雨は止まない
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K氏と僕は並んで一点を見つめていた。
制服着用者以外の立入りを禁ず―――
視線の先には、看板と行く手を阻む柵。
雨が降っていた。
「いくか」
K氏は簡単にそう告げると、震える指で詰襟のホックを閉めた。
彼もまた緊張しているのだ。
「本当にこれでいいんでしょうか?」
彼が一歩を踏み出したと同時に、言葉が口を突いた。
「お前は社会人だ。それで大丈夫だろう」
彼は、また詰襟を正した。
それにつられて、僕もネクタイを締め直す。
「いや、そうではなく―――この先に僕らは行っていいんでしょうか?」
雨は止まない。
2.
制服を着れば女性は5割増しで美しく見える―――
己の美学としてK氏はよく語った。
僕は、その”美学”を聞きながら、半ば同意し、半ばあきれていた。
美学というよりはフェチズムだ。
各人にそれぞれのフェチズムが存在する。
それを僕が否定することはできない。
それどころかK氏のような偏狭なフェチズムは通常意識下にないだけで、
誰しも持ちうるものと僕は考えている。
いや、フェチズムという言葉はいささか曖昧に過ぎるかもしれない。
それは、たしかに美学とも言えるが、ある面において、コンプレックスともとれる。
K氏の場合、そのどちらともとれた。
この点において、純粋な”フェチズム”であったのかもしれない。
まあ、そんなことはどうでもいいのだ。
とりあえず、僕は大学の先輩である彼の”美学”に
逆らうことはできなかったのである。
3.
K氏が、僕に話を持ちかけてきたのは、初夏の麗しい日であった。
僕は大学を卒業し社会人になっていた。
真夏日のスーツで汗だくの僕に
留年して、まだ学生であったK氏は1枚の写真を見せた。
制服着用者以外の立入りを禁ず―――
写真の看板にはこう書かれていた。
「この先に何があるかわかるか?」
K氏は目を輝かせていた。
「この先にはな、制服を着る者のみが入国を認められる
制服の、制服による、制服好きのためのパラダイスがあるんだよ!」
彼の勢いは止まらなかった。
後日、それぞれの制服を着て現地に向かうことになった。
学生であるK氏は学ランで、社会人の僕はスーツを着ていくことになった。
4.
雨は止まない。
まだ、看板の前にいる。
僕は一歩が踏めなかった。
K氏は明らかに苛立っている。
「来たくなけりゃ来るな!やっぱりおまえは口だけの人間か!」
とうとう彼の糸が切れた。
彼は柵をまたいだ。僕は
「尾崎豊が・・・尾崎豊が死んだとき泣いたっていってたじゃないですか!
僕らは・・・僕らが尾崎豊を歌い、SexPistolsに憧れていたとき
制服は大人たちが決めた奴隷服であり、退屈な日常そのものだったじゃないですか!
なぜ、そんなものを求めるんです!」
無意識に僕は叫んでいた。
彼は僕の絶叫に一瞬驚いていたが、すぐに笑みを返した。
何も言わなかった。
彼の背中は柵の向こう雨の中に消えていった。
雨は止まない。







