週間文春 矢沢永吉 7 素直 | 矢沢永吉激論ブログ

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矢沢永吉はずっと、とんがったイメージを持たれてきた。
矢沢永吉は、怖い、と思われてきた。

デビューLた頃、
なんで歌手になったのかと記者に聞かれて
「お金が儲かるって聞いたから」なんて答えてた。
「ジョン・レノンって、
ロールスロイスをピンクに塗っちゃったんだって。
俺もやりたいなあ」とか。

そしたらインタビュアー、
鳩が豆鉄砲食らったような顔してて
・・あれ? そうか、
音楽のことも言わなきゃまずいかと思って、
「僕ね、音楽もすごい好きなんですよ」
って言ったことがある(笑)。

こんな感じで、
何を隠そう、矢沢はすごく素直だったんですよ。
だってそうでしょ? 
博学になりたくてロックシンガーになるんだ、
って思ったわけじゃない。

そんなつもりで広島から夜汽車乗ったんじゃない。
デビューしてすぐの頃は、
売れたらどうなる?ってことを、素直に考えてた。

一枚売れると物品税がこうで、
印税がこうで、
へえー、やばいなこの世界、
五〇万枚売れたら…
Oh My God! 億だよ億。
億っていうのは、一千万円の札束が十個ってこと。
すごいなあ……って。

でもね、そういうことって、
他の人達はみんな知ってるのに、
誰も口にしなかった。

大きな芸能事務所とかには、
インタビューのイロハがあって、
こう聞かれたらこう答えて、
ポーズはこうで、いい子に見せて、
っていうのがあったんだろうね。

だから今のコたちは、
「ボク、皆さんに喜んでもらって今日は最高でした」とか、
猫も杓子もおんなじことばっかり言ってる。

まあ、矢沢のあとからは、
「ちょっと悪ぶってるほうがウケる」 
って感じにもなってきたみたいだけどね。

オレは、ただ思っていることを素直に言っただけだった。
たとえば肖像権とか、印税の問題についてもそう。
「権利関係をしっかりしなきゃいけないんじゃない?」 
って、早くから口にしてました。

マネージャーとか」プログクション、
いろんな人が周りに現れたけど、
ナメられんじゃねえぞ、って思いながら、言い続けてきた。
 風当たり、強かったねえ。

「アーティストは音楽のことだけ考えてろ」
「印税とか金がどうLたとか言う奴は、ロックシンガーの風上にも置けない」
とか、いろいろ言われたよ。

悔しいから「どこのどいつが言ってんだよ、
それ言ってるヤツこそ、裏でがっぽり儲けてんだろ。
俺みたいなのに言われると都合悪いんだろ」 
って言い返したけどね。

要するに業界が、芸能界が狭いのよ。
閉鎖的だったのよ。
だから、キャリアも何もない、
あの頃キャロルで出てきたばかりの新参者の小僧が
「権利」って言葉を口にしただけでみんな驚いたんだ。

そのこと自体が、
業界が狭かった何よりの証拠じゃないですか。
どの世界にもあるように、
芸能界にも縦社会みたいなのがあって、
わかってるけど口にしちゃいかん、
というのがあった。暗黙の了解ってヤツ。
でも、そこで口にした矢沢が言い出しっぺになっちゃったんだね。

だけど、時代っていうのは面白いもんだよ。
いつのまにか、今じゃ誰でも「ポク頑張ります、命かけます。
ところで僕をいくらで買ってくれますか?」って言う時代になった。

今じゃ全然普通のことになった。
別に僕が芸能界を変えようとか、
そんなおこがましいことを思っていたわけじゃない。

ただシンプルに、素直に、
違うことは違うと言ったまでのこと。
素直って言ったけど、
言ってみれば、まあ単純なんですよ。
だから、いい事はいい、と思うし、
すぐ自分に取り入れたりする。

そうそう、高校一年くらいの時、
デール・カーネギーの
『人を動かす』って本を読んだんです。
いい本だったな。
すごく感動した。

あの中に出てくる話で、こんなのがあったんだ。
自分は郵便局で切手を買おうと思って並んでいる。
切手売ってるのは若い女の子で、
毎日毎日切手売っててウンザリしてる。
自分は仕事、大変だなあと思いながら、
この子のいいところどこだろう、って考える。

よく見ると彼女は凄く綺麗なブロンドの髪をしている。
そこで自分の番が釆たときに、彼女に言う。
「さっきから見てたけど、君のブロンドの髪ってすごく素敵だね」
今の時代だったらナンバにとられちゃうかも知れないけど、
彼女はフワァーーって笑顔になる。

人ってそういうモノでしょ、
って書いてあるのを読んで、
単純に感動した。

それをあるとき思い出して、
何でもない日に俺がバラを買って、
ただいまーって家に帰ったの。
で、嫁さんに
「帰りに花屋があったから買ってきた。プレゼント」 
ってあげたらね、

「エーッ!何? ジョーク?」
って言いながら、
ものすごくうれしい顔してる。

ああ、あの本に書いてあることは本当だ、
って素直に思ったよ。
まあ欧米に比べて日本にはそういう文化はないけど、
良いことだったら照れないでやればいいのにと思う。

コミュニケーションがない、
ドライな時代っていうけど、
ほんの些細なことで、
人間関係とか、
ギクシャクしたものが薄らぐかも知れない。

これを読んでるそこのお父さん、
今晩、花買って帰ってみたら?