襖の向こう | 名無しの唄

名無しの唄

鼻歌と裏声の中間ぐらいの本気

襖を挟んで向こう側に、人がいるとする。
その人の姿がわかる。正確には二次元に投影した輪郭がわかる。
間に物体があるにもかかわらずそれがわかるのは、その人と一緒に光が向こうから射しているからだ。
光を背負ったその人が襖に影を写し、そしてその裏側がこちらに見える。

動いているのがわかる。座っているのか立っているのかもわかる。
光は襖を通り抜けるくらいには明るくて、影は動きを追うくらいにははっきりしている。
だからこちらからはあちらの投げかける事がわかって、そしてあちらはこちらがそれを受け取ることを知っている。
襖を挟んで、影を介して、パントマイムは十分に成立する。

真っ黒な姿が動く。それはまるで言葉みたいに饒舌だ。
揺らぐことのないほどに強い光が向こう側の奥にあると感じていて、それを背に受けた人影が襖を舞台に踊っている。
まるで何もかも伝えることができるかのように、閉ざされた襖を開けようともしないのだ。

そして二つのことがわからない。
一つ、こちらのことをあちらから、見ることができるのだろうか。
一つ、あちらで動くその人は、前を向いているのだろうか、後ろを向いているのだろうか。
背後の光が強いほど、影の黒さは濃くなっている。
襖が無ければ影を見ることができなくなるなんて、そんな本末転倒な理屈に負けて開けることもせず、こちらを向いているのか分からない動きをじっと見ている。
光を感じている。光は一部、影に隠されている。