2016年1月4日(月曜日) | 元木昌彦の「編集者の学校」

元木昌彦の「編集者の学校」

「FRIDAY」「週刊現代」「オーマイニュース」など数々の編集長を歴任
政治家から芸能人まで、その人脈の広さ深さは、元木昌彦ならでは
そんなベテラン編集者の日常を描きながら、次代のメディアのありようを問いただす

 書こうと思っている本のタイトルを考えている。世界の名文句引用事典を引っ張り出してきて、いくつか書き出してみた。
思い出の重荷 サマーセット モーム 英国の作家
なまけ者
人生遊戯 トルストイ 人生は遊戯ではない
醜い書物 この世は一冊の美しい書物である イタリアの作家 ゴルドニー
荒地を渡る風 イギリスの言語学者 ボロー
生をぬすむ 楚辞 無駄に生きながらえる
悪くもない人生 モーパッサン
落丁の多い人生 人生は落丁の多い書物に似ている。一部を成すとは称しがたい。しかし、とにかく一部をなしている。 芥川龍之介
 この中では「なまけ者」というのが私の人生を言い表すにはピッタリする。
 本当になまけ者である。何かやらなければならないことがあれば仕方なくやるが、それが終われば日がな一日寝ていることもできるし、映画を五本も六本も見続けることもできる。
 読まなくてはいけない本は読むが、五、六年前から活字を読むのが億劫になってきた。
 まして自分の人生を振り返って書き残しておこうなどと考えたことはあったが、手を付けるとなるとやはり面倒臭が先に立ち、YouTubeで音楽を聞いたり、アマゾンで映画を見て時間を過ごす「怠惰」なほうへ流され一日を終える。あとは夕飯を食いながら酒を飲む日々である。
 古希を過ぎて人生の短さについて考えないわけではないが、死に対する恐怖はあるがまだ少し遠い先の話だと自分をごまかし、一日一生などと机の前に張ってみても、だからどうなるわけでもなかった。
 だが、親しい人たちがまるで強風になぎ倒されるようバタバタと病に侵されるのを見ると、明日は我が身だと、いくら怠け者の私でも思わざるを得ない。
 自分が生きてきた人生など語るほどのものなどないもない。またそんなものを読んでくれる人などいるはずはないことも知っているつもりである。
 波乱万丈でもなければ順風満帆でもなかった一会社人間のあくびの出るような人生でも、自分にとってはやり直すことのできないかけがえのないものであったことは間違いない。
 一人も読者がいなくても書いておこうと、怠け者の私が珍しく決めた。今年の抱負。毎日四百字詰め原稿用紙一枚ずつでも書いていこうと思う。