しかし、例の選手は、
紺のスウェットの長ズボンにライトブルーのウィンドブレーカーという、
ドン小西やピーコもビックリのコンビネーションだった。

 確かに寒かったが...

                    つづく

注:(追加)ブラジル人にとって、ちょっぴり発音しにくいので。