みずのこえ ことばこころほどき

ことばこころほどき、とは
あなたのかたくなった部分をほどくメッセージです。


テーマ:
小説です。 

たったひとりの人に伝えたくて始めた、この綴り。
人に言えない嗜好や秘密、官能
人間はそれをどう思うか
自分でどう対処していくのか。

瑠璃シーン⑥のキャッチコピーは、
俺とお前の攻防戦。
じわじわ迫りくるサスペンス劇場。

トーチカ~瑠璃シーン⑥の中編、
神楽シーン⑥中編1からの流れの瑠璃側の視点です。
事件多発事件的で、ごった煮のように大勢の人が出てきます。

瑠璃シーン⑥中編は、
不貞、不倫、禁忌の闇を傍観する旅。

神楽シーン⑥よりも実は闇を見る!
けれど、笑いと呆れが混在としている脱力系。

男の嫉妬、男のトラウマの癒やしも、神楽シーン瑠璃シーンともに⑥のテーマですね。

瑠璃シーン側では、何が起こっていたのか?
真実は、こんなだったという意外性満載の答え合わせ。
二花くんの動向も楽しみです。
神楽には見せない面が、どう出てくるのか?



トーチカ〜瑠璃シーン⑥中編14
約束の時間にチカは迎えに来た。
瑠璃は更にチカへの想いを再確認する。
帰りに後藤に抱きしめられる、酔った二花と出逢う。
後藤は男断ちをした二花を守ってきたのだと、その愛情と優しさを知る。


神楽には見せない二花の一面。
それはまた、ズルさや弱さだけでは、ないのかもしれません。



トップモデルとなった瑠璃の真骨頂とも言える、瑠璃シーン⑥。
瑠璃の魅力、瑠璃チカの結婚式、そして妊娠までを書きます。


神楽シーン⑥が男眼線のエロならば、
瑠璃シーン⑥は女眼線のエロとなるでしょう。

わたしが書く小説というのは映像で見えてくるのを文章化しているのですが、この文章で女性の(もちろん男性もね)オ ーガズムのお手伝いにもなればいいな、とも思っています。

トーチカ神楽シーン①
東三河に住む、未来を知っている少女
神楽の眼線
神楽シーン⑥で、東三河から神奈川に嫁入りしました。

トーチカ~瑠璃シーン①
神奈川に住む、ティーンズモデルの美少女
だった瑠璃の眼線
今は世界に立つスーパーモデル

神楽シーン瑠璃シーンの同時期を交互に書いていきます。
どちらにも童顔、永遠の少年の二花(つぐはる)が絡んできます。


トーチカのこれまでの話のリンクはこちらから
トーチカ以前のお話もこちら↑

BGM
"カルメン組曲"。

つるの剛士"You're the only shinin' star"。 

華原朋美"I'm proud"

TM network "ELECTRIC PROPHET -電気じかけの予言者" 

篠原涼子
"恋しさと せつなさと 心強さと"

渡辺美里
"10years"
十年前、十年後。
神楽と瑠璃の十年の物語。
まだ、これから先のほうが長いの。




トーチカ〜瑠璃シーン⑥中編15
 





「ジジイ、行っとかなくて大丈夫か?」

高速道路を降り、コンビニで車を止めて、チカは後部座席のドアから、寝ている二花の頬をぴしゃぴしゃと叩く。

「え……?何?」

「漏 れんだろ?」

「あ、そっか。」

寝惚けているのか、二花はチカの首に抱きつく。

「連れてって。」

「バカヤロウ。」

チカは二花を急いで剥がした。

「あれ?今って、いつ?」

「俺と瑠璃が結婚する前!」

チカは寝惚けている二花に怒鳴った。

「そっか。俺、夢見てたよ。チカとラブラブな頃の。しあわせだったなあ。」

「なんだよ、それ。」

チカは面白そうに笑った。

「チカ、いつも俺を抱っこしてくれてたよね。」

「……可愛かったからな。」

それは、しあわせなふたりの想い出なのだ。

「食べるのも俺を膝に乗せて、食べさせてくれたよね。」

「可愛かったからな。」

「俺、変わってないよね?今も可愛いよね?」

「だから?」

自分が可愛い事を躊躇なく言えるのだ。

「抱っこして連れてって。」

まるでハートマークがついているかのような、二花の甘えた声だ。

チカは鼻息を吹いて後部座席から離れ、助手席のドアを開け、瑠璃を抱き上げた。
瑠璃もチカの首にしがみつく。

「今の俺の腕は、瑠璃を抱く為にあるんだ。」

助手席側から、二花にそう宣告する。

「今降りなきゃ、そこで漏 らすぞ、ジジイ。」

「降ります。」

二花はすぐさま、ドアを開けた。
瑠璃をお姫さま抱っこしているチカの横に並ぶ。

「ここ、何処?」

「日本だよ。」

「ちえっ。それくらい、判るよ。」

コンビニの店員は驚いたろう。
そんな三人が入ってきたら。
もう夜中なので、他に客はいなかったが。

「そっち。」

チカは二花にトイレの方向を示す。

「うん。」

二花は急いで向かっていた。

「年取ると、やけに現実的だな。」

「あんまり現実味ないけど、二花くん。」

弁当コーナーの前で瑠璃を降ろす。

「お腹空いた?」

「流石に、ジジイに振り回されるとな。」

「嬉しいクセに。」

「マアネ。」

チカはパスタ一つとラーメン一つと弁当一つを選んだ。
これをひとりで食べるつもりだ。

「よかった。」

瑠璃は、うふふと笑う。

「ん?」

「食欲が戻ってくれて。」

「そうだな。」

チカも穏やかに顔を緩めた。

「温めますか?」

「いえ、いいです。」

レジでそう聞かれて、チカは答えた。
丁度その時に戻ってきた二花は、チカの肘を後ろから、そっと摑んだ。
その仕草が、まるで子どものようだった。

ねえ、パパ。

瑠璃は脳内で、そう吹き替えをする。

「吉田くん、俺、財布、車に忘れちゃった。」

その見上げた眼が、いやに可愛かった。

「―煙草?」

二花が差し出したミネラルウォーターのペットボトルを受け取り、チカは二花を見下ろす。

「うん。」

「すみません、これと―」

チカは迷う事なく、煙草の番号を告げた。
二花のいつもの煙草の番号も、すぐに判るのだ。

「ありがとう、吉田くん。」

コンビニの出口で、二花はまた、前を歩くチカの腕を摑む。

「俺は、俺よりジジイな子どもを持った覚えはねえぞ。」

「店にライター忘れた。」

「―ちゃんと、取りに行けよ。」

チカは瑠璃を連れて車に戻り、ダッシュボードから使い捨てのライターを取り出した。

「車で待ってる?」

「ううん。」

瑠璃に優しく問いかけてくれる。

喫煙場所で煙草を咥 えている二花に、チカは当たり前かのように、ライターで火を点ける。
二花は美味しそうに吸い込んでいた。

「サンキュ。」

久し振りに、眼の前で二花が煙草を吸う様子を見た。
この間の電話での、煙を吐き出す二花の息を、瑠璃は耳に想い出していた。

あの時、二花は、瑠璃に痛い事をして興奮する妄想を許してと、瑠璃に許可を求めてきた。

あれから、何度この人の頭の中で、あたしは犯 されたのだろう。

夜の闇とその湿った空氣と時折通り過ぎる車の音に、瑠璃は、もしかしたら、これこそが現実ではなく、夢かもしれないと、妙な錯覚に陥った。

本当は二花に乱暴に犯 されているのが現実で、あたしはこれを夢見ているのかもしれない。
チカと恋人繋ぎをしている夢を。

「すみません、君、何歳?今、何時だと思ってるの?」

チカがそんな事に急に言い出すのを、ぼんやりと聞いていた。

「あ、ごめんなさい。僕、これでも成人なんです。」

二花は当たり前かのように、煙草を吸いながら、それに応えていた。

「嘘でしょう。大人を騙そうとしちゃ、いけないよ、ボク。」

「いえ、本当に成人なんです。ほら、免許証―あ、無いんだった。」

二花は本当に尻ポケットから財布を取り出そうとしたが、それは車にある事に氣づいた。

「嘘つきだねえ、ボクは。」

「いえ、本当に成人です。」

このコントは、いつまで続くのだろうと、瑠璃は無言で眺めていた。

「何か、証明できる物、他に無いの?」

「困ったな。」

「大人の証拠、見せてよ。」

「えっ……やだ。お巡りさん、それが目当てなの?」

「私は大人の証拠を見せなさい、と言っただけだよ。」

「仕方無いなあ。お巡りさんだけだよ、見せるの。」

二花は躊躇なくファスナーを降ろした。

「ーそこでストップな。」

「チカがやり出したクセに。」

見廻り警官と成人に見えない少年顔の男子編のやり取りなのだろう。
二花とも、こんなごっこ遊びをしていた訳だ。

二花は嬉しそうに笑いながらファスナーを上げ、煙草を揉み消していた。

「楽しかったなあ、こんな事。」

「つい、悪ノリしてしまった。瑠璃、こんな夫を許してくれ。」

「面白いから、許すわ。」

続きも見たいが、そうすると、お巡りさん、凄く上手、お巡りさんの警棒欲しくなっちゃった……な展開だろう。

「眠くなっちゃった。」

瑠璃は欠伸を手のひらで隠す。

「あと少し、寝てていいよ。」

「うん……」

助手席のシートに身を委ねる。
あたしが寝たら、チカと二花はどんな会話をするのだろう。
それが氣にかかったが、瑠璃はすぐに意識を失っていた。

水の中で歓喜に身をくねらせている。 
ここは生命の慶びに満ち溢れている。

You learn the love, joy of the life.

そう、文字が眼の前に浮かんできた。

You love this world.

The world loves you.

心地好い温もりの水の中で、悦びに溢 れ、自由に踊る。

だけど、そろそろこの心地好い空間から出ないといけない。

眼の前に現れた、その柔らかい手を摑む。
暁の女神が優しく微笑んでいた。

「家の鍵は忘れてないよな?」

「うん大丈夫、流石に。」

「ライター、取りに行けよ。」

「うん。」

「元カノからのプレゼント、だろ?」

「うん。咲子からね。」

「大事なモンだろ?」

「うん。俺、今までの彼女から貰ったの、全部取ってあるよ。女々しいかな?」

「男なんて、そんなもんだ。女は新しい男が出来たら、すぐに捨てるけどな。」

「瑠璃に貰ったポーチも、大切にしてる。」 

「―大切にしろよ。」

「うん。チカも、瑠璃を大切にしてよ。」

「瑠璃は物じゃねーぞ。」

「俺がチカにあげた最高のプレゼントだよ、瑠璃は。」

「お前に貰った憶えはねーぞ。」

「うん。でも、俺の大切な人だったんだ。チカになら、いや、チカなら瑠璃を大切にしてくれるだろうなって願いを込めて、俺は瑠璃を諦めた。」

「諦めきれてねえクセに。」

「俺……瑠璃、好きだよ。」

「知ってるよ。」

「それでも、俺、神楽が大切なんだよ。」

「義務感か?」

「ううん、愛しい。世界でいちばん大切な女。愛してる。」

「妹とか母親とかとを、投影すんなよ。」

「そうじゃなくて……何だろう?実花に対する氣持ちに似ているようで、全く異なるんだ。俺の全て―なのかもしれない、神楽は。」 
 
「宝物……」

「そう、大切な宝物なんだ、神楽は。キラキラした純粋なものだ。」

「俺は、神楽に関しちゃ、負い目があんだよ。急かしたからな、お前との関係を。」

「うん、それで良かったんだよ。俺にも、神楽にも。あの娘は俺の身体を求めてたから。俺も、求めてたんだ、ぴったりする身体を。」

「身体の関係だけ、なんて言うなよ。」

「まさか。俺の全て、だよ。」

「二花、はっきり言うが、お前の子どもを妊娠して産めるのは、神楽だけだ。」

「うん―そうなんだね、やっぱり。いや、そうじゃなきゃ、俺、子ども要らない。神楽の子じゃなきゃ、愛せないよ。」

「喩えば、瑠璃がお前の子を宿してたら、どうだった?」

「そんな―邪魔するような子ども、要らないよ。瑠璃を俺から奪うような子どもなんて、要らない。きっと、俺よりも瑠璃は子どもに夢中になってた。だから、きっと俺は殺してたね、俺の手で、俺の子を。誰にも渡したくなかった、瑠璃を。だから、あのままだったら、俺は瑠璃を殺していたよね。」 

深い、深い、水の底。
誰も手を伸ばせないような、深淵。

そこに辿り着けるのは、その暁の女神だけ。
おいで、と縮こまっている少年に、手を伸ばす。

その女神の顔が、柔らかい表情の神楽に見えた。

「嫉妬、というより、執着だな、お前のは。」

「そうだね。俺はまだ、瑠璃に執着してるんだ。―チカを尊敬してる。瑠璃と結婚出来るくらいのチカを。」

恐ろしいくらいに、愛されていた、二花に。
だからこそ、二花と続けていたら、身の破滅だったのだ。

犯 されながら殺されたろう。

「俺にはムリだ。瑠璃みたいな女をしあわせにするのは。」

「その点、神楽ならお前以外の男は寄せつけない、からか?」

「そんなの、判らないよ。あんなに可愛いんだし。近寄る男たち全員を排除したい。俺は幹也にも嫉妬してる。時々、八つ裂きにしてるんだ、頭の中で。ああ、チカも包丁でぶっ刺してるよ、何回も。俺の女と仲良く話してるからね。ふたりきりで楽しそうに話すなよ。本当に殺すぞ。」

「怖い男ダネー。」

「神楽の学校に行って、一日中、見張ってたいよ。実際、奈美子のあの時、一日中、神楽を見張ってるのが楽しかったよ。」

「お前、一歩間違うとストーカー氣質だな。」

「いや、一歩どころか、半歩くらいだよ。」

日常に隣り合わせの恐怖、かもしれない、二花という男は。

「ジジイ、二重人格だろ?俺に対する態度がコロコロ変わるな。抱っこしてって甘えた男は普通、殺すぞなんて脅してこねーぞ。」

「チカは俺にとって最高の男だけど、憎い相手なんだ。」

「まあ、俺もそうだけどな。お前、俺が最後なんて可愛い事言っときながら、アイツに手でしてんじゃねーか。」

「武には感謝してるからね。せめてものお礼だよ。うん、今してあげるよ、チカに。それで、本当に最後にする。」

「二花、お前ほんっとにバカだな。」

「お巡りさんの、立派だから好きだよ。……本当に、いちばん好き。あ、見たら欲しくなっちゃうな、俺。お巡りさんの大きいの、俺の中に頂戴って、いつも、懇願させられてたね。」

このまま寝たふりをしていたら、ここで始まってしまうのかと、瑠璃は迷った。
眼を開けるか、このままやり過ごすか。
 
「俺のマグナムは瑠璃専用だ。ズキューン。」

「チカも親父ギャグ好きだよね。」

「バカ言うな。本物のジジイが。」

眼を開けられないので、ふたりがどういう状態で会話をしているかは判らない。

「……瑠璃にしたいのを我慢するのに、三人でしてたっていうのさ。」

「ん?」

「武、瑠璃に似たハーフの娘を選んでくれたんだよ。顔だけ、ちょっと似ね。背は高かったけど。」

「こんな美女は他に存在しねえからな。」

「うん。でも、瑠璃にしてるかもっていう興奮は味わえた。だから、最高にS氣が出た。ちょっと似だから、武としてんの見ても大丈夫だったけど、俺もムリヤリ咥 えさせた。ふたりでエム 女 いじめるって、最高にいいよ。」

「お前、サイテー。……ヤツは今、何人抱えてんだ?ペットを。」

「んーと、今は男が二人に女が三人か、な。人数はコロコロ変わる。武、世話好きだからね。少し調 教してあげると、大概そのうち、合いそうな他の男に紹介するんだ。斡旋所みたいなもんだよね。」

「俺も斡旋されたんだな。」

「後悔してる?チカ。俺との事。」

「まさか。お前と出逢えて良かったよ、二花。」

「うん、俺も。」

頭を撫でられた。
大きな手のひらに。
チカ、大好きよ。

「それだけ瑠璃一途なチカなのに、どうして?」

「何が?」

急に。
前からされている、リアルな感覚が瑠璃の身体を包んだ。
脚を最大限に拡げられ、前から 出し 入れされている。
その度に体内でグリッグリッという音が響いて、そこの氣持ちよさに声が出そうだ。

ああ、この大好きな、物凄く引っかかる、久し振りの感触。
堪らない。
本当に今しているみたいだ。
まさか、チカの前でされているのだろうか。

「チカの精 液だけじゃない。瑠璃から他の男の匂いもしてる。瑠璃の濡 れ 汁から、匂ってる。どうして?」

やはり、二花にはバレてしまう。
そして、出し 入れの勢いが増す。
声が漏 れてしまいそう、そんなリアルな感覚は。

「って……お前、ホントに下品だな。話せば長くなるんだよ。これは俺と瑠璃の問題だ。お前には関係ない。」

「俺は許さない。瑠璃はチカだけのモノだから、俺は安心してたのに。」

「二花が許そうと許さまいと関係ねえよ。」

「許さない。」

ずん ずん ずん ずんと強くなる。
引っかかる頻度が高まるから、もう昇りつめそうだ。
同時に両胸を揉 まれている。
声、出ちゃう、ダメ、やめて。

「あの時、迎えに行けば良かった。俺がこんな風にしてやれば、良かった。」

こんな風に。
今、二花がしているみたいに。

「俺は瑠璃の身体が好きだし、瑠璃も俺の身体が好きなんだ。そうだろ?」

それは、寝ている瑠璃が二花に問われたのだろか。
瑠璃は叫び出しそうな中、身動き出来ないでいた。
二花の脳内で抱かれながら。

「でも、決めたんだ、俺は。神楽以外とはしない。……実際の身体は。」

だけど、脳内でこうして違う女を抱くのだ。
途端、キスをされた。
腕に抱かれ、大きな口が包んできた。
丁度、絶 頂だった。

チカにキスをされながら、二花のリアルな妄想で達した。

「お前の脳波、妙な信号が走ってんだよ。ノイズが痛え。何やってんだ?」

眼を開けると、チカは後部座席の二花を睨んでいた。

「瑠璃に聞いたら?氣持ちよかったよ。やっぱり、瑠璃の中はいい。俺、イ ッてないけど。」

暗い中、二花は満足そうに笑っていた。
この男!
瑠璃は急激に怒りが湧き、バッグからスマートフォンを取り出した。
それを二花目掛けて投げる。

「痛っ!」

咄嗟に二花は腕で避けたが、腕にガツンと当たったスマートフォンは、ガラガラと車の床に落ちた。

「恥知らず!見せつけで抱くなんて、最低よっ!」

叫んだら、声が掠れてしまった。

「何だよ?瑠璃、許してくれたじゃないか?俺の頭ん中ならいいって。」

二花は左の前腕を右手で擦 っていた。

「今のは愛じゃないものっ!チカに対する見せつけだものっ!そんなのは、イヤっ!」

「でも、氣持ちよかったよね?瑠璃、イ ッたよね?」

二花は笑っている。

「……ここで体感させるなんて、こんなの、身体を使ってなくても、ホントのsexといっしょよ!サイテーよ!」

瑠璃に体感させるなど、どういう二花の手品かは知らない。
しかし、チカの知らぬまま、チカの前で犯 されたのだ。

「どうして?氣持ちいいのに、どうして?」

「神楽ちゃんの眼の前で、同じ事、言えるの?」

二花は途端、押し黙った。

「彼女に言えない事は、自分でも裏切りだって判ってるからよ。さっきも言ったでしょ?」

秘密にしようとしないで、神楽と向き合って欲望を話せばいいのだ。

「まあ、なんとなく読めたけどな。瑠璃。」

チカは怒っている瑠璃を、優しく抱きしめた。

「向こうに非が有ろうと、瑠璃から手を出すなって言ったろ?」

「だって!手じゃないし!」

「屁理屈捏ねるな。下手すれば傷害罪になるんだ。今のも打ちどころが悪けりゃ、殺人だ。いいな?」

「だって!」

「ああ、もう。大体、お前も俺に秘密にしてた事、あんだろ?なんだ?あの時、迎えに行けば良かったって。」

チカの鋭い眼つきが瑠璃を刺す。
ダメ、弱い、これ。
瑠璃はクタッとなり、チカにしがみつき、あの夜の二花との会話を打ち明け、そして今の出来事を告げた。

「そうやって、俺の知らない処で駆け引きして遊ぼうとするな。」

チカは、はあああああと長い溜め息をついた。

「ごめんなさい。でも、もうこれで秘密なんて、ないわ。」

「あって、たまるか。」

チカは苛立った声を出し、また二花を睨んだ。

「てめえ。」

「ごめんなさい。」

二花は、すぐに頭を下げていた。

「いや、本当に手を出してないよ、瑠璃に。」

「おもしれえ事してくれたじゃねえか、二花よ。」

「笑ったら、いいの?」

また、天然は余計な茶々を入れる。
どうしてこの人は、現実味がないのだろう。

「俺が知らないと思って、俺の前で、瑠璃を抱くなんてな。卑怯な野郎だ。」

「だって……俺以外の他の男なら、いいの?俺は嫌だよ。」

「お前は永遠に除外だ、この節操無し。」

「なんでだよ?」

「お前は逃げてるからだ、現実から。」

二花の表情が変わる。

「見てこいよ、闇を。お前が怖がる闇を。」

二花はしばらく無言だった。

「俺の苦しみなんて、チカには判らないよ。」

「ああ、判らないね。苦しいのに、それを無い事にして笑ってるヤツの想いなんて、判らないね。」

抱きしめるチカの体温が熱い。
車内も熱い。
エンジンを切って、二花の家の前で話しているからだ。

「お前が俺のモンなら、俺はお前の苦しみも肩代わりする事は出来た。だが、もう違うんだ。」

二花、もう、決定的に、あなたはあたしたちと離れて歩んでいる。
あなたがまだ、そこに立ち止まろうとするのは、判る。

怖いからだ。
神楽の人生を請け負うのが。

未完成な自分が神楽を守れるのか、戸惑いがあるのだ。

あなたは真から、あたしをまだ好きなのではない。
甘えているのだ。
知らぬ間に、母の代わりを求めているのだ。
無償の愛を、求めているのだ。

「で、二花、貸しふたつな。」

「判ってるよ。」

二花は床からスマートフォンを拾った。  

「ピアニストの腕、負傷したんだけど。」

「お前が言うな。お前が悪い。少し痛いだけだろ?即効で直しとけ。」

「ごめんね、二花くん。」

瑠璃にスマートフォンを手渡してきた二花に、瑠璃は謝る。

「ううん。俺が悪い。ごめん……でも、本当に氣持ち良かった。」

「そうね。」

それは確かだ。

「俺は嫌なんだ。瑠璃が他の男と、なんて。許せない。」

二花は真っ直ぐに眼線をぶつけてきた。

「二花くんがイヤでも、これはあたしとチカの問題よ。」

二花が口を出す事ではない、のだ。
その眼に陰が宿る。

「二花、俺も偉そうな事は言えない。瑠璃が支えてくれたから、俺は俺の問題と向き合おうと思えた。そして、これは瑠璃の問題だ。」

そう。
他の男を求めるのは、あたしの問題だ。

「俺と瑠璃はもう、隠し事をしない。そう決めたんだ。どんな邪な本音だろうと、必ず打ち明け合う。それが世間的に嫌悪な事実だとしても、だ。」

この人の優しさと強さが、ただ嬉しい。
その身体の熱さを、瑠璃は悦びとして受け取っていた。

「お前が神楽に隠したがるのは、今の自分を恥じてるって事だ。」

「そりゃあ……俺はだらしないから。男なら誰でもいいし。武に甘えとけばラクだし。……甘える方がいいんだよ。俺は甘えたいんだよ。」

二花は髪を掻き上げ、頭を横に振った。

「瑠璃は全てを受け入れてくれる、そんな存在なんだ、俺の。俺が何したって、乱暴したって、瑠璃は受け入れてくれた。」

それは逆に瑠璃の弱さだ。
二花を無くしたくないから、なんでも受け入れたのだ。

「そうだ、俺は怖いんだよ。チカみたいな責任感なんて、無い。女を一生守れる度量なんて、無い。」

「いや、二花。俺も無いよ、そんなのは。」

チカは後部座席に向かって、手を伸ばした。
一瞬、二花を抱きしめるのかと、思ったが、二花のTシャツを左手で摑まえた。

「そんなのは、ふたりで培ってくんだよ。」

ピシャーン。
乾いた音が車内に響いた。
チカは勢いよく右手を振り上げ、二花の左頬を平手打ちにしていた。

「……ってえ。」

二花はその頬を左手で押さえた。

「跡が残るから、殴るのは勘弁してやったんだよ。」

「だからってなあ!いきなり叩くなよっ!」

「情けないからだ、二花。」

知っている。
平手打ちにした方は、手のひらが痒くなる。
ジンジンとする。
瑠璃はチカのその手を、両手で包んだ。

「お前は、結婚前の男みたいな心境になってんだよ。相手を守れるか怖くなってるから、ふらふらしてんだよ。神楽が嫁に来るようなもんだからな。」

二花は頬に手を当てたまま、窓の外の自分の家を見ていた。

「俺だって情けないさ。女々しいよ。だけど、それを曝け出したら、瑠璃は認めてくれたんだ。俺をまるごと支えてくれてるからこそ、俺は、この人の隣りで生きれるんだ。」

瑠璃はチカの手を擦 りながら、頼もしい婚約者な微笑んだ。
チカも、瑠璃に微笑み返した。


氣弱になってたな、俺。
瑠璃が笠田さんの方がいいってなるんじゃないかって怖かった。
だけど、瑠璃はちゃんと俺に帰ってくれた。
もう、あなたを信じられる。
あなたはちゃんと、俺に帰ってくる。
誰と寝ようとも。


そうよ、チカ。
こんな淫 らなあたしが帰ってこれるのは、あなただけなの。
あなたがこんな売 女は最低だと、突 き放すかもしれない恐怖の中で、あたしはあなたを迎えた。
あなたは、ちゃんとあたしを受け入れてくれた。
その歓びに、今、包まれているの。


「ふたりがそれぞれの価値観や好みを認めていくのは、衝突も衝撃もあると思うんだ。だけど、これからも向き合っていくんだ、俺たちは。」

チカの穏やかな声だった。

「俺なんて、生まれ持って相当な闇を抱えてるのに?神楽に、それをぶつけるの?神楽が潰れちゃうよ、そんな事したら。」

二花の微かに震えた声だ。

「俺は本音では神楽を高校に行かせたくないし、閉じ込めておきたいんだ。他の男と話をしてるのを見るのも、嫌だ。殺したいリストが増えてく。だけど、俺の事で神楽の人生を左右させるのも、嫌だ。」

この人は、深刻に人とつきあうのが怖いのだ。
自分の人生に人をつきあわすのが、怖いのだ。
瑠璃は、幼い頃から見てきた、自由氣儘な猫のような二花を想い返していた。
友だちともつきあいが深くなりすぎると、自らそっと一時期離れるのだ。

「それをちゃんと口で伝えるんだよ、二花。判断するのは神楽だ。神楽がそうだと決めたら、それは神楽の判断だ。お前への同情じゃない。」

「そんな簡単なものじゃない。俺といると、人が狂うんだ。俺の身近な人間は、誰もが狂った。」 

二花は自分の顔を手で押さえていた。

「二花、今のお前の妹や兄は、狂ってるか?」

チカは子どもを諭すように優しい声を出した。

「今は―狂ってない。」

「ほら、過去じゃないか、それは。」

「チカと瑠璃も狂わせた。」

「今は狂ってないよ。俺たちはラブラブだよ。」

「父も母も、自死した。」

「死んだ人間は生き返らないよ、二花。悔やんだって、決して生き返らない。」

それはまるで、自分に言い聞かせるようだった。

「お前が今、生きてんなら、生きた人間の温もりに救われてんなら、笑って生きてる人間を見ろ。死人を振り返って見るな。」

「そういえば、チカ、幽靈見えるんだよね?どう?俺の背後になんかいる?」

真剣な空氣が一瞬にして、軽いものに変わった。
振り返って見るな、とチカが言ったからだろうが。

「水子靈はいないのは、確かだ。」

チカは呆れて頭を押さえた。

「生き靈っぽいのは、ウロウロしてるけどな。」

「えー?いるんだ、本当に。」

「身に覚えがあるだろ?意識を飛ばすくらい、お前に逢いたくなるヤツを。」

二花は考え込んでいた。

「身に覚えがあり過ぎて、特定出来ないんだろ?」

「―うん。」

二花には何かと呆れるが、その生き靈が誰なのか、瑠璃も知りたかった。

「とにかく、早く寝ろ。明日も仕事だろ?」

「うん。そうだね。」

「二花、また、いきなり家庭訪問するからな。神楽との様子、チェックするからな。」

「なんだよ、それ。お節介。来んなよ。」

二花はシートの上の財布やスマートフォンや煙草をまとめた。

「ペットボトル。」

「はい。」

忘れそうになっていたペットボトルも、二花は抱えた。

「叩いて悪かったな。」

「そうだよ、痛いよ―でも、」

二花はチカの顔を見つめていた。

「もっと、打って。」

わざと甘えた声を出した。

「イヤなこった。」

「チカにもっと、お仕置きされたぁいっ。打たれたぁい。」

甘えたがりの二花が出てきた。

「オプションでつけてやる。一回、五百万円だ。」

「うわぁ、安ぅいっ!」

「それで破産させてやる、お前を。」

「そうしたら、身体で払うよ。俺を好きにしてください、あしながおじさん。」

「あしながおじさんプレイは、やらねえぞ、ここで。」

あしながおじさんごっこも、あった訳だ。
瑠璃は、うふふと笑う。

「好きだったよ、あしながおじさんプレイ。恥ずかしい格好させられてさ。」

「ここで言うな、二花。」

また、チカが身体で想い出してしまうではないか。

「そこ、瑠璃の座ってる助手席、俺の席だったんだよ。」

少し寂しそうな声を出した。

「今は瑠璃専用だ。」

このシートに、二花は座っていたのだ。
身体を横に向けて、運転しているチカの方をずっと見ていたろう。
可愛い顔をして。

「もう、二花くんに、ここは譲らないわよ。」

二花にも、誰にも譲らない。
が、子どもには譲ってしまうかもしれない。
いや、違う。
運転席の隣りは、いつも瑠璃、なのだ。

「そうだね。瑠璃、ありがとう。おやすみ。」

「おやすみなさい、二花くん。」

二花はあっさりと車から出て、家の鍵を開けて入っていった。

「さて。」

エンジンを掛け、チカは車を走らせる。

「アイツは寂しがりだから、ひとりになりたくない時は、何かと、ああやって間を伸ばそうとするんだ。」

「で、スッキリしたのね。」

自分の寂しさが解消されたら、さっさとひとりになるのだ。

「あー涼しいっ!」

エアコンの強い風が当たって、心地好い。
肌が乾燥にしないように、毎夜の手入れが必須だが。

「で、生き靈なんて、いたの?ホン卜に。」

「靈とか怖い事考えなくていいよ。人の思念って思えば。」

「いたのね。だあれ?」

「瑠璃、お前にだって無数のその手はくっついてくるんだぞ。」

「ええっ?」

瑠璃は思わず振り返って、自分の背中を見ようとしたが、シートしか見えなかった。

「お前を抱きたいっていう男や女や、お前さえいなければって妬む女が思念を飛ばすんだよ。」

「怖いっ!」

夜中の空氣感もあり、チカはわざと、おどろおどろしく雰囲氣を醸し出した。

「安心しろ。そんなのは俺が全部、祓ってやってるよ。」

「チカって何でも屋よね、ホント。」

至極、感心する。

「難しい事はない。全ては俺の愛だ。俺の瑠璃へのこの想いに、何者も敵うまい。」

「それなら、あたしもだわ。あなたにまとわりつく思念は、あたしが祓えるの。あたしなら。」

あなたへの想いは、何者にも負けない、から。

「そうだね。ありがとう、瑠璃。」

暗いが、チカが微笑んだのが判った。

「で、二花くんには、どんな思念が?」

「―アイツは誰からも愛されてんの、自分で氣づくしかねえよ。」

そう、ぼそりと言った。
意味は判らなかったが、瑠璃は何故か安心した。



トーチカ〜瑠璃シーン⑥中編16に続く

…………………………………………………………………………



俺のマグナムは瑠璃専用だ。ズキューン。

ウケてました。
書いてて。
チカの言動は時折予想がつかないから、よく笑わせてもらってます。

今回の二花の天然可愛らしさも、笑わせてもらいました。
二花らしい展開。

二花の弱さもまた、本音。
そして、神楽にその弱さを曝け出したのが、神楽シーン⑥後編

トーチカでいちばん怖い人は、チカでも瑠璃でもなくて、二花だと思うのです。
狂氣を抱えて生きてきた人。

胸に殺したいリストを掲げて、表では無邪氣に笑っている人。

もし、未来の神楽があの日、訪れなかったら、二花は本当に犯罪者になっていたかも、しれません。


神楽シーン⑥後編で、彼の狂氣を示しましたが、その癒やしは、ここらから始まっていた。



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