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Sun, May 08, 2011

『ザ・デイ・アフター』:『スレッズ』には及ばぬものの、ソフトに核の惨状を見せる

テーマ:映画
$灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし
ザ・デイ・アフター [DVD]

83年に制作放映されたアメリカのテレビ映画。翌年、どれだけグロ耐性があろうとトラウマ必至の核戦争ものの最高傑作『スレッズ』が制作され、時代はリアルに核を戦慄していたといえる。

ちなみにこの80年代初頭はわたしにとって現在の起点であり、連続した過去としてぎりぎり存在しうる地点で、エイズが発見され、『笑っていいとも』が放映開始、宮崎駿の終末への畏れは『風の谷のナウシカ』として結実し、中沢新一は『ゼビウス』に何やら「大きな物語」が隠されているのではないかというプレイヤーの心理を忖度していたのは笑い話にしても、何かと郷愁と想像力で理解の範疇におさまる時代である。──どうでもいいのだが、ドゥルーズの『シネマ』が、こういう時代に上梓された一編であることは覚えておいていいかもしれない。

さて、世はニューヨークや西ドイツで100万人、200万人と桁外れの反核デモが唸りをあげていて、いわゆる相互確証破壊から逃れようというレーガン大統領のSDI構想への反発もあったと思うのだが、よくいわれるように少なくとも現在とは比較にならないほど、核戦争への危機感と予感に満ちていた。

そのさなかでの核戦争映画なのだから、盛り上がらないはずがない。実際テレビで放映されかなりの視聴率をあげているのだが、スタッフロール前のテロップで流れるとおり、全体的に相当控えめな描写である。

身体的な損傷もそうだし、汚染状況の改善がやたらにスムーズなことなど、いくらなんでもソフトに過ぎる。これでは核が落ちても、地下にこもっていればどうにかなるとか錯覚する人間が出てきてもおかしくないレベルである。

とはいえ、このあたりの甘さを差し引いても十分に嫌なテンションのあがる一編ではある。特にソ連から核ミサイルが発射され30分で着弾するという破滅的状況のさなかでの日常の残余を描いたのは評価に価するし、青空をミニットマンが続々とソ連に向けて飛び立ってゆくシーンのシュールさは、核と青空という定型的な結びつきにも関わらずやはり戦慄すべき風景である。見て損はない。

とりあえず核戦争ものの入門編といった位置を出ないとは思うが、どうしても『スレッズ』が見れないというひとは、本作でも十分に用は足りると思う。

★★★★☆

なお核についての動画を集めた「忘却からの帰還 Atomic Age」は必見である。彼の調査及び編集力は賞賛に値する。

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Sat, May 07, 2011

「上海座談会」より(『キネマ旬報』昭和13年1月21日号)

テーマ:映画
灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし
上海 支那事変後方記録 [DVD]

亀井文夫監督『上海』
出席者:三木茂、北川冬彦、清水千代松、飯田心美、松井翠声、滋野辰彦、友田純一郎

未見なのでなんともいえないが、日中戦争さなかの上海を作りなしでそのまま捉え、検閲の目をかいくぐり見事に奴隷の言葉で反戦を語ったといわれる一編。

その『上海』についての座談会が当時『キネ旬』で行われたというのだが、この中身が興味深い。まことに申し訳ないのだが、以下は平岡正明『日本人は中国で何をしたか』(潮文庫)からの重引。

ちなみにこの平岡の書籍自体は、戦後出版された証言や回想をメインにいわゆる残虐行為を挙げてゆくのだが、いまひとつ説得力にかける。そういったことがあったのは間違いないと思っているが、内容や規模の相違が宣伝戦に紛れて混沌としており、やはり日中戦争に関してはプロの仕事と一次資料を粘り強く読まねばだめだと思った次第。

まずこのフィルムには一箇所だけ「拵え」があるという。


松井「権益擁護の所で、ドイツの旗を出して居る家がない。それで面倒くさいから拵えちやえというので拵えちやつたんです。それを除けば、あとは全然その儘です


つまり、何が写っていようとあとは事実なんだと。その事実から何を見出すかは観客のまなざしによるわけだろう。また驚愕したのが、中国人についての同じく松井の発言。


松井「支那兵の死骸は苦痛をあらはしてゐない。虚空を掴んで居るといふのはない。尤も支那人は生きてゐる奴でも死骸みたいな顔をして居る。死んでも生きても同じなんだ。粟だの稗だの食つて居るから死骸のやうな色をしてゐる。だから歩いて居るのとゐないので区別がつくやうなものです


これを受けて平岡が、日中戦争下における便衣隊への恐怖の先駆的心理を読み取っているのはさすがというべきだろう。いうなれば便衣隊はゾンビであり、どこから現れるかわからないジェイソンなのである。

そしてこの映画には死体がひとつも写されず風景の映画なんだという指摘も、戦争中の戦記映画を見たものならば首肯しうるはずだ。アメリカあたりの戦意高揚映画とは異なり、戦争の姿を借りた修行僧のドキュメンタリーとでもいうべきものが、日本のそれである。一向に心が踊らない。

そもそも日本人にとって戦争は、悲壮感漂う所業であり苦行である。戦争とはそんなものだというのは確かなのだが、日本人における戦争と、諸外国の戦争とはその性格、受け取られ方は異なるのではないだろうか。特に突っ込んで調べたこともないのだが、ぼんやりと映画を見ていると、あながち間違いでもないような気がする。


平岡正明『日本人は中国で何をしたか』(潮文庫)
★★★☆☆

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Sat, January 22, 2011

『仁義なき戦い 広島死闘篇』千葉真一、北大路欣也、笠原和夫、原爆スラム

テーマ:映画
$灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし
仁義なき戦い 広島死闘篇

今は昔、テレビか何かでひととおり目にしたため、このシリーズはもう押さえたとたかをくくっていたのだが、いざ再見し、その素晴らしさに己の不明を恥じるばかり。

特にこの『広島死闘篇』は、菅原文太が脇役であることから外伝的な位置にある作品なのだが、主役である千葉真一と北大路欣也の演技は驚異のひとこと。

千葉はもちろんサニー千葉作品やのちの東映作品など出演作はごまんとあるのだが、どう見てもこの『仁義なき戦い 広島死闘篇』こそが彼の代表作である(ちなみに千葉主演作品のほとんどは脚本がゴミに近い)。

敗戦による既成価値の崩壊と右往左往する惨めな年長日本人の姿に侮蔑を隠せない「遅れてきた青年」であるアプレゲールの無軌道さが、千葉のドスをきかせた甲高い声というアンバランスさで、より狂気を帯びて感じられる。

ひとたび拳銃が手から離れると「ハジキ、ハジキはどこだ」と恐慌状態に陥る千葉の姿を見て臆病者と笑うかもしれないが、そこには頼るものを銃という物理的な力にしか見いだせぬ、即物的かつ非観念的なアプレの態度が絶妙に表現されているのである。

北大路はひたすらに親に踊らされる極道を演じ逸品としかいいようがない。殺人に次ぐ殺人での逃亡生活に倦み、追い詰められた空き家で自決するまでの数分間は、千葉真一が慰みに射撃した際に不自然に跳ね上がる、吊るされた死体の描写とともに、本シリーズでも出色といえる。

よくいわれるように「仁義」シリーズは事実を脚色したセミドキュメンタリー的な作品ではあるが、北大路演じる山中正治のモデルとなった山上光治が部落出身のため、人間関係に摩擦があったことは本作では描かれていない。おそらく何かしらの配慮が働いたのだと思うが、そのかわりといっては何だが、タブーにも近い「原爆スラム」がちらほらと登場するのは、笠原和夫の意地だと勝手に思っている。

シリーズ全体は娯楽性の強いエンターテイメントだが、優れた脚本を背景に、千葉や北大路が存分に暴れた本作は、色々と戦後を考える術となる傑作である。

どうでもよいが、渡辺政之輔あたりの昭和初頭の共産党をシナリオに起こしているのだがから、笠原にはぜひとも田中清玄の「武装共産党」をやって欲しかった。


キャスト(役名)
菅原文太 (広能昌三)
前田吟 (島田幸一)
松本泰郎 (岩見益夫)
司裕介 (弓野修)
金子信雄 (山守義雄)
木村俊恵 (山守利香)
名和宏 (村岡常夫)
成田三樹夫 (松永弘)
北大路欣也 (山中正治)
山城新伍 (江田省三)
宇崎尚韶 (野中雄二郎)
笹木俊志 (友田孝)
木谷邦臣 (下条章一)
小池朝雄 (高梨国松)
堀正夫 (景浦長次郎)
遠藤辰雄 (時森勘市)
国一太郎 (浜田隆吉)
川谷拓三 (岩下光男)
藤沢徹夫 (片倉克己)
白川浩二郎 (助藤信之)
JJサニー千葉 (大友勝利)
大木晤郎 (須賀政男)
室田日出男 (中原敬助)
八名信夫 (浅野卓也)
志賀勝 (寺田啓一)
広瀬義宣 (神谷英司)
北川俊夫 (三上善輝)
加藤嘉 (大友長次)
中村錦司 (倉光俊男)
梶芽衣子 (上原靖子)
小松方正 (南良坂誠)
北村英三 (石田栄輔)
宮城幸生 (佐野刑事)
松平純子 (ホステス)
汐路章 (修験者)

スタッフ
監督 深作欣二
企画 日下部五朗
脚本 笠原和夫
原作 飯干晃一
撮影 吉田貞次
美術 吉村晟
照明 中山治雄
音楽 津島利章
録音 溝口正義
編集 宮本信太郎
助監督 清水彰
スチール 中山健司
★★★★☆
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