過小評価された財政乗数 / マーケットマネタリスト批判 byデロング | 批判的頭脳

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過小評価された財政乗数


この記事では、EUの緊縮財政についての分析記事が紹介されており、EUの緊縮財政執行にあたっては、過小評価された財政乗数に基づく試算が原動力になったとされている。
実際の(悪)影響の大きさを見ると、やはり実証的な財政乗数は、暗黙裡に仮定されていたものよりはるかに大きかったようであるということが指摘されている。

『この度の世界経済見通しでIMFは自らが最近行った世界経済の成長予測を再検討したうえで、財政再建のインパクトを計測するにあたって暗黙のうちに採用されている乗数の値が0.5程度であることを明らかにしている。これまでにGDP成長率の将来予測が過大評価であった[2] 事実を受けて、乗数は0.5を上回るのではないかとIMFは疑いを強くしている。世界経済見通しの分析では乗数は0.9~1.7の範囲内にある可能性が示唆されているが、この数字はかつての(11年前の)推計結果とほぼ完全に一致しており、つい最近のアカデミックな研究結果によっても支持されているところである。』




「微修正マネタリスト・サムナーに対する異議申し立て」 BY BRAD DELONG



この記事の紹介元はブラッド・デロングのエントリである。ブラッド・デロングはサマーズと連名で、財政支出が自らを賄う時という論文を書き、不況下では財政出動がむしろ財政を好転させるメカニズムを示した財政出動派の代表的人物である。
対して、スコット・サムナーはマーケット・マネタリズムの代表的な論者である。

マーケット・マネタリズムとは、金融政策を金利政策ではなく期待政策であると評価し、金融政策は名目支出水準を直接動かす政策なのであって、金利はあくまで結果に過ぎないと主張する思想である。
したがって彼らにとって低金利とは、金融緩和ではなく金融引き締めの象徴であることになる。(支出水準が下がっていることの結果なので)

金融政策が期待を通じて名目支出を左右できる以上、財政政策には何ら必要性がないとするのが、マーケット・マネタリズムのもっとも中核の考え方である。
マーケットマネタリズムは、量的緩和そのものの効果がなくなっていることは認めるが、非伝統的金融緩和を通じて、まだ金融政策が有効性をもっていると述べる。

これに対してデロングは、以下のように批判した。

まず、マーケットマネタリストが述べるような金利の関係は、金利が貨幣流通速度と関係していることで説明できる。金利は貨幣を手放すことに対する報酬であり、それが低いときは貨幣は手放されにくく、高いときは手放されやすいと考えられるため、金利が低ければ貨幣流通速度は遅く、高ければ速くなる

しかし、資金を単純に追加するような金融政策は、資金量を増加させる一方で金利を低下させるので、貨幣流通速度が下落し、その効果が大きく相殺されることになる。

以上より、貨幣数量説は成り立たない。このような現象を考えるには、貨幣だけでなく、債券の市場も考える必要がある。貨幣の追加が市場の債券の減少を伴って人々の金融資産を増やさないのであれば(不況下の買いオペとそれに伴う超過準備積み増し)、その金融政策に効果はないのである。

したがって、これを防ぐには、期待インフレをもたらして投資を刺激する政策(非伝統的金融政策)、企業の投資を促す政策、そしてもっとも直接的な政策として、政府による債券供給(国債発行)が有効なのである。

合わせて、以前紹介した何の「貨幣への需要」について話してるんだ?についても一読してみてほしい。こちらでは、貨幣供給の不足だけでは金利の低下が説明できず(貨幣だけが不足しているなら、債券の貨幣価格すなわち金利も増加しないとおかしい)、実際には貨幣と債券の双方すなわり安全資産全体が不足しているのであり、安全資産供給を増やすような政策をする必要がある。もちろん、その最も直接的で有効な手段は、政府による債券供給すなわち国債発行ということになる。


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