彼にとっての禁句

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顔色を変えながら
「大丈夫?」
と、彼は私に聞いてきました。


「何が?
 怪我のこと?
 それとも、主人に話したことの方?」

彼の反応で分かりました。


私の予感は当たったのです。

彼が心配したのは私ではありません。
彼は、バラされた自分のことを
心配していたのです。


何か言いたげな彼でした。

でも、私は彼に話す間は与えません。
彼が話す前に、私は言いました。

「大丈夫ですよ。
 話した時期は随分前のことだし、
 いいなと思う人がいる、、程度の話。
 それに、具体的なことは
 何も言ってませんから。

彼の言葉は聞きたくありませんでした。

彼が何を言うかなんて、
容易に想像がつきます。

傷付きたくない、、
彼に喋らせないことは
咄嗟の自己防衛でした。


そして、私の話に、
ほっとしたような表情を浮かべた彼。




その表情に、私は悲しくなりました。


これが彼の本音なのでしょう。

自分の保身を真っ先に考える男なのです。


ただ、一言でいい、
「大変だったね。身体、大丈夫?」
そう言って欲しかっただけだったのに…。

私の願いは、それすらも叶わないのです。



しばらくの沈黙の後、
彼は私をさらに打ちのめしました。

「ご主人には、
 何も言わない方がいいんじゃないかな?
 刺激することはやめた方がいいよ。
 うん、そうだよ。
 関係ないことは言わない方がいい。」

彼は、自分が私達夫婦の揉め事とは、
関係ないと言いたかったのでしょう。

そんな訳はない。
関係ないはずがないのです。

彼が、初めから再婚の事実を
話していてくれさえすれば、、
という想いは、実際に
いつも私の頭の中にありました。

だけど、
その後の選択は私自身が決めたこと。

だから、こんなことを
今さら言っても仕方がないのだと、
自分を押さえていました。

言わない方がいいことも、十分、
分かっていました。



でも、この日の私は壊れていました。

やり場のない気持ちに、
自分を止められなかったのです。



「初めから結婚してることを
 言ってくれてれば、っていつも思う。


私の言葉に、彼は声を荒げました。


「だから、それは話した時に
 謝ったでしょ?
 結局、(関係を)続けることにしたのは、
 それを許したってことじゃないの?
 謝って終わったことでしょ?」


彼のスタンスは、いつも
「自分は悪くない」でした。

自分が責められることを
極度に嫌っていました。

私は、彼にとっての禁句を発したのです。
それも偶然なんかじゃなく、わざと。


彼は、いつも都合が悪くなると、
自分を正当化するために、
強い口調で、時には饒舌に
私を責め立て続けました。



こんな時、私はあの子のことを
話してしまいたい衝動に駆られます。


あの子のことを知っても、
同じことが言える?

自分は悪くないと言える?



でも、今じゃない。
まだ言うときではない。

感情的に伝えるのは、
あまりにも、あの子が可哀想だ。


そう想っては、
いつも、グッとこらえたのです。




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