シャイなもんで

京都を拠点に芝居をしている中野劇団主宰 中野 守の演劇に関する雑文やら、日記やら、映画の感想やらを綴ります。


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金の斧(4/4)

ある村に林業従業者が住んでいて沼に斧を落としてしまい、沼の精霊が現れました。

木こり「ということはさ、自分でも薄々気づいてるんちゃうん? こんなとこ通る奴にそんなテストなんかしたかて、社会に何ら影響ないって」


沼の精霊は最早心が折れそうになっていました。
精霊「そんなことありません。どんな小さなことでもコツコツと」

木こり「うわ、寒」

精霊「え?」

木こり「ごめん。いやいや。でも何かまだ選択肢あるような気がしてきたわ」

精霊「え?」

木こり「自分な、こんな風にがーって言われるって思ってなかったんちゃう?」

精霊「ええ、そりゃ」

木こり「「落としたのは金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」って質問したら、金の斧って答えるか、銀の斧って答えるか、本人が落とした斧って答えるかの3パターンしかシミュレーションしてなかったんやろ? 俺みたいに「何て答えたらええん?」とか「カニです」とかって返されると思ってなかったやろ?」

精霊「ええ。思ってませんでしたよ」

木こり「それでも精霊か!
精霊「ええ?」

木こり「自分みたいなのに、何で試されなあかんねん。質問したらあかんとか前もって教えてくれへんし。言うてること綻びだらけやないか。他の精霊はどうなん? 他もおるんやろ? 他の精霊がどないやってるかとか聞いたことないん? いっぺん聞いてみ? ホンマむかつくわ。何で三つとも貰える選択肢残ってないねん。正直者がバカを見るってこのことやな。結局はカネ持ってる奴のトコにカネ集まるようになってんねんな。戒めとか言うて、ホンマは淘汰してるねんな」

精霊「あの」

木こり「何?」

精霊「わかりました。三つとも差し上げますから」

木こり「は?」

精霊「それで、あの…」

木こり「ちゃうやん」

精霊「え?」

木こり「ええ? 何か俺めっちゃごねて、くれくれ言うてるみたいになってるやん」

精霊「いえそんなんじゃないんで。質問したら駄目って前もって説明しなかったのは確かに、私の方に落ち度がありました。だから、えと、ホントはこういうのは駄目なんですけど、今回に限りその特別に三つともさしあげますので…」

木こり「…そこまで言うんやったら貰うけど。ホンマにええの?」

精霊「はい」

木こり「後で自分上に怒られたりするんちゃうん?」

精霊「いえ、上とかいませんから」

木こり「ホンマに?」

精霊「はい」

木こり「いや、そんなつもりやなかってんけど。…ごめんな、何か俺カーってなってまうトコあるから」

精霊「いえ、なって当然だと思いますから」

木こり「何か、自分ばっかりそんな、何か俺めっちゃあれやん」

精霊「いえいえ」


木こり、斧を貰えるのを待ってる。

精霊「あ、はい」


精霊、木こりに金と銀の斧を渡す。

木こり「念のため聞くけど、これは、後でメッキになるとかないよね?」

精霊「そうですね。本物の金と銀の斧です」

木こり「…あと俺の斧」

精霊「あ、すいません。ちょっと取ってきます」


精霊、沼に潜っていく。

木こり「…」


木こり、金の斧と銀の斧を沼に落とす。
精霊、三本の斧を持って戻って来る。

精霊「あの…?」

木こり「いや、こういうパターンはどうなるんかなって…。気になったから」

精霊「…」

木こり「…」


終わり。
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金の斧(2/4)

ある村に木こりが住んでいて沼に斧を落としてしまい、沼の精霊が現れました。


木こり「で、もう他にはないん?」

精霊 「え?」

木こり 「俺が「自分の斧を落としました」って言うのが、一番得するん?」

精霊 「いえ、そういうのを先に聞かれるとちょっと展開が違ってくるんですけど」

木こり 「は? 何で? さっき言うたやん」

精霊 「いえ、前の人は正直だったので、それに感心して金の斧も銀の斧もあげたんです」

木こり 「ちょっと待ってな」

精霊 「はい?」

木こり 「その男がどんな奴か見てないからわからんけどな。それってホンマに正直者か?」

精霊 「え?」

木こり 「俺の方が正直とちゃう?」

精霊 「え?」

木こり 「よう考えてみ? 普通人間って、よりええ方の選択した方が得って考えるやん」

精霊 「そうとは…」

木こり 「普通な、鉄より金とか銀の方がええやん」

精霊 「まあ、そうなんですけど。でもね」

木こり 「まだ、俺話してるから。そいつ何でどっちも選ばんと自分の斧選んでるねん。正直か?」

精霊 「え?」

木こり 「普通、金の斧選んだらどうなるのかとか、自分の斧選んだらどうなるかとか気になるやん」

精霊 「ああ」

木こり「現に俺、めっちゃ気になってるし」

精霊 「…」

木こり「その男、せやのに、聞かんと鉄の斧って答えたんやろ?」

精霊 「ええ」

木こり 「何処が正直やねん。俺の方がめっちゃ自分に正直やん。そう思わへん?」

精霊 「えっと。あの、おっしゃりたいことは何となくわかるんですけど、この場合ね、自分に正直とかではなくて、そのね、誠実さとか、謙虚さとか、嘘をつかないって意味の正直さとかそういうことで…」

木こり 「せやから、俺、めっちゃ正直者やん。自分に嘘ついてないやん?」

精霊 「いえ、自分にじゃなくて」

木こり 「あんたにも嘘ついてないやろ? 嘘ついてたらわかるんやろ? 神なんやろ?」

精霊 「ええ、まあ」

木こり 「斧の精霊やろ?」

精霊 「沼の精霊です」

木こり 「せやろ、わかるんやろ」

精霊 「まあ」

木こり 「ちょ、(沼から)上がって喋ろうや」

精霊 「いえ、ここでないと」

木こり 「何か話聞く体勢ちゃうやん」

精霊 「いえ、沼の精なんで」

木こり 「まあ、ええわ。例えばな」

精霊 「はい」

木こり「あんたが家売ってる人で、俺が家買いに来たとしようや」

精霊 「え? どういう話ですか?」

木こり「それを今からするんやん。自分、見た目おっとりやけど、意外とせっかちやな」

精霊 「…」

木こり「ほんでな、えと何言おうとしたんやっけ。…あそやそや。間に挟むからわからんようなったやん。ほんでな、どんな家がいいかってなった時にな、普通、自分の蓄えとか稼ぎとか家族構成とか自分の理想とかその辺と天秤にかけて、とにかく安くて、できるだけええ物件探すやん」

精霊 「はあ」

木こり 「そのためにはとにかくどんな家があるんかとか、聞きまくるのが普通やん。何も聞かんとその家でいいですって答えるのが、誠実で正直で謙虚な人間ってことになるか? カネ持ってて余裕あるからできるんやん。ほんでそれってちょっとめんどくさがりも入ってるわな」

精霊 「えと…」

木こり 「ここまでの話、ちゃんとついてきてる?」

精霊 「えと、たぶん」

木こり 「な。普通悩むやん。情報をできるだけ貰おうとするもんやん。その前の男が自分の斧を選んだって言うけどな、金の斧選んだらどうなるんやろうとか、普通考えるやん。家族養わなあかんかってみ、家に余裕なかったら、金やったら売ったらカネになるなあとか、これで年越せるなあとか、普通考えるやん。何も聞かんと、自分のこれですって、それ逆におかしないか? そいつ、それ金の斧がめっきってわかってたんちゃう? 目利きできたんちゃう?」

精霊 「いえいえ、本物ですから。これもそうですよ」

木こり「めっきって言うたやん」

精霊 「いえ、見せてるのは本物なんです」

木こり「は?ほな、それですって言うてそれもらったら、本物の金の斧が貰えるん?」

精霊 「いえ、めっきです」

木こり「ようわからんなあ。さっきからだいぶ矛盾したこと言うてるけど、大丈夫? 自分。まあええわ。何か脱線するなあ。その男、独身でな、別に暮らしに困ってなくてな、その斧に拘りがあるとかとちゃうん? 形見の品やとか、鉄の斧でも限定品とかの珍しい斧やったんちゃうん? それで金の斧と較べてもそっちの方が価値があるとかとちゃうん?」

精霊「いえ、普通の汎用の斧でしたけど」

木こり「わからんわ。その自分の言う正直ってのはホンマに正直やと思うわけ?」

精霊 「ホントに正直でいい人だったんですよ」

木こり 「え? 「落とした斧はどれですか?」って聞いて、鉄の斧ですって答えただけやろ? その一往復の言葉のやりとりで、人柄がわかるわけ?」

精霊 「精霊ですから」

木こり 「そんな眼があるんやったら、ほな別に質問せんでも、ぱっと見ただけでええ人かどうかわかるんちゃうん? ええ人捕まえて、金の斧と銀の斧あげたらええやん」

精霊 「いえ、斧は、沼に斧を落としたから金の斧と銀の斧を…」

木こり 「ああ、斧は最初から決まってるわけやないの?」

精霊 「ええ」

木こり 「ほな、あれやん。カニ落としたら、カニになるんちゃうん?」

続く。
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金の斧(1/4)

昔、ある村に一人の木こりがいました。
木こりは毎日せっせと木をこっていました。
ある日、その木こりは沼に斧を落としてしまったのです。
男は沼の前に立ちつくしていました。
すると沼のの中から泡がぶくぶくと浮き上がってきたかと思うと、沼の中からまるでギリシャ神話に登場する女神のような格好をした美しい女性が現れたのです。彼女は沼の精霊でした。そして右手には金の斧、左手には銀の斧を持っていました。

精霊「あなたが落としたのはこの金の斧ですか? それともこの銀の斧ですか?」

沼の精霊はとても綺麗な滑舌で木こりにそう尋ねました。
しかし、木こりはその質問に答えようとはしませんでした。

精霊「あなたが落としたのはこの金の斧ですか? それともこの銀の斧ですか?」

沼の精霊は、聞こえなかったのかと思って、もう一度同じ質問をしました。
しかしやはり木こりはその質問に答えようとはしませんでした。

精霊「あの…」

木こり「え? 何?」

精霊「あなたが落としたのはこの金の斧ですか? それともこの銀の斧ですか?」

木こり「…何て答えたらええん?」

精霊「え?」

木こり「何て答えたらええん? 俺、初めてやから」

精霊 「初めて? え? えと、初めてっていうのは…」

木こり 「いや、これ、なったことないから」

精霊 「はあ」

木こり 「何て答えたらええん?」


沼の精霊は予想していなかった展開に戸惑いを隠せませんでした。


精霊 「何てって。その正直に思ったままに…」

木こり 「どういうこと? 俺が思ってること? え? 「ホテル行こ」とかそういうこと?」

精霊 「いえあの、そうじゃなくて」

木こり 「これ、金なん?」

精霊 「はい」

木こり 「こっちは銀なん?」

精霊 「はい」

木こり 「何で?」


間。


精霊「 …え?」

木こり 「用意してたん?」

精霊 「いえ、あの」

木こり 「…」

精霊 「私、この沼の精で」

木こり 「うん」

精霊 「だから」

木こり 「は? いや、え? わからん。沼のせいでどうなったん?」

精霊 「いや、その「せい」じゃなくて。沼の精霊で…」

木こり 「(最後まで聞かず)で、俺はどない答えたらええん?」

精霊 「え?」

木こり 「こっち(金)って答えたらどうなるん」

精霊「いや、そしたらこの(金の)斧を渡します」

木こり 「金の斧?」

精霊 「はい」

木こり「ホンマに貰えるん?」

精霊「はい。あ、でも、メッキなんですよ」

木こり 「は? …え? こっち(銀)も?」

精霊 「はい」

木こり「メッキ? 中は?」

精霊 「柔らかい金属です」

木こり 「何それ? 柔らかい金属って。アルミみたいな?」

精霊 「いえ、もうちょっと粗悪な」

木こり「…半田みたいな?」

精霊 「それに近いかなと」

木こり 「何に使うねん?そんなん」

精霊 「何にって申されましても」

木こり 「何それ。…前の人は何て答えたん?」

精霊 「え?」

木こり 「前の人」

精霊 「えっと、「いえいえ、私の斧は普通の鉄の斧です」って答えたんですよ」

木こり 「ふうん。え? その人も斧落としたん?」

精霊 「え? ええ」

木こり 「え? 連続?」

精霊 「いえその…」

木こり 「ごめんごめん、話遮って。ほんで?」

精霊 「えっと、それで、その人は正直に答えたので、その人の斧も返して、それとは別に金の斧と銀の斧もあげました」

木こり「めっきの?」

精霊「いえ、その場合は本物の金の斧と銀の斧なんです」

木こり「は? それとは違うってこと?それは見本? 本物が別にあるわけ?」 

精霊 「違うんですけど、まあ、そんな感じなんですけど」

木こり 「それはホンマに本物なん? 先に見せてもらえるん?」

精霊 「え? どういう意味ですか? いえ。これを渡すんです。これは本物です」

木こり 「え? さっき「めっき」って言うたやん。「さっきめっき」やて。「あっちこっち丁稚」みたいやな」

精霊「…」

木こり「他には?」

精霊 「え? 他にはと申しますと?」

木こり「その三パターン以外の選択肢はどんなんがあるん?」

精霊 「え? 他の選択肢って?」

木こり 「いや、ほなな、例えば俺がな、「カニ落としてんけど」って言うたらどうなるん?」

精霊 「カニですか? カニってあの?」

木こり 「季節的にな」

精霊 「いや、でも落としてないですよね」

木こり 「落としてないけど、落としたって言うたらどうなるん?」

精霊 「いや、落としてないから、「あなたは嘘をつきましたね」って言って」

木こり 「言って? 何するん?」

精霊 「え? いえ。だからその罰を」

木こり 「罰? は?」

精霊 「いえその」

木こり 「自分が俺に罰を与えるん?」

精霊 「一応そういうことになってて…」

木こり 「何で?」

精霊 「何でって言われましても」

木こり 「誰が決めてるわけ?」

精霊 「誰がとかじゃなくて、あの、私はその神なんで」

木こり 「カミって神様の神?」

精霊 「そうなんですけど」

木こり 「でも、自分さっき沼のせいって言うてたで」

精霊 「だから、精霊っていうのは神のことで…」

木こり 「あ、そうなん? 自分って神なん?」

精霊 「はい」

木こり 「へえ」

精霊 「いえその…」


木こりは品定めするような目で沼の精霊のことを見ていました。
続く。
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片瀬が指定したファミレスに向かった。
店に着いて、席をぐるっと見回すが、片瀬の姿は見あたらなかった。
いればすぐに気づく。
時間帯が遅かったこともあって、空席が多い。
適当に空いていたテーブル席に腰掛ける。
ドリンクバーを注文して、ホットコーヒー二杯目にさしかかった時、入口から片瀬が入って来た。
小柄で短髪なのは俺が中学の時、兄貴に紹介されて初めて会った時と殆ど変わっていない。
「おー隆くん、ごめん、ちょっと病院寄ってたから」
他の客が視線を寄越すほど大きな声で近づいて来る。
相変わらず片瀬はちょっと鬱陶しい。
どうやら片瀬も知らないらしかった。
「転職してから連絡とれなくなって、俺もここんとこいろいろ忙しかったから」
片瀬がおしぼりで首を拭きながら言った。片瀬の父親が事故で大きな怪我をしたというのは訊いていたので、多分、そのことだろう。
話題の後半は片瀬が興味のある今の政治の話になっていった。
兄の話以外興味がなかったので、適当に聞いているふりをしていたが、それも辛くなったので、ありもしない用事がこの後控えているからと、一時間程で店を出た。
「何か判ったら連絡するよ」
多分宛にならないだろうという苦笑いが思わず顔に出たが、片瀬は別の意味に取ってくれたようで、俺の背中をポンと叩いて、「じゃあ」と去って行った。

目が覚めて、頭のクラクラするのはだいぶましになっていた。
洗面台で、うがいをして、口の中の不快な感覚を洗い流す。
片瀬はこのゲームのことを知っているのだろうか。

ペタしてね
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あの披露宴で兄貴はどんなことを話していたんだっけ?
記憶を洗い出す。
しばらく見ていなかった兄貴の笑顔が印象的だった。
親父にビールを注ぐ仕草が、大人っぽいなという印象だったのを覚えている。

転職しようと思っている。
決まったらまた知らせると言っていた。
母親はこの不景気にわざわざ今の仕事を辞めるなんて勿体ないと心配していた。
「IT関係?」
「まあ、そんなとこ」
「変なとこじゃないの?」
「違うよ。一昨年辞めた会社の先輩が立ち上げた会社なんだ」
「村松さん?」
「ああ、片瀬から訊いた?」

兄貴の後輩である片瀬という男が滅多に連絡を寄越さない兄貴の代わりに兄貴の現状報告をしていたので、母親が片瀬から訊いたということがすぐにわかった。
片瀬は兄貴がいなくても実家にうちの行ってるらしく、うちの母親と何故か仲が良かった。性格は賑やかで、小者臭がする。
ずっといると鬱陶しいが、悪い奴じゃない。うちの家族のことを家族以上に思ってくれたりする一面もある。

兄貴から連絡が取れなくなって、真っ先に連絡したのが片瀬だった。
「隆くん、どしたよ?」
「兄貴が今何してるか知ってますか?」
「え? いや。どうして?」
「音信不通なんです」
「マジで?」
「ちょっと逢えないですか?」
「わかった」

ペタしてね
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4日目
朝から調子が悪い。
喉が痛し鼻が詰まっている。
風邪をひいたらしい。

雨の音が聞こえる。
外界の様子は一切わからないと思っていたが、雨の音は聞こえるのか。
「おはようございます」
「遅いな」
「ちょっと調子悪くて」
「大丈夫?」
「風邪かも。頭がクラクラして」
「雨降ってるからかな。じゃあ、今日はあまり無理せん方ええよね」
「すいません」
「けど、時間勿体ないし、ウチ、無理せん程度に村の周りいろいろ見てきます」

画面をつけっぱなしにしてベッドで横になった。

兄貴とは普段そんなに会話をかわす方ではなかった。

子どもの頃はもっと仲がよかったが、いつ頃からだろう。
兄貴が大学に行った頃から、急に距離が遠くなったような。
実際、兄貴は高校卒業と同時に家を出たので、会う機会自体少なくなっていた。
久しぶりに再会したのは三つ上の従姉妹の結婚式の時だ。
その時、兄は就職して東京で暮らしていた。
携帯電話の番号は聞いていたが、習慣的に連絡をとることもなく、
その結婚式の直前に兄貴も来るのかということが訊きたくて久しぶりに電話をかけたくらいだ。番号が変わってしまっているかと思ったが、それだったら母親が連絡してくるはずなので、何も連絡がないところをみると、今もこの番号で合っているのだろうと。
「隆之か? 久しぶりだな」

その披露宴の席では結構楽しく喋った。兄貴も上機嫌だった。
しかし、その日を境に兄貴とはぷっつり連絡が途絶えた。
「隆之、お兄ちゃんの携帯番号知らない?」
母親から電話があった。
「え? 変わってるの?」
「うん、現在使われておりませんって。あの子何も連絡してきてないんだけど」
「俺の所にも何も連絡ないけど?」
「そう?」

そんなやりとりの二月後、俺は男に案内され、この部屋に連れて来られた。

ペタしてね
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あの迷路の平原のように同じ景色が繰り返すこともなく、次々に違う景色が現れる。
川はまっすぐではなく、蛇のようにぐねぐねとうねっている。
時々小さな橋が架かっており、対岸へ渡らなければ先へ進めないような地形になっていたりする。
川が見えないくらい遠ざかっては、また近づいたりして、どんどん歩き続けた。
一方、戦闘の方は
敵のエンカウント率が高くなり、新たな種類の敵が登場した。
うさねずみに羽根の生えたような奴だ。
このゲームの敵キャラのデザイナーは余程うさねずみが気に入っていたのだろうか。羽根が生えているため、攻撃が時々空振りしてしまうが、相手の攻撃力は弱く、何ターンかかければさほど苦労せずに倒した。ただ、倒すのに時間がかかるようになったため、いい加減鬱陶しくなってくる。

暫く進むと小さな村が見えてきた。
川沿いに進めば村のひとつもあるんじゃないかという気はしていた。

村の入口には水車があり、カタカタと回っている。
店があったので換金することにした。
結構な額になった。武器も防具も一ランク上のものが揃えられるだろう。
小さな建物の玄関に宿屋の看板が出ている。
「takaさん、今日はここに泊まって終わりにしよっか?」
「そうですね」
宿屋に泊まって今日のゲームはここで中断することに決めた。

ペタしてね
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「どうします? kayumiさん」
本殿の裏側から見えた二つの町のどちらかに向かうか、あるいは、階段の踊り場から見えた塔のあった方角目指して進むか。
下まで降りてくると、塔の姿は完全に見えなくなったので、辿り着けるかかなり不安だが、あれだけ高い塔ならある程度近くまでいけば、嫌でも視界に現れるだろう。

「塔に行きたいかな。あれだけでかい塔やから、行ったら誰かおるかも知れへんし」
俺もそう考えていた。裏側に見えた町か城下町の方が確実に近そうだが、ボートで元の桟橋まで戻ることにした。

着るものが底を尽きた。
クローゼットにある最後の一枚を着て、今まで着た衣服をまとめて洗濯する。
冷蔵庫のストックはまだかなりある。
しかし、これ以上プレイヤーをこんな狭い部屋に閉じこめておくというのであれば、これはかなり問題だろうに。
もし俺とkayumi以外にもプレイヤーがいたとして、誰も途中で部屋から出たいと思ったりしないのだろうか。
kayumiは「別に大丈夫」と言っていたが、太陽がいつ出ているのかもわからないような部屋に何日も閉じこめて、アクシデントが起こらないとは限らない。
主催者はどういう意図でこのゲームをプレイさせているのか。

何事もなく、桟橋まで戻ってきた。
桟橋に接触すると、二人のキャラが下船した。
桟橋にボートが停泊した状態に戻る。
桟橋に着く前に湖岸の他の場所で下船できないか試してみたが、できなかった。
どうやら中央の島以外は、この桟橋でしか船から降りられないようだ。
やっぱり最初にここに来た時、誰かがこのボートに乗って、あの島に渡っていたんだ。
そう考えるのが自然だ。

正面には夏のゲレンデのようなだだっ広い上り坂があって、その上に俺達が通ってきた森がある。そっちの方へは向かわずに、坂の右側へ湖畔に沿って迂回する。
森が0時の方角だとしたら、塔が見えたのは確か1時と2時の間くらいの方角だった。

湖畔を進むと、湖から細い川が流れている。その流れの先にずっと進んだ方に塔があった。
川づたいに進んで行くことにした。

ペタしてね
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「宝箱?」
「takaさん、これ、蓋が開いてる」
「空、みたいですね」
「誰かが先に取ったってことかな?」
「誰かって?」
「他のプレイヤー?」
もしそうだとしたら…。
このゲームに俺とkayumi以外に参加者がいて、アイテムを入手できるのが最初の一人のみなのだとしたら、重要なアイテムは他人に取られる前にどんどん取りに行かないと、この先、ゲームを進める上で不利な立場に立たされることになる。
「もっと急いだ方がいいってことかな?」
「そんな感じですね」

この宝箱の中身を手に入れた誰かは、きっと、俺らが湖畔の小屋でもたもたしている間にあのボートに乗って、桟橋に戻ってきたのだろう。

本殿の中にはもう何もないようなので退出する。
本殿以外の建物もくまなく調べて見て回ったが、情報ひとつ、アイテムひとつ手にいれることはできなかった。
本殿の裏側に回ると、湖の反対側の光景が一望できた。

湖の向こうは森になっている。
森の中に二箇所、建物が集まっているような場所を発見した。
近い方が小さな町、遠い方は結構大きいようで、城壁のような巨大な建造物がうっすら見えた。

この頂上へのルートはひとつしかないようなので、もと来た階段を降りていく。
宝箱の中身を持っていった者がまだ湖畔の何処かにいるのでは。
そう思って、踊り場に立ち止まっては遠くを眺めてみる。
が、視界の中で動いているのはkayumiの髪と服、それと下の石畳の広場にあった大きな火鉢だけだった。

そしてまた階段下の広場まで戻ってきた。
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「塔が見える…」
ポリゴンの彼女が、一瞬本当に生きているように思えた。
静かに呟くその声と、じっと塔を見る彼女の後ろ姿が綺麗に同調していた。
「あの塔、…ここからかなり遠そうだね」
俺の言葉を聞いて、彼女がゆっくりと振り返る。
「…今の駄洒落?」
違う。断じて。何だその真顔は? いや、出会った時からずっと真顔だけど。

階段の踊り場に木の立て札が立っているのを発見する。
見たことのない文字。
何が書かれているのか読めない。
ただの背景的なオブジェクトだろう。

最上段まで登り切ったと思ったらそこは踊り場で、まだ奥に、更に上へ向かう階段を見つけ…。
それをその後二度程味わって、漸く本当の「てっぺん」に辿り着いた。

頂上部分には、いくつか相当古そうな木造の建物が厳かに建っていた。
建物に四角く囲まれるように広場が存在する。
人の気配はない。
正面奥に見える建築部は他のものより一回り大きく、威厳に満ちている。
東洋風オリンポス神殿と言ったところだ。
彼女は何も言わず、広場をまっすぐ進み、本殿と思しきその正面の建物に向かって歩き始めた。

本殿の中は薄暗い。
いきなり目の前に巨大な異形の者が待ちかまえていた。
「敵?」
「いや、銅像?」
それは現実サイズで言えば10m程の、恐らく神様らしき存在の青銅像だった。
首から下は人の姿で、首の部分から三本目の足が生えている。
顔が足。
怖い。
「近づいたら敵ってことないよね?」
「どうかな?」
どうやら近づいても動かないようだ。
その足神様の、顔じゃない方の足下に、何かがあるのに気づいた。
それは東洋風の世界観に似つかわしくない、西欧色満々の、こてこてRPG定番の宝箱だった。

ペタしてね
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