みずのこえ ことばこころほどき

ことばこころほどき、とは
あなたのかたくなった部分をほどくメッセージです。


テーマ:
今日もお話です。

トーチカ~神楽シーン④
どんでん返し編

それと同時期の瑠璃シーン④

トーチカ~瑠璃シーン③からの流れ


このトーチカ~瑠璃シーン④では
神楽シーン④で、瑠璃とチカが
二花と神楽と会話したことが
どんな感情で物語られるのでしょうか?


トーチカ瑠璃シーン④後編1
いちいち、いちゃいちゃなしあわせのその後は、どうなるのか。

チカと二花と神楽のスーパーでの会話は、どうチカが語るのか?

トーチカ神楽シーン①
東三河に住む、未来を知っている少女
神楽の眼線


トーチカ~瑠璃シーン①
神奈川に住む、モデルの美少女
瑠璃の眼線

交互に同時期を書いていきます。

どちらにも童顔の二花(つぐはる)が絡んできます。

それ以前の物語はこちら


来る潮帰る波
神楽の母が亡くなったことを、その兄(神楽の父になった人)が回顧する話

実になる花~追伸
モデル瑠璃の母、女優実花と、父、アーティスト椎也の物語


神楽シーン④では
来る潮帰る波が絡んでました。
この流れが神楽シーン⑤に続きます。


瑠璃シーン④は
前・中・後編です。

④テーマとしての曲“糸"
出逢いとその意味の流れもどうぞ。


④は予定調和、という題材です。

瑠璃シーンでの予定調和とは?

誰に、どう、認められる、ではなく
自分がどう納得していくか、
そんな大きなテーマのトーチカです。

後編いっぺんに出したかったのに
また字数制限です。
二度に分けないといけない面倒くささ。



トーチカ~瑠璃シーン④後編2


早朝に家人を起こしたくはないので、車が来たら、瑠璃がそのまま家の外に出ていく。
チカが笑って、車の外で待っていた。
夏の朝はまだ、過ごしやすくて。
海の磯の香りが拡がっていた。

「おはよ。」

「おはよ。」

瑠璃の頬に左手を置き、軽く撫でた。

「寝てないの?」

後部座席に座ってから、運転席のチカに、そう尋ねた。
少し疲れているように見えたからだ。

「んー?平気だよ。」

という事は、徹夜したという事。
だけど。
髪の毛を掻き上げながら、落ち着かない様子で運転している。

「瑠璃、あのな。」

朝の明るくなってくる空に、鳥が飛んでいく。
あれは何という鳥だろう。

「夕べ、二花と逢った。」

予想もしない言葉が降り注いできた。
瑠璃は硬直して、眼だけチカの後頭部を凝視した。

「あ。何も無い。何も。そうだな、する気にはなった。昨日あの後、スーパーに行ったら、二花がいた。あの娘がいなかったら、そのまま二花の腕を掴んで、外に出てたな。」

あの娘。
チカは素直に語っていた。
でも、動けられない。
昨日、二花との情事を、チカはその口で語ったばかりで。
なのに、そんな。

「俺もまだ、二花をそんだけ求めてた。一瞬で、しあわせだった時の時間に戻った。アイツは、毒だ。甘い毒。」

二花は麻薬、甘い毒。
そこから抜け出せられない。
身体に残された小さな棘のような、毒。

「甘いくせしてよお。やっぱり、アイツはジジイだな。」

「は?」

瑠璃は、その意外な言葉に驚いていた。

「アイツ、あんな甘い顔して渋いじゃねえか、味覚が。酒にビールに塩辛とか?ジジイだな。」

「うん……。」

それはやや、瑠璃には当然だった。
ジジイとか言う以前に。
もしかして、チカにとって二花は甘い女の子少年で、そうでない歳相応の二花は、少し受入れ難いのだろうか。

「それはそれで可愛いけどなっ!」

やっぱり、二花が可愛くて好き。
ひねくれた表現のチカに、瑠璃は何だか笑えてきた。

「まあ、アレだね。あの毒と、俺の刻んだもの、早く抜いてもらわないと。」

「ん?」

アイツ、何やってんだ?
あんな眼で二花を見ている癖に、まだ、手も口も出してないのか。
とっとと、俺の遺伝子を抜いてくれ、二花から。
アレがあるから、いつまでも二花に惹かれるし、二花も俺を欲しがる。
俺が刻みつけた遺伝子、早く抜き切ってくれ。

そして、あの毒を抜いてやれ。
お前なら出来る筈だ。
禁断の果実という背徳を好む家系の、最高傑作である、二花の甘い毒。
背徳心を煽る、常習性の高い麻薬。

俺、可愛い?
可愛い?
はあはあ甘い息を漏らして、何度も聞いてくる。

可愛いよ、二花はとても可愛いよ。
何度も囁いてやる。
硬い身体に唇を這わしながら。
そうすると、甘い悲鳴を揚げるから。
この可愛い男を、離したくない。
だから、身体中に俺の遺伝子を刻みつけた。

それを早く、抜き切ってくれ。
神楽。
お前が二花に触れたいように触れて愛してやれ。
身体中で愛してやれ。
お前の計画。
想い出せ。

「大したヤツだよ、あの神楽。」

「えっ?」

ふんっという鼻息に、瑠璃はバックミラーのチカを確認した。

「二花の好みの女、巧い事、いい時に逢えるようになってんだ。長時間かけて最終兵器的に。」

「神楽ちゃん、すごく可愛いものね。」

それは少し、寂しいけれど。
複雑な心理。

「な、だけじゃなくて。」

「ん?」

「全部、やってやれるんだよ、二花に。」

全部。
昨日、チカが語った事と、昨日の神楽の眼と指の力を思い出していた。
二花自身がまだ気づいていない、神楽への想いの眼と共に。
瑠璃は想像して、赤くなった。

二花、どうだ?
その女の愛撫は。
その女の味は。
存分に味わえ。
そして、虜になれ。
昨夜は、どうだったか?
神楽、可愛がってやったか?

チカは神楽の強い眼を脳内に浮かべていた。
生まれてきた歓び。
この世にい出た瞬間に始まるゲームへの挑戦。

二花が虜になる、小悪魔と言うよりも、可愛い悪魔。
お前の人生が楽しいものであるように、俺は祈るよ。

「俺の母が死んだ時、妹も死んだんだ。母の中でね。」

急に話題が変わるチカ。
それはよくある事なので、瑠璃はスルーした。
ひとり妄想が進むと、ひとり結果論に進むからだ。

「女の子だった。母が死ぬ前にもう、ダメだったらしい。」

「そうなの。」

産まれる事は出来なかったけれど、チカに妹がいた。
それは何だか胸が温かくなる想い出。
瑠璃の胸も温かくなったから。

「Sorry baby, my baby…sorry. 母はうわ言のように繰り返し呟いていた。出産で100%母体が持たないと宣告されたけれど、それでも母は産むと意見を貫いた。なのに、babyの命を助けられなかったのが無念だったんだろうね。それだけが心残り、だったろうね。」

自由奔放に生きたチカの母の、唯一の嘆き。
それを聞いた瑠璃の心も痛んだ。

「生まれつき長生き出来ないとして生まれた母は、自由に生きる事を望んだ。だから周囲も、それを許した。人世を謳歌し切った。俺を産む時も、相当危険だったそうだけど、母は全く怯まなかったって。この子が欲しかったって歓んで、産まれたばかりの俺を抱いて、そして意識が朦朧としていったって。持ち直したから、良かったけど。」

命懸けで産んだ子。
自分の命すら投げ出す。
女なら、それは出来る事だろう。
瑠璃は自分の腹に手を当てた。
まだ、欠片すらもその腹の中には存在しないけれど。

「だから俺は、死んでしまった妹に、もう一度出逢いたかった。」

そして?
その結論は?

「瑠璃、お前は生き急いで、とっとと死ぬなよ!」

そういう結論?
瑠璃は笠田に言われた、「余り、生き急ぐなよ。」という台詞を想い出していた。

「早くに死んだら許さないからなあ!遅くでも死んだらイヤだけど。」

「あたしは、どうすれば?不死になれと?」

瑠璃の言葉に、チカは笑っていた。

「俺を看取って欲しい、て言いたいトコだけど、俺が死んだ後に浮気されたら堪らないからな。お前は俺が看取ってやる。いいな?」

「いいなって言われても。」

嬉しくて、頬が熱いけれど。
その頬を瑠璃は手で押さえる。

「お前は、その努力をすればいいんだ!俺を先に死なすな。出来るだけ長生きでいろよ。」

「……はい、登規さん。」

嬉しいから、素直に返事をしとく。

チカは楽しそうに笑いながら運転をしていた。
あの娘に逢いたかった。
いつも母の腹の中の妹と会話をしていた。
早く逢いたいね。
でも、叶わなかった、それは。
最愛の母と共に、妹は命を終えた。
この世にい出る前に。

いつか、この娘に出逢えたらいいのに。
そう想い、生きてきた。

「ジジイとババアになっても、ラブラブで楽しく暮らすんだ、俺たちは。」

「うん!」

瑠璃は後ろから、チカの指環の着いた左手を握った。

「あ、そうだ。効果あったよ、コレ。」

チカは笑っていた。

「この魔除けのお蔭でもあるな、きっと。」

二花を見たら、締めつけてきたの?
瑠璃は、その光景を想像して、笑った。

現場で瑠璃は婚約指環を外し、チカに預けた。
チカはシャツの内側に着けていたペンダントに、その指環と自分の指環を通して、またシャツの中に仕舞った。
撮影の間は、こうして、チカの胸元で一緒に居られる。

開園前のアウトレットパークのハロウィンモード広告の映像とスチール撮影。
もう、秋の模様の撮影。
一年があっという間で、この一年、実にいろんな事があった。
二花の別離の決意から、瑠璃とチカは罵り合いから始まった、きちんとした交際。
まだ疑念が互いにありながら、でも、愛がどんどん深まって、婚約もして、身体も結ばれて。
そして、昨日は二花に一年振りに逢って、チカも偶然二花に逢って。
昨夜は、あのふたりは、あの家で、どんな甘い夜を過ごしたんだろう?
そんな事を考えるのも寂しいような、嬉しいような。

また一年後は、どんな感じだろうか?
結婚前のあたしとチカは。
こんな風に、しあわせだろうか?
チカに見られながら、ドラキュラに扮した瑠璃は、かぼちゃのお化けにキスをして、噛りつく。
信じる、というより、日々、新たな悦びの中にい続けたいと願った。

そして、また長い移動の後、午後は都内でのファッション紙の撮影だ。
また、秋の出で立ち。
季節が先取りなのは慣れているけれど、もう、すぐに冬の装いになる。
春夏秋冬、早くて。
十四歳が、あっという間に過ぎていくのだろう。

十六歳で結婚して、いつ妊娠するのか。
モデルをしていくならば、その人生計画も必要で。
早くにチカの子が欲しいが、その前にとにかく、世界に立ちたい。
それも含めて、チカは様々に計画しているかもしれない。

帰り道、チカのスマートフォンが振動していた。
番号を確認して、チカはイヤホンマイクを着ける。

「出るからな。」

瑠璃に断り、すうっと深呼吸をした。

「Hello.Yes, this is he.Touchika Yoshida speaking.」

おっ、英語だ。
そんな電話は初めてだったので、瑠璃は驚いた。

「Thank you very much for calling,  Amelia. It has been a while since I last contacted you, but
how are you? …hahaha! I am very energetic. The life in Japan is very fun. Thank you for your kind words.」

話しながら、チカは路肩に車を止めた。
ネイティヴ相手なのだろうから、早くて聴き取れないけれど、丁寧な言葉遣いなのは判った。

「 Amelia, did you watch a Ruri's photographic inventory? … I'm grateful.Yes!  I am engaged to her. I put a ring on her ring finger. You think a my betrothed is very beautiful, isnt' it?  So, I want you to appoint her as a
model. I am sure that you will be gratified by doing so it. 」

相手が写真集を見たかどうかの確認と、あの指環をはめているのは僕ですよ、という知らせをしているのと、モデルのお願いをしているのは判った。
だから、顔が赤くなる。
瑠璃は交通量を確認してから、後部座席を出て、助手席に座った。

「 I hope for your consideration. She certainly succeeds. Well, because she is a goddess of the
victory. 」

話しながら瑠璃を見つめ微笑み、瑠璃の頭を撫でる。

「Amelia, I am looking forward to working with you. Thank you for calling. Keep in touch. Bye! Amelia. 」

通話を終えて、瑠璃の左手を握った。

「肉、喰いに行くか?」

チカのニヤつき。
何で、そうなるの?

「判った?言ってる事。」

「よくは判んない。早すぎて。」

最後は彼女は勝利の女神、とか、一緒に仕事したい、とか、そういう事くらい。

「この会話が判るくらいだと、安心して何処でも行けるけど。まあ、俺ついてるし。」

「ん?」

英語の相手、モデル。
チカのしようとしている事の予感に、胸がドキドキしている。

「決まった訳じゃないけどねー!期待を込めて、て、ゆー事で、肉!」

そしてチカはまた、ニヤニヤして電話を掛けた。
店の予約、だった。

「美味い鉄板焼きの店があってね、芸能人御用達の。」

「肉はいいんだけど、別に。」

そうじゃなくて。

「んー、海外三社に今回の写真集を送りました。で、昨日、確認の電話をしました。いいんじゃないの?的な一社と、今の処。コネを使いましたけどねー!昔馴染みの、母御用達のブランドに。」

瑠璃は眼を大きく見開いた。
こんな、早速に、こんな大仕事を。

「チカ……!」

チカの首に抱きつく。

「まあ、誰かに見られて撮られてもいいけどねー。」

チカは笑って、瑠璃の頭を撫でた。

「まだ、ちっとも決まりじゃないんだよ?俺がひとまずホッとした自己満足とゆー事。さーすがに緊張しましたから。」

それで昨日のナイーヴさ?
あの弱さ?
瑠璃はチカがとてつもなく愛おしい、という感情に包まれた。

初めて行った鉄板焼きの店も、落ち着いていて、他の客の視線が気にならないような半個室的な作りになっていた。
芸能人が訪れやすいだけはある。

ガッツリ食べるね、やっぱり。
その美味しそうな食べ方、あたしは大好きだし、見ているだけで気持ちがいいし、セクシーだし、しあわせだ。

「いろいろなそこそこな区切りのお祝いで、とゆー事で。」

あたしの口に、その焼けた肉をフォークで運ぶ。
ニヤニヤして、あたしが噛る様子を眺めている。
それらを含めて、チカはmakeloveと呼ぶ。  
チカはレアというより、割りと程良く焼けたミディアムレアがいちばん好きみたいだ。

「この一年、凄かったな。良かった、瑠璃とこうして、平穏に迎えられて。あの後はもう、ダメかと思ったけど。」

やっぱりチカも、この一年は感慨深いのね。
あの夜、二花に呼び出され、狂ったあの可愛い人の眼を見て、あたしたちはあの人と、もう逢わないと互いに約束して。
でも、そのあやふやな約束が怖くて。
信じられなくて、罵り合って。
また、言葉巧みに裏切って、ズタズタに傷つけられるのではないか、傷つけるのではないか、それが怖くて。

ちゃんと、約束を果たせたではないか。
危うくとも、ちゃんと二花を切れたではないか。
もうダメかと何回も思ったのに、こうしてふたりで向かい合って笑っているではないか。
更に愛が深まり、互いが更に無くてはならない存在になっている。

「僕はガーリックライスじゃなくて、トーストにして下さい。」  

尋ねられて、シェフにそう答える。
何気に引っ掛かっていた事。

「ねえ、チカってもしかして、ご飯がそんなに好きじゃないの?」

瑠璃に真っ直ぐ見られて、チカは戸惑っていた。

「食べるけどー自分では頼まないでしょ?」

観念して、チカはフッと笑った。

「バレたか。」

「何で隠す必要あるの?」

恥ずかしそうにしているチカの頬に、瑠璃は左手を伸ばした。
チカはその左手を右手で軽く押さえる。

「んー。だってさ、例えばパパとママも、普通に盛って出してくれるじゃん?なのに食べたくありませんって言うのも、アレだしね。別に食べれるし。」

「や、言ってもいいと思うけど?キライな食べ物は。」

変な処で遠慮するチカ。

「キライ、じゃないよ。普通に食べれるし。苦手って言うか、食べ慣れない癖がついてる、みたいな。」

そして、瑠璃をしっかり見た。

「家でな、例えばお前がメシを作ってくれるじゃん?それでお前がコメを喰いたいとする、そういう時、あーチカにはパン用意しよ!ていうのはナシな。」

それは御免だから。
そういう顔をした。

「あるもの喰うし。特別扱いしなくていいし。ま、時に特別扱いしてくれてもいいけどさ。」

どっちよ?

「じゃぁ、瑠璃がこれ苦手だなーってものは?食べれるけど、自分では食べないかなっていうの。」

ガーリックライスとガーリックトーストが出てくる。

「お豆かな。枝豆は好きだけど、バラで粒になってるのは苦手。」

「おっし!覚えとく。」

そして、ガーリックライスをスプーンですくって、瑠璃の口に運ぶ。
瑠璃は眼を細めて、口を開ける。

「俺、お前のその表情、好きだよ。色っぽくて。」

だって、チカがそういう眼で見てるから。

「あ、その顔はダメ。俺とふたりでいる時だけな。」

そして、チカがガーリックトーストを自分の口に運ぶ指、それを咥える口、噛る仕草、舐める指に見惚れる。

「だから。その顔はダメ。」

この遣り取りも全部、makelove。
その後は激しく艶やかに、甘いふたりの家で、ね。

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……………………………………………………………………………



遅くになってしまったので、家の前で静かにドアを開けて家の中に入った。
チカの車が去るのを見送りたかったけれど、心配だからと瑠璃を家に入らせた。
そして、車が去っていく音。
これは何度聞いても切ない。

仕事で遅くなる、というのも、計画では真実であったのだし、たまには嘘も許してね。
パパとママが睦み合う声に、微笑んで。
リビングに入ると、ドキッとした。
ソファに座り、幹也がテレビ画面を、じっと眺めていた。
前回の椎也のライヴ映像。
ちょこちょこ、二花の姿も映る。

「ああ。姉ちゃん、お帰り。」

「ただいま。」

やっと瑠璃の存在に気づいた幹也は、瑠璃を見ないでそう口にする。
ライヴ映像を観ている、というよりは、それを流して眼だけ固定させ、ぼんやりしていた感じだ。

「にんにく臭いな。」

「そうかな。」

瑠璃は恥ずかしそうに口を手で押さえた。

「幹也、デートだったって?どうだった?」

興味津々だった事。
確かめたかった事。

「デート、ねえ。」

溜め息をついて、幹也はようやく姉を見た。

「キスされたわ。」

「え?」

確かに幹也は格好いいから。

「告られて、断ったら急に。これが俺のファーストキスかよ。」 

呆れたような、空しいような顔。

「唇が当たりました。柔らかいですね。それくらい。感想としては。」

やはり女の子に何も感じなかった。
それは、決定的に自分は女が対象でないと知る、少し切ないエピソードでもある。

「でもさ。俺、今日、初めて女の子が可愛いと思ったよ。」  

「え?」

瑠璃は驚いていて、弟の顔をまじまじ見つめた。

「二花くんが連れてきた娘ーああ、今日、二花くん来たよ、ここに。」

二花くんが?
瑠璃は眼を見開いた。
ああ、そうか。
あの娘は昨夜、二花くんの家に泊まって。
そして。
今日はうちに遊びに来たんだ。

「え?神楽ちゃんに?」

複雑だけど。
なら、良かったじゃない。

「ほら、まだ判んないんだよ、幹也。これから女の子にわさわさするかもよー!」

「それはねえな、多分。」

なのに、きっぱりと宣言する、なんて。

「何てゆーか、あの娘、多分、性別とか超えて可愛いってゆーか。人間超えて可愛いてゆーか。」 

「すごいね、それ。人間超えるとか。」

瑠璃は幹也の言葉に驚いて、幹也の隣りに座る。

「でも、あれ、もうダメだ。二花くんの女だし。」

「え?」

神楽が二花の女。
そう、幹也がはっきり言うくらい、という事は。

「二花くんとそういう雰囲気だったし。俺があの娘をよく見てた時、二花くん警戒してたし。」

「そう……。」

なら、きっと昨夜。
昨日はまだ、何の関係も無さそうに見えたから。
例えば、あたしと逢って、チカと逢って、二花も神楽への気持ちが刺激されたのかもしれない。
何という日だったのだろう。
昨日は、あたしたちの心がとても動いた日だ。
三人ではなく、四人になった。
あたしたちの複雑な気持ちの関係は。

「俺、ママや姉ちゃん、可愛いと思ってるよ。他の娘だって。でも、それ多分、普通に男がそう思うのと、ちょっと違う気がする。」

「別に恋じゃなくても、男の人も、可愛い娘には可愛いって気持ちにはなるでしょ?」

「そうだけど。」

幹也は頭を掻いた。

「今日さ、俺、二花くんに裸見られて欲情されて、溜まらなかったから。」

「裸っ?」

瑠璃は慌てて、幹也の顔を覗いた。

「あ、上だけ。上半身、汗だらけでTシャツ脱いだから。」

「ああー」

それにしたって、幹也にまで欲情だなんて。

「何て人かしら!二花くん、幹也に?」

確かに幹也、とても逞しくなったから。
パパの息子だし。
それだって、二花くんは、産まれた時からずっと幹也を見てきたのに。

はたっと瑠璃は気づいた。
ああ、そうなんだ。
こんなに気味が悪かったんだ、みんな。
二花が瑠璃に、そんな気持ちを抱いて、つきあい出した、中学に入ってすぐ。
気持ちの言葉を貰えた瑠璃は、天にも昇る気分だったけれど。
よくまあ、パパとママ、許してくれたな。
瑠璃は頭を手で押さえた。

「俺は二花くん、可愛いと思うよ。その可愛さは押さえつけたくなる……姉ちゃんには判らない感覚だろうけど。」

チカも話していた実態に気分が悪くなったし、確かに男同士のそれは、理解し難い部分もある。

「そんで、いつまでも俺がチカのいちばんだって自負してるトコ、イラッとくる。」

「自負したの?」

或いは、そうかもしれない。

「チカ、白米が苦手だってさ。如何にも俺だけ知ってるとっときの秘密、てゆー感じで。姉ちゃん、知ってた?」

「うん、それはー二花くんが?そう言ったの?」

あたしも今日、しっかり知ったけれど。
二花が、それを。

「結局、チカは俺のもんだって言ってんだぜ、アレ。」

「そっか。」

二花は知っていた、チカの黙っていた秘密を。
嫉妬。
明らかに二花へ嫉妬心。
二花への嫉妬ではなく、二花がチカを想う嫉妬。

緑の眼。
見動きしないで、猫の翠がこちらを見ている。
その光る緑の眼。

「だから俺、コイツ、服従させてやりたいって思った。」

幹也の本音。

「まあ、姉ちゃんに死なれたら困るから、自分からはそうしないけどさ。」

もし、誘われたら、判らない、という事。

「そうしといて。そうなると昼ドラも真っ青のドロドロ泥沼。」

「俺だって、やだよ、そんなの。楽しく恋愛したいもんな。」

いつか、好きな相手が出来たら、その子を大切にしたいから。
俺は姉ちゃんとチカの関係、すごく羨ましいから。
そんな風に、激しく楽しく恋愛したいから。

「だからさ、俺、みんなに言った方がいい?俺、ゲイですって。でないと今日みたいな、ムダに泣く娘出てくるじゃん。」

自分が女にモテるって、自慢ではなく自覚があるから、その優しさなのかもしれない。

「幹也がゲイだって知っても、女の子の好きって気持ちが抑えられるかどうかは別だけどね。しかも、まだ未確定かもよ?」

「……もう、そうだよ。」

幹也はどんどん成長して、男らしくなった。
その中で性的興奮の相手が女ではなく、男だと自覚してきた時の気持ちは、どうだったのだろうか。
おそらく、とても複雑なものだったろう。
しかもパパとママの仲睦まじい様子を見て育ってきて、それが当たり前だと信じていたから、余計に。

「じゃあ、バパとママにまず、伝えたら?」

それで幹也の気持ちが落ち着くなら。

「そうだね。そうする。」

幹也は頷いた。

「びっくりするだろうな、パパとママ。」

「そりゃあね。」

「チカにはやり方教えてもらうか。」

「ーそれは、キモいからやめて。」

幹也は笑っていた。
この先はきっと前途多難。
でも、頑張れ、幹也。

部屋に戻ってスマートフォンを見ると、チカから連絡が入っていた。

luv ruri

とだけ。
着いたよという意味合いもあるだろう。

luv chicca

と返しておいた。

昨夜も徹夜なのに、とても元気な人。
瑠璃は欠伸をした。
今日はチカがぐっすり眠れますように。
窓から夏の星座を見上げて、そう願った。

もし、海外でランウェイを歩けるのなら。
いつか、チカとそのステージで手を繋いで歩きたい。
そう想い描きながら、ベッドに倒れ込んだ。
今日はもう、このまま寝よう。
シャワーは浴びてきたし。

I'm always on your side.

そう、返事が来た。
しあわせに笑って、そのまま眠りについた。
いつでも、あなたの傍にいる。
あなたはいつでも、あたしの傍にいる。
それが、あたしたちの約束。
巡り逢えた悦びの証。



トーチカ~瑠璃シーン④終わり


トーチカ~神楽シーン⑤に続く


……………………………………………………………………………






チカが語ったスーパーでの出来事。
神楽に告げた事。
気になる処は、追々で。

最後の幹也が出てきたところは

脳内で
“ Do Ya Think I’m Sexy? ” が流れてます。

幹也のテーマ曲
神楽のテーマ曲、でもあります。

幹也が、二花に邪魔されず
しあわせな恋愛ができますように。


次回の瑠璃シーン⑤は、そこもテーマ、かしら?

いよいよ、モデルの再骨頂、そして結婚直前に入ってきますね。


でも、その前にハードな神楽シーン⑤があります。

瑠璃シーンより、逆にこっちがハードなエログロ話となってしまいました、が。
それが楽しみな人はお楽しみに。

大事なのは、互いを大切に愛し合う事で幸福だ、という純愛ストーリーなので。



お読みくださり、真にありがとうございます!

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