「大嫌いな賞」。直木賞に決まった白石一文さんは、そう公言してきた。

 「我が家はずっと泣かされてきましたから」。その呪縛(じゅばく)から、やっと解放された。

 作家だった父・一郎さん(故人)が、直木賞を受けたのは、実に候補8度目でのことだった。それまで息子は、父が候補になると「これで食うや食わずの生活が変わる」と思い、父は落選するたび、団地の狭い一室に詰めかけた記者たちに頭を下げていたという。子供心に思った。「なんでパパが謝るんだろう」

 だが息子が選んだのも同じ棘(いばら)の道だった。きっかけは大学1年の時、一郎さんの小説を批判したこと。父は猛烈に怒った。「なら、お前も書いてみろ」。挑発された息子は、東京の下宿で作品を書き、故郷・福岡に送りつけた。すると驚くことに、父は絶賛。「それで僕は道を誤ってしまった」

 大学卒業後、出版社に入ってからも書き続けたが芽が出ず、デビューできたのは41歳。以来、人はどう生き、どう社会と対峙(たいじ)すべきかを考えさせる作品を発表しながら、一貫して小説の可能性を探ってきた。

 「僕が小説家になることに父は反対だった。でも結局は、僕も、父と同じようにこの道しかない」との思いを、いま改めてかみしめている。(文化部 村田雅幸)

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