主人の意地

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階段から落ちた私は、
しばらく動けずにいました。


子供がすぐに駆け寄って来て、
「救急車を呼ぼう」
と主人に言いました。

「そんなことするな。オーバーなんだよ。」

主人はそう言うと、
自分の部屋に戻っていき、
部屋から出て来ませんでした。


幸いにも、私は、
立ち上がることが出来ました。

骨折もなさそうで、怪我といえば、
打ち身と手首の捻挫程度だったため、
私は心配する子供をなだめました。


後で子供が教えてくれました。

私が落ちていく際、
主人は舌打ちをしたそうです。


それを聞いた時、しみじみと感じました。

「離婚する方向で考えてほしい」

私から言い出したこととはいえ、
もう、私達夫婦を繋ぐものなど
何もないのだと、、

お互いに残っていたであろう
最低限の家族としての情は、
憎しみへと変わってしまっているのです。



階段から突き落としたことへの
主人からの謝罪は一切ありませんでした。

今までも、主人から謝罪されたことなど
ありません。

主人にしてみれば、これまでのように、
自分を追い込んだ私が悪い、
ということなのでしょう。

そうかもしれない、

私から申し出た離婚話なのだから、
多少の痛みは仕方ない。

それほどに主人を苦しめたのだから、、
そう思うしかありませんでした。

 

でも、この日の出来事は、
多感な子供の心に、父親への不信感、
反発心を植え付けた結果となりました。

この日以来、子供が父親に
話しかけることはなくなったのです。

子供に申し訳ないことをしてしまった…。
親としての後悔は、今でも消えません。



私と主人との会話も、
必要なことですら皆無になりました。

でも、主人の意地は相当なものでした。

当然のように、
私と子供の目の前で
私の作ったものを食べ、

当然のように、
居間でくつろぐのです。

そうです、会話がないこと以外は
まるで何事もなかったかのように…。



私達を避けない主人の代わりに、
私と子供は主人を避けるようになりました。


主人は、子供に対しても、
自分から歩み寄るような人では
ありませんでした。



子供が避け出したことで、
家の中で徐々に孤立していきました。

今思えば、この頃から
主人はおかしくなっていました。


でも、狭い家庭内での
憎み合いながらの生活は、
誰にもそれを気付かせませんでした。

それほどまでに、気の抜けない、
常に緊張した毎日が続いたのです。




その週の木曜日、いつものように
私は彼のお店へ行きました。

この頃、すでに彼のお店に通うことは、
私の中では試練になりつつありました。

あんなに、
楽しみだった木曜日だったのに…。



でも、彼の仕事を手伝った関係で、
売上やら経費やら、
私は、お店の裏事情を知っていました。


だから、あの子のことを告げるまで、
という気持ちとともに、

私が払う施術料が、
売上の何割を占めるのかを考えると、
なかなか通うのを止められませんでした。



私の左手首に巻かれた湿布に、
彼は理由を尋ねました。

今までなら、我が家での出来事は、
あくまで私だけの問題として、
彼に話すことはありませんでした。

今までの私なら、
適当な嘘でごまかしたことでしょう。

でも、この日の私は違いました。


主人にやられたこと。
離婚話が進んでいること。

そして、主人に対し、
他に気になる人の存在をすでに
話してあること。

これらを彼に伝えたのです。




彼の顔色が変わりました。





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