みずのこえ ことばこころほどき

ことばこころほどき、とは
あなたのかたくなった部分をほどくメッセージです。


テーマ:
今日もお話です。

トーチカ~神楽シーン⑥のテーマ、パートナーシップ、そして逢えない長い夜を越えて。

中編に入り、ようやく時間が進みます

前編で三実と瞬の子が生まれました。
楽(ガク)と名付けられた男の子。
神楽の弟、二花の甥、という間柄の子。
親族となった神楽と二花。


そして、神楽シーン⑥は、瑠璃チカの結婚式まで話が進んでいきます

トーチカ~神楽シーン⑥前編6


浮気はもうゴメンだけど
それが神楽の燃える素材となり
二花の強い独占欲が見えてきました。

しかも、かなりの変態度が判明。
重厚な道具……
わたしは勘弁ですが、他人は口出しすることじゃない。
(他人のわたしは激しくツッコミながら、書く。)
他人には見えない、それぞれのカップルの楽しみ方。

ドSの神楽ちゃんはいきなり、どうしちゃったの?
という答えは、今回。

高山奈美子というキャラは、
わたしはとても好きでした。
二花に関わらなければ、しあわせに生きられる娘、です。

未来を知っている、
でも、現実での恋愛を味わい始めた神楽は、どう成長していくのでしょう。



トーチカ神楽シーン①
東三河に住む、未来を知っている少女
神楽の眼線

トーチカ~瑠璃シーン①
神奈川に住む、モデルの美少女
瑠璃の眼線

交互に同時期を書いていきます。
どちらにも童顔の二花(つぐはる)が絡んできます。

それ以前の物語はこちら

来る潮帰る波
神楽の母が亡くなったことを、その兄(神楽の父になった人)が回顧する話

実になる花~追伸
モデル瑠璃の母、女優実花と、父、アーティスト椎也の物語。

神楽シーン⑥中編のBGMは
globeの"Wanderin' Destiny"

それと松山千春さんの"長い夜"
ビリー・ジョエル"Just The Way You are"

これは男性からの激しい恋の歌。


あとは二花のテーマ曲とも言える、切ない曲と楽しい曲が流れています。



トーチカ~神楽シーン⑥中編1


夏休みに入り、神楽も二花も互いに行ったり来たりが多くなった。
三実は気にしないで、と笑っているが、やはり、よく泣く赤ん坊の楽の世話は大変だ。
家事は出来るだけ負担してやりたい。
料理も下ごしらえをしたり、作った物を冷凍したりして、熟せるだけこなしてから、二花の家に行く。

「受験生だし、ムリせんでね。」

三実は笑って言った。

「でもさあ、実際に受験勉強を意識してみても、普段の勉強と変わんないんだもん。」

「神楽ちゃんは勉強好きだもんね。」

三実は笑って言った。

「あたしは地味だから。遊びも別にしたい訳じゃないし。部活もしとらんし、家におる時間が長かったら、集中して勉強出来るら?」

「何処が地味?最高の遊びをしとるクセに。あたしは、家におっても、勉強する気にもなれんかったよ。」

三実は、楽に授乳しながら、神楽の淹れてくれたハーブティーを飲んだ。

「あたしは引きこもりだったけどさ。父も母も死んで、いい思い出の少ない家も解体して、兄妹三人で暮らしてたアパートで、ひとり昼間も家におるわけよ。窓開けて、ただ雲の流れを見とる、とかね。」

「そんでも、その後、高校に通ったんでしょ?」

神楽はエアコンの風の流れを調整した。
楽に余り風が掛からないように。

「うん、十六歳で夜間に入学して。新しい人生を生きたかったんだけど、でも、別に楽しくなかったな。二花も大学で神奈川に行ったから、あたしひとりになっちゃったし。そしたら、何だか、別に、いつでも結局ひとりなんだしって思ったら、学校通うの楽しくなっとってね。昼間もバイト始めたんだ。」

「ひとりの生活も楽しかったんだ?」

「うん。遊びまくったよ!でも、結婚しちゃったけどね。」

二花は大学に通う為に、妹をひとりにしてしまった事を、今でもあれで良かったのか悔やんでいる。
地元から出て関東に行きたかったのだが、それを三実に申し訳なく思っている。
二花からその話を、よく聞く。
だが、それで三実は動けるようになったのだ。
その嘆きを聞けば、神楽は二花の頭を撫でて、にこっと笑う。
良かったんだよ、と言葉にしてあげる。

長男の一葉―かずは―は二花より四歳上で、二花にとっては、兄というよりも父のような存在だった。
一葉は長男として厳しく育てられて、しっかりしていたので、二花はいつも頼りにしていた。
しかし事件が起きてから、普通に会話はするが、互いに何処か距離を置き始めた。
一葉は、二花が十七歳の時に先にそのアパートから出て、ひとり暮らしを始めた。

父は女の子を欲しがっていたが、母からはなかなか産まれず、次男の二花がようやく産まれた時に、女児ではないので母を詰ったのだという。

愛人も多かった、二花たちの父。
先に女児が二人、愛人たちの腹から産まれていた。
父は女の子を猫可愛がりしたという。
それも含めて、母は二花を憎く思うになったのだ。
父は、すぐに二花の可愛らしさに異様にメロメロになっていった事もあり、母は二花を育児放棄した。
お手伝いさんがいるような家だから、乳幼児の二花の世話は別段、支障はなかったが。
年子で念願の女児の三実が産まれても、もはや父は、二花ばかりを可愛がった。

母の人生って何だったんだろうね?と、二花が一回、口に溢した事がある。
神楽に何となく判るのは、それでも二花の母は夫を深く愛していたのだ、という事。
夫が自死をして、彼のいない人生が耐えられなかったのだろう。
だから、後追いをしたのだ。
神楽は、そういう愛のカタチなんだね、とだけ呟いておいた。

「最初の結婚生活は?楽しかった?」

「うん。楽しかったよ。でも何だか、どんどん、ただの同居人みたいになっとってさ。仲は良かったんだけど、ほら、夜の夫婦の生活が無いのが何年も続いちゃって。これって、どうなんだろーって悲しくなってさ。自分に魅力が無いのかって。……あたし、あの頃、何人も男の人としたわ。離婚してからは、さっぱりだけどね。」

「そっか。」

なかなか波瀾万丈な三実の人生。
今は穏やかにしあわせに暮らせて、良かったと神楽は心より思うのだ。

楽が満足したのか、乳を口から離して、手で母の乳 首を触り出した。

「男の人がお っぱい好きって、こういう母親の記憶があるからなのかやあ?」

「そうかもね。」

三実も笑っていた。

「じゃあ、楽も、お っぱい好きになるんだ。」

「それは、どうかねえ?男って単純だね。」

二花はどうだったのだろう?
最初は母親も、二花の世話をしたろうか?
授乳もしたろうか?
あの巨乳好き。
神楽の小さな胸も、嬉しそうに揉 むのだから。
神楽は、ふっと笑った。

「あ、どうなの?」

「え?」

神楽の突然の問いに、三実は聞き返した。

「乳、お父さんにも吸わせてあげたの?」

「もうっ!神楽ちゃんっ!」

三実は驚いた顔をして、神楽の肩を軽く叩いた。

「じゃあ、あたしもお っぱい弄 られに行ってきます!」

「神楽ちゃん……」

三実は呆れていた。

「親父ギャグ度が上がっとるよ!」

「うーん。ジジイとおるからかやあ?」

神楽は笑って楽の頭を撫でた。
楽は、にこっと笑い返してくれる。

「よく寝るだよ!ママを困らせんでね。」

「そうしてくれるといいね。」

三実は服を整え、玄関まで神楽を見送った。
神楽は笑って、継母と弟に手を振り、家を出ていった。



……………………………………………………………………………


今回は高校の見学もある。
入学希望者に学舎を見せてくれ、説明をしてくれる。
明日、それに向かうのだ。

「カグ。」

新幹線で新横浜駅に着いて、途中の駅まで在来線で進む。
そこで待ち合わせをしていた。
人が通り過ぎていく中でも、手を振った彼は一際目立つ。
服装も制服だし、まだズバ抜けて背が高い、という訳でもないが、とにかく醸し出す雰囲気が、彼を目立たせる。
周囲の人々が、よく彼を見ている。

「待った?」

「いや。」

幹也は当たり前かのように神楽のスーツケースを手に取り、自分で引いていく。
こういう行為が当然のように普通だから、絶対に他人から誤解されると思うのだ。
それは困るし、神楽はいつでも左手に婚約指環を着けている。

「旨いプリンだから、カグにも食べさせたくて。」

この近くに、その店があるという。
これでは、まるでデートだ。
しかし、幹也には、その意識は無い。
いつも通りに友だちと遊ぶ、その感覚だ。

「ミッキー、甘いの好き?」

「俺、女子が好きなスィーツ好きだよ。だけど、ひとりだと、ちょっと。」

「だから、あたしを誘ったんでしょ?」

「うん、まあ。他の奴ら、もう飽きたって言うし。」

「誰も一緒に行ってくれんから、あたしを誘ったんだ?」

「まあねー。」

幹也は笑っていた。
今日も部活だったそうだし、学校の友人たちとは、日々楽しくしているみたいだ。
男も女も。
だけどまだ、地元の子たちとは、拗れたままだ。
幹也が彼らに何かを言って歩み寄るのは、とても怖いのだろう。
でもきっと、傷つけた彼らも、関係修復の糸口を探しているに違いない。

「握手してください!」

「あ、ハイ。」

幹也はよく、女の子に声を掛けられる。
彼も、それに慣れたみたいだ。
手を出して、高校生くらいの女の子三人と握手をしてあげる。
彼女たちは横の神楽を見て、キャッキャッと騒いで、去っていった。
誤解されたかも。
神楽は苦笑して、幹也を見上げた。

「俺、芸能人じゃないのに、何が楽しいんだろ?」

神楽の笑いを、幹也はそう解釈したようだ。

「えー。純粋にいい男に握手してもらって、嬉しいと思うよ、女子は。」

「そんなモン?」

「そんなモンよ、女は。好きな人には触れたい、でしょ?」

「うん……」

幹也は少し、赤くなった。
好きな子の事を考えている。
その時の顔が、とても、セクシーだ。

「こないだ、肩叩いて……そんで頭グシャって撫でたんだ。笑ってたから、気持ち悪がられてないよな?」

「良かったじゃん!」

神楽は幹也の、その成功話にとても喜んだ。

「うん。けど、ヤバいね。」

「ん?」

伏せた眼。
その切なさが、色気を引き立てる。

「もっと触りたくなる。抱きしめたくなる。」

「そうだね。」

神楽は頷いて、幹也の背中を叩いた。

「がんばれーっ!幹也がいつも見つめとれば、その気になるかもだから!」

「……がんばって、みる。」

自分に魅力があるのは、幹也はもう、気づいている。
これだけ周りは自分を見てくる。
男も女も、幹也を見つめてくる。
最近はよく、自分もゲイだという男に、頑張ってと普通に声を掛けられて、自信がついてきたようだ。

店に入り、幹也オススメのプリンを食べた。
美味しいは美味しいが、格別に虜になる、という訳でも無かった。

「っかっしーな。俺の味覚、ヘン?」

「ヘンじゃないけど。美味しいし。幹也が、このプリン大好きって事だよ。」

「くっそー。みんなに喰わせてやる。」

幹也は家族にお土産としてプリンを買っていった。
それから電車に乗り、ロングシートにふたり並んで座る。
幹也は顔を上げて、神楽と話している。

「明日、俺が送ってってやろうか?」

「いい。変に誤解されると、ヤダ。」

制服を着ていくし、指環も着けられないから、幹也と並んでいると彼女と勘違いされるのだけは避けたい。

「ふーん。メンドくさいね。」

「ミッキーがそんなに格好良くなかったら、面倒くさくないけど。」

「そっか。」

男は自信がつくと、俄然、覇気が出てくる。
それがよく判る。
幹也の登下校の電車内の様子は判らないが、前程、俯いてはいないのではないのかと予想する。
音楽を聴いている振りをして、顔を上げて眼を瞑っている。
俺の顔が見たいなら、どうぞ、見てれば?
というスタンスには成長している、だろう。

駅に着いて、降車する。
並んで歩いている。
陽射しの厳しい時間。
暑さに汗は吹き出るし、日射が眩しすぎる。

「カグ、縮んだ?」

「やな言い方!」

神楽の身長は春に計測したら去年と一センチメートルしか伸びていなかった。
中学三年生の女子はもう、身長の伸びは落ち着いている頃だが、これだけ伸びても幹也はこれからがピークなのだろう。
十三歳の幹也。

「春より、もっと伸びたね、幹也。」

「計ってないけどね。姉ちゃん越えたし。」

姉の身長を越えた、というのが、とても嬉しいらしい。
どうも、姉に勝ちたい、というのか、見下したいらしい。

「スゴいじゃん!」

「次はパパだよ。……絶対に、越える。」

父親の身長を越える、というのも男の子にとっては夢なのだろう。

「そんで、チカも越える。」

「そんなに背が高くなって、幹也は何がしたいのさ?」

神楽の質問に、汗だくの幹也は黙って考えていた。

「別に。家族の誰よりも高くなりたいだけ。」

「制圧したいんだ?」

「はあ?高くなりたいだけだよ。」

神楽の言葉に、大仰に反応した。

「あたし、幹也がなりたいもの、判ったやー。」

「は?神楽が?」

幹也は、少し不満そうな顔をして、神楽を見下ろしていた。

「幹也は、椎也の子、南藤実花の子、森下瑠璃の弟、じゃない、ひとりの男としての森下幹也って、誰からも認められたいんだ。特に家族から。」

幹也は前を見て歩いていた。
それは当たり前でありながら、彼が奪われた、と思っている自由なのだろう。

「別に何になろうとせんでも、いいよね。自分が自分に自信があれば。」

返事はしなかったが、幹也はそれが言葉としてよく理解出来たようだった。

二花の家の前に着いた。
二花の車は無いし、今日は椎也のニューアルバムの音入れに出ているから、夜まで帰らない。

「夫もおらんから、お茶でもどうぞ、て言いたいとこだけど、二花は残った匂いで判るからね。」

「家に入っただけで、俺、殺されるな。力は俺のが強いかもだけど、あらゆる方法で殺してくると思う。」

それは、納得した。
神楽は笑っていた。

「……カグ、可愛いね。もう嫁だ。」

幹也はそう言って、笑った。

「ミッキー、嬉しいけどさ。思ったから素直に、そう口にしたんだろうけど。そういうストレートな褒め言葉、言われた女の子は誤解するに。」

「んー。そっか。」

思い当たる節があるらしい。
幹也は汗に濡れた頭を掻いていた。
極普通に、女性の服や装飾品を見て、それ可愛いね、だとか、仕草を見て、綺麗だね、可愛いね、と感想を漏らすのだろう。

「姉ちゃんもそうなんだけどさ、神楽も、もう嫁なんだよね。やる事とか言う事が。俺はさ、そういうの、スゴく可愛いと思うんだ。」

天性のモテ男かもしれない。
神楽は軽く溜め息をついた。

「そういう存在が幹也にも現れるといいねっ!」

「ん。でも、俺が世話するかもね。」

はにかんでいた。

「あっちー!早くシャワー、浴びよっと!」

幹也はスーツケースをその場に置いて、背を向けた。

「そんで、オナ ろっと。」

「それ、いちいち報告してこんで、いいよ!」

幹也は時々、一回目、二回目、三回目、とカウントして都度、連絡を入れてくる。
神楽をからかっているのか、真剣なのか。

「今日はそんな暇ないかも。夕方に知愛、保育園に迎えに行くし。ママも帰り少し遅くなるから、メシ作っとくし。」

「えー、大変じゃん!知愛ちゃんとふたりきりかあ。」

「大変だよ。あの、おテンバ。ふたりきりってのも、もう馴れたけど。大人しいからって安心してると、すぐ悪さしてるから。」

二花が嫉妬しなければ、家においでよと誘うか、家にお邪魔して夕食の手伝いもしたいものだが。
幹也が格好いいから、下心あるんだな?と、すぐに激しく妬いてくるのだから。

「がんばれーっ!幹也、ありがとーっ!」

去っていく背中に神楽は大きく声を掛けた。
幹也は手を振っていた。
神楽は眩しそうに空を見上げてから、鍵で玄関の扉を開けてから、家の中に入っていった。



……………………………………………………………………………



夏休みより前の、二花の誕生日の時は、二花が神楽の家に来た。

「あたしお金そんなに持っとらんから、プレゼント、何あげたらいいか、ホント困るんだ。二花に貰ってばっかだし。」

高級品が多い、二花の持ち物。
お小遣い程度の金額では、到底、それには不釣り合いだ。
以前、時計が壊れた、と言ってから腕時計を着けていないので、本当はそんなお洒落な物が買えたらいいのだけど。

「神楽。」

二花は微笑んで、神楽の頭を撫でた。

「俺は、神楽がいれば、それでいいんだ。」

「でもさ、二花。来年からも、あたし学生だし、無収入だし。その先は専業主婦だし。いい物あげたいのに、プレゼント何もあげられんのは、寂しいよ。」

とても寂しそうな神楽の俯いた額に、二花はくちづけをした。

「神楽。家計を預かってよね。」

二花の言葉に、神楽は顔を上げた。

「神楽にお金渡すからさ。それで毎月やりくりしてってよ。その中から、神楽が好きな分だけ、お小遣いにしてもいいし、俺が金額決めてお小遣い渡してもいい。」

神楽を引き寄せ、抱きしめる。

「給料って言ったら変な言い方だけど、当たり前だよね?神楽は家の事をしてくれる。俺の稼いだお金は、妻の神楽のものでもあるんだよ。それは当然なんだから。」

「うん……。」

二花の渡す金額って、どんな額だろうか。
それもカルチャーショックかもしれない。
だけれども、二花の稼いだ金。
二花は良い物しか選ばない。
金額が低かろうと高かろうと気にしないで、自分が好んだ物を選ぶ。
二花の家の中や冷蔵庫の中身を見れば、二花の好みが判る。
それを変わらず買ってあげたい。

だから、神楽がしている実家でのやりくりよりも、きっとかなり高額な生活費になる。
それが、二花の稼ぎや生活なのだから、そこで勿体無いと節約し過ぎないようにしないと。
この人の触れた物、食べた物が全て音楽への情熱になるのだから、せせこましくしない。

「だからさ。神楽のお小遣いの中から貯めるなりして、俺へのプレゼント選んでよ。」

ニコニコとしている二花。

「はい。」

「うん。神楽、可愛いよ。」

あたしは、幹也に可愛いと言われるよりも、この体温を感じられる人に可愛いと言われる方が、何倍もドキドキする。
神楽は赤くなって、二花に抱きついた。

「毎月、百万とかでもいいよ。神楽のお小遣い。贅沢して。」

「二花が言うからには、それ、冗談じゃないら?」

「俺、冗談言う事、ある?」

そう言えば、余り無い。
基本的に真面目な人なのか。
遊びはするけれど。

「うーん。でも、百万は行き過ぎだよ。」

神楽にとっては、もはや冗談の世界なのだから。

「じゃあ、アレだよ。俺がいきなり死んだら生活困るからさ、貯めときなよ。」

「それは冗談だ?」

神楽は笑って、二花の額に額をつける。

「冗談だけど、半分本気。俺、神楽より随分ジジイなのは確かだよ。……いつかは、俺が先に死ぬね。だから。」

優しくキスをしてくる。

「俺死んでも、神楽に苦労はさせないから。」

その覚悟は、とてもよく判る。

「まだ、死んじゃ、いや。」

神楽はしがみついてくる。

「まだ、死なないよー。」

二花は、笑って強く神楽を抱き寄せる。

「俺、老けないようにするから。神楽に似合うように。」

「そうね。少年のままでおってね。」

神楽は机の上から封筒を取り、二花に渡した。

「あたしからのお誕生日プレゼント。」

神楽は少し恥ずかしそうにして言う。

「帰ってから、読んで。」

「手紙?俺に?」

二花は嬉しそうに、少年の笑顔を見せた。

「今、読みたい。」

「ダメ。ひとりの時に読んで。」

「神楽から手紙貰うなんて久し振りだよ!すっごく嬉しいっ!」

二花は本気で喜んでいる。
神楽には、それが判った。
ああ、この人を好きになって良かった。
その熱い気持ちが胸に染み渡り、涙が零れ落ちてくる。

「好きっ……!」

神楽は感極まって、二花の唇に何回もキスをする。

「俺も好きだ、神楽っ!」

そのキスのリードを二花に奪われる。

「生理……終わったばっか……少し出るかも。」

Tシャツに手を入れてくる二花に、神楽はそう告げた。

「いいよ。神楽の血、あの時見たよ。」

初めての印。
あなたに捧げた印。
あなたの白い血と混じった証。

「舐めとけば、よかった。」

「今更、だ……」

あなたで良かった、あたしの初めてが。
そして、永遠にあなた、だけ。

「お誕生日、おめでと……ぉ、二花。」

「ありがとう、神楽。」

「あっ、」

仰け反り、ただ二花にしがみつく。
あたしはあなたの虜。
あなたが年をひとつ重ねる度に、あたしとの想い出は、より濃くなる。
離さない、永遠に、それを濃くしていくから。


………………………………………………………………………



ガサッと音がして、神楽は眼を醒ました。

「あっ、」

ぱっちりと眼を開けた神楽に、二花は残念そうに声を出す。

「おかえり、二花。」

「ただいま、神楽。」

上半身は裸、チノパンを脱ぐ最中だった二花は神楽を見下ろしていた。

「寝てるあたしに、何しようとしとったか、大体判る。」

「ヘンタイの彼女は、流石だね。」

神楽はドキドキしていた。
寝ている処をいきなり。
それを想像すると、身体が疼く。

「窓開けてないで、ちゃんとエアコン使ってたから、合格。」

二花は喋りながら、全部脱いでいった。
ひとりでいる夜は、不用心に窓を開けていないように、神楽に言い聞かせてある。

「ほら。」

神楽の口の中に入れ込んでくる。

「お望みのモノ。」

神楽は右手でそれを掴んで、嬉しそうに作業をしていく。

「あー、いいよ……いい。ずっと室内だったけど、汗は掻いたね。でも、神楽はその方がいいんだよね?」

ベッドの神楽の胸辺りを跨いで、二花は神楽を見下ろしている。

「いい、いい……。俺、昼間もずっと想像してたから、きっと早いよ。」

官能の世界に入り込んで、鍵盤を弾いていたのか。
神楽は、ぼんやりと、二花の言う事を聞いていた。

「神楽……俺だけだよ。こんな事、俺だけ、だ。他の男に、綺麗って見られて、いつも喜んでんのか?許さないからな。俺だけの……咥 えろ。」

行為の最中に、突然、嫉妬が入る。
神楽の恍惚とした表情を見つつ、他の男に愛されて悦んでいる光景が、二花の脳裏に浮かんだろう。
これが、鬱陶しかったろう、瑠璃は。
だけど、あたしは、二花の独占欲が強まる程に、燃えるのだ。

「うっ、」

二花の悦ぶ事を、あたしはしてあげる。
それが、あたしの悦び。
あたしの悦びの時間。
あたしの快楽。

「そんな、美味そうに……なんて、や らしい顔!お前は俺無しじゃ、いられないな……」

二花の征服する悦び。
それを掻き立てる。
あたしは、降伏する。

「神楽……神楽……神楽……」

うわ言の様に、何度も呼び返す。

「お前だけだ……」

あなた、だけ。
あたしは受け止める。
あなたの全てを受け止める、から。

ふたりでシャワーを浴びて部屋に戻り、エアコンを消す。
海側の窓を開け放った。
上半身裸のままで、二花はビール缶のプルトップを開ける。
バスタオルを胸に巻いた神楽が鏡の前に座って、鏡を見ながら、タオルで頭を拭いていた。
その後ろ姿が、火照った色に変化しているうなじが、とてつもなく色っぽい。
二花は神楽の後ろに寄り、神楽の巻いているバスタオルを外した。

「二花……」

とても恥じらっていた。

「いつも見てるのに。」

二花はビール缶を右手に持ちながら、その背中に唇を這わす。
彼女は、すぐに反応する。
鏡には、突 起した乳 首が映し出されている。
まるで、触って、弄 って、と告げているかのように。
ビール缶をそのまま床に置き、彼女の望み通りに、指で摘 む。

「あっ……」

悦びの声。
開いた口。
飛び出てくる舌。
細めた眼。

「全部、鏡に映ってるよ。」

その囁きも、さらに悦びを促す。
後ろから身体を愛撫していくと、彼女は尻を突 き出すから、それが彼女の望むタイミングだ。
抵抗もなく、受入れつつ、喘 ぐ。
また、排卵 期だ。
この時は、彼女は更に色気が増すのだ。
雌が望む事を、雄は倍にして悦びにする。
犬のように、背後からしっかりと密着し、交 わった。

「ほら、こんなに垂 れてる。」

頭を押さえ込み、その下を確認させた。
そうすると、より悦ぶから。
この娘はいつから、征服される悦びに身を任すようになったか。

あれは三月に入ってすぐの沖縄に経つ前、瑠璃の大きな広告を空港で見た時、二花は瑠璃の扇情的な姿に過去を垣間見て、反応した。
瑠璃の初めての時を、やたらと想い出した。
神楽はそれを揶揄し、搭乗した後も何回も、それを口にしてきた。
那覇空港に着いた時も、その広告はあった。
瑠璃は、とうとうここまで来た。
世界に立った。
そう実感して、その広告の瑠璃を見ていた。
嫉妬……を後ろから感じた。
その二花を見ている神楽の眼に嫉妬を見つけ、二花は悦びを隠した。
その夜、初めて攻めて攻め抜いた。
神楽は大きく快楽に入っていった。
この娘は鍛えると、こっちに傾倒する、と判った。
だから、徹底的に攻めた。
二花好みの女にしようと決めた。

手を縛っていいかと聞いたら、震えていた。
息を荒くして、震えていた。
勝った、と思った。
決して勝ち負けでは無いが、征服する悦びが身体を貫いた。
それなのに、沖縄の後に忙しくなり、神楽に逢えない日々が続いた。
確かに苛立ち、高まった性 欲を、他の女で解消してしまった。
男が久しい高山奈美子も、反応がとても良かったのだけど。

ああ、だけど、神楽ほど、悦びに泣く女はいない。
神楽ほど、愛しい娘はいない。
この娘と毎日逢いたい。
毎日、征服したい。

「俺、ジジイになったのかな。」

煙草を吸いながら、床にそのままで寝転んでいる神楽にタオルケットを掛け、その頭を撫でている。

「ジジイ、だけど?」 

眼を開けないで、神楽は答えた。

「前より、やる事がねちっこくなった。しつこく、いいのか?サイコーか?って聞いてくる中年がウザいって思ってたのに、気づいたら、俺がそんな事、言ってる。」

「あたしがいいって返さないと、満足しんもんね。」

神楽の返答に、二花は慌てた。

「ごめん。良くないのに、俺がしつこいから、いいって演技してた?」

神楽はパチっと大きな眼を開ける。

「あれが演技だと思う?あんなに感じとるのに?」

確かに身体の反応は、こっちが痺れそうな程だ。

「それが中年ジジイの特徴でも、あたしは、二花にそれをされるのが、好き。恥ずかしい事、言わされると、余計に燃えるの。」

「判るよ。神楽の、あの返し方。最高だよ。」

神楽の口に指を入れる。
神楽は嬉しそうに、それを吸った。

「二回目でも、いっぱい、出したね。」

神楽は股を開いて、それを見せてきた。

「うん。少し溜まってたね。」

「三日振り、で、溜まってた?」

「そりゃあ。」

「ジジイのクセに、スゴいわ。」

「そうかな?」

神楽が二花の腕を掴む。
唾液で濡れた二花の指を、神楽の胸に置いた。

「中に 出してね、いっぱい。」

そう彼女にせがまれると、腰の辺りがモヤモヤしてくるのだ。
そして、神楽が求める度に、彼女は艶やかになる。

昼間はそれを反芻して、また、ピアノで曲を奏でたくなる。
そして、より気持ちが入り込む。


…………………………………………………………………………


神楽は弁当を作って持っていくと言うので、二花も作って!とリクエストしてきた。

「愛妻弁当……」

翌朝、二花はその弁当を見て、やたらと感動していた。

「それを、椎也くんやメンバーの前で食べるの?恥ずかしいわ。」

神楽は照れる、というより呆れていた。

「え?俺は嬉し過ぎするんだけど。」

この人、こんなキャラだったか?
神楽は笑って、そんな単純な二花を見ていた。
二花がそれまでの人生で考えもしなかった、結婚、そして妻の座。
そこに、あたしはいる、その歓び。

「女子らしい可愛いもんじゃなくて、所帯染みたおかずだわ。キャラ弁にしたら、良かったかや?」

「俺はこれでいいよ。神楽の作るおかずが好きだ。」

「そんならいいけど。」

しかし、可愛らしい弁当作りも勉強しよう。
神楽は、そう内心で考えていた。

朝食を食べ、洗濯物を外に干して、二花が珈琲を淹れてくれる。
ついでに車で送ると言った。

「心配だしね。」

「何処が?」

二花が運転席に座ったので、神楽は助手席に座った。
この外国車も、乗り慣れてきた。

「そんなセーラー服を着た、可愛い神楽。痴漢されないか、他の男が見つめてこないか、心配で。」

「こんな田舎のセーラー服、都会じゃあ恥ずかしいわ。」

「これがいいんだよっ!この正統派セーラー服、しかも白地の夏服が男の気持ちをくすぐるんだ。」

二花は気持ちを込めて言う。

「さすが、制服フェチは言う事がプロ級だわ。」

神楽は二花を、わざと冷ややかに見ていた。

「……瞬の家じゃあ、流石にセーラー服着たまま、とか、抵抗あるけど。」

サングラスを掛けて運転をしている二花は、眼元を緩ませていた。

「今日、早く帰るから、夜それ、着て。」

「やっぱり、そうなのね。」

呆れながらも、神楽は笑い出した。

「想像すると、あたしも萌えるわ。」

「だろ?」

下着だけ脱がして、そして。
瑠璃にしてきた、事。
瑠璃にした事を自分にもしようとするのは嫉妬もするし、呆れてしまうけれど、それをされると思うと、興奮する。

「だから、帰りは気をつけて。後ろ、特に注意しなよ。」

「うん、判った。」

二花は格別に心配症だけど、神楽も男には、特に気をつけている。
二花には言わないが、地元の同年の男の子や、何処で見かけたのか高校生も、下校中、何人か神楽に遊ばない?と声を掛けてくる。
全て面倒くさく断るけれど。
ましてや、先週はここに来る時に、電車の中で大学生くらいの男に声を掛けられた。
幹也の気持ちが実に判った。
電車の中ではイヤホンをする気持ちが。

「ここが。へえ。ここに幹也通ってんだ。」

通用門の前に着いた。
何だかんだで、二花は幹也が気になる。
それは逞しく成長した男、だからではなく、自分が世話をした子だからだ。
幹也の行方はとても、陰ながら応援している。

「偏差値はちょっと高いけど、自由な校風ていうのが、いい。」

幹也に話を聞いていたら、この中高一貫校の雰囲気が、とても今後の神楽に合うように思えたのだ。
幹也自身は芸能人になるつもりは全くないが、親や姉が芸能人という事で必然的に人に騒がれるのと、今年は瑠璃の結婚もあるし、きっとメディアも大騒ぎする事により自分にも弊害が起きるから、何かと規則が緩い方が気持ち的にも楽らしい。

神楽は自分の名前や姿をメディアに晒しはしないけれど、二花のパートナーとして海外にも付いていくのだから、結局、神楽も人からも騒がれるだろう。
だから、芸能人も多数いるという、この高校に的を絞った。
脳科学を特に勉強出来る訳ではないが、理数系に入学希望だ。

「神楽のお気に召す学校だといいね。」

二花は神楽の頭を撫でた。

「うんっ!」

知らない地の初めての学校、少し怖気づいていた神楽は、二花の温もりに安堵して笑った。

「俺はいつでも、気持ちは神楽の隣りにいるから。」

「うん。」

「俺は愛妻弁当、楽しみに昼を待つから。」

「うん。」

神楽は嬉しそうに笑って車をから出て、去る二花の車に手を振った。
校門を抜け、気持ちが引き締まる。
校舎内で受付をして、講堂で学校の説明を受ける。
中高一貫校だから、高等部からの受入れ人数は、そう多くない。
けれど、やはり受験に向けての見学会。
それなりの人数がいた。

みんながみんな本当に、ここに受験をする訳でも無いだろうし、受験時には更に人数が増える事だってあるだろう。
偏差値にムリはないが、神楽は少し緊張した。
その緊張感が、自分を引き締めるのだと、心地好くもあった。
全体的な説明のあと、志望科によって教室毎に別れ、映し出されている授業風景の様子を観た。
その後、そこで昼食タイムとなった。

「やっぱ、高校からだと難関だよねえ?」

隣の席の、お洒落で愛らしいタイのセーラー服の娘が声を掛けてきた。

「うん、だよねえ。」

神楽も、頷いて、そう返事をした。

「なんか頭良さそうな子ばっかで、キョドるよ。」

「あはは、判る!」

周りが知らない人物ばかりなのは、県外からの神楽だけではないと知った。

「何処からあ?見慣れない制服。」

そう聞かれた。

「あたしは愛知だよ。」

「愛知?わざわさ、ここに来たくて?」

その女の子は、とても驚いていた。

「あ、違くて。来年、こっちに来るから、高校探して。偶然、ここが良かったの。」

「へえ?引っ越し?」

サンドイッチを食べながら、彼女は聞いてきた。

「ううん。あたしだけ、親戚の家に行くから。」

二花とは、本当に親戚になったから、嘘ではない。

「ふーん。そんで、わざわざココ選ぶって、頭いいんだ?」

「あなたもでしょ?頭いいから、選んだんでしょ?」

謙遜も肯定もせず、神楽はそう言い、聞き返した。

「あたしのトコはちょーラクーな中高一貫校。苦労しないように親が勧めたけどさ、勉強すんのは、全然物足んないんだよね。」

「受験せんで済む中高一貫校通ってて、わざわざ、またここに受験するの?スゴいね。」

きっと、その学校で成績はトップクラスなのだろう。
神楽は改めて緊張した。
トップクラスの子の集まる、この学校。
本格的に気を引き締めないと。

午後は校内の見学や、部活動の見学をした。
グラウンドで運動部の説明も聞いた。
全く興味が無かったが。
中等部とは部活動も分かれているのか、最初は幹也の姿を見つけられなかった。
学校周りを走ってきていたのか、グラウンド内に走ってきた幹也を見つけた。
幹也くーん!と黄色い声援が飛び出したから、すぐに判った。

逞しい脹脛、太腿。
駆ける長い脚。
真っ直ぐを見ている真剣な眼差し。
これも絵になるよなあ、と神楽は遠くから溜め息をついた。

「あ、あれ、瑠璃ちゃんの弟だ。」

昼に話し掛けてきた娘が、そう声に出した。

「すげー。ちょー格好いいと思わない?」

神楽にそう、同意を求めてきた。

「うん、ほんと。格好いいね。」

それは事実だ。
幹也の姿に見惚れるのも、真実だ。
たけど、それはアイドル的な憧れに似ている、神楽はそう思った。

「瑠璃ちゃんさあ、卒業するまで、うちの学校の先輩だったよ。すげーキレーだったあ!校内で見られるの、ちょー嬉しかった!」

そうか。
瑠璃の通っていた中高一貫校の生徒なのだ。
この制服を瑠璃が着ていた。
頭の中で想像して、凄まじさを感じた。
胸に小玉スイカを二玉抱えている瑠璃がこれを着たら、まさしくコスプレだ。
男が見たら興奮するだろう。

「そっか。瑠璃ちゃんが、そのマニアックな制服を……」

「すげかったよ。ダイナマイトボディで、悩殺されまくってたもん、女子たち。」

女の子も興奮したか。
そりゃあ、そうだろう。
瑠璃ファンの神楽も実際にこの眼で見たら、興奮する自信はある。
今現在、運動部の説明を受けている女子のみならず、男子も幹也に見惚れていた、と神楽は見てとれた。
野性的で綺麗な生き物。
そういう眼線だ。

グラウンドの運動部の説明が一通り終わり、神楽は、走り終わってタオルで汗を拭きながら水筒の茶を飲みながら、他の子らと仲良さそうに話している幹也をチラッと見てから、その場を離れた。
男も女も、友だちは多そうだ。
ただ、当たり障りの無い会話の仲なのかもしれない。

見学会が終わり、神楽はやはり、ここに志望を絞ろうと決めた。
学業には厳しいが、留学の制度があったり、学生が自由な雰囲気を、とても受けたから。

「愛知に帰るの?」

先程の女子が声を掛けていた。

「ううん。親戚の家に泊まる。」

「親戚の家、どこ?」

「あっち。」

多分、方向はこっちだと思う、と、神楽は指を指した。
彼女はそれを見て、ぷっと笑った。

「何か、綺麗なのにヘンで面白いね。佐々田さん。」

彼女は笑っていた。

「駅行くよね?」

「うん。」

「一緒に行こ?」

「うん。」

神楽は話し掛けられたり誘われると、嫌だったらはっきり断るが、そうでないのなら誰とでも、その場の会話をする。
物言いも雰囲気も小さい頃から大人びていて、ひとりで行動するし、学校でも浮いた存在で、周囲の子どもたちには取っ付きにくいだろう。
だが、嫌われているのではなく、意思がはっきりしていて嘘をつかなさそうという信頼は同級生からあるので、普段ひとりでいても、孤独そうという雰囲気はない。
むしろ、群れないでひとりが似合う、可愛くて格好いい女の子、とクラスメイトから認められている。
しかも去年から、さらに大人っぽくなり綺麗さが増した。
大人の女性の色気を感じ取れる男子から、密かに憧れているのにも、神楽は知らない。

「島野さんは、家は近くなの?」

一応、聞いてみた。

「家から二駅だよ。」

「近くていいじゃん。」

「受かればね。」

「そうだね。」

神楽には混む時間の電車通学は辛いけれど、とりあえず受からないといけない。
ただ、通うのがどうしても嫌ならば、ここに限定しなくてもいいと、神楽は固執はしていない。
通信教育なりの高校にしてもいいと思っている。
その前に、とにかく挑戦はしてみたい。

校門を出た処で、少し賑わっている男女の集団があった。
在校生が集まっているらしい。
それを横眼にして、神楽は通り過ぎようとした。

「カグ。」

その声で、その集団の真ん中に幹也がいる、と神楽は気づいた。
また、厄介な時に声を掛けてきて。
神楽は幹也の姿を見ないまま、溜め息をついた。
その集団の視線が一気に神楽に集中するのが判ったからだ。
出来る限り、地味に生きていきたいのに。

「カグ、終わったんなら、一緒に帰ろうよ。」

また、誤解されそうな言い方をする。
神楽は諦めて、その幹也の姿を眼で確認した。

「びじーん!幹也の彼女?」

集団の中の女の子が、幹也を見上げて、そう聞く。

「バーカ。俺に彼女がいるワケ無いだろ?トモダチだよ。」

幹也は笑って、そう答えていた。
その表情。
自信溢れる表情。
彼はもう、自分がゲイだという事を恥じていない。
それを見て、神楽は安心した。

「カグ、彼、いるもんな?」

幹也は神楽を見て、そう、みんなに教えるかのように言った。

「まあ、そうだけど。」

神楽も何気に答えた。
横の島野が神楽の肩を軽く叩いた。

「幹也くんと知り合いだったの?」

少々興奮しながら小声で、そう尋ねてくる。

「うん。親戚の友だちが、この子の親、な関係。」

それで間違いないだろう。

「俺の初恋の男が、カグの彼、でしょ?」

幹也は、そう付け足してくる。
そうくると、神楽の話した関係性との関連が、余計にややこしくなるのだけど。

南藤実花と椎也の友だちが、神楽の親戚。
神楽の彼が、幹也の初恋の相手。
神楽と幹也の語るその両方が、同一人物、とは到底、みんな思わないだろう。

「何か、スゴいね。」

いまいち説明が判らないが、島野は感嘆として声を漏らす。

「えー?ライバル?」

女の子の声。

「まさか。」

幹也は笑って、神楽に近づいた。

「プリン買ってくから、つきあってよ。」

「出た!幹也のあのプリン!」

「プリンのビョーキじゃね?幹也。」

幹也の友だちたちは、苦笑していた。
相当、あのプリンにつきあわされたらしい。

「俺の姉ちゃんの彼が、あのプリン旨いっていうんだよ。買ってこいって頼まれたから。」

チカ、あのプリン。
未来の記憶に繋がった。
神楽は思わず笑った。
幹也は、みんなにじゃーな!と言って、神楽の肩を叩いた。

「チカと血の繋がりは無いのにね、幹也。味覚が同じなんだ?」

「チカはいいもん喰って育ってんだよ?て事は、俺の味覚も大したもん、て事だ。」

「どうだか。」

その神楽の冷めたように見上げた視線や、幹也の見下ろす優しい眼線は、まるで美男美女のカップルのようで、周囲はその様子に見惚れていた。

「あ、幹也、この娘と駅に一緒に行くんだ、あたし。」

神楽は隣りの島野を指した。

「ふーん。なら、一緒に行こうよ。」
 
「えっ?ホント?やったー!」

島野はとても喜んでいた。
三人で並んで歩き出す。
それをこの学園の学生や、見学に来た学生たちが眺めている。
視線が集まる。
二花といても視線が集まってくるから、慣れているといえば慣れているのだが、それとはまだ少し異なる気恥ずかしさだ。

「姉ちゃん、その制服着てた。あそこから、ここに移るつもり、ですか?」

幹也は島野に、そう敬語を使って尋ねた。
年上だから、敬語を使う。
神楽は、あの電車の出逢いでも幹也から敬語を使われてないけど?と、神楽は少し面白くなった。

「うん。もっと勉強したくて。あたしたち、瑠璃ちゃんのクラスまで、よく見に行ってたよ!」

島野は嬉しそうに答えていた。
女の子の顔をしている。

「スゴいね。もっと勉強したい、なんて。まあ、姉ちゃんも、本心としては、
もう少し勉強したかったんだろうけど。あの人、仕事と恋愛に三年間を注ぎ込んだから、悔いはないよね。」

幹也は姉を貶しているのか褒めているのか、他人からは、その愛情がよく判りづらい表現をした。

「チカ―姉の彼は、瑠璃は中一から勉強やり直さないと、高等部に進んでも理解があやふやだったって言ってたから。そのまま高等部に行かないで、良かったんじゃないの?その三年を勉強に費やした人にしたら、物足りないかもね、確かに、あの学校だと。」

ショーモデルとして成功をした瑠璃を、幹也は弟として尊敬している。
学校の勉強はいつでも出来るけれど、今あたしは、ここでモデルに打ち込まないと成功しない。
瑠璃のその決意を、幹也は眩しく思っている。
モデルとして、瑠璃があそこまで上がれたのは、恋愛にもよる。
二花との恋愛、チカとの恋愛、それによって、女性的な強さと柔らかさのあるセクシーさを得られたのだから。

「今、中学の勉強、少しずつやり直してんだよ、あの人。チカが教えてる。」

幹也は神楽を見た。

「なら、良かったんじゃない?中途半端でどんどん学んでいくより、その方が頭に入るよ、却って。」

「うん、俺もそう思う。姉ちゃん英語が出来るし、学校の勉強よりも人生の学びが深くて、すげえ大人だなって、俺、感心してる。……姉ちゃん、すげえよ。」

幹也は実に姉が好きなんだと、それがよく判る、付け足しだった。

「みんな、瑠璃ちゃん、憧れてたよ?綺麗だし、大人だし。」

「そっか。」

島野の言葉に、幹也ははにかんでいた。
姉を褒められるのは、純粋に嬉しいらしい。

駅に着いた時、島野は神楽の手を握った。

「あたし、島野さと。」

「佐々田神楽。」

「受かったら、よろしくね。」

「うん、よろしく。」

不確かな約束をして、島野さとは神楽と幹也に手を振って、去っていった。
幹也はその様子を眺めながら、神楽に話し掛けた。

「楽しかった?」

「うーん。緊張した、かやあ。頭のいい子が沢山いるって判って。」

「そうだろうね。高等部から入るの、相当大変だと思うよ。」

そうやって、素直に物申す幹也に、神楽はふっと笑った。

「俺、神楽と一緒に通えるの、楽しみにしてるから。」

「イヤだよ。刺してくる視線に堪えられん。」

何だか幹也に懐かれてしまったが。
神楽も幹也と一緒なら、逆に男の視線を避けられて安心するだろうと考えていた。
そこは素直に二花に話して、了承を得ようと思った。
来春、合格したら。




トーチカ~神楽シーン⑥中編2に続く


……………………………………………………………………………


字数制限で、プリンは次回

行為の最中にいきなり勝手に嫉妬で罵倒してくるって最悪だけど、神楽は逆にお釈迦さま的なのかもしれません。


神楽も二花も、この後、どう変わっていくでしょうね?

お読み下さり、真にありがとうございます。
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