2005-04-14 20:36:39

道 1

テーマ:

この学校を辞めることになったんだ。クラスに衝撃が走った。鬼教師。影

のニックネームだ。突然の告白に誰もが驚いた。鬼教師こと本嶋の悪逆無

道とも言える振る舞いは学校中でも有名だった。相手が小学生だという事

を利用し、生徒を怒鳴り散らし、時には血が出るまで殴りつけた。

行き過ぎている。長井修の、本嶋への不満は蓄積される一方であった。

けれど、それもあと一週間。嬉しかった。周りも表情には出さないが、目

ばかりは隠せなかった。誰もが嬉しそうな目をしている。

 


どうせなら、最後に言ってやりたい。修は思った。あの日以来、大人とい

うものが信頼出来なくなった。子供が相手だからといい気になるな。そん

な思いを。特に本嶋には。あの日受けた傷は、修の心にこれからも一生残

るものとなりそうだ。このまま終わらせたくはない。本嶋が担任でいるの

もあと一週間なんだ。最後に自分の思いを言ってやる。奴の一番大事な物

の前で奴と共に。修の計画は、着々と頭の中で進んだ。あと一週間。わず

か一週間。一年以上もの苦しみを一週間後に。修の心は燃えた。

                                                      

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2005-04-14 20:33:44

道 2

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危険は承知の上だ。一人で奴の家に乗り込む。クラスの連中には、このあ

ぶない計画に付き合せたくなかった。数日、修は風邪という事で学校を休

むことにした。仮病。今までそんなもの使ったことは無かった。本嶋と目

なんか合わせようものなら全てがバレてしまう様な気がした。全てを見透

かしたような目をしている。家にいる数日、修はずっと不安と戦った。そ

れでも、時は過ぎていく。七月三日、日曜日。修は決意して家を出た。

 


危機一髪。本嶋と目が合った気がした。修が隠れている電柱から、庭で遊

ぶ本嶋とその娘が見えた。奴の大事なもの。一度、娘の自慢話を顔を赤ら

めてしたことがある。その表情は、いつもの鬼ではなかった。できるなら

ば、娘の前で言いたかったのだ。あんたの父親がやっていることは、人の

道に外れてるのだと。やがて、二人が家の中に入った。歩き出す修の心臓

は高鳴りっぱなしだ。玄関を見た。家は恐ろしい程、貧困に見えた。こん

な家に住んでいたのか。少し意外だった。玄関に立つ。一呼吸置いた。

しかし、緊張は解けなかった。本当に俺は鬼の前で言えるのだろうか。

 


踏み留まってしまった。俺にはできない。諦めかけたその瞬間、ドアが軋

みをたて開いた。本嶋だ。「長井じゃないか。お前、風邪ひいてんのに家

出てんじゃねーよ。」不意を突かれ、背筋に冷たいものが走った。「どう

せ仮病なんだろ。あがれ。俺に用があるんだろ?」終りだ。修にしてみれ

ば、もはや計画などどうでもよかった。早くこの地獄から逃げたかった。


                                                

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2005-04-14 20:30:58

道 3

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そんな修の目を見て本嶋は言う。「いいや。俺だってガキの頃はよく仮病

の一つや二つ使ったわな」本嶋が笑っていた。戸惑った。こんな顔今まで

一度も見た事は無い。居間で本嶋と対座した。正座をする。娘はいない。

足崩していいぞ。それが第一声だった。優しい目をしていた。「今日お前

が何をしに来たかは大体わかる」修は声を振り絞って言う。「先生は人の

道に…」精一杯。言葉が詰まる。本嶋の表情は真剣だ。「だな。悪かった

とも思う。でも俺が子供の頃なんてもっと辛かったぞ。毎日殴られたさ。

なぁ、俺が何を言いたいかわかるか?」わからなかったが、怒りが無くな

りつつあった。自分でも信じられない。ふと、あの日の事を思い出した。


その日、修は暗いロッカーにいた。一年前のあの日だ。発端は、好きな女

の子がコンパスを忘れた事からだ。絶対に忘れんなよ。本嶋の言葉が一言

一句頭に響く。好きな子が本嶋に怒られるなんて耐えられない。女の子の

足も震えていた。だから、自分のコンパスを貸した。まずいって。女の子

が焦った。いいよ、俺は二つ持ってるから。嘘だった。そして本嶋に掃除

道具が入った狭いロッカーに閉じ込められた。三時間も。その三時間の間

とにかく泣いた。決して怖いからではなく悔しかった。が、その中で新た

な別の自分も見えた。絶対に強くなってやるんだ。いつか、何かをしてや

る。自分でも解らないが、己の中に闘志が湧き上っているのはわかった。

 
迷乱する修に構わず本嶋は続けた。「確かにやり過ぎた。その事は謝る。

わるかった。だがな、これから中学、高校と進むお前には、これから先も

ずっと辛いことが待っているだよ。でも、小さい頃からこうして辛い環境

にいると、『過去はもっと辛かった』って踏ん張れるもんだ。許せない所

行だったかもな。まぁ、それでも俺が憎かったら、お前が大人になったら

けんかでもしに来いよ。」本嶋が笑った。あぁ、何となく解った気がする

よ、先生。修の気持ちは晴れ晴れとしていた。


行く行くは有益になる。あの日、修は狭く暗い部屋に閉じ込められた。だ

けど、その三時間が修の何かを動かした。卑屈になるところか、辛い事を

ばねにして強くなった。こうして一人で乗り込めたのが証拠だろ。俺にも

わかるよ。最後に本嶋は言った。修は泣いていた。何故自分が泣いている

か分からなかった。翌日、本嶋のお別れ会があった。本嶋が別れの挨拶な

るものをしているが、クラスの連中は、誰も悲しそうにもしていない。娘

さんとお幸せに。修は本嶋を見つめた。やがて本嶋の話が終わった。先生

ありがとう!叫んだ。

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