シリアナ(05・米) | no movie no life

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・・・映画を見て思ったことをツラツラと。ネタバレです。

かなり昔に書いたのも。

ジョージ・クルーニーのアカデミー賞助演男優賞効果なのか、平日にもかかわらず結構観客はいました。これまた老若男女様々。「シリアナ」は、主演と言うのがいない映画で、クルーニー自体そんなにたくさん出てくると言うわけではないし、役者は皆「助演」に当たるかもしれない。

とうことで、「バースデー割引」第4弾。



この映画は、元CIA工作員の執筆したノンフィクション本「CIAは何をしていた?」を元に、脚本化、製作されるに至る。とあるアメリカの石油会社の合併と中東事情を舞台として、話はパラレルで展開し、互いに関係が無いようであるが、終わってみれば実はつながっている、という構成になっている。

CIAの工作員(ジョージ・クルーニー)、石油会社に関わる弁護士(ジェフリー・ライト)、エネルギーアナリスト(マット・デイモン)、移民出稼ぎ労働者(マザール・ムニール)、アラブ某国の王子(アレクサンダー・シティグ)。

注目すべきは、「シリアナ」と言う言葉が一度も出てこなかったこと。チラシやパンフによると、「シリアナ」とは、ワシントンのシンクタンクで実際に使われている専門用語で、「イラン、イラク、シリアがひとつの民族国家になることを想定する、コンセプト」なのだそうだ。しかし、知らずとも、「シリアナ」のために、あるいはそれに反抗して、各人が動いていく。

だが、工作員とアナリストと王子の3人が偶然ホテルのエレベーターに乗り込むシーンがあるのだが、そこだけはなぜかドキドキして見ていた。



見終わって、混乱した。というのは、あまりにも私が中東、そして石油を巡る現状に疎いせいだ。無知より怖いものは無い。ただ、アメリカ合衆国が「石油」を巡る中東における利権争いをするうえでは、中東の混乱が続き、なおかつ親米国家が誕生してくれれば好都合なわけで、それは非常に理解しやすいことだ。しかし、疎いのは私だけではないのだろう。だからこそ、この映画が作られたのだ。ジョージ・クルーニーは「この映画で疑問を投げかけるのは僕らの権利であり、義務だ」とインタビューで答えている。



ガソリンや灯油の値段の急騰は、私たち日本人にもダイレクトに影響してくる。世界中で石油の争奪が起こる。しかし、だからといって「原子力エネルギー」がいいとは絶対に思わないが、我々日本人も、「このようなこと」が行われている日常を、まずは直視すべきなのだろう。何故、戦争は終わらないのか。何故、テロは起こるのか。何故、イスラム教の信仰心がそこまで強くなるのか。「よその国のこと」では済まされない。

問題を直視し、目をそらさず、事実を知ること、それはアメリカ国民だけに発せられたものではなく、私たち日本人にももちろん発せられている。



よく思うことなのだが、日本人は、1945年の敗戦以後、「戦争は終わった、戦争は悪であり、もう繰り返してはならない」と言う意識が刷り込まれ、敗戦を境に明らかに時代は途切れ、社会は変化した。しかし、第2次世界大戦に勝利した国は、終わっているのではなく、続いているのだということをつくづく思い知らされる。もちろん、戦勝国であっても、その後ベトナムや朝鮮半島やアルジェリアや中東での「戦争」や「紛争」、そして例えばソ連であれば国家の崩壊や民族独立による新たな国家の誕生があったわけで、1945直後のままだとは言わない。

しかし、軍隊はもちろん、戦争ビジネスや諜報組織は当たり前のように存在し続け、その存在に疑問を持つことはないのだろうか?と思うときがある。そもそも「シリアナ」などというコンセプト自体がなんと傲慢なものか、と思う。民族も歴史も言葉も宗教の宗派も異なる3つの国を一緒にするなどとは・・・



このたびの第78回アカデミー賞作品賞を見ても、ノミネートは社会派作品が多かった。自分の国、政府、そして国民に対するダイレクトなメッセージを持つ。まずは、こういった作品を制作することができ、上映することができ、見に来てくれる観客がいて、支持されて、その結果アカデミー賞がもたらされるならば、凄いことだなあと思う。今作品でも、ジョージ・クルーニーやマット・デイモンは無報酬に近い額でこの映画に取り組んだそうだ。



この作品を見て、「ジョージ・クルーニーは太ったなあ」と拷問で倒れているシーンを見て思ったのだが、役作りのため16キロ増量したのだそうだ。工作員にとって「目立ってはいけない」ことが重要とのアドバイスからそういたのだと言う。しかし、そうでありながら、最後のシーンで王子が「カナダ人?」と彼に言ったセリフが、彼が目立たない存在に徹し切れなかった工作員であったことを匂わせる。直後、自分の組織CIAによって彼はアラブの王子とともに爆死してしまう。組織から見捨てられた人間の無力さ・・・工作員とアラブの王子の存在がダブる。そして組織の非情さも。



ジョージ・クルーニーについては、ドラマ「ER」の、女性にモテモテな小児科医役のころから見ていたので、彼の今回の受賞はうれしく思う。映画に対する取り組み方や姿勢にも好感が持てるし、「歳を取ってもイイ男」と言うのは彼のようなことを言うのだろうな。更なる活躍を期待したい。



追記:最近、洋画でクルマのシーンがあると車種に目がいってしまうが、国産車が健闘していることが分かる。よく中古のトラックは見かけるが、このたびはアラブの国のラストシーン。砂漠を行く道で、王子様はレンジローバーだが、前の護衛車はトヨタの白いランドクルーザーだった。工作員(クルーニー)は三菱の黒いchariotかな?を運転していた。まあ、ああいうラストなので、クルマも木っ端微塵でしたが、国産車も頑張ってるなあ。(と言いながら、国産車には乗ってない私です・・・)