ライトノベルとMSX(2) | MSX研究所日記

ライトノベルとMSX(2)

皆さんライトノベルは読んでますか?前回 の続編となる第2回、2年ぶりのご無沙汰です。

世の中には良い本と普通の本があります。MSXユーザーにとって良い本とは「MSXが出てくる本」のことです。異論は認めない。面白さとは別。
そんなわけで最近は良い本が増えました。いい事です。ライトノベルというのは中高生が読者層の主体のはずなのですが、MSXなんか出してる場合なんでしょうか。それとも最近の中高生はMSXくらい分からないとモテないのでしょうか。ぜひともそうあって欲しいものです。ともあれMSXが意味もなく出てくる「良い本」の特集です。

這いよれ!ニャル子さん (逢空万太・著、GA文庫)



フツーの少年・真尋の前にある日突然現れた美少女宇宙人・ニャルラトホテプ(通称・ニャル子)。
一人の少年を複数の女の子が取り合うのが基本のいわゆるラブコメものですが、「宇宙人は地球のオタク文化が大好き」という仕様のため会話はおろか地の文ですら随所にマニアックなネタを仕込みまくるという作風(芸風?)が印象的です。あまりに多数のネタがブチ込まれており、作者にしかその全貌は分からないのではなかろうか、と思うほどです。
私は仮面ライダーなどには弱いので「這いよれ!ニャル子さん 元ネタwiki 」に常々お世話になっております。
自分でも気がついたネタはwikiに反映しておりますが、どうも中高生の取りこぼした古いネタを落ち穂拾いしているような気になってくるのが難点です。

ちなみに設定のベースとなっているクトゥルー神話(MSX2で出ていた「ラプラスの魔」の元ネタでもある)について全く知らなくても問題ありません。さて、MSXは3巻に出てきます。

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(P.105)
「……少年、対戦しよう」
 クトゥグアはクトゥグアで、何事もなかったかのような相変わらずのマイペースさでコントローラーをこちらに差し出してくる。今さらMSXで何を対戦しようというのか。そもそも我が家にMSXのソフトは一人用のアクションしかなかったはずだが。
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文中の「クトゥグア」(通称・クー子)というのも女の子です。こちらの目標は同性のニャル子を籠絡することであり、真尋はすなわち恋敵となります。ところが3巻の頃には居心地のよさからニャル子ともども真尋の家にいついてしまい、さらにはゲームを一緒に遊ぼうとすらしてきます。なんだそりゃ。
真尋の母親がレトロハードを買い集めるのが趣味で、この3巻には3DOだのレーザーアクティブだのが無意味かつ大量に出てくるのですが、我らがMSXについては描写がいささか具体性に欠けます。この後クトゥグアは一人でゲームを遊んでいるのにタイトルも分からない!「ブラウン管から流れるアクションゲームのテーマ曲」って何ですか万太先生!音が出るのはスピーカーじゃないのか!(問題はそこじゃない)
母親がレーザーアクティブのフルセットを5万円で買ったことを嬉しそうに真尋に報告する場面に比べるとMSX愛が足りません。そもそも「今さらMSXで」とは何事ですか真尋さん!好感度がダダ下がりです!そんなんだからアニメ化されてもFlash止まりなんですョ!


それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ (庄司卓・著、朝日ノベルズ)



覚えていますかヤマモト・ヨーコ。こちらのほうがMSX世代にはストライクかもしれません。つっても私は読んでませんでしたが、友人が大変懐かしんでおりました。「女子高生が未来に呼ばれて戦艦に乗り込んで戦いまくる」という設定が豪快なSF作品でした。
元は1993年から富士見ファンタジア文庫で始まり絶大な人気を誇ったシリーズで、1999年にはTVアニメ化もされています。ただ2001年を最後に本編の刊行が止まってしまい、最終刊が未だに出ていないのです。無理に引き延ばしたシリーズ物にはありがちです。
紆余曲折の末に改めて「完全版」(パーフェクトエディション)と銘打って再び最初から刊行されています。2011年4月現在4巻まで出ていますが、この1巻にMSXが出てきます。
※完全版は富士見ファンタジア版2冊を1冊にしているので、富士見版だと2巻になります。

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(P.338)
「あたしはゲーム雑誌なんて『BEメガ』と『ゲーメスト』と『ベーマガ』しか買ってないもの!」
 我ながら渋い趣味だ。ついでに言うと『MSXファン』も買っている。
(※表記は原文ママ)
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これは主人公であるヨーコ(ゲームマニアでもある)のお言葉です。「完全版」は2010年に出ていますが、中身は基本的に1993年当時のまんまでした。全編が当時のゲームやアニメなどのネタで埋め尽くされているので、修正不可能と判断されたようです。この2行ですら現代的に直すことがとても不可能なのは、このページを読むようなそれなりのマニアにはお分かりでしょう。
『BEメガ』は「BEEP!メガドライブ」、『ベーマガ』は「マイコンBASICマガジン」ですね。前者は誌名を幾度となく変えて「ゲーマガ 」として今も健在ですが、あとは全て休刊。

MSX・FAN(正しい表記)をゲーム雑誌から除外しているのは好感が持てますね!ベーマガも違うと思うけどまあ許す。
ところがヨーコ本人はX68000ユーザーで、そちらの描写が妙に細かいのが目につきます。自宅のEXPERTにメモリを増設して2MBにしているとか(X68Kは当初1MBを内蔵していたものの、後期の市販ソフトは2MB必要なものが多かった)。
当時(1993年9月)はMSX・FAN本誌には付録ディスク(3.5インチフロッピー)がついて高額になっていた上、MSX市場から市販ソフトも絶滅していた時期です。なぜにこのゲームオタク女はわざわざ買っていたのでしょうか。全くもって理解に苦しみます。そんなんだから最終巻が出ないんですね。


なれる!SE (夏海公司・著、電撃文庫)



ブラック企業で身を削って働くSEの生態を描いた(らしい)作品です。
単行本も3巻まで出ており既になかなかの人気があるそうですが、すみません本編は読んでません
元SEとしては思い出したくないあの頃を思い出してしまいそうです。ライトノベルは中高生に夢を与えるのが役割ですから!いいんです別に!
その割には「休日出勤」だの「深夜残業」といった単語が飛び交っていますが、それでも読みたい人は読みましょう(投げやり)。

さてMSXは本編には登場しません(たぶん)。今回は週刊アスキー2011年3/22・29日号に掲載された「番外編・CASE4」がターゲットです。

問題の誌面。キングコングCF-2000と室見先輩の図。

見開き2ページに渡ってMSXの歴史的ポジションが語られています。一見女子中学生にしか見えない年齢不詳の先輩SE・室見立華がMSXのことを懐かしさと共に褒めちぎるというベタ展開には好感が持てるものの、どこかぎこちなさが感じられます。本来なら諸手を挙げて喜ぶべき描写なのですが、なんでしょうこの書かされてる感。あまりにも定番すぎる紋切り型の褒め言葉が並んでいて、作者はMSXに触ったことがないのに書いているのではないか、そんなもどかしさが感じられます。「アスキー・メディアワークスだからMSXについては書かざるを得ない」という政治的判断でもあったのでしょうか。以前のトランプからはハブったくせに。
実は作者が熱烈なMSXユーザーだったりしたら大変申し訳ないのですが、これでは我々の渇いた心は満たされません。まあ中高生向けの小説に向かって筋違いの客が口を出すのもアレなので、このへんにしときましょう。
ちなみに番外編・CASE1~3にはPC-9801、PC-6001、FM-7などが出てきました。


偽物語 (西尾維新・著、講談社BOX)

右が問題の「千石撫子」。「化物語」DVDパッケージより。

西尾維新と言えば近年のヒットメーカーとしてつとに有名ですが、読んだことがありませんでした。講談社BOXって高いし。
さてそんな折に「ヒロインの一人がMSXユーザーらしい」という不確かな噂を聞いて手を出してみました。どういうわけか西尾維新の本というのは売れてる割にネットに具体的な情報が少ないのです。
以前「らじかるエレメンツ 」(白鳥士郎・著、GA文庫)というシリーズにMSXが出ると聞いて全3巻を読んでみたらよりによって「SM調●師瞳」(※)の間違いだったことが判明してブチ切れかけたことがありました。この「物語」シリーズは1冊が高いので慎重に行きたかったのですが箱入りのせいで立ち読みができないという問題があり、仕方が無いのでお小遣いをはたいて最初から順番に読みました!累積投資額が5000円を超えた頃、ようやくシリーズ4冊目に当たる「偽物語(上) 」にその記述が見つかりました。
(※)スーパーファミコン用の非正規アダルトソフトで、開発過程でMSXを使用したらしいとは言われている。そんな事実は別に嬉しくない。

さてこの「偽物語(上 )」は、「化物語(上 )」「傷物語 」に続くシリーズ3作目となります。高校三年生の主人公「阿良々木 暦」が怪異と呼ばれる一種の化け物と出会ったヒロイン達を助けて回る、というのが大雑把な筋書きとなります。エピソード毎に登場人物が最小限に絞られており、章ごとに主人公とヒロインとほぼ一対一で話が進むのが特徴です。

問題のMSXユーザーは「化物語(下)」が初登場となる「千石 撫子(せんごく・なでこ)」という中学生で、他のヒロインとの関係性が薄い割に突然ブルマ一丁になるなどシリーズ中屈指の販売戦略色の強いキャラクターです。あざといながらも事実として読者人気も高いそうなのですが、年齢設定上「こんな妹っぽい女の子がMSXユーザーのわけがない」と言いたくもなります。しかし心を強く持って読み進め、発見した記述がこれです!

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(P.74)
「じゃあ、テレビゲームもあんまりやらないのか。今はテレビがなくてもポータブルな奴でできるけれど」
「うん。あんまりやらない……有名どころを、ちょっとだけやるくらい」
「そっか。で、たとえば有名どころって?」
「メタルギアとか」
「あーあー」
「MSX2で」
「ああっ!?」
MSX2ユーザー!?
そんな中学生いるのかよ?!
相変わらず意外性のある女子だ。
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いや、これは凄い。記述は正確なのですが、ツッコミどころが満載です。
ここに至るまでの経緯からして、どうやら千石さんは主人公の阿良々木君に対して淡い恋心を抱いているらしいことが読み取れます。しかしながら見ての通り阿良々木君はドン引きです。しかもMSX2とわざわざ補足する必要がない。さらにこの後千石家のリビングにMSX2が常備されているらしい記述があるのですが、どういう家庭環境なのでしょう。「そんな中学生いるのかよ」と突っ込んでますが、そこに突っ込める高校三年生というのも物凄く無理がありませんか西尾先生。

さらにMSX2版メタルギアと言えばカセットテープにしかセーブできないというシロモノなので、我々MSXマニアをもってしても実機でのプレイにはかなりの困難を伴います。現代を舞台とした小説のヒロインに遊ばせるゲームとしてMSX2とメタルギアを持ってくるのは意外性を超越して意味不明です。
「MSX2」とわざわざ2回書いているのも見逃せませんね。いや、別に「MSX」だけでいいと思うんですが。

ちなみに「化物語」はTVアニメ化されておりますが、この「偽物語」は後日談の位置づけなのでこのシーンは今のところ映像化されていないようです。しないほうがいいと思うけど。



さて、4作品について解説してみました。いかがだったでしょうか?
どうでもいい?まあそう言いなさんな。
前回 の記事と合わせると、ここに一つの傾向が浮かび上がります。

「ベン・トー」「這い寄れ!ニャル子さん」「それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ」「化物語」、全て本編中にMSXが出てきます
そしてこの4作ともアニメ化されている、というのは決して偶然ではないでしょう。ベン・トーはまだ放映されていませんが、既に公式サイト があります。
「パララバ」と「なれる!SE」はそれぞれインタビューと番外編なのでノーカウントとすると、アニメ化率100%
アニメ化といやあアナタ、ライトノベルとしては一つの上がりというやつですよ。週に何十本というアニメが放映されていますが、それであっても作品がアニメ化されるというのは一握りの作品群のみ…となれば、もうお分かりでしょう。

結論:MSXを出しておけばアニメになる

言ってるそばからウソくさいですね!でもまあダメ元で一つヨロシク!なに、出すと言っても本編に関わりなく一瞬出て消えるカメオ出演以下の扱いで十分なのです。もしもMSXを出したのにアニメ化の気配がない、というのであれば、さらにシリーズを続けることによっていつかはアニメ化されることでしょう。信じるものは救われる。あなたの周囲にライトノベル作家がいたら、忘れずにこの事実をお伝え下さい。

こう書いておけば今年の秋以降からお守り代わりにMSXが無意味に出るような小説が増えるに違いありません。我々MSXユーザーはいたいけな少年少女がMSXに少しでも興味を持つことを祈りつつ筆を置きたいと思います。