新連載

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一応、こちらでも宣伝しておこっと。

今度、小学館の「新幼児と保育」にて、ぼくの新連載が始まりました。
「あおくんのブルーノート」。
ジャズとは全く関係ありません。

子どもの隣にいて感じたことや、見聞きしたことを、なるべくやわらかく伝えられたらと思っています。自分も結構楽しんで書いてます。
よかったら、ぜひ。

あおくんのブログ
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で、近々もうひとつの連載もお知らせできると思います。
書かなくちゃ。

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魔法使いまーちゃん

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「これにのって、ジャンプしてごらん!」
ぼくが、ウチの娘と遊んでいると、その子は突然やってきた。
三つ又に分かれた木の枝を片手に持って。
「わたし、まーちゃん。ちょっとありふれた名前だけどね。ほんとのところ、魔法使いになるつもり。」
ウチの子をその木にまたがせて、「とべ、とべ」と急かしている。
「ほら、いま、2秒飛べたでしょ?」
ウチの子は信じていいいのやら、と顔をしてそれでも木のほうきにまたがって、何回か跳ねている。

「それからね、」まーちゃんは続ける。
「この木の枝ね、ラクロスもできるんだよ。じゃ、いまからルールを説明します。だいじょうぶ、小さい子にもわかりやすいように、わたしが考えたルールだから。」
今度はその三つ又の枝をラケットにして、ラクロスを始める。ぼくはラクロスについては全く知らないけれど、そのぼくから見てもかなり奇妙なルールだ。
「ピー!はい、笛が鳴りました。ほら、さっき教えた通りにやる!」まーちゃんはなかなか厳しい。ベンチに座っていた、お母さんと1歳くらいの男の子にも、熱心にラクロスを教えている。
ウチの娘に自分の黒い服を着せてやり、
「ぴったり、ね、魔法使いでしょ」とニコニコしている。
娘がまだまーちゃんと遊ぶというので、ぼくは一足先に家に帰った。
奥さんにも、「今日、こんな子がいてさ」と話す。

しばらくすると、娘が駆けこんできた。
「まーちゃんがキックスケートで転んで、泣いてる!血も出てる!」
あわてて公園に行ってみると、坂の途中でまーちゃんが倒れていた。血がそでにつき、膝のところで服が破けている。
娘と、キックスケートに乗ったまーちゃんとで、競争していたところ、前を横切った娘を避けようとして、転んだらしい。顔、ひじ、ひざ、手の甲、かなりの擦り傷だ。口の中も切れ、右腕がすこしぶらんとしている。

まーちゃんは痛がって泣いていたが、ウチに来て消毒しようというと、なぜか頑なに断る。
「そんなことしたら、怒られちゃう。転んだのは自分が悪いんだから、ケガするのは当然だって、人様のお世話になるなって、じいじに叱られる。」
でも、ほら、消毒だけはしようよ、といってなんとか説得してウチに連れて行く。
「泣いてるのも怒られる。どうせ泣いて助けてほしいからだろって、いつもウチの人たちはみんな言うんだもん」
痛くて泣いているのもあるが、帰ってからのことを気にしているようだ。
ウチで消毒をする。実際、ひどいケガだった。口の中はたしいたことはないが、やはり右腕があやしい。右肘を支えて、すこしひねるとかなり痛がる。折れているかもしれない。
「この前も打撲したし、じいじに怒られる。迷惑かけるんじゃない!って」
迷惑なんかかけてないし、大丈夫だよと言っても、まーちゃんは首を振る。
「いくらそんなこといっても、怒られるもん。お前が悪い!お前が悪いって。」

いやがるマーちゃんを連れて、まーちゃんの家を目指す。お母さんは働いていて、じいじしかいない、と言う。迷ったけれど、ケガのことはやはり伝えなければならない。まーちゃんには気の毒なことになるかもしれないけれど。
公園を横切りながら、まーちゃんが言った。
「あ、あの枝・・・」
「とってくる?」とぼくが聞くと、マーちゃんは少し迷ってから首を横に振った。
「ううん、やっぱり、いい。」

まーちゃんの家は近所だった。ブザーを押すと、いかにも気難しそうな年配の男性が出てきて、ぎろっとぼくをにらんだ。簡単にケガの経緯を話し、まーちゃんがウチの娘を避けてくれたことに礼を言った。
「まあ、だいじょうぶ」と年配の男性はすこし、ほんの少しだけ表情をゆるめて言った。
まーちゃんは玄関に入ると、こちらにむきなおって深々と頭を下げた。
「どうもご迷惑をおかけしてすみませんでした。お世話になりました。」
そこにはもう、魔法使いはいなかった。ラクロスを元気いっぱいで教えてくれたまーちゃんもいなかった。

明日お見舞いにくることを告げて、ぼくと娘は帰った。帰る途中、公園を通ると、あの三つ又の枝が落ちていた。
「まーちゃんの!」
「ほんとだね。これ、ウチでとっておこう。」
「うん、また遊ぶときにね」



まーちゃん、君は悪くないよ。
まーちゃん、痛いとき、かなしいときは、おもいっきり泣いていいんだよ。助けてっていっていいんだよ。
まーちゃん、魔法のほうきは、ちゃんととってあります。だからまだ魔法は生きています。
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