唐突ですが、学生時代のこと、隣の研究室に、ラジークさん(仮名)という、まじめな留学生の方がおられました。

 ラジークさんは、バングラデシュから、日本の土木技術を学ぶために、やってきました。
 
 日本とデザインのそっくりな国旗を持つ国、バングラデシュは、”ベンガル人の国”という意味で、国土のほとんどが、ガンジス川河口周辺のデルタ地帯となっています。


 繰り返される洪水によって肥沃な耕作可能地が広がる反面、近年の海面上昇もあって、水害のコントロールが欠かせません。そこで、ラジークさんのようなエリートを、災害大国である日本に送り込んできているというわけです。

 実際に彼は、「学んだ技術を持ち帰って、国を良くするのだ!」と、向学心に燃えていました。


 ある時、イスラエルから、高名な教授がやってきました。

 彼を囲んでディスカッションをしているとき、ラジークさんは、ずっと腕組みをして、真剣に話に聞き入っていました。

 (僕は英語がほとんど理解できないので、そんなラジークさんの様子と、それを指差している上級の大学院生たちが、気になっていました。)


 話が終わったあと、大学院生たちがラジークさんを取り囲んで、「おまえ、態度がデカイんだよ!」と、責めたてはじめていました。

 でも、ラジークさんは、一生懸命こう言っていたのです。たどたどしい日本語で。


 「母国では、目上の人の話を聞くときや、改まった態度を示すとき、叱られるときなどは、腕組みをするのが礼儀なんですヨネ。」


 ところが、大学院生たちは、それを無視して被せるように、こういいました。

 「郷に入れば郷に従えっていうんだよ!」

 「そーだそーだ!」


 そのとき、僕は少し離れた位置にいましたが、恥ずかしくて、、、まさに、穴があったら入りたい!気持ちでした。
 顔から火が出るかと思いました。

 (まずは相手の話に理解を示せ! それに、そんなことわざ持ち出しても、わかるわけないじゃん!)


 囲みが解かれた後で、僕はラジークさんに話しかけました。

 「気にしなくてもいいですよ、あなたは悪くない。作法もわかりました。しかし、彼らにはそれが理解出来ないし、理解しようという態度も無いので、無難に合わせておく方が楽ではありませんか。」

 ラジークさんは頷いたあと、母国の作法について、いろいろと教えてくれ、僕はそれを興味深く、きいたのでした。とても親しみやすい人柄でした。



 でも、彼の朴訥で頑固、生真面目な性格のせいで、日本人学生の一部とは、その後もずっと上手くいっていなかったようです。

 遠くからはるばる来日したエリートさんに、こんな子供みたいな地元の学生が度重なる失礼を働いて、まったく申し訳なかった!という感じ・・・。


 こういった無礼な学生の多くが、大手ゼネコンに就職しました。現場で下請けさんに嫌な思いをさせているんじゃないのかなー、という気がして、残念です。


 あれから20年も経ったので、ラジークさんはきっと、お国で偉くなって、立派な仕事をされているんじゃないかなー、と想像しています。

 もっと友達になっておけば、よかったなー。惜しいことをしました。


 ・・・国際人って、何なんでしょうね。