2005-05-08 21:27:39

或るニートの一日 三人目

テーマ:ニート

 働くサラリーマンを見て呟いた。ご苦労なこった。春雄の一日が始まっ

た。いつもの食パンにジャムをつけ頬張る。うまい。朝の九時。テレビは

働く人たちの特集が流れる。働いたら負けだろ。また呟く。十時。極上の

朝風呂から出た春雄に、睡魔が襲い掛かった。いつものことだ。昼まで寝

るか。今は負けてるやつらが一生懸命働く時間だ。その中、のんびり眠れ

る今の自分だけは勝っていると思ってる。働いたら負けかなと思ってる。

 十二時。窓外から降り注ぐ日差しで春雄は目を覚ました。テレビをつけ

る。タモさん。かなり眠い。だが、タモさんだけは見逃せない。コンビ二

で買い溜めしたパンとおにぎりを食べながら思う。タモさんを毎日逃さず

見る自分は勝ってると思ってる。タモさんが終わると、また布団に潜りこ

む。徹子の部屋。こうやって、好きな事が出来る今の自分は勝っていると

思ってる。いつの間にか寝ていた。五時。外を歩く子供の遊び声に目を覚

ました春雄は、また風呂に入る。坊主頭に熱湯を浴びせた。気持ちいい。

風呂は最高かなと思ってる。

六時。コンビ二の牛鮭定食と、二つのパンを食べる。六時半。春雄は部

屋でテレビをつけてゴロゴロする。十時。ゲームをする。後は彼女さえで

きれば究極勝ちかなと思ってる。二十四年間彼女はいないが、いつかはで

ると思ってる。自分の顔を鏡で見た。歳の割に老けてるかなと思ってる。

 
 明日はテレビの取材が来る。勝ってるから無様な姿は見せたくない。カ

メラに向けて思いっきり言ってやる。世の中の職員たちよ。働いたら負け

かなと思ってる。今の自分は勝ってると思う、と。


(このお話はフィクションです)

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2005-05-07 18:57:37

或るニート 二人目

テーマ:ニート

 一年前の春。史也は希望に夢を膨らませて、入社式に臨んだ。楽しい事

やつらいこと、何もかもが楽しみだった。今は、そんな日々が懐かしい。

 下らないミスだった。前日に何度も確認してれば。悔やんだ。待ち合わ

せの時間を間違え、大事な打合せに参加できなかった。新人が無断欠席。

噂話は会社中に広まった。辞めた。社会の厳しさを思い知らされたのだ。

はがきが届いている。合同説明会のご案内。行く気になれなかった。

 

 なにもする気が起きない。退社した直後は、すぐに再就職を目指して自

分なりに頑張った。だが、いざエントリーして働く自分の姿想像した途端

にめんどくさくなった。社会に出たくない。怖い。働きたくない。それか

ら読書に耽るようになった。面接も全て辞退して、ただ本を読んでいた。

 みんな、何しているんだろう。時々、そう思う。大学の卒業式、友人と

皆で夢を語り合った。史也の夢。それは、それなりに稼ぎ、家族と共に暮

らすこと。皆が頷いてくれた。お前ならできる。そう言ってくれた。

 

 あれから一年。引篭り始めて八ヶ月になる。既卒就職は厳しいと、よく

見るインターネットの就職掲示板に書いてあった。就職は無理なのか。行

き場を失った思いだ。

 所詮、俺にはサラリーマンは向いていなかったのだ。その時、突然頭の

中から煩わしさが消えた。そうだ。サラリーマンが無理なら職人だ。職人

ならば、己の腕次第で食っていける。確かに厳しい道だ。だが、その分野

で右に出るものがいない、とまで言われるようになれば。文也の体中、特

に下腹部に気が集まっている。一年前の春も同じ気持ちだった。測量の職

人になろう、と考えた。学生時代、アルバイトで測量助手を経験した。

 読まずに放り投げられていた、アルバイト情報誌に飛びつく。測量士。

どんな会社でもいい。アルバイトとして経験を積み、いつの日か、認定試

験で合格する。電話を握る史也の手は震えていた。


「下に降りろ! わかったら、さっさと作業を始めろ!」

 ささいな事で怒鳴る社長がいる小さな会社だった。しかし、史也は負け

ない。一度消えかけ、またついた火だ。何時か、測量士になる明日を夢見

て。史也の第二の人生が始まっていた。

 

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2005-05-06 14:16:25

或るニート 一人目

テーマ:ニート

 怖い。人生は甘く無い。毎日、好きな時に食べて、遊んで、寝る。楽に

生きている間に、進は、すっかり対人恐怖症に陥っていた。    

時計の針は五時を回っている。街を歩く人の流れは止む事を知らない。

引篭り生活も十一年目を迎えた。このままでいいのか。このまま死んで

しまうのか。いい年して定職にも就かず、家で親を頼り、怠けている。

 変わりたい。   

そう思って、今日は下降線生活に歯止めをかけるべく、外に出てみた。

十一年ぶりの外出だ。天気がよい。太陽が、きらきらと輝く。光の無い
生活を送り続けてきた。外の光も社会の光にも。ベクトルを修正したい。

人の目線。進は、己の胸の内部に恐怖心が芽生える変化に気がついた。

怖い。道歩く人間全てが刃物を持っているのでは。ありもしない事。だ

が、今の優は人が怖かった。長らく続いた、引篭り生活の影響であろう。

正常な判断力を失っていた。これから何をすれば。ならず者の住処はやは

り影なのか。怖い。人が怖い。身を危ぶんだ。こんな所で死ぬのは嫌だ。

家に引き返した。おれには無理だ。おれには。自嘲。おれのせいで、母

さんに迷惑をかけてる。生まれてこなければよかったんだ。気が滅入って

いた。

公園が見える。人は誰もいない。小さい頃、夢中で公園の中を走ってい

たあの頃。まだ優しかった父。進は、そこで己の幻を見ていた。幻が説得

してくる。勇気を出せ。幻の子供。少年の進は、今の進に力強く力説をし

てくる。親の事は余り気にするな。子を見ること親に如かずだ。人生一度

きりだぞ。幻の言葉は、次第に進自身の言葉となっていく。その度重なる

幻との会話は、いつの間にか自答自問へとなった。負けるな。一度きりの

人生。まだやり直せる。歩いていた。再び街に向かって。繰り返し呟く。

人生一度だ。人込み。もはや刃物を持つ人は誰もいなかった。
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