神宮前に好きな本屋さんがあって、ときどきそこにお邪魔する。
JSTYLEBOOKSというその本屋さんは、好きなレストラン(ラルテミス・ペティアント)と、かよっている美容室のあいだにあるため、
美容室に行く日はいつも、その本屋さんに寄り、ラルテミス・ペティアントでランチを食べてから髪を切るのがここ半年くらいのスタイルだ。
逆にいうと、家とも会社ともちがう場所にあるその本屋さんには、美容室にかよう日以外に行くことはない。
つまり2ヶ月に1度くらい、ということ。

とてもちいさな本屋さんだ。
品揃えはきわめて趣味的で、しかしものすごく趣味がよい。
趣味がよいというか、あくまで私の趣味にあっているということなのだが、
デザインや建築や絵本や日本の伝統文化の本などがとてもきれいに陳列されていて、みているだけでとても楽しい。

いつ行ってもお客さんはほとんどいないし、
そのくせさらに趣味的に作家さんの和食器などまで置いたりしている。
もちろんふんだんにお金があったら欲しいなあと思えるようなすばらしい器なのだが。

私よりはいくぶんとしかさに見える店主は、
もともとは誰でも名前を知っているような、世界的なIT関連の会社につとめていたのだそうだ。
会社をやめて、1年半ほどまえに、本屋さんをつくった。
自分の好きな本しか置かない、というのが、この本屋さんの決め事なんだそうだ。
(なにしろたとえば小説なんて、作家の人数でいったら30人くらいしかいないのではないだろうか。
決して小説がきらいなふうもなく、厳選された30人の小説家のみの本をおいている、という感じがする)

なんでそんなことを知っているかというと、
ラルテミスで教えてもらったから。

大型書店でぶらぶら本を見るのも楽しいが、
趣味のあったいくつかの厳選された本をまとめてみられるのもとても楽しい。

そういえば、確か3回目にJSTYLEBOOKSにお邪魔したときのこと。
会計をお願いしたら、○○さんですよね、ときちんと私の名前を手書きで入れた領収書を出してくれた。
最初に行った時は領収書はもらっていない。
だから実際は2回目である。
つまりたった1度で、名前と顔を完全に一致させているということだ。
なんてことだ。
その記憶力、ホスピタリティ。
ほんとうにびっくりした。
別にそれまでにぺらぺらと親しげに話をしたわけでもないのだ。
単に本を買っただけ。こんにちは。これください。ありがとうございます。それくらいなのに。

聞けば趣味で長唄をならっていらっしゃるそうで、
私が探している本の分野にもとても詳しい方だった。うれしい。
もっと家の近くにあったらいいと思うのだが、それは贅沢というものだろうか。

#JSTYLEBOOKS(神宮前)
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フランス映画というのはなんともはや
わかりにくいというかなんというか。
銀幕が閉じはじめるまで終わりがわからなかったり、
それで?と思うものが多いような気がする。

けっこうな量のフランス映画を見た。
ジャック・タチ。パトリス・ルコント。トリュフォー。キュシロフスキ。
もちろんわかりやすいものもあるし、好きな映画だってたくさんあるのだけれども。

?????

と思う映画が、ほかの映画群よりも多いのはフランス映画というジャンルだ。

そうしてフランス映画はどうしたって、
ものすごく明瞭な言葉でいうところのおしゃれさと、一方で漂うアンニュイさでもまた
他の映画群とは異なって共通しているように思う。

渋谷から松涛に抜ける道で、素敵な喫茶店と出会った。
cafe granite。
まだできて1年くらいらしい。
しかし奇妙にゆるぎない存在感と落ち着きを持っている、なんともいい感じのカフェである。

狭い階段をあがるのに、少し勇気がいった。
どんなタイプの店なのか、まったくわからない。
入り口にメニューリストがあるけれども、よくある類のカフェ・バーのようで、なのではずれではなさそうだがあたりでもなさそうだ。
そんなふうに見受けられる。

しかし。階段をのぼり詰めて店内に入った瞬間に。
この店は「あたり」だと気づく。
そう。ほんとうにその瞬間に。

濃い茶色の、使い古されたようなテーブル。
ちんまりとした椅子。
道路に面して開け放たれた窓から通り抜ける風。
ちいさなカウンターに常連客らしい女の子と、店主なのかどうか、さばっとした雰囲気の女の子がひとり。

全体に古びた印象で、古びているのだけれども汚らしくない。
きちんと計算された、古びというおしゃれさ。
昔から仲のよい友だちが住む、旧いアパートメントを訪れたときのような。
奇妙に懐かしい感触。

カウンターに陣取る女の子以外にひとがいなかったので(途中からけっこう混んだけれど)、
窓際にあるテーブルにつく。
ちいさな椅子のすわり心地がいい。
なんてことない木の椅子なのに。しっくりと肌になじむ。

ふだんはあたたかい飲み物を頼むのだけれども、
手作りジャムを入れた、ということばに惹かれてアイス・ロシアンティを頼む。
すっきりとして上手なお茶。ジャムは自然の味わいがする。

やたらと大きい音をしている音楽も、すごくいい選曲で(レコードをかけている)、それにこの大きさだと、まわりのひとの声が聞こえるようで聞こえない。ちょうどいい具合、なのだ。
それを意図してこのボリュームにしているなら、
あなた天才だよ!と、カウンターの中にいる女の子をちらりと盗み見る。

ずっとここにいられちゃうなあ。

というのが、このお店の感想だ。
そう、ずっといられちゃう。

本でも読みながら。
あるいはぼーっと道行くひとのあたまを眺めて。

気だるいんだけれども、疲れているわけじゃない。
ぼーっと、だるーっと、時間を過ごす。そんな感じ。

フランス映画みたいな店だな。
と思ったのは、ロシアン・ティにたっぷりと入っていたまるのままの苺ジャムを全部食べ終わった頃だ。
そういえば。と思ってあらためて見まわすと。
そこかしこに貼られているのは、フランス映画のポスターや絵葉書だったりする。なるほど。

食べ物は食べていないから、どうなのかはわからないし、
トイレとか全然気を遣っていないのだけれど(突っ張り棒とかあるし)、
でもなんだかまた来たいな、と思わせる店なのだ。

また意味がよくわからなかった…と思いつつ、ついつい見てしまう。
フランス映画とそんなところも似ている。といったらこじつけにに過ぎるだろうか。

とはいえ渋谷はあまり行かない街なので、
この店を訪れることはそんなにないだろう。
でもまた誰かと渋谷で待ち合わせたりすることがあったら、少し早めに行って。
このカフェ・グラニテでのんびり時間を過ごすのもいいなと思う。

#cafe granite カフェ・グラニテ [渋谷区円山町] 
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いったいいつから煙草を喫うひとが迫害されるようになったのだろう。
私が学生のころはまわりの男のひとたちはみんな煙草を喫っていたし、子どもの頃に時々乗った長距離電車は喫煙がデフォルトだったように思う。
父もずいぶん長いこと煙草を喫っていたし(私が子供の頃はハイライトを1日2箱というヘビィスモーカーだった。病気を機に辞めてしまったけれど)、兄は喫わないけれどふたりの弟は喫煙者だ。


そのせいもあるだろうか、私は煙草の煙がそんなに気にならない。
もちろん好きこのんで喫煙車に乗ったりはしないし、お店ではなるべく禁煙席に案内してもらうけれど。


Soh's BARは愛煙家のためのバーである。
倉本聰さんがプロデュースしたこのお店のコンセプトは、

for miserable smokers.


禁煙の喫茶店があるならば、愛煙のバーがあってもいい。
という趣旨でつくられたそのお店は、愛煙家のためではあるけれど、もちろん煙草を喫わないひとでも十分と楽しめるお店である。


Soh's BARは森の小道の奥にひっそりと建っている。
倉本さんの書斎を模したという石積みの店内には、低くゆるやかにジャズが流れている。
木肌が美しい高い勾配天井。赤々と火が入れられた大きな暖炉。
静かでゆったりとした空間。


私がお邪魔したのは初秋の平日の夜。
そのせいもあるだろうか、お店は数人の先客のみで、みなそれぞれの会話と時間をそっと楽しんでいるという風情。
煙草を喫っているひとも、喫っていないひともいる。

その日居合わせたなかでは、私たちがいっとう若いお客だった。


そう。たとえばここは銀座のシガーバー、あるいは帝国ホテルのバー・インペリアルに少し似た雰囲気がある。
流行に左右されない、シックな品のよさ。
年配の男性客が似合う店。


愛煙家のための、というよりもむしろこの店は
そのほうが正しいのかもしれない。


#Soh's BAR[富良野]

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うさぎの思い出 #うさぎ

テーマ:

昔、付き合っていたひとは。
おいしいものを食べることと私を喜ばせることが大好きなひとだった。


私は好きなひとに〝したいこと〟を伝えるのがとても苦手なのだけれど。
それはいまでも変わらないのだけれど。
そのひとは。私の言葉にならない〝したいこと〟を見抜くのがとても上手だったし。

そのひとの提案は。私の〝したいこと〟を具体的にそしてずっと素敵にしたものだった。いつも。


青山通りにある〝うさぎ〟は。
仕事柄、おいしいお店やおしゃれなレストラン、素敵なバーにとても詳しかったそのひとが。
かわいいレストランがあるから、と連れて行ってくれたお店。


青山通りから少しだけ入ったところにあるそのお店は。
蔦がからまる3階建ての小さなレストラン。


オレンジ色の明かりがこぼれる店内は。
名前のとおり、うさぎのモチーフをあちらこちらに配されている。
壁紙の一部に。カトラリーに。ナプキンストックに。照明に。
たくさんのかわいらしいうさぎたち。


だけれども。
料理はいたってシンプルで。
うさぎをテーマにした料理があるとか。
すべての料理が野菜だけでできているとか。
素材としてうさぎが使われているとか。
(その店のかわいらしい雰囲気にはうさぎ肉は明らかにアンマッチだが)
そういうお店にありがちな。そんな妙なこだわりは微塵もない。


私はすっかり嬉しくなって。
あちこちに隠れているたくさんのうさぎを見つけて。そうして料理を堪能する。


好きな動物はうさぎ。


そういえばそんなことを。
確かにそのひとに言ったことがあったなあと。
思い出しながら。


#うさぎ[青山通り]

港町のカフェ #D'epice

テーマ:

港町はどこも似た顔立ちをしている。
横浜、長崎、函館、小樽、神戸。


煉瓦づくりの建物。趣向を凝らした街灯。
銀杏やポプラの並木道。
素敵なレストラン、おしゃれなカフェ。
坂道を登ると見える、港とおおきな船。


そしていつもいいなと思うのは。
住まうひとがその街をとても誇りに思っていることだ。
横浜には何人かの親しいひとが住んでいるけれど。
それはみな一様で。特徴的だなあと思う。


そのうちのひとり、横浜中華街に住む後輩が先日連れて行ってくれたのが。
D'epiceというオープンカフェ。
日本大通りから少し入ったところにあるまだ新しいカフェ。


通りに面したところにはウッドデッキがあって。
近所と思われるひとたちが犬を連れていて。
散歩がてらちょっとお茶を飲んだりしている。


私がお邪魔したのは店内の席。
白を基調としているし、全面ガラスなので空間じたいがとても明るい。
お店のひともみなてきぱきと明るくて清潔感に満ちている。


無農薬の有機野菜がたくさん盛られたきれいなサラダは
ヴァルサミコ酢が効いていてとてもいい味。
花のように活けたハーブが机の上に用意され、それを好きに使っていいのもいい。
さつまいものカプチーノスープもほんのり甘くてあたたまる。
後輩が食べていた五穀米ごはんもおいしそうだった。


食事のあと。
先日はちょうど銀杏並木が見ごろだったので。
後輩とふたり、少し散歩をする。
煉瓦づくりの美しい県庁舎を見ながら。
そんなゆったりとした時間を楽しめるのも、港町ならでは。


#D'epice[横浜市中区]
関内、日本大通り駅、どちらからでも。