みずのこえ ことばこころほどき

ことばこころほどき、とは
あなたのかたくなった部分をほどくメッセージです。


テーマ:
今日もお話です。

トーチカ~神楽シーン④
どんでん返し編のその後の
神楽と二花のお話です。


このトーチカ~神楽シーン⑤でも
瑠璃とチカと会話した事が
神楽側の心情として綴られます。


トーチカ~瑠璃シーン④後編2
からの時期的な続きの話です。


瑠璃シーン④は甘い夢のようなロマンティックに。
そして、神楽シーン⑤は現実的にロマンティックに。

厳しい過去もありつつの
アホな過ちもありつつの
現実的に生活に根差した
男女の物語。

普通の男女なそれだけでなく
グロさと滑稽さが満載の
でも当人たちは大真面目なエロ。

滑稽。
他人の情事を俯瞰すると
実はかなり滑稽です。




トーチカ神楽シーン①
東三河に住む、未来を知っている少女
神楽の眼線


トーチカ~瑠璃シーン①
神奈川に住む、モデルの美少女
瑠璃の眼線

交互に同時期を書いていきます。

どちらにも童顔の二花(つぐはる)が絡んできます。

それ以前の物語はこちら


来る潮帰る波
神楽の母が亡くなったことを、その兄(神楽の父になった人)が回顧する話

実になる花~追伸
モデル瑠璃の母、女優実花と、父、アーティスト椎也の物語


神楽シーン④では
来る潮帰る波が絡んでました。
この流れが神楽シーン⑤に続いてきます。


神楽シーン⑤は
前・中・後編です。
おそらく。
中編でも終わりが見えないから
ちょっとわかんないですけど!


⑤テーマとしての曲“ Do Ya Think I’m Sexy? ”
相手がセクシーと思うなら
とう出るのか?

そして、“ Killing Me Softly With His song ”
誰の歌に殺してと頼むのか?

“カブトムシ”
女の子が相手を愛おしく想うその曲は、いつ流れるのか?


また、展開していく神楽の周り
どうなるでしょうか?




トーチカ~神楽シーン⑤







早朝から二花は海に行っていた。
その日、神楽は学校を休んだ。
毎年、この日が平日でテストや大事の行事が無ければ、大概休んできたけれど。

父の瞬と、その海に行った。
母が死んだ、その海に。
神楽の誕生日は、母の祥月命日でもあるから。

母が亡くなった翌年から父と二花との間で自然派生的に始まったこの行事を、一体いつまでも続けるつもりなのかは神楽には判らない。
神楽は毎年この日に、母が亡くなった海に来る事に思い入れは特に無い。
だけど。
父と二花には、忘れ難い何かはあるのだろう。

瞬と海に来て、二花が波に乗っているのを見つけた。
何を考えて波に乗るのか。
何も考えずに波に乗るのか。
瞬は黙って、反復するそれを見ていた。
だから神楽も黙って、二花の動きを眺めていた。
可愛い人の真剣な顔。
守ってあげたいような、不思議な気持ちに包まれる。

椎也のツアーの練習に入りつつ、二花は新しいアルバムに入れる楽曲作りに励んでいた。
単発のライヴの伴奏を頼まれもするから、忙しい毎日らしい。
帰ってきても、次の日に急いで戻るくらいだから、こっちで波に乗るのは、実に久し振りだろう。

神楽に逢いたいからね。
そう、笑って来てくれる。
忙しいのに、ありがとね。
神楽は隠れてキスをする。
夜は泊まって行っても、家には瞬と三実が居るから、ゆったり仲良くする時間は無い。
こっそりと神楽の部屋で抱きしめ合って、情熱的なくちづけをするくらい。

夏休みの終わりに二花の家に寄って、それ以来、二花の生の身体に、よく触れていない。
椎也のツアーが始まる前に、神楽はひとりで二花の神奈川の家に遊びに行こうかと計画している。

父の瞬は、二花を愛しそうに眺めている娘の神楽を横眼で時折、確認していた。
何もない、なんて事は無いだろう?

神楽はこの数ヶ月で随分と大人びた。
綺麗になった。
表情が以前の子どもらしさとは違う。
高校生くらいに見える。
ちょうど思春期という事もあるだろうけれど。

何もない、なんて事は無いだろう?
でも、二花を問いつめられずにいた。
表情の少なかった神楽が、とても楽しそうに笑っているし、二花も、時折見せていた苦しそうな嘆きの表情が随分と少なくなったから。
二花のそれを見ているのは、こちらも辛かったから。
ふたりで居る事が、互いに癒やしとなるのなら。
黙認するなんて、親としては最低なのかもしれないけれど。
でも。

神楽から少し離れて、黙って煙草の火を点けた。
妹が妊娠して、神楽が三歳になるまで、煙草は止めていたのだけど。
二花が家で吸いたがる事と、いろんな苛立ちとか空しさとかが、神楽の成長の歓びとかと共に増えてきたような気がして、また、煙草に手を伸ばした。

毎年、この海で考える。
妹がこの海で亡くなったこの日に、この海で考える。

もう、あれから十四年だ。
だから。

とうとう嫁さん、貰ったよ。
籍は入れられないのだけど。
心の中で、そう改めて報告をする。
彼女がこの場所にいる訳でも無い事は、よく判っているけれど。

二花がサーフボードを抱えて海から上がってきた。
あの朝、もし。
もし。
それを考える事すら、少なくなってきた。
正直もう、勘弁して欲しい。
神楽は、こんなに大きくなった。
だから。

瞬は横の神楽を見て、そしてそれに気づいた神楽は、ニカっと笑った。

「今日も、いい波だったよ。」

傍に来た二花は、笑って、そう言う。

「不思議な事に、毎年、この日は天気も良くて、いい波なんだよ。」

「そういえば、雨の日なんて無かったな。」

瞬は二花に言われて、そう気づいた。

「雨は、心の涙で勘弁してくれたのかなあ?」

「……ふぅん?」

歌詞のようなキザな事を平気で言うから、瞬はスルーした。

「二花、曲作ってるんだってな。」

「うん、全曲オリジナルのアルバム出そうかーって話を貰って。苦しみながらも楽しんで作ってるよ。」

無邪気に笑う。
その少年の声で、また唄うのか。
瞬は、ふっと笑った。

「ねえ、モーニング行こうよ。俺、お腹空いちゃったよ。」

少年のような笑み。
瞬は、少したじろいだ。

二花、お前は自分で気づいているのか?
お前が男に恋をし出した時は、喋り方が甘くなるんだ。
その顔の甘さのように。
だから。
瞬は溜め息をついた。

「じゃあ、用意して来いよ。」

「はーい。」

二花は笑って、そのまま車の方に歩いていった。
瞬は黙ったままの神楽を横眼で、確認した。

「何か浮かれてないか、あいつ。」

「そうかもねえ。きっと、いい事あったんだら。」

普通の顔をして、神楽は答えた。

「神楽は二花が男と浮気をしても平気か?」

その問いに、神楽は躊躇していた。
それは今、という事?
この先の未来の話、という事?
浮気というくらいだから、本気があたしの訳で。
この返答によっては、藪蛇だ。

「あたしは浮気はイヤだと思う。」

基本的な返答をした。

「……そうだよな。」

神楽と何かありながらも、男とつきあい出したのか、あいつは。
神楽はそれを知っているのか?
いや、知ったらショックだよな。
いやいや、未来を知っている神楽は、そんな事お見通しか?

亭主のいる女と関係したり、浮気なんて散々してきた。
俺のしてきた悪事が、時を越えて娘の神楽に降り掛かっているとしたら、神楽に申し訳が立たない。
瞬は大きな溜め息をついた。

父が根本的に間違えた罪悪感に包まれているとは娘の神楽は気づかず、父の長い溜め息に、今の返答はヤバかったろうか、神楽はドキリとした。

「……神楽、誕生日おめでとう。」

「ありがとう、お父さん。」  

改めての父の祝福に、神楽はニカっと笑って応える。

この日は妹の祥月命日だけれど、大事な娘の生まれた日なんだ。
そっちの方を大切にしていかないといけない。
神楽は、いずれ家を出る。
それを無性に感じられるようになった。 

だから、娘とこうしていられるのは、あと何年なんだろうか。
死んでしまった人間の、その後の年月よりも、生きている人間の、その年月の方を大切にしなければ。

「二花くん、見てくるわ。」

「ああ。」

瞬に笑ってから、神楽は砂浜を急いで歩いていった。

「神楽。」

寄ってきた神楽に気づいた二花は、少年のように笑う。
それを見た神楽は胸がときめき、濡れた二花の首に抱きつき、キスをする。

「神楽っ。」

二花は悦びつつも驚き、誰かに、特に瞬に見られてないかキョロキョロ見渡す。
ふたりがいるのは車の後ろなので、瞬には死角だった。

ホッとして神楽の頬に手を当てる。

「神楽、十四歳の誕生日おめでとう。」

「うんっ!」

二花の笑みに、神楽は抱きつく力を強める。

「ダメだよ、濡れちゃうって!」

無邪気に笑う二花に、神楽は深いキスをする。
諦めた二花は、それに応える。
神楽の後頭部を手で押さえる。
神楽の舌に、舌を合わせた。

「……ヤバいって。こんなの。」 

「可愛い二花くんが悪い。」

「俺が可愛いのが悪いの?乱暴だよ、その理屈。」

二花は神楽の額に額をつけた。

「自分が可愛いって自覚ある、嫌味なヤツだ。」

その眼。
神楽は笑いながら、ウエットスーツのファスナーを降ろした。

「こらこら。」

真っ裸にならないから、良かったけれど。

「早く用意しりんよ。」

「神楽が邪魔してるんだよ。」

そう笑って言ってから、見据える瞳に、二花は、は……っと息を漏らした。

「何、反応してんだ。こんなトコで。」

神楽の言葉に眼を逸らした。
見られないように眼を逸らしたまま、着替えをしていった。



……………………………………………………………………………



モーニングに行った後、墓地に向かった。
瞬の父と母、そして妹の納骨してある墓を洗って草取りをして、彼女の好きだった矢車草の花を手向け、手を合わせる。
これも毎年の恒例だった。

神楽は、母の事は写真で見るだとか、瞬から話を聞くしか、お腹に話しかけてきた声とかしか、その人を垣間見る事が出来ない。
だから、墓を見ても、何処か他人事のような気分になる。

父の瞬は、墓の前で座り込んでいた。

「俺はここで少し話をしてくから、二花、神楽を連れてってくれ。終わったら連絡するから。」

「うん。判ったよ。」

ここに来るのは二台の車で来たから。
神楽と二花が少し離れていき、振り返ると、瞬は墓に向かって何かを話しているようだった。
こんな事は、今年が初めてだった。
母が墓に居る訳ではないとは判っているとは思うが。

「何で、わざわざお墓で?ウチに仏壇があるじゃんね。」

三実の報告だとは思うけれど。

「仏壇だと、周りに誰かいるとなかなか長くは語れないよね。お墓の前で声に出して、ひとりでしっかり話しかける、ってのが、瞬には必要だったんだろうね。」

気持ちの切り替え、もしくは宣言。
神楽は瞬と三実が夜に話しているのを、この間偶然、こっそり聞いてしまった。

「あの娘が死んでくれて、正直、俺はホッとした……そんな自分も居たんだ。」

「そう。」

穏やかな三実の声。
ふたりの姿は判らなかったが、きっと、苦しそうな瞬を三実が抱きしめたのだろう。

もう、解放してくれ。
それが瞬の本音だと、神楽は思っている。
だからこそ、三実と一緒に暮らそう、そう、思えたのだと。
とっくに解放されていいのに。
縛りついているのは、自分なのに。

「神楽、誕生日おめでとう。」

樹の下で二花は神楽に、愛らしく包装された小さな箱を手渡してきた。
うーん、これは本命に渡すプレゼントだねえ。

「ありがと。開けていい?」

「んっ。」

二花は笑って頷いた。

「へえ。」

包装を開け、箱を開いたら、予想通りネックレスが入っていた。
二花のパターンは判り易くて。

金色のチェーンのコイン風のペンダントトップ。
恐らく、全部、金……本物、って事だよね。

「て、事はさあ、去年までのあたしは随分軽く見られてとったっていうワケ?」

全然プレゼントのレベルが違う。
逆にそれが腹が立つけど。 

「そういうんじゃなくて!神楽は特に、高価な物をあげても気にするだろ?いつも俺の金銭感覚の事弄るんだし。だから……それなりの物をあげられるのは、やっぱり。」

「何?」

神楽はニカっとして二花を見上げる。

「俺の彼女だから!」

二花は神楽の髪をぐしゃっと撫でる。

「ありがと!二花くん。」

軽くキスをする。

「うん……神楽に着けていい?」

神楽は嬉しそうに頷く。

「やっぱり。神楽は金が似合うよ。」

「そうかな?」

神楽の首にネックレスを着けて、二花は照れている神楽を、じっと見ていた。

「ん?」

「神楽、可愛いよ。」

周りに誰もいないのを確認して、神楽を抱きしめる。
甘いくちづけ。
この娘は本当に可愛い。
俺の女王さまだ。
何でも与えたくなる。
宝飾品で身を飾らせたい。
日々、贅沢をさせたい。

顔つきも随分と大人らしくなって。
女のヒトは愛されている実感がじわじわ身体に沁みると、より輝きを増し、美しくなる。
だから、この娘に、こんなに愛されている。
こんなに美しくなるくらい、この娘は、俺の事を愛している。

「抱きたい……。」

本音を漏らした。

「ダメだよ。」

神楽の見開いた眼に、二花はたじろんだ。

「今日はあたしがやって、楽しませてもらうんだから。」

「いつも、俺が楽しませて貰ってるのに?」

神楽はニヤリと笑う。

「あの気持ちよさ、忘れたのか?」

二花の耳元で囁く。
二花は、あっと声を漏らし、少し仰け反った。

「こんなに素直じゃないか、身体は。」

「神楽……ズルい。」

だから、今はこんな風に。
神楽がその気になるまで、待つ。

「問題は、夜にそれが、ひっそり出来るかどうかだでね。あんなに声を出されるとムリだし。」

「声、出さないように頑張るよ。」

二花は短い息を漏らしながら、答えた。

でも、聴きたい。
二花の声。
可愛い喘ぎ声。

あの夏休み終わりから、もう二ヶ月経ったし。
欲求不満。
だから、苛々する。

二花が運転席に座ったので、神楽も助手席に座った。

「今やり始めても、瞬から、すぐに連絡あるだろうしね。」

自分で何言ってんだ、と心の中で突っ込む。
俺は恥ずかしげもなく、今日十四歳になったばかりの女の子に、何をねだってるんだ?

「また、すぐに落ち込む。偽善者め。」

神楽は二花の頬を軽く、ぴしゃっと叩く。

「あたしたちの事は、誰にも理解出来んかもしれない。」

そして、その頬を、優しく撫でる。

「でも、あたしたち自身は、こうなった事で、どんなに救われたか。」

頬に手を置いたまま、二花を、じっと見つめる。

「二花くん、好き。」

ずっと我慢していた二花への愛撫。
それが出来るようになって、あたしはどんなに心が軽くなったか。

あなたにとっては、世間に対して、とても罪悪感の高い行いかもしれない。
少女に何をさせているのか?
背徳心が純真さの廻りを、ぐるぐる包んでいるのかもしれない。

けれど。
こうなって、あなたは、どう?
楽になってない?
あらゆる事が。

「好きだよ、神楽。」

そうだよ、神楽。
二花は神楽にキスをする。
神楽の眼が訴える事を、その動作で返事をする。

誰に判って貰えなくてもいい。
神楽に身体を愛されて、俺が溶けるように気持ちが良い事。
こんなにも、俺の呪縛が解けていっている事。
それはまるで、蛇が二匹絡みついているかのように、その妖しい強さが俺の身体を巡って蝕んでいた。
その毒、妖しくて切らせられない常習性の高い毒。

咥えられていた毒牙が抜け落ちたかのように、清々しい朝を迎えられる。

誰に判って貰えなくてもいい。
俺たちが、こんなに楽、だという事。



……………………………………………………………………………



二花が作った遅い昼食のあと、瞬のスマートフォンが鳴った。

「何―どうした?泣いてんのか?」

その声の様子からすると、通話の相手は三実のようだった。

「どうしたんだ?何?どうした?判らんぞ、何泣いてんだ?三実、どうした?お前、今、何処に居る?えー?病院?え?」

そのまま、返事も出来ず、三実の泣き声を聞いているようだった。

「……そうか。迎えに行くから。そこを動くなよ、絶対に!判ったな!」

話しながら立ち上がった。
通話を終え、財布を掴んでジーンズの後ろポケットに入れる。

「神楽、悪い。出掛けてくる。」

急いでいる。
三実に何か起こった、という事。

「三実ちゃん、どうしたの?大丈夫?」

神楽の言葉に、瞬は、首を横に振った。

「大丈夫だ。」

ふっと苦笑して、瞬は二花を見た。

「もし帰りが遅かったら、神楽を頼む。」

急いでいた。

「うん。気をつけて!」

だから、二花は笑う。
瞬が駆けるように家から出て行って、すぐに車の発信していくエンジン音が聞こえてきて、ふたりは顔を見合わせた。

「三実ちゃん―」

「大丈夫だ。命の危険とか、そういう事では無いと思うよ。」

懸念する事は、おそらく。

「そう?」

「瞬に任せとけば、いいから。」

「そうかな?」

神楽は二花の眼を、じっと見つめた。

「旦那に任せとけよ。」

「うん―」

そのまま、キスをする。

「神楽……俺、お前を、」

その方が、むしろ。

「いや。あたしに任せろ。」

その眼。
結局、負けてしまう。

「食べたばっかだったのにな。」

舌なめずり。
ゾクゾクする、その眼。

神楽の部屋で、脱がされる。
すっかり脱がされる。
処理を済ませてから、身体中を舐めて愛され、神楽の机の上に、全裸で座らされる。

「丸見えだ。いい眺めだ。」

神楽は笑っている。

「恥ずかしい……こんなの。やぁん。」

震える。

「恥ずかしい?そんなに反応してて?嬉しいの間違いだろ?」

震える。

「あっ。」

神楽は普通の声を出した。

「白髪―」

そこに触れてくる。

「何本?……四本、五本か。」

「えっ?」

二花は驚いて、自分で確認する。

「マジかよ……。こんなに。」

ショックを隠しきれない様子だった。

「ここね。確かに前は一本あったんだけど。」

「あったの?教えてよ!」

「だって、別に有り得るから。」

落ち込んで頭を押さえている、全裸で。

「固まって生えとるからって、そんなに落ち込まんでも。」

「……いっぺんに増えてんだろ?そんなに。」

何より、ショックかもしれない。
頭髪よりも。

「仕方無いじゃん、四十二なんだし。」

「このジジイ、て、思うんだろ?」 

外見は、こんなに少年で可愛いのにね。
神楽は笑って、二花に軽くキスをした。

「このジジイが好き。」 

神楽の笑顔に、二花は神楽の髪をぐしゃっと撫でて、キスをした。

「ヤバいぞーっ、神楽、本格的に!弱ってきてるのかもよ?」

「大丈夫だよ、こっちの方は。」

可愛い。
そう唇につけて言い、口に含んだ。

「あっ。」

身を捩る。

「あーんっ。」

こんなに元気だし。
こんなに女の子だし。
可愛い。

指が入ってきて、二花は更に身体をくねらせた。

「はあっ!あっ、あっ、あっ、あーんっ。」

更に指が増えてくる。

「何本入るかな?今日は。」

意地悪に言い放つ。
指で愛して、そして、口で愛する。
これがしたかった。
口の感触、指の感触、ゾクゾクする。
二花は、あたしの愛撫で、こんなに悦んでくれている。
溜まらない。

それなのに。
車の止まる音。
ヤバい。
でも、口も指も止まらせたくない。

はっはっはっはっ。
泣きながら小声で悶え、二花は、離して、というような表情をする。

離せる訳ないだろ。
止められる訳ないだろ。

それでも、瞬の車はそのまま発進していき、安心したら、玄関から誰かが入ってきた。

ヤバい。
でも、止められない。
神楽は口と指の力を逆に強めた。
二花は、そんな神楽の頭を手で離そうとする。

アホ。
途中でやめて溜まるか。
神楽は抵抗した。

足音。
部屋の前で止まる。

「神楽ちゃん?おるよね?」

三実の声。
このバクバクした胸の鼓動が外に聞こえるんじゃないかと、焦る。
二花は、咥えて離そうとしない神楽の頭を押さえながら、息を潜めた。

「聞いて欲しい事があるんだけど。」

返事なんて出来る訳がない。
潜めつつ、神楽はそれでも口も指も動きを止めなかった。
ヤバいって。
二花は神楽の頭を押える力を強める。
ぐっと押さえ込む。

その表情?
こんな時に、そっちにスイッチが切り替わったの?
二花は慌てる。
神楽はこれまでの強い表情から打って変わって、恥ずかしそうに受け身の顔になっていた。
頭を強く押さえ込んだから?
なのに、口も指も全く止まらない。
いやらしい音が、微かに響いている。

だから、もう、頭の中で混乱した。
俺はされてる?
させてる?
息が荒くなってしまう。

「二花も何処にもいないし、靴はあるのに。そこにおる?二花もおる?」

三実、何で今なんだよ?
どうして、こんな時に。

「ねえ、神楽ちゃん。ねえ……まさか、お取り込み中?」 

何で、そんな事を言う?
そして、どうして、こんな時なんだ?俺。
神楽の頭を更に押さえ込む。
ダメだ、もう。

「あっ……あーっ!」

声が出てしまった。
何て事。 
そして、足音が遠ざかっていく。
三実、恨むよ。
何で、こんな。

神楽は指を抜いて、恥ずかしそうに飲み込んで、二花を見上げた。
眼が、とろんとしている。
こっちの顔も、ちゃんと出来るんだな神楽。
抱きたいよ、今すごく。
いや、そんな事より。

「三実に話してくる。」

立ち上がろうとした。
神楽が恥ずかしそうに静止して、口を手の甲で拭った。

「あたしが話すよ、あたしに話があるんだろうし。」

「神楽……」

ちゃんと男前の顔に戻っていた。

「気まずいだろ?流石に。あたしに任せとけ。」

そりゃあ。

「すごく良かったよ、二花、とても可愛かった。」

神楽は満足そうに笑っていた。

「お前は、指じゃあ満足出来ないだろ?」

「そんな事は……無い。」

神楽の指は、いい処を捉えてくる。
力が入っていて気持ちがいい、から。

「物足りないなら、道具を用意しとけよ。可愛がってやるからな。」

「は……」

「それに、さ。」

手で掴んでくる。

「あたしに入りながらだったら、どうだ?最高に気持ち良くないか?攻めて、攻められて。おかしくなりそうだ。」

ゾクゾクゾク。
想像する。
神楽の中で。
そして、愛されて。
そんなの頭が混乱して、どうにかなりそうだ。

「まだ、だけど、それは。妄想して楽しんどけ。」

神楽は強い眼で笑って、部屋から出て行った。
二花はショックと気持ちよさで、神楽のベッドに倒れ込んだ。

神楽は洗面台で手を洗い、口を洗い、鏡で顔を確認してから、居間に向かった。
怯むな、神楽!

三実は壁にもたれて座っていた。
神楽の姿を見つけ、何とも言えない顔をする。

「神楽ちゃん……」

常温の水をごくごく飲んでから、三実の前に座る。

「あたしは処.女だから。」

恥ずかしそうに、そう宣言する。
三実はポカンとして、神楽を見ていた。

「あたしがしてあげとるの。そっち。」

「二花!あいつっ!」

怒って立ち上がろうとした三実を、神楽は制する。

「あたしがしたくて襲ったの、最初。あたしが―そういう趣味。」

三実は真剣な面持ちの神楽を、まじまじ見つめた。
まさか、そんな。
この娘が。

「だからって!悦んでされとるなんて!あんな声出しやがって、二花!」

信じられない!
呆れた顔をしていた。

「あたしがしたいの。あたしは可愛い二花を攻めたい、だから。さっきも三実ちゃんの気配に、二花くんは離そうとしたのに、あたしがムリヤリ続けてた。」

三実を強く見つめる。
三実は溜め息をついた。

「瞬くんには話さんでね。あの人は理解出来んよ、とても。」

「だろうね。」

神楽の身体を二花が愛している方が、まだ全くマシだ。
それなら理解出来る。
瞬がこの真実を知ったら、ふたりを引き離すかもしれない。
だから、言えない。

「これはあたしの心に仕舞っとく。まあ、二花には怒れるけどさ。


複雑な顔をした。

「三実ちゃん、大丈夫なの?」

「え?」

それが本題だ。

「病院行ったの?大丈夫?」

電話で泣いていたって。

「ああー大丈夫だよ。」

複雑な顔をして、笑んだ。

「お父さんは?」

「少しひとりになりたいって。」

苦笑していた。
三実は遠い眼をしていた。

「神楽ちゃん、あのね。」

深呼吸して。

「あたしね、出来たの。」

「え?」

何の事か判らなかったが、神楽はすぐに理解した。

「あーああっ!おめでとう!三実ちゃん!」

嬉しくて、三実の手を掴んで握手する。

「今、何ヶ月?」

三実は一呼吸置いた。

「四ヶ月……入った。」

その月齢に、神楽は驚いた。 

「四ヶ月っ?もう、そんな?」

そんなに経っていて、どうして、今?

「三実ちゃん、判んなかったの?ここまで。」

判らない筈がない。
順調に来ていた生理が、三回来ていないのだから。

「……まさかって。そんな訳ないって、思いたかったから。」

「それをひとりで黙ってたの?お父さんにも言わんで?」

「︙……。」

三実は涙をポロポロ溢してきた。

「三実ちゃん?」

ただ、泣いている。

「怖いの。」

三実は、ようやくそう言った。

「怖い……。」

ギュッと自分の腕で抱きしめる。

「怖い。」 

涙が落ちていく。

「どうしよう……。」

それ以上は言わず、ただ、泣いていた。
疲れた様子だったので、部屋に連れていき、三実をベッドに寝かせた。

それから、その様子を二花に話した。

「そうか。やっぱり。」

二花は頷いた。

「二花は、気づいとったの?」

「いや、さっきの電話でね。そうかもって。」

産婦人科の前で泣いている。
騙し騙しできたのに、もう流石に自分を騙せなくなった。
いや、そうじゃないかもしれない、と、ようやく病院に来た。
そして、決定的に妊娠が判ってしまった。
泣くしかなかった。
だから、ようやく、瞬に救いを求めた。

二花は複雑な表情をしている。

「怖い、ていうのは?」

二花は頷いた。

「化け物の血、だからね。」

三実だって、この血を残す事は、とても怖いんだよ。
しかも、今更。

「三実にも、いろいろあるんだよ、他にもね。だから、それは三実が神楽に話さないと。俺は言えないから。」

二花は煙草を指に挟み、外の景色を見ていた。
火は点けないまま。
そういえば、最近は、ぐんと煙草の量が減っていた。

「て、いう事は、神楽、知ってたんじゃないの?三実に子どもが産まれるって。」

苦笑しつつ、二花は神楽に振り返る。

「うーん。それはでも。それが、いつかは判んないし。」

赤ちゃんを抱いている、しあわせそうな三実。
それは、もう少し、先の事だと思っていた。
と、すると、あの子の成長具合から、その後の自分に起こる、様々な事の、その時の年齢が、何となく掴めてくる。

「だから、籍入れるの、譲ろうって言ったの?」 

「うん、まあ。」

神楽は躊躇した。

「子ども、か。三実が。」

複雑そうに笑った。

「乗り越える時なのかも。」

二花は呟いた。
だからこそ、今なのだろう。

自分に子どもが出来ること。
二花は抵抗感が無くなっていた。
毒が抜け落ちたような、温かい感覚になっていた。
神楽が俺の身体を大事に愛してくれたから?
神楽は、その毒を分解出来る?
不思議な事を考えていた。

じゃあ、三実の毒は?
すっかり抜け落ちたの?
それは?

二花は神楽を見ていた。

「神楽、可愛かったよ、さっき。」

「え?」

そう言って気づいて、神楽は恥ずかしそうにした。

「ああして、スイッチ切り替えれば良かったんだ。」

二花は神楽の頬に触れた。

「神楽、抱かせて。」

耳元で囁く。

「神楽を愛させて。」

神楽はどんな風に、よがるの?
神楽は、その二花の勢いに飲まれそうになりながらも、逆に二花の耳に舌を入れた。

「それは、いつか、な。」

仰け反る二花。
反応が素直で可愛い子だ、本当に。
今は、こうして、あたしのいい子でいな。

そうしていると、車の音が聞こえてきた。
瞬が居間に入ってきた。
神楽と二花の顔を見る。

「三実は?」

「疲れとったから寝かせたの。」

神楽の返事に、瞬は少しほっとしたようだった。

「聞いたか?」

神楽を見つつ、煙草を取り出したが、瞬はそれをくるくる指で廻した。

「うん、あたしが。」

「そうか。」

瞬は大きく溜め息をついた。
多分すぐに、妊娠した、と聞いていたら、そこまでは動揺しなかったろう。
もう、四ヶ月。
三実がそこまで、ひとりで黙っていた事。
それに気づけなかった事。
自分を責める要素は、たくさんあるから。

「ちょっと、今、ホルモンの関係でも情緒不安定気味だって、看護師さん、言ってたから。だから、神楽、悪いけど、普段気にしてやってくれ。」

「うん、もちろん。」

父の瞬の弱気な雰囲気に、神楽は微笑んだ。

「俺、本格的に瞬のお義兄さん、だよね。」

二花はニヤニヤして、瞬を見ていた。

「アホか。絶対に兄と呼ぶか。」

瞬は頭を掻いた。

「扶養家族が増える訳で―会社にも届けは出そうと思う。事実婚でもいけるんじゃないか、て言う事だから。」

住民票には夫と妻と間柄が記載されている。
婚姻届は出さずとも、何処まで法的に対処出来るか、三実が家に住みだした時に弁護士に相談したらしい。
でも、子どもが出来たとなると、認知しても非摘出子となるから。

「お父さん、籍、入れなよ。」

神楽は笑って、そう言った。

「いや―大丈夫だ、神楽。」

瞬は娘に、安心しろ、というようか笑いかけた。
将来、二花と結婚すると言い出した神楽。
それは、誰かと結婚するだなんて面倒な事はしたくないと思い続けてきた自分の結末だと、瞬は感じていた。

この愛しい三実との法律婚の未来は無くなった、という、突きつけられた現実。
結婚なんて考えていなかった処に、実際に出来なくなると、何故こんなに苦しくなるのか。

だって、それはお前自身が望んできた事だろ?
何て、バカバカしい結果になったのかと、あの時、瞬は笑えていたのだ。
瞬の決断の時でもあった。
だからもう、その意志はしっかりとしている。

眼の前の相手を大切にしたいという気持ちは、籍など関係ない。
この女を一生愛し抜こうと、瞬は決断したのだから。

「籍の事は、もういいんだ。どうであろうと、俺の子が出来るって事だから。」

神楽の頭をぽんぽんと叩いた。

「神楽の妹か弟、がな。」

「うん。」

神楽は嬉しそうに笑った。

「そして、俺は伯父さんです。」

二花は笑った。

「もう、とっくに二花くんは叔父さんだら?お兄さんに子どもがおるんなら。」

神楽の言葉に、二花は苦笑した。

「そうだね。」

引っ掛かり。
前からある、引っ掛かり。

「ちょうど良かったかも。あのさあ、お父さん、お願いがあるんだけど。」

神楽は少し上目遣いで瞬を見上げた。
神楽は、どうにも女らしい仕草が普通に出来るようになった。
瞬は少し驚き、娘を見ていた。

「ここにさあ、ピアノ置きたいの。二花にお願いしたら買ってくれるって言うもんで。ピアノもあれば、三実ちゃんも弾いて少し落ち着けるかもしれんし。情緒的にもね。」

そうしたら、いつでも二花が弾いてくれるし。

「三実、弾けるのか?」

「程々にね。三実は俺みたく、本格的には習ってないけど、程々にね。」

何か幸いするか、判らない。
あれだけ強制的にピアノを習わされたお陰で、今の自分がいる。
かと言って、父に感謝は出来ないが。
二花はひとり微笑んだ。

「そうなのか。ピアノは、それは―俺は構わんけど。」

「やった!」

神楽は笑って、手を開いた二花に手を叩いて合わせる。

神楽、お前は二花の遣い方が随分と旨くなったな。
瞬は眼をパチクリさせた。
旨い事、二花に貢がせている。
そして、お前の首に掛かっている、それは何だ?
その、随分と高価そうなネックレスは?

神楽は今まで地味そうにみせておいて、着飾れば大したもんだろう。
二花は神楽を着飾らせたいだろう。
そして、神楽はそれを、どうしたいんだ?

小悪魔。
瞬は笑っている神楽を見て、そう感じた。

「三実、食べれるよな?多分。最近どう?」

「食欲はあった、な。」

瞬は左眉を上げた。

「そういや、よく食べてた、かや?そうだ、肉、よく食べとったわ。」

「そう。」

二花は笑った。

「食べさせといて、好きなもん。太らないから。」

「判った。」

神楽は笑って返事をする。

「お前は妊娠した事があるのか?」

瞬は思わず、そう聞いていた。
有り得そうな。

「無いよ!実花がね、幹也を妊娠した時なんて、よく食べてたからね。それでもむしろ痩せたくらい。」

笑って、そして想い出して。
幹也、産まれてからずっと、小さい子だったのにな。
あんなに。
ひとりニヤニヤしてしまう。

ドスッ。
脚を蹴られた。
……すみません。

「……泣けるんだよね、泣けるなら、まだいい。泣けないで鬱屈しちゃうと、後が大変。産んだ後、いろいろ不満が溜まっちゃうから。だから、泣けるだけ泣かしといて。見てる方は辛いけどね。」

実花は第一子の瑠璃を産んだ後、少しマタニティブルーとなった。
腹から大切な胎児がいなくなる喪失感。
眼の前に産んだ娘がいるのに、身体と脳とが追いつかなかったらしい。
そういえば、三実も、あの後、かなりおかしかった。
それは、そうだ。
二花は、煙草を取り出した。
そして、煙草をじっと見る。

「この家で、煙草吸えなくなったなあ。」

苦笑。

「いい事だ!」

神楽は笑っていた。
だから、二花も笑った。

「そうそう、三実が落ち着かないなら、家で食べるしかないね。また、買ってくる?誕生日ディナー。」

二花は神楽を見ていた。
瞬にそれを、おかしく思われないように、眼に気をつけて。

「神楽は魚が好きだもんね。また、魚にする?」

「うん、まあ。」

「寿司?」

「まあ―去年、お寿司だったし。んーと、三実ちゃんが食べやすいようにお寿司と、鰻!」

一瞬、ニヤッとした笑い。
また、夜に何かされるのですか?

「判った。寿司屋に頼んどこうね。神楽、一緒に行く?」

「うんっ!」

嬉しそうな笑み。 
よし。
ついでに少しドライブをしよう。

「海と言えば?だから。」

山。
車で割りと簡単に中腹まで登れる山。
山道を少しだけ歩いて登って、田舎な町並みを見下ろす。

「おおっ!」

岩に身を乗り出し、神楽の背中が反るように伸びている。
綺麗な背中の線。
突き出している薄い尻。
考えないようにしても、考えてしまう。
その腰を後ろから掴んだら、今の神楽は、どう思う?

神楽は視線に気づいて、振り向き、嘲笑って二花に言った。

「そうやって、しっかり妄想しとけよ!」

「神楽……。」

俺は、すっかり尻に敷かれている。
それが楽しかった。
神楽を眺めつつ、二花は口ずさむ。
“ Do Ya Think I’m Sexy? ” 

あたしの身体が欲しい?
あたしがセクシーと想うの?
甘くて可愛い子 なら あたしにそれをよく教えて

神楽は、自分が二花の煽りになるような色気がある事を、ちゃんと知っている。
それを二花は実感し、ゾワッとした。

向き直った神楽は、嘲笑いながら二花のジーンズのファスナーを降ろし、手を入れた。

「神楽っ!」

二花の後ろに廻り、腕を前に出して、手で弄んだ。

「人が来たら、すぐに教えろよ。」

「こんな処でぇ!」

「ゾクゾクするだろ?見られるかもって。」

そのスリル。
さっき三実が部屋の前にいた時に、神楽はそのスリルの快感を憶えたのか?
どうしよう?
俺の彼女は変態です。

「二花、すごく可愛いよ。」

「あ……んっ。」

俺が弱い言葉を、神楽は知っている。

「大丈夫だ。ちゃんと口で受けてやるから。」

そんな事、ちっとも心配していないのに。
嬉しいから、喘いだ。
この小悪魔、最高だ。

夜になり、三実が部屋から出てきて、二花を睨んだ。
二花は罰が悪そうに、視線を逸らした。

「お世話かけますけど、よろしくお願いします。」

三実は照れくさそうに、神楽に頭を下げた。

「楽しみだでね。あたしにきょうだいが出来るなんて!」

神楽はウキウキしていた。

「俺も楽しみだよ。」

二花は笑い、そして三実も笑った。

「そうだね!」

二花は愚かなあたしをずっと見てきたから、きっと、しあわせなこの流れを、本当に喜んでいる。
三実は頷いた。
二花は頷き返した。

神楽はそれを眺めていて、自然と微笑んでいた。
そして、自分の腹に手を置いた。

神楽の十四回目の誕生日は、そんなめでたい事件の日となった。



……………………………………………………………………………




三実は全ての顧客に妊娠を打ち明けて、きっぱりとエステの仕事を辞めた。
今は体調は落ち着いていても、気持ちが落ち着かないからだ。
とのみち、働けなくなる。

「あーあ!瞬くんに養ってもらうのかー!負担だやあ。」

三実はワザと明るく、そう言い放った。

「いいら。そうなる事で逆に、お父さんは発奮するような人だし。」

あたしがお母さんのお腹に宿った時も、そうだった筈。
自分に頼ってくれる人が増える事で、やる気が起こるタイプの人だ。

三実は何気に腹に手を当てる仕草を、よくするようになった。
それ、判る。
神楽は嬉しく思った。
未来の身重の自分の身体に入った時、その腹の重さが苦しいけれど、心地好い重みだったからだ。
あの腹の膨らみ。
その感触が、何故か懐かしく思えた。

神楽は、軽く電子ピアノを弾いた三実にお茶を出した。

「ありがと。」

落ち着いていても、急にポロポロ涙が溢れ落ちてくる。
三実はまた、涙を拭った。

「怖いよ、とても。」

その恐怖感に打ち勝つには、どうしたらいいのか。
三実は、ぎゅっと腕を抱いた。

「まさか、この年で、て事より、自分はもう、妊娠しないと思っとったから。びっくりだよね。」

三実は一度、結婚している。
八年間の結婚生活で、子どもは出来なかった。
離婚の原因は、それでは無いけれど。

「十六歳の時、子どもを堕ろしたんだよ。それ以来、全く妊娠とか、無かったんだけど。だから、あたしはもう、子どもは出来んって思っとった。」

三実の回顧話が急に始まった。
神楽は泣いている三実の顔を、よく見つめる。
二花に似て、可愛くて綺麗な女だ。

「堕ろした子の事、いつも考えとる。産むなんて、決して出来なかったけど。」

ごめんね。
中絶手術の後、付き添っていたその人は泣きながら、泣いている三実を抱きしめた。
ごめん。
いつも、いちばん近くにいて、三実を守ってくれていた人。

二花を救えなかった。
二花は結局、男に狂った。
毎夜、男を求めて出歩く。
その悔恨だとか罪悪感だとか、二花だけ父に大事にされて育った羨望感だとか、母が二花だけ育児放棄した悲愴感だとか優越感だとか。
父も母も自死でしか、エンドマークを降ろせなかった失望感だとか。
その狂った血が、この体内に継がれている現実感だとか、様々に膨れ上がった恐怖感が、夜毎押し寄せる。
うなされる。
それを、いちばんに判ってくれる人。
身体で激しく慰め合うしかなかった。
絶望感と共に。

愚かだ。
この血は、なんて。
こんな血は、要らない。

「……。」

神楽は言葉が出せなかった。
傷ついた子どもたち。
その血に救いはあるのか?
あるからこそ、きっと。

「怖いよ。」

腕を抱く力を強める。
その毒、抜けさせるのは、きっと。

「一葉―かずは―は、凄いと思う。早々に結婚して、子ども作って、しあわせに暮らしとる。だから。」

延々と親から子へ続いてきた毒を抜く方法は、案外と単純な事なのかもしれない。

でも、そんな事、頭で理解出来たとしても、恐怖感は簡単には抜けない。

「怖いよ。」

この血が、この子に、また発露されたら。
それが恐ろしい。
だから、一葉はその恐怖と葛藤に立ち向かった、いちばん強い人かもしれない。
過ちを繰り返さない為に。

もう、泣く子がいなくなるようと。
二花と三実が苦しまないようにと。
苦しませないようにと。
立ち向かえた人。

「一葉は容姿が父にそっくりだから、二花は避けとるけど、でも、嫌いじゃないの、決して。」

「そうだったんだね。」

全ての符号が合った。
じゃあ、三実は大丈夫。

「三実ちゃん、なら、あたしを見て。」

神楽は微笑んでいた。

「あたしはしあわせ?不幸?」

神楽の言葉に、三実は、はっとした。

「あたしは、しあわせ、だよ。」

産まれてこれて、良かった。
ここに、産まれてこれて、良かった。

そうだね、チカ。
あたしは、今度こそ、望み通りの人生を手に入れた。
だから、生きる。
望み通りに、生きる。

「お父さんと、しあわせにね。ママ。」

神楽の優しい言葉に、三実は、神楽を抱きしめて、泣いた。



トーチカ~神楽シーン⑤中編に続く

……………………………………………………………………………



いや、この回、瑠璃シーン④を書く前に書いたので、凄く前に書いた感じがしますよ。



二花の過去
三実の過去

むかし、自然的に出来たお話でした。
何がきっかけだったのか?

この二花役の
(このトーチカもそれまでの話も全部、現実にいる役者さんが、わたしの脳内で演じてくれて勝手に話が進んでいきます。)

役者さんの眼を見たから
勝手にできたお話だった気がします。

もう、15~17年くらい前かしら?

うーん変わらないね、この彼。
最近、また更に少年に若返ったような。
去年は青年だったのに。


暗くて救いようがなくて、とても再現して書く気になれない話ですが、今回ちょこちょこ出てきました。

二花が救われる話を書きたい。
そう思ってきたように思います。
というか、これまではムリだと思ってました。
この根の深さが癒やされるなんて。
あり得んわー。

二花が救われ
三実が救われ
本当にその時がきたんだな、
と、わたしは感慨深いのです。

少年も白髪の交じるジジイになりましたけどね。

本当はとても単純なことでした。
癒されることなんて。
でも、みんなそれを信じられなかった。
だから。

一葉も、この⑤では出てないけど
将来的に、ちらっと出てきます。


神楽がね、わたしの脳内では、とても綺麗な娘さんです。
こういう華奢でな身体で、芯の強い人になりたい。
でも、ドSになりたくはない。

次回は瑠璃もチカも出てきて
しっちゃかめっちゃかです。


いろいろありますが、救われて成長して
しあわせなお話にします。

神楽は玉の輿!
そういう女性です。



お読みくださり、真にありがとうございます。




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