2008年06月22日(日)

『処刑人の秘めごと』

テーマ:ミステリーとか
THE SECRET HANGMAN (2007)




『処刑人の秘めごと』  ピーター・ラヴゼイ/著、 山本やよい/訳、 ハヤカワ・ノヴェルズ(2008)

ミステリ小説の2大強国といえば恐らくアメリカとイギリスだろう。 この小説はイギリス産。


かつての黄金期と呼ばれた時代に活躍した英国の探偵達は、貴族趣味の (というか、探偵が貴族である場合も多い・・・) いけ好かない物言いをする輩ばかりだった。立ち位置も気に入らないし・・・。灰色の脳細胞を働かせるとか云うベルギー人なんてその最たるものだ。この灰色の脳細胞オジサン以外にもいろいろ挙げられるが・・・。まァ、時代の産物といってしまえば、そうなのかもしれないが・・・。

そんなこともあって、どうもミステリ小説としてのリアリティさとか、現代性といった点から、黄金期のイギリス産ミステリは、同時代のアメリカ産ミステリに比べてつまらなかった。鼻持ちならなかった、という言い方が正しいかも。。。

私の趣味からすると、圧倒的にアメリカン・ミステリに軍配が上がっていた。


しかし、現在のイギリス産のミステリ小説(以下、ブリティッシュ・ミステリ)の主人公達は、社会的階級の高い探偵(プライベイト・アイ)ではなく、警察官というパブリックな立場にあることが多い。社会的地位(階級ではない)が職業的な能力ともリンクする現代社会にあって、彼らの境遇やバックボーンは、ある程度のリアリティさが付されている。さらに、良くも悪くも極めて人間味に溢れた、感情的なキャラクター付けが成されている。リーバス警部然り、フロスト警部然り、この小説の主人公であるダイヤモンド警視然り、である。

現在、リアリティさ、同時性という点で、ブリティッシュ・ミステリとアメリカン・ミステリの間に大きな相違はなくなってきたように思える。


アメリカン・ミステリにおける探偵・警官達の内面描写では、ときに事件や捜査中の犯罪とは掛け離れた、個人的な問題に関する場合がある。ミステリ小説の本筋である犯罪捜査に関連するものとは直接関係のないことに対して心情を吐露していることがある。一種のキャラ付け、キャラ背景として、過去に起こったことに対するトラウマや苦悩などを主人公に事前に持たせている。もちろん、キャラクターに厚みを持たせるために、事件とは関係のない個人的背景を描くのは構わない。ただ、そこに焦点があたり過ぎていることが気になることがある。


一方、現代ブリティッシュ・ミステリにおける主人公達の内面に関わる描写は、事件捜査に携わる同僚や上司・部下、被害者やその家族、犯人やその家族、犯行の背景に存在する社会や文化など、に対するものの方に重心が乗っているように思う。警官達の思考過程や行動様式を緻密に描くことが直接的に事件解決(物語の終決)に至る道筋になっていることが多いように思えるのだ。これが重要だ。

当然、ブリティッシュ・ミステリの主人公達にだって、本筋とは関係のない、個人的な心情を吐き出す場面の描写がある。ただ、そこに焦点はあたらない。上品なサブ・ストーリーといった位置付けなのだ。


さらに、現代ブリティッシュ・ミステリがアメリカン・ミステリと決定的に異なるのは、主人公である警官達が自らの手で犯人を死に至らしめることがほとんど無いことである。これは、ブリティッシュ・ミステリの伝統と言ってもイイ。事件が暴力的に解決されることを潔しとしない風潮が流れているように思える。

もっとも、銃器の所持が一般人の権利として認められているアメリカが特殊なのであって、普通の国では銃器による犯罪は相対的に少ない。罪を犯す者が飛び道具を使わないのならば、警官側も対抗武器を所持する必要性も小さい。英国の犯罪捜査官達は通常、武器を携行しないそうだ。

だからなのか(?)、ブリティッシュ・ミステリにはアクションシーンが少ない。(英国で“アクション”を受け持つ小説ジャンルは、これまた伝統の「冒険小説」である・・・。)

アクションシーンが少ないせいもあって (ドンパチによる事件解決が実質上不可能なこともあって)、主人公警察官の思考の閃きや発想のジャンプによって、事件を解決させる方向に向かわなければならないのだ。そうした必然性が高いのが、現代ブリティッシュ・ミステリなのだろう。



そんな、現代ブリティッシュ・ミステリの中の傑作シリーズ、ダイヤモンド警視シリーズの第9作目が本作だ。

(やれやれ、やっと、本論だ・・・)


オーソドックスな筋運び。物語の後半部では大体の結末が見えてしまうけど、それでも主人公ダイヤモンドのキャラ、その言動や心情に入れ込んでしまう。このダイヤモンドってぇ親爺が実に渋いんだ。


上で、グダグダと述べた屁理屈など関係ない。(結局はキャラかよ・・・) 

プロットもなかなかだし、この作品、実にイイ!

お薦めです。

(本論みじけー!)

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コメント

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16 ■indi さま

このシリーズでは、無駄に出てくるキャラがいないし、登場人物それぞれのキャラ設定も概ね自然ですよね。
ただ、今回の犯人のキャラは少々無理し過ぎのような感じもありましたが・・・。

15 ■キャラ造形

ストーリーテリングが安定しているからこそ
キャラ造形の巧みさが目立つのかもしれません。

14 ■しぇんしぇい様

ラヴゼイのダイヤモンドシリーズは安定して面白いですよね。
外せない作家です。

13 ■ラヴゼイ

読み終わりました。
良かったです、★★★★です (^_^.)

12 ■しぇんしぇい様

そ、そんな・・・、内藤様や関口様といっしょのページに並べられては・・・
トホホです。はずかしぃです。(→o←)ゞ

11 ■転載

http://biomasa.sakura.ne.jp/
転載させてもらいました。

10 ■しぇんしぇい様

絵文字、KY用語がまったく判らない私です。
orz、なるほど、平身低頭を絵にしているのですね。
良くできている・・・。

9 ■orz

○| ̄|_
この図の方が分かりやすいかな。
ヘイシンテイトウの絵文字です (^_^.)
一時期はやりましたね。

>如何様にも
ありがとうございます。

8 ■しぇんしぇい様

お褒めの言葉ありがとうございます。

>いつの日か、この一文を私のHPで引用紹介させてくださいorz

こんな駄文でよろしければ、如何様にもお使い下さい。

ところで、orz ってどういう意味ですか?

7 ■indi-bookさま

仰るように、イアン・ランキンもいいですね。
ランキンとラヴゼイは作風が違いますが、私はどちらも好きですね。

そういえば、『殺人作家同盟』は読み逃してました。

6 ■ブリティッシュ・ミステリの考察

ラヴゼイの紹介より、こっちがよかったです。
いつの日か、この一文を私のHPで引用紹介させてくださいorz

5 ■ラヴゼイ

 英国の刑事もんといえば、最近はイアン・ランキンが、早川では、隆盛ですが、
ちょっと前は、ラヴゼイがトップだったような、、
ラヴゼイは、ちょっと前に読んだ、殺人作家同盟
が、なかなか渋い好作品でした。
ダイヤモン、、のほうは、「バースへの帰還」ぐらいで
止まっています。

4 ■honyomi様

ラヴゼイは、懐の深さと幅広さの両方を持ち合わせており、その才能には舌を巻きます。
総合力では、英国ミステリのTOPかもしれませんネ。

3 ■keita2さま

honyomiさんも仰るように、ダイヤモンド・シリーズは現代英国ミステリの中ではトップクラスの作品だと思います。
文庫の場合ですと、そろそろ衝撃的な第7作に差し掛かる頃でしょうか?

2 ■ラヴゼイ

アメリカン・ミステリとブリティッシュ・ミステリについてのnanikaさんの記事は、たいへんすぐれた考察だと感心いたしました。
特にブリティッシュ・ミステリの『事件が暴力的に解決されることを潔しとしない風潮』は、その通りだと思います。そういう抑制と美学が、英国のミステリに品格を与えているように思います。
私は個人的には、ラヴゼイが現代英国ミステリの最高峰だと思っています。
登場人物に感じるユーモア、プロットの巧みさ、読み終えた満足感、どれをとってもすばらしいです。

1 ■あ

これはダイヤモンド警部シリーズだったんですか。知らなかった。
文庫落ちで読んでいるんですけど、
ダイヤモンドシリーズ好きです。

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