2010-09-23 17:51:31

チャールズ・キーリング①

テーマ:研究者列伝

さまようブログ NOAA HP より
チャールズ・デービッド・キーリング(Charles David Keeling)、1928-2005、アメリカ

大気中の二酸化炭素濃度が増加していることを発見


 チャールズでデービッド。世界に何万人もいそうな名前ですが(笑)、その業績は他に並ぶ者がありません。気候変動に関する研究の最重要人物と言っても過言ではないでしょう。

 その業績は、上の写真でキーリングの後ろに写っている1枚のパネルに集約されます。単に右上がりの線が引かれているだけに見えるグラフ。パネルに描かれたこのグラフこそが、人類により地球温暖化が確かに起こりうることを決定づけたものなのです。


 このパネルは、ハワイのマウナ・ロア観測所 内のキーリング・ビルディング(もちろんキーリングを記念して命名された建物です)に掲示さてているものです。拡大してみましょう。
さまようブログNOAA HP より

 横軸は年代を、そして縦軸は大気中の二酸化炭素濃度を示しています。パネルは、大気中の二酸化炭素濃度の経年変化を示したものなのです。二酸化炭素は年々増え続けていることと、細かいギザギザがあることが分かるでしょう。

 現在、大気中の二酸化炭素濃度が増え続けていることを知らない人はまずいません(注1)。しかし、誰もが知っているこの事実も、キーリング以前には誰も知らなかったのです。

 どのような経緯からキーリングはこの重大な発見をしたのでしょうか。また、なぜキーリングが「最初の一人」になれたのでしょうか。


・背景~温暖化への「危惧」の芽生え

 アレニウス は、二酸化炭素濃度が増加すると温室効果が強まり地球の平均気温は上昇すると予想しました。紆余曲折ありましたが、この予想は徐々に科学者たちに受け入れられていきました(注2)。しかし、これはあくまで計算上の話。人類が大気組成を変えるほど大量に二酸化炭素排出することはないだろう、と思われていました。

 ところが、産業革命から二度の世界大戦を経て文明は飛躍的に発展し、化石燃料の消費量は猛烈な勢いで増加していきました。地球に関する理解も少しずつ進み、どうやら地球環境は思っていたほど不変のものではなさそうだと分かってきました。

 これらのことから、「机上の計算だけでなく、実際の地球でも平均気温の上昇は起きうるのではないか?」と考える学者達も増えてきました。その代表が、スクリプス研究所ロジャー・レヴェル です。後に、キーリングの上司となる人物です。


さまようブログ
ロジャー・レヴェル(Roger Revelle) Harvard Square Library より。


 この危惧は当たるのか、それともただの杞憂にすぎないのか。それを確かめるためには、何をおいても大気中の二酸化炭素濃度を正確に分析する必要がありました。

 人類が二酸化炭素を多量に放出しているのは事実として、それが大気に蓄積しないと温室効果が強くなることはありません。海に吸収されたり石灰石として固定されるなどとして、大気からすみやかに失われる可能性も高いと思われていたのです。

 しかし、大気中の二酸化炭素濃度を測定するのは想像以上に難しいのです(注3)。例えば滴定 という方法があります。私もたまに滴定しますが、細かい分析はなかなか難しいものです。

 しかも対象は大気中に存在する二酸化炭素です。もし私が二酸化炭素濃度を滴定しろと言われたら・・・。真っ先に、どうやって二酸化炭素の混入を防げばいいか頭を抱えるでしょうね。何しろどこからでも混入するのですから。水や試薬にも二酸化炭素は溶け込んでいます。この影響を除去するのも悩むでしょうね。これらは、私よりずっと実験が上手い人でも共通して悩む点でしょう。

 そして、なんと言っても、二酸化炭素は大気中に300ppm(0.03%)程度しか含まれないのです。

 また、観測場所の問題もありました。すでに都市化や工業化が進んでいた時代です。人間が放出する二酸化炭素濃度は、地理的・時間的ばらつきが大きくなっていたのです。加えて、滴定をするような化学者はたいてい都会に住んでいましたから、ばらつきの影響をもろに受けてしまうのです(注4)。

 正確な二酸化炭素濃度を測定する必要性は認識されていましたが、なかなか妙案はありませんでした。


・キーリング登場

 キーリングは元々、ウランの抽出に関する研究をしていたと言います。戦争の影がまだまだ色濃かったのかもしれません。

 しかし時代は変わります。師の勧めもあってか、大気・水・石灰岩間の二酸化炭素平衡に関する研究を始めました。このような研究をするためには、二酸化炭素濃度を正確に測定する必要があります。測定を通して、キーリングは、二酸化炭素濃度が例えば昼と夜で異なること、炭素同位対比も昼夜で差があることなどに気づきました。

 もう一つ重要な発見として、キーリングはワシントン州の森林やアリゾナ州の高山などで二酸化炭素濃度を測定していましたが、これら人里離れた地域であれば二酸化炭素濃度はほぼ均一であることにも気づきました。

 これらも今振り返ってみれば重要な発見ですが、当時はあまり重要視されることはありませんでした。しかし、レヴェルはこれを見逃しませんでした。レヴェルはキーリングをスクリプス研究所に招聘し、大気中の二酸化炭素を継続的に測定することを要請します(注5)。1956年のことでした。


 次回に続きます。たぶん第3回くらいまで。


注1:地球温暖化が起きていることに最も否定的な人ですら、二酸化炭素濃度が増加している事実は認めているのではないでしょうか?

注2:いずれこの「紆余曲折」も調べてみたいですね・・・。

注3:以前、このブログでこのことに関するコメント がありましたね。

注4:キーリング以前の二酸化炭素濃度に関する研究が、以下にまとめられています。

http://www.biomind.de/realCO2/literature/CO2literature1800-1960.pdf

いくつかリンク先を読んだ感じでは、ばらつきは非常に大きいですね

(9/25追記:リンク先のHPの作者は、二酸化炭素は増加していないという主張の持ち主のようです。注1の数少ない例外でした。

http://www.biomind.de/realCO2/

ここまで調べているのにどうしてそういう結論に至るのか・・・、)

キーリングのブループラネット賞記念講演では、熱帯大気で319~349ppmと予想したBuchの研究が引用されています。

注5:レヴェルは後日、自分のことを「私は温室効果の祖父だった」と語ったと言います。

http://earthobservatory.nasa.gov/Features/Revelle/revelle_3.php

 無名だったスクリプス研究所を短時間のうちに世界最高峰の研究機関に育て上げたり、政治に対する強い影響力を持っていたりと、人を見、育てる能力はすばらしいものだったのではないでしょうか。

参考:

スクリプス研究所

http://scrippsco2.ucsd.edu/home/index.php

ブループラネット賞HP

http://www.af-info.or.jp/blueplanet/list.html

The Discovery of Global Warming

http://www.aip.org/history/climate/index.htm


参考文献:

温暖化の<発見>とは何か

http://www.msz.co.jp/book/detail/07134.html

チェンジング・ブルー

http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/1/0062440.html

CO2と温暖化の正体

http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309252315

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2 ■Re:Beck氏亡くなる

>masudakoさん

こちらのHPでは初めてですね、いつもあちこちのページでお世話になっています。これからもよろしくお願いします!

リンク先ありがとうございます。本当ですね、驚きました。62歳、癌ですか・・・。
闘病しつつもあれほどのHPを作り上げたのかもしれないと思うと、頭が下がります。たとえ意見の相違はあったとしても、その熱意には敬意を表したいと思います。

1 ■Beck氏亡くなる

たまたま知った情報ですが、キーリング以前の観測値を持ち出して昔も大気中CO2濃度は高かったと言ったドイツの高校の先生E.-G. Beck氏は、最近亡くなったそうです。温暖化懐疑論のなかまによる次の記事(24日)では「今週」という表現になっています。同じ内容のドイツ語版は別のところに22日づけで出ていました。http://cfact.eu/2010/09/24/ernst-georg-beck-died-this-week-after-a-long-battle-with-ipcc/

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