『石のささやき』 | 本だけ読んで暮らせたら

『石のささやき』

THE CLOUD OF UNKNOWING (2007)
『石のささやき』  トマス H.クック、 文春文庫(2007)

読んだそばから忘れる幾多の小説。しかし、トマス・クックの作品は長く記憶に残る。

前作 も、前々作 も、どんな内容だったか未だに覚えている。今作も残りそうだ。


デイヴィッド・シアーズ。離婚専門のしがない弁護士。

デイヴィッドの姉ダイアナの息子ジェイソンが溺死した。息子を亡くしてからのダイアナの行動は常軌を逸したものに・・・。

文学に精通しながらも、精神に異常を来たした父親に育てられたデイヴィッドとダイアナ。ジェイソンも生まれつき統合失調症の子供だった。そのジェイソンを失った姉のダイアナにも今、一族に流れる血の影響が及ぼしだしたのか?

最初の悲劇が次の悲劇を惹き起こす。ダイアナの行動がデイヴィッドを次なる悲劇に巻き込んでゆく。


ほんっとに、トマス・クックは読ませる。

いつものコトながら、この作者の作品には、最初から最期まで重い空気が流れ続ける。だからと云って、読むのを止めることにはならない。この先の展開がどうなるのか? あの人物は何故?、どのような考えで?、あのような行動にでたのか? それが知りたくて、先のページをめくらずにはいられない。 


空気の重さに耐えて最期まで読み続けたその果てに、読者はヒト(家族といえども他人)の内面の不可解さについて思いをはせる。受け入れざるを得ない絶望や悲しみというものがあるのだということを、納得させられるのである。


傑作。私だったら、年末のランキングに入れる。