少し酔っている男性従業員もいて、私になんかかんか罵声を浴びせている。
きっと
「金もねーのに酒飲むんじゃねー!こんちきしょー!」
とか言ってるのだろう。
タイ語がよく分かっていない。

財布の中身はスッカラカンだけどATMに行けば、ここの支払いが何十回が済ませられるほどは入っている。
周囲を取り囲んでいる4人ほどと、近くのATMへ向かった。
とにかく飲み過ぎて頭がくらくらしているというのに、なんだか面倒臭い事態になったと思いながらATMにカードを挿入し、暗証番号をぽちぽち。

エラー発生。

再度カードを挿入し、暗証番号をぽちぽち。

エラー発生。

私のカードが使用停止になっているのだろうか、なんどやっても、金が下ろせない。
取り囲んでいる輩たちがざわざわし始めた。
男が3人、おばさんが1人いて、男たちはすでに飲んでいて軽く酔っている。
そんな輩たちがざわざわし始めているのだから、状況としてはよろしくない。

「おいお前、金がないなら腕時計を置いていけ。で、家に帰って金を持ってきたら返してやるよ」

浅黒く私より図体がでかい男はこう言い放った。
非常にマズイ状況であることは酔った頭でも理解できるけれど、この男に腕時計を預けるほどバカではない。

「いやんいやん」

と首を振っていたらこの男、私を平手で殴ってきた。
頑なに断っていたからか、軽くキレてしまったようだ。
本気でヤバくなってきた。
だからといって腕時計を渡してしまったら彼らの思うツボだしなぁ。
そんな思いもあって要求をのむことなく

「とりあえず、警察呼んでおくれ」

と要望した。
さほど高い時計を付けているわけでもないけれど、こんな連中に腕時計を渡すなら警察にとっ捕まった方がマシである。
ポリスに100バーツか200バーツの賄賂を渡せば、それで済むであろうとの憶測であった。
私を取り囲んでいた輩たちは「ちっ」と言って、私から10メートルほど離れたところでビールを飲み始めている。

そして私は、店外でポツン。
警察を呼んでいるのかすら分からない。
スタッフたちはビールを飲みながら歓談している。一気に逃げ出してしまえば逃げ切れるんじゃないだろうか。
でもここ数年、本気でダッシュとかしたことないし、あの図体のデカい男が全速力で追いかけてきたら余裕で追いつかれるかもしれないなぁ。

いろいろと考えた挙句、逃げるのはやめた。

廊下で立たされている小学生のように、ずっと立ち尽くしている私。
10分ほど経っただろうか。
ふと、あることが頭をよぎった。

「あっ、カバンに秘め金を入れてるの忘れてた!」

そう、何かあったときのためにこっそり500バーツを封筒に入れていたのだ。
慌てる心を落ち着かせながらカバンをゴソゴソとし始めたら、あった!

「お金あったの?」

素っ頓狂な声を出しておばはんは驚いている。
驚いているのは私も同じなんだけど、そんな様子は微塵もみせず、おばはんに600バーツを渡し、その場からてくてくと歩き始めた。
すると、さきほどの図体のデカい男が近寄ってきた。

缶ビールを飲みながら何かほざいている。
腕時計を手に入れることができず、さぞ悔しかったのだろう。

適当に無視し大通りに出てタクシーを捕まえたその時刻、午前7時。
タクシーに乗りながら窓外を見ると、土曜日だけあり人はまだ少ない。

酔いが覚めたなぁ。
コンビニで缶ビールでも買って帰ろう。
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パッポンに「桔梗」という焼き鳥屋がある。
ここは有名なんだけど、駐車場の奥の奥にあり、初めて訪れる方は間違いなく迷うような場所にたたずんでいる。
店内はせまくカウンター4席ほどと、座敷のテーブル席が4席ほどしかないこの店の、タイ人スタッフのおばさんが全く愛想がなくって面白い。

先週の金曜日、職場の方々と訪れたのが3度目だろうか。

「コップください」

とタイ語で言ったところ、私の目をじっと見つめたまま返事を返してこない。
愛し合っているわけでもないタイ人女性と、じっと見つめ合っているのもなんだか照れ臭いけれど、私が理不尽な要求を叩き付けたわけでもないし目をそらすのも筋が違うので、彼女の、全然笑っていない目を見つめかえすこと約10秒。

何度か心が折れそうになったものの、彼女は「ふんっ」といった感じでグラスを取りに行ってくれた。
こう書くと、とんでもない店員だなこんちくしょう! と思われても仕方ないんだけど、実はこれ、彼女のキャラクターなのである。

「キャラクター」と書いてしまうと面白味がないかもしれないが、
『無愛想キャラで接客する』
という、日本人の感覚からすればちょっと破天荒なキャラ作りがたまらなくオモロイんである。

このおばさんが笑っているところを見たことがない。
誰に対しても、同じ接客なのだ。

そんなことはともかく、この日、とてつもなく飲みすぎた。
「桔梗」のあと、2人屋台で飲む。そのあと、日本人クラブで飲む。
そこで連れ出したお姉ちゃんたち3人と野郎2人でディスコへ行き、ボトルを飲む。
そのあと、またディスコへ行ったんだけど、そこで撃沈した。
あとで聞いたところ、撃沈タイムは午前4時ごろだと言う。

私が目覚めたら閉店したお店を、せっせせっせと片付けるスタッフたちが目に留まった。
共にいた男も女もすでに帰宅済みである。
午前6時ごろだろうか。
思考回路が働かぬ頭をふりふりトイレへ行って、さぁ帰ろうとしたところ女性スタッフに呼び止められた。

「お会計まだなんっすけど」

伝票を覗き込んだところ、570バーツほどであった。
楽勝じゃないか。それぐらい現金で、しかもチップ込みの600バーツで支払ってやるよ。
威勢よくカバンから財布を取り出し支払おうとしたところ、なんどまさぐっても100バーツほどしか出てこない。
驚きのあまり垂涎しそうになった。
ここへ辿り着くまでに、しこたま使ってしまったようである。
ヤバイなぁと思っていたら、ゾロゾロと従業員たちが私の周りに集まってきて、取り囲まれたような呈になっている。
彼らの目があくまでも、金がない“敵”をみる目であった。

(続く)




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財布をスラれてスッカラカン

テーマ:
こちらのブログはまったく更新していないというのに、なぜか定期的にアメンバー申請が来ているのはなぜなんでしょうか?
おひさしぶりでございます。
ヤスハルです。


昨年末、忘年会と称した酒宴が開かれえんやえんやと飲酒に励み、気付いたら千鳥足。
気持ちがよろしくなってきたので、解散してからも一人で飲みに行っておって、最後はアソークという繁華街で飲もうと企み、タクシーで移動した。
ここで事件は起きた。
電話しながらてくてくと歩いていたところ、このとき、どうやら財布をカバンの中からスラれていたようなのだ。

被害内容は
・日本の運転免許証
・クレジットカード2枚
・タイのATMカード
・現金数千バーツ
・領収書数千バーツ
・コンドーム一枚

昨年のお正月にひいた「小吉のおみくじ」も入っていたような気もするけれど、一円の価値もないので被害内容には加えなかった。

人生で初のスり被害。
現金もなく、しかも金曜日の夜にスラれてしまったもんだからATMカードの再発行すらできず、あっという間に一文無しに。
人生というのはこれほどまでに素早く、しかもサクっと転落していくものなんだ。
タイという異国の地で、身銭がまったくないというのは非常に心細い。
日本国大使館に駆け込もうかとも思ったけれど、「日本人アホリスト」に入れられること間違いないので、やめておいた。

カバンの中をあさったところ、わずかながら現金が出てきたので、土曜日と日曜日の2日間、爪に火を灯すかのような貧困な生活を送り、凌いだのであった。

私が財布をスラれたアソークという地域は、よくスり被害が報告されている危険地域であり、そんな街を酔眼および千鳥足でフラフラしている日本人はスりに遭って当然だ、と周囲から言われまくり、ただでさえ凹んでいる私の気持ちはさらに凹むわけだけど、ほんとに悪いのはスり犯じゃないのですかね。

そう反論しようと思ったものの、不毛な議論をしたことろでお財布が返ってくるわけでもないので、家で酒を飲んでいたら、なんだかアソークに出掛けたくなってきた。


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