京兆周録

習俗・慣習、歴史、社会事象から「ニッポンそして亜細亜の諸相」を眺めてみたり……。
※小説『鶏をしめる』適宜更新。
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 明治4年の創業というから、老舗ホテルと呼んで誤りはなかろう。
 尤も、当初はホテルではなく、旅館としての営みであったらしいが――。


 東京・港区の南端に佇む「京品ホテル」――。



京品ホテル-出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

写真:京品ホテル -出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
最終更新 2009年1月27日 (火) 21:31 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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 東海道筋の好立地ながら、江戸寄りの出発点となる日本橋から眺めて、最初の宿駅「品川宿」より僅か手前にずれてしまう場所柄、これが江戸の頃おいなら、差し詰め「街外れの商人宿――場末のビジネス・ホテル」宜しく一部のコアな常連を相手に、ただひっそりと寝食を供する宿になっていたかもしれない。
 されど時が幸いしたといえようか……創業の機はいみじくも文明開化。
 果たして鉄道が敷設され、宿の眼の前には停車場――品川駅が開業されたのは、まさしく天佑そのものであろう。
 以後、老舗ホテルとして「東京の貌――その一つ」に数えて強ち過言とはし得ない、そんな歩を辿ってきたのは間違いない。


 ところが時の流れの、斯くも残酷たるや。


 さて――。
 諸兄姉も京品ホテルの廃業と労働争議は、新聞・TVなど各種報道を通じてご存知ではなかろうかと思う。
 しかしながらその多くが、昨秋のいわゆる「リーマン・ブラザーズ破綻」と結びつけたり、あるいは暮から年明けにかけて話題の俎上に供された「派遣村報道」と、何処かリンクするような恰好で報じられていた事実に、どれ程までにセンシティヴ――鋭敏であったろうか。


 思うに、僕の記憶に誤りがなければ、新聞・TVなどのマスメディアは、京品ホテルが廃業を決意した昨年初夏には、その殆んどが精々ベタ記事程度、メディアによってはベタ記事扱いすらせず、ただ黙殺していたのではなかったか。
 少なくとも云えるのは、あの時「今少し踏み込んだ報道」を何処かが仕掛けていれば、おそらく「一大キャンペーン」に発展したかもしれないし、結果として、今や苦境に立たされる従業員らが、その身を委ねるに至る「労働争議」とはまた異なる選択肢を、もしやすれば彼らは……その手にしていたかもしれない。


 多角経営という「バブル期のツケ」が廻りに廻って揚げ句の、総額60億円の負債。加えて耐震基準を満たすために求められる、およそ20億円に上る改装費用――ホテル経営それ自体は黒字を出し続けてはいたものの、現実の刃を突きつけられて廃業を決した経営者の責任は、これは問われねばなるまい。
 何より経営者が選んでしまったパートナーつまり債権の引き受け先が、リーマン・ブラザーズ証券出資のいわゆるハゲタカ・ファンド「サンライズファイナンス」であった事実も、おそらく当時から問題視して然るべき要素を孕んでいたはずではないか。なぜなら――。


 全てのマスメディアが、さも「弱者の代弁者」宜しき貌をぶら提げているのだから。


 にも拘らず、である――。
 老舗の廃業など、マスメディアからすれば“ホットな”付加価値でも添えられない限り、おそらくは「ニューズヴァリュー」など見い出せないのであろうか。


 今となっては「if――もしも」に過ぎない選択肢を模索してみよう。
 廃業へと舵が取られた昨年五月、仮にマスメディアによりキャンペーンが展開されていたなら、あるいは第三者たる出資者が現れていたかもしれない。そんな第三者へ一縷の望みを託すならば、例えば僅か百二十余人の従業員のみでは困難であろう「EBO――エンプロイー・バイアイト」いわゆる「従業員ら使役者による買収」をも視野に、方途を探る手さえあったかもしれない。


 いずれにせよ、今となれば考えても詮なき「if――もしも」であろうか。


 ホテルや債権者側が求めていた「仮処分」申請が認められたのを受け、東京地裁が「強制執行」に踏み切ったのは先の25日、日曜日のことだから、諸兄姉も記憶に新しかろう。
 これは法と、法に基づく司法の命令に則るアクションであるから、問題とすべき点を「経緯」もしくは「行為」そのものに求めるのは誤りであろう。
 それをマスメディアは、今になって「司法の横暴」を匂わせるかの報道を、なぜかしら垂れ流しているやに僕には映る。


 視点・論点を、彼らマスメディアは恣意的にはぐらかしてはいまいか。
 従業員側が、最終的に頼るよりなかったユニオン――プロ市民を何処となく持ち上げるかの論調も、例の「派遣村」報道ともパラレルしつつ、畢竟、昨今のメディア全般に仄見える「偏向性」がやおら鎌首を擡げたか、と邪推さえしたくなる。いずれにせよ――。


 マスメディアとは、斯くも「恣意的」な存在なろうや。


 今後は、解雇無効を求める労働者側らが訴える「地位保全」「地位確認」に、司法が如何なる判断を下すかが争点となる。兎も角も、その推移を見守るよりない。
「吉と出るか凶と出るか」――。
 サンライズファイナンスが売却を予定していたLCホテルズは、既に売買契約を破棄しているらしく、所有者権も、宙に浮いたも同然である。
 吉と出るなら、老舗の灯は再び点る。
 凶と出るなら、老舗の灯は終ぞ消える。


 老舗はその灯を、点し続けられるか――。
 近代建築遺産として、顧みる価値があろうとなかろうと……昭和5年に築かれた、味わい深きレトロなホテル棟は遺されるか、はたまた――。


「東京の貌――その一つ」は遺されるのか。


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