2010年01月10日 01時06分38秒
昭和落日伝・奈津子21
テーマ:昭和落日伝その店は、熊野神社脇の路地を入って、
二件目の左側で、紺の暖簾に白抜きで、
吉井荒物店と書かれている。
店の横には、研ぎ・修理たまわりますと、
杉板に達筆で書かれた木の看板。
めくら縞の袷の着物に、黒衿掛けた、
色白の女が出てくると、
下駄を鳴らして、通りまで小走りに出て、
ざるに、かなものぉ~たわしにチリ掃き、
桶に盥に、細紐はいかがぁ~と、
澄んだ声で、呼び声をあげる。
振り向く人の目もかまわず、
臙脂色の前垂れに、斜め襷で、よばわるのは、
生き生きと明るい、くったくのなさで、
通るタクシーやバスの乗客も、
車窓から眺めては、思わず微笑むのであった。
通りすがりの人が数人、路地に入って、
それについて奈津子も店に行く。
あ~い、毎度ぉ~細紐一束、お買い上げ~
愛嬌良く、新聞紙にそれを包んで、
客に渡す。
あーい、亀の子たわし二っつ、お買い上げ、
有難う御座います~
客も、威勢の良い女の掛け声に、つい、
じゃ、ついでにこれも貰っていこうかと、
余分な物も買って行くのだった。
奥の土間では、シャツの腕をまくって、
中年の男が、包丁を研いでいる。
投げ出した左足は、ズボンで包まれているが、
真剣な眼差しは、職人のもので、
端正な横顔は、充実した生活に、
裏打ちされている様子が、感じられる。
陽が暮れる頃、リヤカーを曳いた爺さんが、
路地に入って行くと、
おかえり~爺ちゃん、お疲れ様だね~
女は大声で言って、リヤカーを店の横へ引き入れる。
まったく、おめえの声は、通りまで響いてら、
何が嬉しくって、そんな素っ頓狂な声あげるんだい。
おまけに、荒物屋の呼び込みなんて、
聞いたこたぁねえや。
爺さんは、ぶつぶつ言いながらも笑ってる。
奈津子はてきぱきと、店を片付けて、看板をしまい、
カマドのある水屋に、下駄を鳴らして走って行く。
まったく、奈津の声はそこらの歌手より、
響くからなぁ。
岡田も笑いながら、松葉杖で立ち上がり、
研ぎ台を片付け始める。
おう、今夜は浅利汁かい、葱が良い匂いだ、
カマドの鍋を覗き込んで、岡田は嬉しそうに言う。
なんだね、意地が汚い事だ、おまいさん幾つだい、
奈津子もポンポンと言って、岡田の背中を叩く。
そこには庶民の慎ましく、ささやかではあっても、
暖かい温もりがあって、
手足を洗って、茶の間のちゃぶ台を囲めば、
生きてる一日の、感謝と幸せが、
浅利汁の香りのように、
満ちていくのだった・・







1 ■え?
誰の話?と思ったけれど。
途中でスパンとはめこまれてるので。
ああ、いいなあと思ったです。
とてもとてもいい流れで。
ラストに流れてますよねー!