30歳の女性、MSさんの体験談を紹介します。

 MSさんは9年前、21歳のときに「記憶障害」による「身の危険」ということで精神科へ措置入院となりました。幻聴もあったため、その病院の担当医から統合失調症との診断を受け、ご多分に漏れずの抗精神病薬、その他の多剤大量処方の治療となりました。

リスパダール、エビリファイを主に、効果がなければ薬の変更、追加となり、さらにはベンゾジアゼピン系の抗不安薬と睡眠薬(とくに短期作用型のハルシオンやマイスリー)、また抑うつ症状がひどいときには抗うつ薬(SSRI)も処方。アカシジアや目が開かないと副作用を訴えると、アキネトンやパキソナールなど抗コリン作用の抗パ剤がすぐに処方されました。当時飲んでいた薬は記憶できないほど多種類だったとMSさんは言います。

 当然のことながら、認知機能が低下して、その頃通っていた専門学校の勉強もままならなくなり、さらに薬を飲んで5年ほど経った頃には首がねじれて右を向けない状態に陥ってしまいました。




検査入院を希望する

 昨年の春のことです。MSさんは、こうした現状からどうしても抜け出したいと思い、ある大学病院への「検査入院」を希望し、当時の主治医がその大学病院につないでくれました。

「検査入院」とは、「本当に統合失調症であるかどうか」を検査するための「統合失調症検査入院」のことです。

「統合失調症検査入院」は北海道大学病院で行っています。

 http://www.huhp.hokudai.ac.jp/hotnews/detail/00000474.html#a2_3



 MSさんが受けた検査は、まず「聴覚性事象関連電位」を調べるというもの。

頭部に電極を付けて、画像を見ながら音を聴き、脳の働きを調べました。これについては論文が一つネット上にありますので、参考までに。

http://www.researchgate.net/publication/36429001_  



そして、この検査の結果、MSさんには統合失調症に見られる特徴的な所見がまったく見られないことがわかりました。さらに、MRI検査や認知能力検査、心理検査、知能検査、また精神科医による細かい問診なども行われ、その結果、被害妄想傾向や人格の破綻がないことが判明。

MSさんは、統合失調症ではなく、解離性障害と診断が見直されたのです。

また、同大学病院の専門医によって、首の状態は「頸部ジストニア」と診断され、その時点で、抗精神病薬、その他の薬は中止となりました。



解離性障害

そもそもMSさんの症状は、14歳くらいから、自発的な自傷として現れていました。夜や明け方の数時間、まったく記憶のない時間帯があり、その間に自傷行為(主にアームカット、リストカット)をして、気が付いたときには、手当てまでしてあったと言います。

そして、19歳のとき、大学に受かって一人暮らしを始めた頃から、症状はひどくなり、さらに、幻聴も聞こえ始めました。

幻聴は、最初はアパートの外で深夜に誰かが騒いでいるような声が聞こえて、外を確認しても誰もいないというようなものでした。たびたびというわけではなく、たまにそういうことがあったという程度です。

しかし、通学は困難となり大学は中退することになりました。その頃は、自分の声で(骨伝導で聞こえる自分の声のような)、自分を批判する声が毎日のように聞こえるようになっていましたが、これは、検査をした医師によると、解離性障害に付随する神経症的なものから来ていたのではとのこと。




8年間の統合失調症治療

統合失調症との診断が下ったのは、21歳のときです。またしても記憶のないまま自傷をして、その傷が何十針も縫う大けがとなり、措置入院となりました。幻聴もあることから、すぐに統合失調症との診断です。

そして、抗精神病薬を中心とした統合失調症の治療を受けることになったのですが、副作用や首の違和感を覚えながらも延々8年間、統合失調症のまま薬物治療が続いたのです。

本来なら必要のない薬。つらい副作用を経験したばかりか、なかなか改善の難しいジストニアを発症してしまったというわけです。



 聴覚性事象関連電位と統合失調症との関係がどれほど「真実」なのかは、わかりません。また、光トポグラフィーと比べて精度が上なのかどうかも……。

 ただ、8年間統合失調症として治療を受け続けてきた人に、統合失調症ではないと、診断を見直すきっかけになったのが、この検査方法だとしたら、少し期待をしてみてもいいのかなという印象を抱きました。

 

 それにしても、MSさんの最初の医師(統合失調症と診断した医師)がきちんと鑑別していれば、こんなことには……と思わないわけにはいきません。

 幻聴≒(あるいは=)統合失調症という、重大な病気の診断を下す際のあまりに安易な診断基準がどれほど誤診を生んでいるか。

 統合失調症診断の際に除外すべきものとして、解離性障害など最初に頭に浮かぶものではないかと思うのですが……。



遅発性ジストニアの治療

 痙性斜頸(ジストニア)の治療は、検査入院をした大学病院のリハビリテーション科で、4ヶ月ごとに5回のボトックス治療を受けましたが、症状の緩和だけで病態自体は悪化していると言います。また、地元の精神科で筋肉の緊張緩和と神経痛のために

ランドセン(リボトリール)

テグレトール

が処方されているそうです。

しかし、この地元の精神科と大学病院のリハ科との連携が取れておらず(互いにかなり離れたところにある施設ゆえ)、この点はMSさん自身が双方に細かく状態を説明することで解決するしかない状況です。




ジストニアと共に

 現在では解離性障害の症状はすっかり改善し、そのための薬は一切処方されていません。精神科での治療は、主にカウンセリング的なもので、自分の状況や記憶について思い出しながらいろいろ話をしていくというものです。

 ただジストニアという症状は残ってしまいました。

ジストニアはその認知度も低く、MSさんの場合、障害者手帳も取得できなかったと言います。認定の基準が自治体によりまちまちのようで、たとえば大学病院のある自治体ならMSさんの状態であれば肢体不自由5級は当たり前に通ると言われたそうです。

ジストニアについて知識がある認定者がどれほどいるのか疑問もあり、またジストニアに関して身体障害としての認定基準がきちんと設けられていないというのも、おかしなことです。

それでも、MSさんは8年間の誤診の上の投薬を恨むより、もう罹患してしまったジストニア原因を追求するより、これから先のことを考えたいと言います。

「何とか症状を緩和させながら、社会復帰への道筋を探していくことが(過去にとらわれるより)有益じゃないかと考えています」

 前を向いているMSさんには頭が下がるばかりですが(私がMSさんならと思うと……)、私には、誤診の上に8年間も不必要な薬を投与し続け、このような重大な後遺症を残すことになった現在の精神医療の質の低さを追求したい気持ちがあります。

 だから、安易な診断(誤診)は問題なのです。

だから、こうした薬を気軽に子どもに投与することに警鐘を鳴らしたいのです。

 

 NPO法人ジストニア友の会HPより

● ジストニアには、具体的に次のような症状があります。

・首が上や下、左や右に傾く

・首がねじれる

・足がねじれる

・身体が歪む

・まぶたが勝手に閉じようとする

・口が開いたままで閉じられない、閉じたままで開けられない

・唇が突き出る、あごが左右や前にずれる

・舌がくねくね動く、口の外に出る

・声が出ない、出しにくい

・鉛筆や箸が持てない、持ちにくい

・字が書けない、書きにくい

・ピアノ・ギターなど特定の楽器が弾けない、弾きにくい



● 遅発性ジストニア

主として抗精神病薬の長期投与中(数か月~数年)に起こり、ドーパミン遮断作用をもつ抗うつ薬、抗めまい薬、制吐薬、胃腸薬、カルシウム拮抗薬によっても起こることがある薬剤性の二次性ジストニアです。

・病因はドーパミン、アセチルコリン、ノルアドレナリンなど多様な神経伝達物質の異常と考えられています。


追記

 この記事を書いて、気になっていることがあり、コメントにその気になっていることをズバリ指摘されましたので、ここに追記しておきます。


 とむくるずさんのコメント

 統合失調症の生物学的原因が未だに判らないのですから生物学的検査をいくらしても確定診断に結びつく筈はありません。論理的矛盾です。かかりつけ医の紹介状が、つまりかかりつけ医の許可が何故必要なのでしょうか。4泊5日も入院させてやる検査は初歩的なものが多いようです。統合失調症とすでに診断され抗精神病薬を飲んでいるのであれば認知機能検査をした時に健常者に比べ、いいスコア‐が出る筈がない。受けても単なる研究のモルモットになるに過ぎないですね。検査入院費用は健康保険でカバーされるのですか? 東大医学部精神科のうつ病の「こころの検査入院」と基本的にはあまり変わらないですね。

http://www.h.u-tokyo.ac.jp/patient/depts/kokoro/


 私の返事

 はい、おっしゃる通りです。
 大学病院がやりそうなことです。
 が、今回は、珍しく統合失調症ではないという判断で、(もしかしたらそれはこの検査の結果というより、それに付随する医師の慎重な問診の結果かもしれず)、そういう機会がこの検査で得られたのは一つの道のような気がして紹介しました。
 8年間統合失調症だった方の診断が見直されるのは、非常に珍しい例と思います。
 ただ、この場合、MSさんがジストニアを発症しているため、統合失調症の診断が見直された(結局薬をやめることになるので、診断がゆるやかになった?)という見方もあるかもしれません。
 また、この検査を受けて、統合失調症の診断がさらにゆるぎないものになってしまうリスクもあります。
 その点は皆さんにもお伝えすべきでした。


























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