2017-05-19 00:01:00

Fable Enables 11

テーマ:Fable Enables

 俺には朝三暮四晩二暁八の事態はなく極めて普通の朝を迎え、球を転がせば永久機関になるのではないかと思わせるあの長い長い坂を登って登校した。
 驚いたことに校庭にパトカーが停まっている。訝って視線を巡らせると、奥の旧校舎のあたりに人だかりができている。
 そのときにはイタズラの落書きでもあったのだろうと軽く考えていた。まさか一晩のあいだに校庭に奇妙な魔法陣が出現したり密室で人が倒れていたりはしないだろうと思っていた。
 親切な運命の水先案内人は、絶妙なるキャスティングをしてみせる。首をひねって立ち止まる俺のそばには、生徒会顧問の明野が待ち構えており、わざとらしくこちらを認めたふりをすると、さも驚いたふうに「おおちょうどいいところに」とその太い腕でこちらの首根っこを掴んだ。

 

 

 そのセリフから、どうやらこの騒ぎに俺が必然的に係わっていると察せられたが、その原因を知らされないまま強制力を行使させられるのはいかがなものか。ご都合主義の極致で不快な思いをしつつ、俺は旧校舎まで運ばることとなった。

 組体操という競技をご存知だろうか。読んで字のごとく、組んでおこなう体操である。組むのは腕であっても足であってもよさそうなものだが、人そのものであることにこの競技の妙味があるらしい。これを見たことのない御仁は積み木やブロックが人間の形をしていると想像していただければ幸いである。
 組体操の技のひとつに「ピラミッド」なるものがある。三段ピラミッドなら、まず三人が地べたに四つん這いになる。その三人の上に、ふたりが四つん這いになる。そのふたりの上に、ひとりが四つん這いになる。真正面から見れば、立派なピラミッドの完成である。これは高学年になるほど段数が増えていき、高いものでは七段八段というものも見られる。人数が増えるとその分、下辺で支える人員の負担は大きくなる。これが倒れてしまわないのは、まさにピラミッド型になることによって重心が下辺全体に支えられるからである。
 では、これを逆さまにしたらどうか。一段目にひとり、その上の段にふたり、その上の段に三人……という具合に配置していく。言うは簡単だが、物理学上これを実現するのは非常に困難である。上に乗る人員は不安定な足場でバランスを取ることを強いられ、下辺ではたったひとりで全体の重さを支えなければならない。こんな芸当ができるのならば、それで食っていける。日常の中でそうそうお目にかかるものではない。
 つまり俺は今、非常に貴重なオブジェを目にしていることになる。
 旧舎の一室、1のAに、ふたつの逆さピラミッドができあがっていた。
 ひとつは机でできたもの。もうひとつは椅子でできたもの。
 机のピラミッドは五段。椅子のピラミッドは六段。一段の個数が公差が一の等差数列的に増えていくことを踏まえると、机は合計十五脚、椅子は二十一脚、群れになって毅然とそびえている。これが倒れてしまわないのは、バランスを保っているからではなく、それぞれ天井で頭打ちになっているからだった。床と天井でサンドイッチになっているイメージだ。
 余った机と椅子もまた、奇怪な形をなしていた。机五脚は円形に配置されて上から見ると花のごとし、椅子三脚は重ねられてトーテムポールとなっていた。
「おまえら、心当たりはないか」
 無理やり連れてこられた俺と、すでに姿を見せていたナオキは、明野の野太い声に、首を横に振った。きのう施錠したときには何の問題もなく、それ以降は明野に断って鍵をキーホルダーに戻した。そのあたりは彼も承知のはずである。とりあえず念を入れた確認がしたかったんだろう。最近の大人は何でも念を入れたがる。そんなに入れると壊れてしまうぞ。
 所業をなした主の侵入径路は明らかだった。教室の窓が一枚割られている。泥棒ここに参上仕るといったところだ。

「それにしても」
 警察や教師の小言を受け流しつつ、時間を見つけたナオキは肩を竦めた。
「どうもタイムリーだね。昨日おまえが来たばかりじゃないか」
 最前に遭遇した万引き捏造事件を揶揄しているらしい。嫌な野郎だ。
「おまえも一緒だったろう。女生徒を泣かせた恨みなんじゃないのか」
「女性を泣かせるのは最低の男のすることだ」
「よく言う」
「しかし感心したね。イタズラの主はよほどヒマだったようだ」
 実際、この逆さピラミッドの構成法には首をひねった。腕ずくで作るのならば、バランスの取れていないピースを支える人員が最低ふたりはいる。加えて、天井にまで高さを伸ばすにはそれなりの台がいる。通常の人間が思いつきでなせることではない。
 嫌な予感がした。
 通常の人間が無理ならば、通常でない人間になら可能ということになる。その意図はともかくとして、だ。

 検証により、興味深いことが判明した。ピラミッドを作った机と椅子は総じて今後も使うに耐えうる良品であり、花とポールを作っていたものは、すべてが板やパイプの一部を欠いた不良品であった。
 ただひとつ、例外があったことを特記しておく。椅子のピラミッドを構成するパーツのうち最下部を支えていたものは、パイプの一部が欠けていた。それは昨日、ナオキが戯れに「治癒」して一時的に完全な状態を取り戻していたものだった。

 もうひとつ。俺が何気なく「花」になった机に手を突くと、ガラスの破片が散らばっているのに気づいた。幸いに手を切るようなことはまぬかれたが、そこに小さな矛盾があったのである。

 大移動をした机の上に、どうしてガラスの破片は無事にとどまっていたのだ?


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