薬害オンブズパースン会議が、ベンゾジアゼピンの処方に関して、国や製薬会社等に対して要望書を提出しました。(10月28日)

 これに関しては、今年2月に当会議が開いた勉強会に私も参加して、弁護士さんから「要望書」の内容に関して意見を求められましたので、私なりの考えを述べたりしました。

 要望の主な柱は、以下の通りです。




(1) 以下を内容とする添付文書の改訂

  ①常用量依存症と離脱症状、多剤併用の危険性を警告欄に明記すること

  ②ジアゼパムの力価との等価換算値を記載すること

  ③処方期間の継続に制限を設けること

(2) 自己決定権保障に資する患者向け説明文書の作成・配布・ネット上での公開

(3) ベンゾジアゼピン系薬物の依存症が薬剤情報提供文書に必ず記載されるための施策

(4) ベンゾジアゼピン系薬物依存症に特化した専門医療機関の設置拡充

(5) ベンゾジアゼピン系薬物依存症に関する全ての医療関係者を対象とした研修の実施

(6) ベンゾジアゼピン系薬物依存症に関する医学部及び薬学部における教育の強化

http://www.yakugai.gr.jp/topics/topic.php?id=902





 要望書の詳細については、

http://www.yakugai.gr.jp/topics/file/bennzojiazepinkeiyakubutunikansuruyoubousyo.pdf

 

 この中で、医療関係者の認識の低さを指摘している点は評価したいと思います。

 また、、「専門医療機関整備の必要性」として、以下のように述べている点は注目に値するのではないでしょうか。

「ベンゾジアゼピン系薬物を大量かつ長期連用されており、その離脱症状に苦しんでいる患者が多数存在するにもかかわらず、日本においてその離脱を専門とする医療機関は、当会議の知る限りにおいて存在しない。

 また、平成26年度「依存症治療拠点機関設置運営事業」において指定された全国拠点機関である久里浜医療センターには、アルコール依存、ネット依存、ギャンブル依存に関する特設部門は存在するものの、ベンゾジアゼピン系薬物を含む向精神薬依存に関する特設部門は存在しない。

 そこで、全国拠点病院及び依存症治療拠点機関の中に、ベンゾジアゼピン系薬物を含む向精神薬依存症に関する特設部門を設置するとともに、少なくとも各都道府県に1つは依存症医療拠点機関を指定することによって、ベンゾジアゼピン系薬物離脱症状に苦しむ多数の患者が、専門的かつ効果的な治療を受けることができる治療体制を整備する必要がある。」




 遅きに失した感は否めないですが、少なくともここに書かれているすべてが実現されることを願うしかありません。

 それにしても、ベンゾに関する医療関係者の認識の甘さは、どこから来るのでしょう。精神科に限らず、内科等でも、本当に気軽にベンゾが処方されています。ちょっとした一言……寝付けない、胸がドキドキする、不安……だけで、患者に何の説明もなく、「いつもの薬」にもう1錠加わっていたりします。

 パニック障害で抗不安薬を処方されて、気が付いたら20年。それを減断薬することがどれほどの苦痛を伴うものか、医師は知らないのでしょうか。おそらく知っているからこそ、出し続けるしかない(という選択をしてしまう)のでしょう。しかし、「一生飲んでも大丈夫」などというセリフが出てくるのは、「常用量依存」という実態を知らないからだと思われます。

 ともかく、医療関係者はベンゾの知識をもっと身に着けるべきです。処方権という大きな権力を持っている医師であるなら、当然のことです。

その当然のことがこれまで「放置」されていたこと自体、考えてみたら日本は「医療者天国」なのだと思います。

ブログを始めた5~6年前はまだまだベンゾに関して医療者の認識は今以上に低く(皆無?)、患者さん自身、「離脱症状」も知らないまま、医療に振り回されている状況がありました。

それに比べると、多少の前進はあったのだろうと思いますが、この要望書がどこまで反映されるのか、見守っていきたいと思います。

また、こうした動きが出てくると今度は逆に、これまで処方していたベンゾをぱったり出さなくなってしまう医師も出てきたりします。そうなると患者は一気断薬となり、たいへん危険です。要望書を作る段階で、私からはこうしたことへの危惧を述べたのですが、それに関しては、少々別の形で、要望書の最後にこう書かれています。





現在ベンゾジアゼピン系薬物を服用している患者又は家族の方へ

減薬又は断薬については、主治医と十分に相談しながら、慎重に判断する必要があります。その際、本書本文で紹介した日本語版アシュトンマニュアルも参考になります。患者が自己の判断で減薬又は断薬の判断をすることは、逆に危険ですのでくれぐれもお控えください。



しかし、相談できる主治医がどれほどいるのか? そもそも要望書の中で、医療者のベンゾに関する認識の低さを指摘しているのです。だからこうした要望書が必要になったわけですが、こういう堂々巡りにならざるを得ないこと自体、いまの精神医療の実態をよく表しているのかもしれません。