2005-04-28 23:27:40

『心中天網島』(1969)

テーマ:日本映画
東宝
心中天網島

 

 

 

DVDを予約していた篠田正浩監督の『心中天網島』(1969)をやっと観ることができました。

 
 その昔東宝や東和がマイナーな外国映画を配給するためにATG(アートシアターギルド)を設立しました。ゴダールの映画などロードショーでは見ることのできない数々の名作を日本に紹介した功績はかなり大きかったと思います。ビデオもDVDもない当時では映画館で上映されない限りその映画に接することはできませんでした。ATGで配給した映画にヒット作もありましたが、当時の映画館はほとんどが配給会社の直系で占められており、別系列の映画が上映される余地はほとんど残されていませんでした。ATGも東京、大阪、名古屋などに直系の映画館を持っていましたがとても地方までには手が届いていません。それでも歴史的に見れば短い期間だったでしょうが、ATGは日本の映画界に大きな影響を与えたと思います。

 そのころ、東宝、松竹などの大手映画制作会社の斜陽がはっきりしてきて、才能溢れる監督でも映画を制作する機会が少なくなってきました。ATGは1000万円の低予算ながら日本映画の制作に乗り出し、独立を望む若手、中堅監督や才能ある新人監督の多くの作品を発表しました。特に初期には松竹ヌーベルバーグの旗手たち、大島渚、吉田喜重、篠田正浩らがATGで多くの新作を発表しています。個人的にはその中の最高傑作のひとつが『心中天網島』と思っています。篠田正浩監督はそれほど好きな監督ではないのですが、この映画だけは特別に愛着を抱いています。でも、近くのレンタルビデオ屋さんにはこれがなく久しぶりに見たくても見られない寂しい思いを抱き続けていました。待ち焦がれていた名作の待望のDVD化です。
 
 『心中天網島』は低予算のため、モノクロで、セットは舞台の書割、少ない出演者と見るからに貧弱なのですが、篠田正浩監督の描き出した映像の美しさはモノクロ世界の極致、前衛的なまでに絞り込んだセットは日本の様式美の極限と言っても決して言い過ぎではありません。粟津潔の美術と武満徹の音楽で浄瑠璃の世界を見事に甦らせています。
 主演の岩下志麻は日本女性の美しさを妖艶さ、可憐さ、脆弱さ、手強さなどを織り交ぜながら様々な角度から見事に表現しています。その演技力の確かさにはきっと驚かされることでしょう。

  
 大作ではなくそっと心の隅に残しておきたい珠玉の名品、一粒の黒真珠のような輝きを放つ映画です。テレビの画面ではモノクロ画面の地味さゆえに映像美が半減してしまいます。できればこうした映画だからこそ大きなスクリーンで見たいと思うのですが、それは叶わないでしょう。
 DVDで『心中天網島』を鑑賞するときには可能な限りにその世界にどっぷりと浸れる環境を作って意を決して見てください。

 この文章はうろ覚えのまま書いたもので史実とは違います。悪しからず。

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2005-04-26 22:21:51

犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎

テーマ:SF小説
コニー・ウィリス, 大森 望
犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎

 

 

 その時の彼女はびしょ濡れだった。タイム・トラベルの時代差ぼけで一時的な惚れ症を患っていた主人公の僕は彼女を水の精ナイアスと思い込んでしまう。勘違いとわかっているのにどうしようもなくナイアスが美しく見えてしまう。だから、ナイアスの描写になるとその部分だけ誉め言葉の連続になる。ナイアスの立ち居振る舞いすべてがこの世の者とは思えないぐらいに優雅で美しい。実は、ナイアスことキンドル、ビクトリア朝時代ではヴェリティも物語半ばで主人公に対して同じ症状だったと朦朧とした意識で告白する。二人の絆はいよいよ強まり、クライマックスでは互いに全幅の信頼を置いて、手と手を取り合って窮地を脱するのであった。

 なのですが、二人の恋愛はこの小説の本筋ではありません。傍流でしかなく、この小説はSFでありミステリであり、決して単なる恋愛小説ではありません。殺人事件は起こらないのですが、謎が謎を呼び二人は迷宮へと誘い込まれます。歴史の一大事だからロマンスなど二の次なのです。二人が知らず知らずに招いた時間軸の乱れを修復することが何よりも急務です。悪くすればナチスが勝利を収め、僕の現在、2057年が180度変わってしまいます。すべては二人の活躍にかかっているのです。
 だから、二人で仲良く謎を解きます。本当に最後の最後まで羨ましいぐらいに仲の良い二人が大活躍します。

 鳥株とは何か?
 さんざん出てくるのにその正体は中盤になってやっと明かされます。それでも実物を見ないことにはいつまでも正体不明のままでしょう。

 令嬢の結婚相手のMr.Cとは?
 読み返すと、あらゆる所にヒントが隠されていました。それでもわからないことが円満解決に不可欠な絶対条件なのでした。

 ヴェリティが溺れている猫を偶然助けてしまったことから始まる物語は、冒頭ののんびりしたボートによる川下りから一転して、タイムトラベルものなので必然的に、時間と空間を飛び回りながら慌ただしく結末へと転がり込んでいきます。
 愛くるしいブルドッグは残念ながら何もしゃべりません。

 偶然と思っていたことのすべてが偶然ではなく、たとえ5分のずれでも歴史的必然であったことがラストで証されます。長大な物語はすべて丹念に織り込まれたタペストリーでした。何枚ものタペストリーが重ね合わされているのに、すべてが一本の糸でそれこそ時空を超えて繋がっていたのです。その構成の見事さはまさに脱帽です。そこまで作者の罠にはまっていたとは読み終えるまで気が付きませんでした。

 タイムトラベルものはどうしても物語に無理が生じ、矛盾やパラドックスだらけで、叩けば叩くほど埃が出てきます。最近のハリウッド映画のタイムトラベルものはほころびを繕いもしないで平然としています。物語を突っ込んで語るのはタブーであり、映画を楽しむためには見て見ない振りをしなければいけません。片目を薄く開けていてもいけません。ださくない人は映像を話題にしても良いですが、物語を語ってはいけません。イケメンか美人女優を観賞するにとどめましょう。
 しかし、この小説はそんな齟齬を物語の枠組みにしっかり組み込んでいます。のんびりと川下りをしている風を装いながら、作者はストーリー展開に穴があったら教えてくれと逆に問いかけてきます。マルクスが亡くなって5年後の世界を舞台に唯物史観とそれまでの歴史学との論議を描きながら、人為的な歴史上のターニングポイントを随所に置いて歴史のイフを弄びます。タイムトラベルものが陥る自己矛盾もパラドックスもなんのその、すべてはカオスだからと素っ気ない顔をして、ちゃんとあらゆるものを巻き込んで消失点に向けて収束していきます。

 しかも、更にその裏があったとは・・。

二人は二人でひとつの駒だったとは・・。

 去年の暮れからずっと読んでいます。最初は一気呵成に読破したのですが、それから何度も読み直しています。次に読みたい本をすでに何冊か買い込んであるのですが、まだ他の本に移ることができません。読み終わってもまた読み始めたくなります。ヴィクトリア朝時代にどっぷりと浸かっていてその世界を忘れることがまだ出来ません。題名の元になった『ボートの三人男』は読みましたが、他の本を読んでも今の状況ではとても違う世界に入り込めそうにありません。海の底深くにダイビングしていますので当分は地上に戻れないと思います。
 本の装丁が崩れかけていますが、気に入ったひとつのおもちゃをボロボロになってもいつまでも手から離さない幼子のように、この小説の呪縛から解き放たれるその日までこの小説を読み続けたいと思っています。

コニー・ウィリス著、 大森 望訳 早川書房刊

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2005-04-12 14:17:02

25時

テーマ:映画・ドラマ
角川エンタテインメント
25時

 

 

原題    25th Hour
制作    USA
公開年   2002年
邦題    25時
ジャンル  Crime / Drama

監督     Spike Lee
原作・脚本 David Benioff

配役             役名        役柄
Edward Norton       Monty Brogan  ヤクの売人
Philip Seymour Hoffman  Jacob Elinsky  高校教師・Montyの親友
Barry Pepper        Frank Slaughtery 株のディーラー・Montyの親友
Rosario Dawson      Naturelle Riviera  Montyの恋人
Brian Cox          James Brogan   バーの経営者・Montyの父親
Anna Paquin        Mary D'Annunzio 高校生・Jacobの教え子
Tony Siragusa       Kostya Novotny  Montyの相棒
Levani Outchaneichvili  Uncle Nikolai    Montyのボス

 

あらすじ

 
Montyは頼まれているうちに本物の売人になっていた。ある日ガサ入れがあり隠しておいたヤクが見つかる。
Montyは明朝7年間服役するために刑務所へ自ら出頭しなければならない。拒否すれば、一生逃げ回ることになり保釈金の担保にした父の店は没収される。
Montyは二人の親友や恋人、仕事の仲間と別れの儀式とも言える貴重な一夜を過ごす。
そして、父親に送られて刑務所に向かう。もし、このまま西に逃げるとひょっとすると別の人生が待っているかも知れない。

 
評価   5

 

感想

 

デイヴィッド ベニオフ, David Benioff, 田口 俊樹
25時

   

原作を読んでとても気に入った作品です。サスペンスでもアクションでもミステリでもないのにそのすべての要素をあわせ持っているような不思議な小説でした。

 
映画化されるとあとがきにあり心待ちにしていました。

 

  

刑務所へ行く前夜、始末を次々とつけていくたびに心は重くなります。主人公の気持ちを反映して物語も暗くなります。そして、もう夢を語ることさえ出来ない地獄へ行く一歩手前で、主人公は最後の夢見る瞬間に別の人生を生きます。文庫本で数ページもないその瞬間は今までと一転してさりげなく華やかで健康的で家庭的です。スリルもサスペンスもない変わりに平穏で充実した人生を過ごします。

 

人生なんて夢うつつ。人生は朝露の如しと故事に言うそうです。夢で見ている人生と現実と思い込んでいる人生はひょっとしたら逆かも知れない。少なくとも夢の中でもう一つの人生を送ることは出来るかも知れない。夢の中だけで生きるもうひとりの自分を生きられるかも知れない。
 

確かにそうした現実と夢世界を融合させてしまったSFは小説にも映画にも数多くあります。しかし、この小説は夢が主役ではありません。夢が語られるのはラスト間近の一瞬だけです。夢は語られるや昇華していきます。 

その瞬間のために緊張が高められてきていますが、決してその夢を描くためにこの物語があるわけではありません。でも、その夢が語られているから、この小説が成り立っています。自己嫌悪の泥沼から夢の世界に解き放たれた瞬間に読者は不思議な癒しを得ることが出来ます。

でも、繰り返しますが、夢がテーマではありません。人生、友情、恋愛そのすべてが語られています。 

 

思い入れが深いだけに映画化が怖い作品でした。ズタズタに引き裂かれて原作の見る影もなかったり、設定だけを引き継いで原作とは無関係だったり、消化不良で原作を描ききれなかったりして、好きな原作がボロボロにされて今までに何度怒り狂ったことやら。

 

しかし、この映画は原作者が脚本を書いています。楽しみは倍加しました。期待は膨らみました。

映画館で観て、DVDも購入しました。映画はほぼイメージ通りの出来で満足させてくれました。期待は裏切られていません。ただ、もう少し夢が成就できたかのように描かれても良かったのにとも思いました。


DVDには原作者のコンタリーも収録されていました。ファンには何よりのプレゼントです。これほど原作者の考えを逐一知る機会は他にないでしょう。納得したり驚いたり、少しガッカリしたり・・・。

ちなみに、David BenioffWolfgang Petersen 監督、 Brad Pitt 主演の Troy (2004) の脚本を書いています。疑問符の付く脚色でしたが、今後は小説家としてよりも脚本家として活躍されるらしいです。

 

監督のSpike Leeは好きではありません。特に苦悩の演技をしている俳優を台車に乗せて人混みを走らせるのは不自然で違和感を感じます。監督の好きなショットですが、そんなことをしなくても感情を心の奥底から表現できる素晴らしい俳優を揃えているのだから十分に描ききれるはずです。むしろ演出過剰。普段よりは抑え気味でしたが、もっと抑えて欲しかった。

映画では「グラウンド・ゼロ~9・11跡地風景」もニューヨークを語る上での重要な要素として描かれています。

 

主人公の相棒役として出演しているTony Siragusaは、Sports Illustrated誌の表紙を飾ったことのある有名な元NFLプレーヤーです。2001年(2000年シーズン)のスーパーボウルで優勝したBaltimore RavensのDT(Defensive Tackle・ディフェンシブタックル)として巨体に似合わない俊敏なタックルで相手の攻撃を止めていました。アメリカでは全国的に幅広く人気のある選手で、現役引退後NFLの試合のレポーターとしても活躍しています。

 

最後に、一番腹が立ったのはDVDのキャッチコピーでした。

 
投獄までの最後の一日。
 残された選択肢は3つ
 1. 服役 2. 逃亡
    そして・・・3.自殺

 
とありますが、最後の自殺は全くの嘘です。小説にも映画にもそれをほのめかすような語句は出てきません。これでは原作のテーマを否定してしまいます。
日本的な売り込み文句なのでしょうが、ねじ曲げてまでも変な感傷に訴えるような真似はして欲しくありませんでした。

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2005-04-11 22:06:46

CODE46

テーマ:映画・SF
ハピネット・ピクチャーズ
CODE46

 

 

原題    Code 46
制作    UK
公開年   2003年
邦題    CODE46
ジャンル Romance / Sci-Fi

監督    Michael Winterbottom
配役           役名          役柄
Tim Robbins        William       Sphinx社の調査官
Samantha Morton    Maria Gonzales  上海のSphinx社の従業員
Jeanne Balibar      Sylvie        Williamの妻
Taro Sherabayani     Jim         Williamの子供
Om Puri          Bahkland      上海Sphinx社のの管理者
Bruno Lastra       Bikku        Mariaの同僚
David Fahm        Damian Alekan  コウモリ学者
Levani Outchaneichvili  Uncle Nikolai   Montyのボス

評価  3


感想

管理社会に対するひとつの批判としても受け取れるのですが、近親相姦に関する問題が最後まで曖昧なままでした。素直にこの映画を観れば、近親相姦を肯定しているようにも見えます。


あらすじ

法規(code) 46
第1条
同じ核遺伝子を持つ者は遺伝学的に同一でありすべて血縁と見なす。
体外受精、人工授精、クローン技術に際して同じ遺伝子間の生殖はいかなる場合も避けること。
従って、
1:子作りの前に遺伝子検査を義務づける。遺伝子が100%、50%、25%同一の場合受胎は許されない。
2:計画外の妊娠は胎児を検査すること。100%、50%、25%同一の両親の場合は即中絶せねばならない。
3:両親が遺伝子の同一性を知らない場合、code46違反を避けるべく医療介入する。
4:同一性を知りながらの妊娠はcode46に違反する重大な犯罪行為である。

Sphinx社の調査官のWilliamには他人の考えを読む特殊能力があった。
Williamは偽造滞在許可証(パペル)の調査でシアトルから上海のSphinx社に行く。
尋問してすぐに犯人はMariaだとわかるが、WilliamはBahklandにBukkiuが犯人と報告する。

Williamは会社帰りのMariaを尾行する。ナイトクラブでMariaはコウモリ学者でインドのコウモリを一度は見たがっているDamianに違法パペルを渡す。同席していたWilliamは見逃す。
Mariaの部屋でふたりは愛し合う。Williamは家に帰る。


Damianがインドで死亡。インド地方の感染症に弱い体質だった。パペルの発行が止められていたのに何も知らないDamianはMariaの偽造パペルでインドに渡航していた。
Williamは再調査のために再び上海に派遣される。

Mariaは身体的な理由で市外の病院に入院していた。
医者から機密事項を聞き出す。Mariaは妊娠していた。code64違反で隔離されていた。
Mariaは中絶させられ妊娠に関する(相手の男・性行為・妊娠)の記憶を消去されていた。Williamを覚えていない。

WilliamはMariaを強制退院させ、記憶を思い出させようとする。Mariaは漠然とした喪失感で不安になる。
WilliamはMariaとの遺伝子同一性を調べる。50%の同一性で母が同じ。Williamは人工授精の子で、母親は24体のクローン胎児のひとりだった。
ショックを受けたWilliamは上海から逃げ出そうとする。しかし、滞在が長引いていたWilliamのパペルは期限切れで出国することも滞在することも出来なかった。
WilliamはMariaのもとに戻る。

Mariaが手に入れた違法パペルで二人はMariaの父の出身地Jebel Aliに行く。
MariaはWilliamとのセックスを避けるように洗脳されていた。Mariaの欲求が勝る。激しく燃える。
翌朝Mariaは無意識で自分の罪を密告した。

WilliamはMariaと逃げ出す。らくだの群れを避けようとして道路から飛び出し、車は横転する。

WilliamはMariaの記憶を抹消されて家族の元に戻る。判断ミスの原因として特殊能力を失う。
Mariaは街の外に追放された。記憶を残したまま。

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