誰もが知っている、おとぎ話「桃太郎」。改めて説明するまでもないが、川に流れついたモモの中から生まれた男の子が、おじいさん・おばあさんのもとで育ち、キビダンゴを持ってイヌ、サル、キジを従えて旅し、鬼を退治する成長譚だ。一般的には“桃太郎=岡山県のイメージだが、瀬戸内海を挟み対岸の香川県にも、桃太郎伝説が存在するのをご存じだろうか。しかも、こちらは“イヌ、サル、キジの墓”まであるというから驚きだ。歴史マニアとしてジっとしておれず、現地を訪ねてみた。(桐山幸久)

  [フォト]熊野権現桃太郎神社の「イケメン桃太郎」

 桃太郎の物語の原型は、日本書紀や古事記に登場する第7代孝霊天皇の皇子、彦五十狭芹彦命(ひこいさせりひこのみこと、のちの吉備津彦命)と稚武彦命(わかたけひこのみこと)兄弟による吉備国(現在の岡山県)平定の話、とされている。

 まず“岡山の桃太郎”だが、モデルとなった吉備津彦命を祭る吉備津神社(岡山市吉備津)の縁起によると、「山中の“鬼の城”に住み吉備地域を荒らしていた温羅(うら)という鬼を、武勇の誉れ高い命が家臣とともに倒し、その家臣たちはのちに犬、猿、雉に見立てられて世に言う桃太郎のおとぎ話になった」という。これをもって岡山県では「桃太郎発祥の地」を称しており、県警のマスコットから県営競技場の愛称まで桃太郎一色である。実際、吉備津神社の付近には、命の墓とされる中山茶臼山古墳もあり、宮内庁から陵墓参考地として指定されているほどだ。

 ■首相も霞む“友愛精神”

 一方、“香川の桃太郎”の主人公は命の弟、稚武彦命。ストーリーも微妙に異なるのだが、伝説によると稚武彦命は、香川の一宮に住む姉の倭途途日百襲姫命(やまとももそひめのみこと)を訪ねた道中、川で洗濯していたおばあさんと出会い、かねてより子供をほしかった老夫婦に気に入られ養子となる。当時、この地の住民は女木島(めぎじま、=通称「鬼が島」、高松市沖の瀬戸内海に位置)にこもる海賊の被害に悩まされており、話を聞いた命は早速、海賊退治へと向かう-というのが、香川側のあらすじだ。

 そんな香川の桃太郎だが、岡山よりも伝説ゆかりの地が際立っている。まず、墓の所在地とされるのが、高松市鬼無(きなし)町にある「熊野権現神社」だ。昭和63(1988)年から、愛称も「熊野権現桃太郎神社」としている。そもそも「鬼無」という地名が“鬼退治”を想像させる。

 最寄り駅はJR予讃線の「鬼無駅」。県都の高松駅から2駅・10分弱で、JR四国では平成12(2000)年から愛称「鬼無桃太郎駅」を併記する熱の入れようだ。ホームには、RPG(ロールプレイングゲーム)でおなじみの「桃太郎電鉄」のキャラクターが鎮座している。堂々の石造りオブジェは、“桃鉄”生みの親のゲームソフトメーカー「ハドソン」が14年に寄贈したのだが、ゲームに登場の貧乏神キャラまで並んでいるのはご愛敬である。

 神社までは徒歩で約1キロ、10分の道のりだ。途中の本津川(ほんづがわ)には、“ここが、桃太郎のおばあさんの洗濯場”の看板が掲げられていたり、「鬼が塚」という石碑があったり。隣接交番の名も「桃太郎駐在所」だったり(正式名称は、高松北警察署の「鬼無駐在所」)。駐在所の上部には、きちんと桃太郎とお供たちのイラスト掲示板も掲げられており、さすが桃太郎伝説の地、街は“桃色”に染め上げられている。

 香川の桃太郎に魅力を感じるのが、この「鬼無」と「鬼が塚」の関係だ。伝説によると、稚武彦命は「鬼が島」の海賊たちを降参させ、奪われた宝物を手に凱旋したのだが、あきらめきれぬ海賊たちは後日、宝物を取り返しにやってくる。そこで命は、「せり塚」という場所で返り討ちにし、海賊を全滅させる。このとき、屍(しかばね)を埋めた地が「鬼が塚」で、以後この地方には海賊=鬼がいなくなり、「鬼無」と呼ぶことになった。伝説と思えぬリアリティだ。

 ■鬼が島も一望、そろう“状況証拠”

 さて、洗濯場、鬼が塚を過ぎ、坂道を上ると目的地の桃太郎神社だ。感心したのが本殿の屋根瓦。桃の飾りをあしらう念の入りようだ。まずは本殿に上がらせてもらう。すると奉納された桃太郎の絵がストーリー順にずらりと並んでいる。なかには地元の小学生からイケメンと評判の桃太郎の絵も。

 再び境内に戻る。気づきにくいが左手奥に真の目的地“キジ、サル、桃太郎、イヌの墓”が並んでいた。あの桃太郎にしては粗末で小さなサイズに驚いたが、風雨にさらされて歴史を感じさせる。家臣と同じ大きさ、というのが桃太郎の博愛精神を表しているかのようだ。隣には“おじいさん、おばあさんが一緒に眠る墓”も並んでいるのだが、この墓は地元で縁結びの神とされている。老夫婦が稚武彦命の見識に感じ入り、すぐに縁を結び、養子にしたとの伝説が残っているから、という。

 神社の裏山からは、瀬戸内海の「鬼が島」こと女木島を一望できた。この場所なら、確かに海賊の動向を手に取るように分かる。島の中腹に謎の巨大洞くつもあり、“鬼”が隠れ住むにはぴったりなのだ。

 海賊退治の話は讃岐守だった菅原道真が伝えたともいわれており、桃太郎伝説が残るのは岡山、香川両県以外にも全国で7~8か所になるという。ただ、イヌ、サル、キジや鬼などすべての伝説がそろっているのは香川県だけのようだ。なお伝説によると、家臣のイヌは備前国犬島の住民▽サルは讃岐国陶村猿王の住民▽キジは讃岐国雉が谷の住民-だったというから、桃太郎の舞台は瀬戸内海を中心とした地域、それも香川県が濃厚といえる。どうなる岡山県!?

 しかし実際には、ゆかりの全国の自治体が集まるイベント「桃太郎サミット」を開いたり、「日本桃太郎連合会」という組織も結成したりするなど軋轢(あつれき)はなさそうで、桃太郎神社を管理している鬼無進さんも「特に岡山県への対抗意識はない。お互いに協力してやっていければ」と、淡々と話していた。

 本家(?)岡山と少し趣の異なる“香川の桃太郎”伝説。神社では例年3月の最終日曜日か4月の第1日曜日に、境内で桃太郎祭りも催され、子供の相撲大会やもち投げがあり大勢の人々でにぎわうというが、普段は静かな環境だった。その姿はまるで鬼がいなくなったという平和な鬼無の街並みを象徴するかのようだった。

 最近、アニメ「らき☆すた」に登場の神社を“聖地巡礼”としてファンが訪れる現象が話題となったが、こんな聖地巡礼も楽しいと思うのだが。

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