Sun, September 07, 2014

松本昭夫『精神病棟の二十年―付・分裂病の治癒史』 (新潮文庫)

テーマ:人文・社会科学

松本明夫
精神病棟の二十年―付・分裂病の治癒史 (新潮文庫)

アマチュア詩人である作者が、40代半ばにして統合失調症である自身の病歴を振り返る回想録。

作者は独善的で自己愛が強く、とても好感がもてそうにない人物であることが行間からヒシヒシと伝わってくる。

統合失調症の内面を描いたものとしても、フロイトやヤスパースなどたまたま知った知識をこねくりまわすだけで、何ら伝わってくるものがない。

このことについて、病気が作用しているのかもしれないと書いているweb書評があったが、これは統合失調症というよりも、作者の性格の偏りがもたらしたものだと思われる。

もちろん断言はできないが、統合失調症がこのようなものだと理解されるのは危険極まりない。その点で、本書は統合失調症について参照すべきものとはとてもいえないのだ。

ただし昭和30年代から40年代にかけての精神病患者をめぐる状況について、患者の側から書いた書籍は極めて珍しい。

たとえば、インシュリンショック療法、ロボトミーなど、現在ではありえないことが行われていた精神病棟の姿は実に興味深い。

ただししきりに作者がその恐怖を描写する電気けいれん療法については、現在では再評価と発達が進み、有効な治療の一つとして認められつつあるので、誤解しないように留意したい。

全体的にみて、鼻持ちならない似非インテリの独演会に付き合わされたという感が否めない。それでもさすがに詩人だけあり、読みやすいことは確かだ。

日本における精神病治療史に興味があるひとならば、有用であるといえる。

★★☆☆☆
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Sun, June 08, 2014

渡部雄吉写真集 「張り込み日記」:事件を追う刑事の姿を捉えた写真群がノワールと化す奇跡

テーマ:実用・その他

渡部雄吉写真集 「張り込み日記」 Stakeout Diary


昭和33年に発生した大西克己連続身代わり殺人事件を追う刑事に密着し、張り込み、追跡、会議から休日の姿までを撮りつくした一冊。

週刊誌の記事のための撮影だったようだが、信じがたいほど警察内部に入り込んでいるのは、写真家渡部の人柄と力量のなせるわざなのだろう。何しろ容疑者の取り調べまで写真として残っているのだ。

本書で素晴らしいのは、都市や捜査の実相を撮影した点もさることながら刑事の眼差しを鋭くとらえたところで、場面により変容するその目に思わず引きこまれてしまう。

ここに収められた写真をじっくりと見ておき、すぐさま松本清張初期水上勉の作品を読み出せば、いままでとは一変したイメージが浮かび上がるのは間違いない。

フィルム・ノワールの雰囲気や、昭和30年代のミステリ愛好家にはもちろんお勧めだし、東京五輪前の都市の風貌に興味があるひとにもよいはずだ。

昨年、限定900部で国内発売され即完売したものが、先日限定1000部で第二版として復刻。第二版もすぐになくなることが予想される。

購入は、渡部雄吉写真集 「張り込み日記」 Stakeout Diaryか、roshin booksから。

なお、初版と第二版では表紙が異なり、どう見ても前者のほうが格好いいのが悔しい。

★★★★★
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Sun, March 30, 2014

『レインわが半生―精神医学への道』(岩波現代文庫)

テーマ:人文・社会科学

R・D・レイン
レインわが半生―精神医学への道 (岩波現代文庫―学術)

精神医学者・精神科医として結局何をしたひとなのかというと、いまひとつその実態がつかめないレインだが、D・クーパーとともに反精神医学の旗手であり、統合失調症を自己実現の一過程としてとらえるなど、精神医学への新しいアプローチを試みたとは間違いなくいえる。

そのような思想へといたるまでのレインの半生が、本書には綴られている。

スコットランドで生まれ育ち、英才教育による音楽漬けの幼少時代を送ったレインが医学を志すのは、なぜ人類はこうも不幸なのかなぜ私たちはこのように苦しんでいるのかという疑問にこたえるためであった。

人間の不幸の原因は人間自身のうちにある。ならば、ひとを動かす精神を探求すればよいと考えるのは自然なことだろう。そして若かりしレインは、そのためには科学的な人になることが必要だと考えていたのである。

したがって意外ではあるが、ある時点までレインは常識的な西欧人として「科学」や「理性」といったものを信頼していたといってよい。

ところが、「科学」に基礎づけられた精神医学を修めたレインが行き当たるのは、同志的つながり、連帯、交友、親交が殆ど不可能か全く不可能となっている私たちの社会の社会=経済=政治的な構造の一境界面としての精神医療の世界であった。

この人間の同志的結合が失われたことに焦眉の課題を見出したレインが、反精神医学へと歩み出すのは当然といえる。レインは、精神医療の制度とともに、医師と患者の「同志的つながり、連帯、交友、親交」を問わねばならないと考えたのである。

つまり彼は、精神医療の政治学から人間学を考えたと言ってよい。それはレイン自身のことばでいえば、基本的な人間の絆そのものの政治学愛の政治学である。

精神医学は科学として洗練され発達したかもしれないが、これからは「絆」を問わねばならない。その「絆」は、「私」であること、「あなた」であることがそのまま許されるような関係から生まれてくる。

患者と医者ではなく、「あなたと私」として向き合わねばならないのだ。

この課題がどこまで果たされたかは、本書では明らかになっていない。精神病者と医者が規則も治療もなく、ただ共存するというキングスリー・ホールの実験的な試みについても何も書かれていない。

その意味で歯がゆさを感じる一編であるともいえるのだが、ひとりの若者がなぜ精神医学を目指し、なぜ科学へ不信を抱き、なぜ「愛の政治学」へと思いを馳せたのかと意識しながら読むことで得るものは多い。

もちろん、レインのいう「愛の政治学」とは、精神医療の世界だけの話ではない。ひとが生きるとき、つねに考えねばならないものなのである。

★★★★☆
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