2010年01月21日 17時34分32秒
昭和落日伝・奈津子27
テーマ:昭和落日伝夕方、帰って来た爺ちゃんは、
奈津子が身篭ったことを聞くと、
土間に手をついて、咽び泣くほど喜んでくれた。
ありがてぇっ!
おいらはよぉ~
子供をみ~んな戦争で亡くしちまって、
もう・・
世間が憎いような気持でいたんだ・・
二人を世話されてもよ、
赤の他人だと、意固地な気持だったんだ・・
それがよぉ~
岡田さんは息子みてぇで、奈津は娘みてぇで、
孫まで出来るなんてよぉ・・
なんて、おいらは幸せもんだよぉ・・
ありがてぇ・・
爺ちゃんは洟を垂らして、わめくように言った。
奈津子は、懐から桜紙を出して、
爺ちゃんの洟を拭きながら、
爺ちゃん、泣かんでよぉ~
私も、内の人も爺ちゃんが居なかったら、
こんな嬉しい生活は、出来なかったんよぉ、
おけいさんや、爺ちゃんが居てくれたから、
私も、この人も生きてこれたんだから。
百ぺんだって、有難いと思ってる、
毎日、神棚にお願いしてる、
爺ちゃんが、何時までも元気で、
居てくれますようにってね。
だからね、泣かんでよぉ。
奈津子は泣き笑いの顔で、爺ちゃんを抱き締めた、
岡田も、うんうんと頷いて、それを見下ろしている。
爺ちゃんは、ジャンパーの袖で涙を擦ると、
まったく、年寄はこれだから、たまらねぇな、
そうだ、おけいさんも仁さんも、
喜んでくれるだろうよ、早く知らせてやんなよ、
と立ち上がった。
奈津お前は、走っちゃならない、私がいこう。
岡田はそういうと、上着を羽織って、
杖を持つと外に出る。
あんたも、転ばないように行っておくれね、
おけいさんに、これ持っていってね、
亀の子たわしを二っつ、紙に包んで渡しながら、
一時も、離れるのが嫌なように、
奈津子は岡田の身体に、身を寄せるのだった。
おけいさんは、それを聞くと、
客が居るのもかまわず、袖で涙を拭った。
少し、ふっくらと太って貫禄もついた、
おけいさんではあったが、あったかい人柄と、
家庭の味を求める客で、小さい店は繁盛していた。
居合わせた客の、勤め人風の男達も、
それを聞くと口々に、
そりゃ、何とも目出度いじゃないですか~
俺も子供出来た時は、ありがたいと泣けたな~
祝いに一杯やっていって下さいと、
にっこり、岡田にコップ酒を勧める。
岡田も、有難う御座います、と受けて、
一気にあおると、お返しに一杯と返杯する。
おけいさんも嬉しげに、
あいよっ、こちらご返杯~と、
なみなみと酒を注いだ。
春の夜の匂いが、店にもふうわり満ちる、
なんとも嬉しい宴であった・・







1 ■みんな
みんなに悲しいことが起こりませんようにとお祈りしたくなります。