その宿は、少しだけ山を登ったところにあった。
私道のような山の中の一本道を進むと、その突き当たりに、鄙びた中にもスッキリとした美しさのある、日本家屋のお屋敷のような佇まいの宿が見えてきた。
「うわ…さとし、あそこに泊まるの?」
「おお」
「スゴイ!素敵なところだね」
「そうか?」
「うん」
運転する和の横顔は輝いていて、瞳もキラキラで、やっぱり少し高くてもこの宿にして良かったと思わせてくれた。
建物の横手に大きな駐車場があって、宿から近いところに車を停めた。
「お疲れさま」
助手席から身を乗り出して、チュッと和の唇にキスをした。
ボッと真っ赤になる和が可愛くて仕方ない。
何度もキスをして、もっとイロンナコトもしてるのに、いつまでも純情で可愛い和。
そんな反応が堪らなくて、ついつい、またキスをしたくなるけど、グッと我慢して車を降りる。
トランクから二人の荷物の入ったボストンバッグを取り出して肩に担いだ。
空いてる左手は和の右手を捕まえた。
山に囲まれるように立つ宿の入口に向かった。
出迎えてくれた番頭さんの案内で、チェックインを済ませると、お部屋係の仲居さんが離れへと案内してくれた。
母屋から長い渡り廊下を進んでいくと、3つの離れが見えてくる。
俺達の部屋はその一番奥。
鍵のかかる木戸を開けて、中に入る。
玄関を入ると上がり框の向こうに、大きな居間があった。
居間の雪見障子を上げて、座りこんだ。
そこから見える中庭は、一面の紅葉の赤。
ホームページで見ていた景色より遥かに綺麗で、目が離せなくなった。
そんなおいらの隣にふわりと座った和が、仲居さんの説明を聞いて返事をしてる。
唯一、夕飯の時間だけは確認されたけど、あとは全部、和が話を聞いてくれた。
おいらの頭の中には、紅葉の中で佇む和の構図が次から次へと浮かんで早く描きたくて堪らなくなる。
仲居さんが部屋を出ていくのを横目で確認すると、まずは和に思いきりキスをした。