みずのこえ ことばこころほどき

ことばこころほどき、とは
あなたのかたくなった部分をほどくメッセージです。


テーマ:
今日もお話です。


ここまでは。
ここまでは。
どうしても書き切りたかった。

とても、好きな回です。
神楽シーンで心地好い動きのある回です。

愛する二花の話を
ここまでは書いておきたかった。
(愛と言っても子どもに対するような愛。)

本気で誰かのために
動けるとき
大きな動き
もしくは心地好い空気があるのかもしれません。

作中、ある曲が出てきますが
この曲が好きです。

歌詞もなかなかな。なかなかな。
また今度Youtubeにリンクしてアップしますが。

ここまで、書いたので安心してペース落とします。

トーチカ神楽シーン①
未来を知っている(そしてまた新たなキャッチコピーのつく)少女神楽の眼線


トーチカ~瑠璃シーン①
モデルの激しい気性の少女瑠璃の眼線


交互で同じ時を語ります。

トーチカ~神楽シーン②

トーチカ~瑠璃シーン②

↑とても苦しいラストになった瑠璃シーン
果たして四人運命は?

というか
結末がわかっている上で
そこに到るまでがどうであったのかのお話ですな。

最後はハッピーエンドで。

トーチカ~神楽シーン②の続きから始まります。



では、神楽シーン③お楽しみください。




トーチカ~神楽シーン③




眼がガッと開いた。
見覚えのない天井、何だか慣れない方向感覚。
身体を起こそうとしたが、身体が重くて起き上がれない。
何で、こんなに重いんだろう。
ああ、そういえば、熱を出したんだっけ。
でも。
違う。
何もかもが違う。
暗い室内だけれども、明らかに、いつもと雰囲気が違う。
ここは、何処?

「何処?ここ。ここ、何処?」

少しパニックになって、声を出して問うた。

「どうした?」

二花の声が隣りから聞こえてきたので、少し、ホッとした。
そして、天井に明かりがパッと点く。
眩しくて、眼を閉じた。
そして、眼を再度開くと、二花が神楽の顔を覗いていた。
よく知っている可愛い二花なんだけれど、何だか違う。
アレ?と、神楽は仰向けのまま、キョロキョロ辺りを見廻した。

「ここ、何処?何処?」

「何言ってんの?大丈夫かあ?」

二花が顔を近づけて、神楽の額に手を触れる。
あ、違う。
感触が違う。
あたしの額と、二花の手の感触が違う。
顔の近さと、全く躊躇しない触れ方も違う。

「いつ?今、いつ?」

「えっ?」

二花は不思議そうな顔をして、至近距離で神楽をじっと見つめた。

「あっ、神楽、記憶が飛んだな。」

記憶が、飛んだ?
意味が判らなかったが、何となく状況が掴めてきた。

「という事は、過去の神楽だ。」

過去の神楽。
それは、つまり。
あたし、未来の二花と話している……?

「今?俺たちもう、結婚してるよ。」

笑んで神楽の額を撫でながら、二花は神楽の左手を握って、神楽の眼の前に持ってきた。
指環……。
本当に、そうなんだ。
急に感極まって、涙が溢れてきた。
二花は優しく微笑んで、神楽の涙を吸った。

「今、神楽、何歳?」

「十二歳……。」

「十二歳……あの夏の時だ。そうだ、あの時の。」

二花は唇に唇を重ねてくる。
そして、愛しそうに、頬と頬を寄せた。
二花の指輪をつけた手を、神楽の右の頬に置いた。

「神楽、ありがとう。辛いことばっかり言わせたな。」

そうだよ、苦しいよ。
何で、わざわざ、愛する人に酷い事を言わなくてはいけないのか。

「苦しかったよな。お前、顔変えないし、泣かないから判らなかったよ。後になって、どれだけ神楽が我慢してたか、よおく判った。いっぱいお返しするから……なんて陳腐な言い訳だろうけど。愛してるよ。今の俺は、神楽をとても愛してるよ。」

そして、またくちづけをしてくる。
涙が止まらない。
本当に、あたしは、あなたの妻になっているんだ。

「覚えといてね、今の俺の事。俺が余りにアホすぎて、辛くなったら思い出してね。今の俺から過去の神楽に謝って、そして過去の神楽も強く愛するから。守るから。今の俺がいるのは、あの時の神楽が、本気で俺に向かい合ってくれたからだ。」

「ずっと、好きでいていい?」

震えて、涙で見えにくい二花を見つめる。

「お願いします。でないと、俺、どうすんの?」

二花は神楽の顔に涙を落とした。

「神楽がここに来るには、まだ少し時間がかかるけど、待ってるからな、ここで。ふたりで。」

ふたりで。
二花は握った神楽の左手を、神楽の腹に置いた。




……………………………………………………………………………



外が明るくなって、自然と眼が醒めた。
起き上がって、あれ?昨夜、お風呂入らんかったっけ?と考えた。
汗だらけで身体が気持ち悪い。
あ、熱出して倒れたんだった。
そうして。
それよりも、もっと。

あたし……未来に行って来た。
感覚を覚えている。
二花の感覚を。
その感覚を受けた身体は、今のあたしじゃないけど。
でも、あれもあたしなんて、複雑な気持ちだ。
胸がドクンとした。
そっと、自分の腹に手を置く。
あたし……。
あたし、二花のー。

ベッドから出て、着替えを出して、ドアを開けた。
四時半、蝉の声がもう響き出している。
味噌汁や、葱や魚の焼けた匂いがする。
居間に行くと、窓を開けて、二花が外を眺めながら、煙草を吸っていた。
神楽の気配に気づいて、振り返る。

「おはよう。神楽、熱、下がった?」

二花の笑顔にドキリとする。
昨夜の記憶の、あれは未来の二花。
未来の積極的な二花と違って、今の二花は、まだ神楽を愛してはいない。
だから、まだ、ダメ。
感情を顔に表しては、ダメ。

「うん、お陰さまで。ありがとう。」

「良かった!昨日の夜、神楽が寝入って少ししてから、熱が落ち着いてきたけど、起きれるかなーって心配だった。」

二花が神楽に近寄り、額に触れようとした。
びくんとして、神楽は身体を避ける。

「近寄らないで!」

大声で言い張った。
その声に、二花は伸ばした手を引っ込める。

「あっ……汗臭いから、近寄らないで。」

どういう表情をしていいか判らなくなり、神楽は少しオドオドとした。

「うん、判った。」

神楽のその様子を見た二花は、何だか恥ずかしくなり、ただ頷いた。

「シャワー浴びてくる。」

ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。
風呂場に向かおうとした神楽は、自分に言い聞かせた。

「神楽、お前、あのさ。」

二花は神楽の背中に声をかけて、そこで止めた。

「何?」  

神楽は振り向かないで、小さく返した。

「昨日の夜……いやーいい。今は、いい。」

二花は、そこでやめた。
気になっちゃうじゃない。

「二花くん、もう帰るの?」

「うん。そろそろ。メシは作っといたから、好きに食べな。」

「ありがとう。三実ちゃんは?帰った?」

「いやー泊まってる。また、寝てんじゃない?出てきても、何処から来たかは知らんぷりしてて。俺がチクった事、内緒な。」

「お父さんの部屋か。」

神楽はクスッと笑った。

「かなり複雑なもんだぞ。俺としては。」

何のことやら。
神楽は、背を向けたまま、手を横に伸ばした。

「神楽。」

気がついたら、すぐ背後にいて、その手を軽く掴まれた。
びくんと、大きく身体が揺れる。

「近寄らないでって言ったでしょっ!」

声を荒げ、二花の手を払う。

「ごめん。神楽、あのな、少し話聞いて。こっち向いて。」

二花の小さく絞った声に、神楽は微かに震えながら、戸惑いながら、ゆっくり振り返る。
二花は、とても深刻そうな顔をしていた。

「神楽。俺の行き着く先がお前だとしたら、今の俺は相当清算しないと、そこには決して辿り着けない。」

「……そうかもね。」

何故、急にそんな事を言い出したのか。

「出来るかな……本気出しても間に合うかな。」

「何?どうしたの?急に。」

怖いくらいに顔に緊張感がある。

「神楽は俺がどんなに悪者になっても、大丈夫?」

「あたしは“知っている”、あなたはやり遂げる。」

ああ、思い出してきた。
夏の朝の部屋に斜めに長く入り込む陽射し。
蝉の声、湿気、お味噌汁、葱、焼魚の匂い。
そして、二花の煙草の匂い。
あなたのこの後の苦しみを思えば、今、愛しく抱きしめたい。
だけど。

「二花くんが悪者でも、あたしは大丈夫。」

あたしが今出来る事は、ただ、真っ直ぐに二花を見て、後押ししてあげる。
自信を与えてあげる。
その、大事なスイッチの役割。

「判った。やってみる。」

あなたのその首に抱きつきたいけれど。

「うん。シャワー行ってくるでね。」

今は見送るしか出来ない。

「神楽……ありがとう。」

「二花くん、行ってらっしゃい。」

あたしは、ここで待っている。
笑顔で見送る事も出来ない。
抱きつくことも出来ない。
泣く事も出来ない。
顔を隠して、急いで風呂場に向かう。

神楽が去った後を、二花は長い間ぼんやりと眺めていた。
昨日の夜、今は臨月だと言う朗らかなお前と、今のお前の肉体で会話した事を、お前に言った方が良かったのか?

神楽の腹の中の子ども、それはきっと。
自惚れかも知れないが、神楽に他の男はムリだ。
だとしたら。

それを考え悩んで、昨夜は眠れなかった。
情けない俺に子ども?
だらしない俺の子ども?

それは今から、どれくらい先?
問うても彼女は笑うだけだった。
彼女の明る気な若々しい雰囲気からすると、そこまで何十年も先の話ではない。
その未来は、これから、そう何年も無いかもしれない。
衝撃だった。
愕然とした。
眼の前に槍を突きつけられた気がした。
そんな覚悟はあるのか?お前に。

チカと瑠璃の間をフラフラしている今の自分には到底、そんな権利は無い。
しかも、瑠璃を抱いた後に包丁を自分の首に押さえて斬りつけたくなる今の自分には、そんな自信は微塵もない。

そして、チカに抱かれた後にベランダから雑多な路地を見下し、そこに飛び降りたくなる今の自分には、そんな勇気はとても無い。

瑠璃とチカ、どちらとも行為が終わった後に激しく後悔する。
なのに、すぐにふたりが猛烈に欲しくなる。
どちらかとすれば、すぐにもうひとりが欲しくなる。
自分がもう狂ってるのではないかと、恐ろしい。

俺の子ども。
それまでに、どれだけ清算出来る?
それまでに、どれだけ苦しみを流せる?

どうするんだ?
俺に今、何が出来る?
立ち上がって荷物を持ち、二花は玄関へ急いだ。



……………………………………………………………………………



「『昨年6月の沖縄での写真集撮影時に、マネージャーA氏括弧26括弧閉じる、と仲睦まじく手を繋いでいる森下瑠璃括弧当時13括弧閉じる、の目撃情報は幾つかあったのだが、その激写を今回入手する事が出来た。
折々の撮影現場でも、親密そうな二人の様子は、よく噂されている。
森下瑠璃は恋人だとA氏が公言しているという情報もある。
14歳の中学生ながら、森下瑠璃のもはや完成されたエロティックな体つきと色気漂う表情は巷の話題である。
数々の男性との噂の流れた母親の南藤実花に似て、彼女もやはり男性関係は早熟なのだろうか。』で、この見開きの写真に二枚だもんね。」

神楽は週刊誌の記事を読み上げながら、掲載された写真に指を示した。
指を絡めて繋ぎ仲良く歩いている写真と、A氏が後ろから森下瑠璃を抱きしめている写真だ。

「これ、六月だからね。この後、何回もふたりと関係を持っていながら、欠片も気づきもしなかったあなたは相当アホか、慢心しとったいう訳ね。」

こたつの横で頭を抱えて項垂れ、体育座りをしている二花に、神楽はズケズケと言い放つ。

「あんな鬼気迫って演じたのに、無駄な事をした、思っとるんだろうけどね。 してやられた、と被害者ぶって思っとるんでしょうけどね。 あなたには想像つかんだろうけど、だから余計に苦しんどったよ、あのふたりは。あなたがあの時点でああ決断しなかったら、ふたりは精神崩壊しとったよ、間違いなく。だから。」

見動き取れない二花に、神楽は心を込めて
肩を優しく叩く。

「まあ、でも、この件では、あなたは確かに被害者でもあるよ。二花くんの身体を使って、互いに復讐しとったんだから。言葉で最初から嫌悪感を伝えたら良かったのにね。互いに同じ男を共有してると認識した上で始まった関係だから、それが恋になった時、ふわふわして抜け落ちちゃったのね。二花とはもうやめてほしい、て、最初から、いちばん大切な願いを互いにそう口にして言えたら良かったのにね。だから、この後もただラブラブに過ごしとるんじゃなく、未だにあの人たちは時折、激しく罵倒し合う。苦しいね。でも、それは必要な作業だから。」

そして、二花が欲しくなって苦しむ禁断症状と闘っている。

キスマークが毎回競うように増えていき、二花はそれは互いの憎悪からきているのだとは、考えていた。
それが、そこまで単純なものでは無かった。
憎悪のみならず、どちらへもの嫉妬と、二花への執着と、相手と自分への不信感。
殺意にも似た復讐心が二花への性衝動へと転換された。

「改めて言うけど、二花くんはよくやったよ。よくふたりを同時に放せたと感心するよ。断ち切るには、あれしかなかったっていう潔さは褒めるよ。」

狂った人間の眼なんて、よく知っている。
だからこそ、時を経ると、よく判る。
父も恐らく、狂い続けた人生に嘆き疲れ、ピリオドを打ちたかったのだ。
だから、フィナーレに二花を触媒として選んだ。
そして、謂わば安堵して自死を選んだ。

そして、自分も本当に狂っていたのかもしれない。
あの時放った卑劣な言葉は、全部本心だ。
本気でそれを望む自分が、心の中にいた。
そして、一晩、海で過ごした。
いろんな欲望が浮かんできた。
恐ろしい穢らわしい欲求だらけの自分がいた。
闇と月に照らされる苦しい海のうねりの音は、人の心の残酷さを際立たせた。
人はその自分の欲求の暗さや秘密に耐えられなくなると、自分を消したくなる。

清算なんてムリだ。
こんなに壊れた俺の子どもなんて、要らない。
化け物の血は確かに、この中で流れている。
これ以上、この血で苦しませたくない。

瑠璃の笑顔が欲しい。
もう一度俺に、笑って欲しい。
瑠璃を愛していた気持ちは本当なのに、なのに、どんどん酷い事をしたくなった。
もっと酷い事をしたくなった。
ただ、性欲の処理をした。
だから、瑠璃が帰ると、死にたくなる。
気づくと包丁を首に当てている。
ああ、本当にざっくりとやっちまえば良かったのに。
そんな死体を見た事がある。
その死体の母の顔が、自分に置き換わる。

チカの笑顔が欲しい。
俺に向かって無邪気に笑ってくれていたのに、どんどん笑顔が無くなった。
もう一度俺に、好きだよ、と言って欲しい。
チカを愛していたのに、言葉も無く、物を扱うように激しく乱暴にされていった。
ただ、性欲の処理をされた。
だから、終わって無言で突き放され、チカが穢れを払うかのようにすぐにシャワーを浴びに行くと、死にたくなる。
気づくとベランダから下の雑多な路地を見下している。
ああ、本当に飛び降りてグシャリと潰れれば良かったのに。
そんな死体を見た事がある。
その潰れた死体の父の身体が、自分に置き換わる。

今朝、椎也から電話があった。

「本屋でもコンビニでも行って、直接見て来いよ。ざまあみろ。」

そして、週刊誌を見つけた。
突きつけられた、ふたりからの最大の復讐。
それを買ってどう帰ったか記憶も無く、ツアーの合間に寄っていたこの家に戻っていた。
テストという事で早く帰宅してきた神楽に、その週刊誌を渡した。

「テレビ点けていいか?」

「どうぞ。」

重い身体を動かすと、昼の情報番組がやっていた。
ちょうど、瑠璃の報道をやっていた。

週刊誌の記事に対する事務所のコメントは、『お騒がせして大変申し訳ございません。森下のマネージャーは、今後も森下を支えて参ります、という所存です。』という短いものだった。
その意味合いも、ニュアンスのぼかし具合で、どうとでも取れる。

これには賛否はあるが、瑠璃のイメージからすると、倫理よりも、世間はその関係に興味津々である。
しかも、そのお陰で話題となれば、更に世間の眼が瑠璃に行く。

「まあ。オレオレなチカからすれば、ぼやかさず、きちんと公言したい処だろうけど!スポンサーもあるしねえ。」

二花は何も言わず、スイッチを切った。

「ショックなの?」

神楽は無表情で二花を見た。

「……当たり前だろ。」

まさか、ふたりが沖縄で既にそんな関係になっていたとは。
確かに、沖縄以来、チカの表情は更に厳しくなり、誘いを拒む事もあった。
チカが瑠璃のマネージャーになり、瑠璃にどんどん惹かれていっているのは判った。
部屋に飾られているチカの母親の写真が、いつの間にか裏を向いていたから、余計に。

瑠璃の表情が大人らしく艷やかに変わったのは、あのカメラマンの撮影の所為だと思っていた。
それは、瑠璃はとても、チカを嫌悪していたからだ。

愛したふたりの身体。
それが互いに絡み合う。
頭にその映像が浮かび、二花は思わず神楽の腕を掴んだ。

「何ー」

「神楽、俺が好きか?」

セーラー服の神楽は躊躇して、頷いた。

「好きよ?」

「なら、やらせろよ。」

しばらくの沈黙の後、神楽は反対の手で二花を引っ叩いた。

「ほんとっ、最低ねっ!」

神楽は涙をボロボロ流して、片手でギュッとセーラー服の襟元を掴んだ。

「あっ。」

その様子に、二花は我に返った。

「ごめん、ごめん、神楽っ!ごめんっ!」

二花の手を振り払い、悔しそうに、悲しみを振り絞って叫ぶ。

「最低っ!出て行ってっ!」

「ごめんー神楽。」

神楽は泣きながら駆けて行った。
あんなに泣き叫ぶ神楽は見た事が無かった。
何て事を言ってしまったのか。
二花は前髪を掻き上げて、そして拳を勢いよく振り、反動をつけて自分の頬を殴った。

「ちくしょうっ!」

何回も殴った。
そして、家を出た。


……………………………………………………………………………




「二花から電話あってな。神楽に凄く謝ってた。申し訳ないって。自分が情けないって。俺はまあ、流石に怒れたけど。お前は節操が無さ過ぎだって。」

父の瞬が帰宅してきてすぐに、そう伝えてきた。

「そらね、当然。」

そんな時、二花はすぐに死にたくなる。
どうせ死にはしないけれど。
かなり危険な時もあるけれど、そこも超えていかなければならない。
自分が乗り越えるしかない。

「これか、原因は。」

瞬は、こたつの上に置かれた週刊誌を捲る。

「そりゃ、まあ、ショックだろうよ。自分の男と女がくっつくなんて。最大の復讐劇だ。……俺には信じられんけど。どうして、いちばん憎い相手に気持ちが動くのか。」

瞬は左眉を上げてから、こたつに入り、記事をよく読む。

「だって。この人たちは、皮肉な事に、お互いがとても好みなタイプだったから。始まりが憎しみだから、余計に燃えたよね。」

「そうなのか。」

瞬は驚いて神楽を見やる。

「あたし、この瑠璃ちゃんの表情、すごく好きだけど。」

写真の解像度がそう高くないらしく、ぼやけているので見にくいが、瑠璃は大人らしい落ち着いた微笑みでチカを見上げている。
例えば世間に見られても別に構わないという態度を現実に示してくれたチカに、安心しきって任せている。

「……二花ではムリだったんだな。アイツにそこまでの覚悟は無かったんだろうな、結局。」

関係が世にバレないように、ふたりでは出歩かなかった。
つきあう前の、生まれる前から知っている友人の子ども、という関係性ならば、普通に何処でも出掛けていたのに。

「寂しいよね、それは。」

「何か、どんどん怒れてきたな、卑怯な二花に。」

「あたしはずっと怒っとるけど、生まれる前から。」

週刊誌の写真に眼を落としながら、神楽は呟いた。

「神楽……やめとけよ、あんな男。」

瞬は溜め息をついて、神楽の頭を撫でた。

「未来なんかに翻弄されんな。固執するこたぁ無い、二花に。」

「そりゃあ。」

「大体、未来が決まってんなら、何したってそうなるって事じゃんな?ほんなら、崩してやれ、道のりを。」

「そうかも。」

神楽は元気なく返事をした。

「お前がどーんなにショックだったか、俺は判るわ。大体、メシを作っとらんし。」

「あっ。」

神楽は父に言われて初めて、夕食の事をすっかり忘れていたと気づいた。

「ごめんっ!」

「いいよ。食いに行くか。」

瞬は微笑んで、急に慌て出した娘を見ていた。

「じゃあ、簡単にレトルトにする。ほんと、ごめんね。」

神楽は慌てて立ち上がり、台所で湯を沸かす。

「俺は別にいいんだぞー神楽。毎日メシ作らんでも。その時間の分、少しは遊びに費やせよ。」

「お父さん、あたしは地味な女。家の中の事を細々するのが好きなの。遊びに行くなら、一週間の副菜をまとめて作っとくわ。」

「やれやれ。」

瞬は立ち上がって台所に行き、支度の手伝いをする。

「で?明日の名古屋ライヴは行くのか?」

椎也のツアーのライヴは、いつも名古屋会場の席を二枚、二花に都合して貰っている。

「行く。」

神楽は軽く頷いた。

「健気だねえ、神楽は。」

「あたしは椎也くんのライヴを観たいで。」

「はいよ。」

瞬は神楽の言葉を軽く流して、また娘の頭を撫でた。



……………………………………………………………………………



ライヴ始まり、椎也の高低に伸びる声に聴き入りながらも、席から遠くのステージ上に鍵盤を弾いている二花の姿を見つけた。
ほら、死んどらんし。
ちゃんと生きとるし。

「んー、あいつ。顔、少し腫れとらんか?」

瞬は小声で隣りの神楽に話しかけた。
確かに左右とも、二花の頬が少し腫れていた。
ぶつけたか殴られたか、自分で殴ったのか。
それでも、改めて客観的に二花を見ると、とても可愛らしい男だと認識する。
年齢に沿わない二花の愛らしさにも、ファンも増えている。
バイセクシャルである事は公表してあるので、男女問わず二花目当ての来場客もいると、ネット上でそんな噂を眼にした事がある。

そんな人が家によく来て、うだぐだして煙草を吸いまくって、調理をして、酒を飲んで父とくだらない話をして酔っ払って寝る。
ステージ上の華やかさと、神楽が体験してきた現実のそのギャップに、神楽は不思議な目眩を感じた。

もしかしたら、あたしは誇大な妄想癖かもしれんわ。
胎児の頃に見てきた未来は、全部、あたしが創った妄想かもしれん。
あの、未来に飛んだ事も、思春期の他愛も無い欲望を表現した夢かもしれん。

二花の赤ちゃん、なんて。

ステージの二花を眺めながら、ひとり顔を赤らめ、神楽は自分の腹を両手で押さえる。
重い腹の中で何かが蠢く感覚を覚えている。

お母さんはどんな気分だった?
お腹の中に、自分とは違う生き物が存在して、どんどん大きくなっていくって。
怖くなかった?
嬉しかった?
楽しかった?
とても愛されていた事を神楽は覚えている。
母がいつも腹に手を当てて、神楽に話しかけていたのを神楽は憶えている。

隣りにいるこの父の声も、よく憶えている。
くぐもって聴こえる、その低い声。
だから、安心してお腹の中で嬉しく過ごしていた。
母の腕に抱かれる事は無かったけれど、それでもお腹の中のあたたかい記憶がある。

椎也くんの声も聴き覚えがある。
後から確かめたら、母は椎也の曲をよく車で流していたと父は教えてくれた。
だから、椎也のライヴは心地好い。
その声を耳にしながら水に委ねるような気分になって、鍵盤を奏でる二花を見ているのが、実に気持ちがいい。

ああ、結局あたし、二花くんを見とるのね。
また。ひとり赤くなる。

「えー……最近はもう、僕たちは
大人になって落ち着いて。すっかりスキャンダルネタから遠ざかり、隠居……?世間からは忘却の彼方でした……が。」

曲の合間に、椎也はゆったりとセクシーな声で語り出す。
会場に笑いが起こった。

「久しぶりにゴシップで取材を受けまして……えー大変緊張しました。」

笑いと歓声が起こる。

「この子は一体誰に似たのか……僕も妻も首を捻りましたけど。情熱的なウチの娘が、世間をお騒がせ……はい、お騒がせしました。すみません。」

誰に似たのか、と、すみませんと言いながら全く謝罪の感情が籠もっていない処で会場は受けた。

「……いいヤツですよ。」

誰が、とは、語らず。
二花はずっと下を向いていた。

「という訳で。……娘を信じて好きにさせてます、ダメパパ話でした。そんな情熱的な娘に送ります……カヴァー、 “Carnival”、椎也 with tsuguharu、スペシャルコンビで。」

電子オルガンでゆったり始まったアコースティックバージョン。
これを二花に絡ませる事が、椎也なりの逆襲と謝罪なのだろうな、と神楽は感じた。
椎也は流石に情熱的な男だ。

椎也の高い声に、二花の低い声が被さる。
この扇情的な曲も、どうして娘の瑠璃に送る曲なのか、多分世間的には理解出来ないだろうけれど。

ステキなハーモニーだ。
瑠璃は二花のマイクに近づけて歌う、その色気ある顔を、ずっと見つめていた。



…………………………………………………………………………



会場を出ようとしている時に、父の瞬のスマートフォンに二花から連絡が入った。

「え?どうした?」

瞬はキョロキョロしてスタンドの位置の確認し、今立っている位置を伝える。
通話を終えた。

「迎えに来てくれるらしいぞ。」

「え?」

暫くすると、黒服の男性が話し掛けてきた。
こちらへと誘導してくれる。
関係者通路に入ると、汗を掻いた二花が笑って迎えてくれていた。

「ありがとうございます。」

係りの男性に二花は礼を言った。

「お疲れさまーそうして改めて見ると、お前って芸能人だったなあって思うわ。」

「芸能人……か?」

二花は微笑んだ。
この笑みが見れて安心した。
夏のあの時は、二花は三ヶ月間、笑顔を失ったから、今回もまた……と不安だった。

「来てくれて、ありがとう!」

二花のその笑みは、人を魅了する。
だけど、その裏の眼の闇が、人の欲求を増大させる。
闇に飲まれた時に、何故に人は全てを二花の所為にするのだろう。
そこから抜け出せなくなる理由を、何故に全て二花に押しつけるのだろう。
神楽は急に腹が立ってきた。

「神楽、来てくれてありがとう。昨日は、ごめんなさい。」

頭を下げられた。

「まあ……椎也くんのライヴに来たんだけど。」

「そうだよな。」

二花の笑み。

「二度とあんな酷い事言わない。約束する。嫌な想いさせて、ごめん。」

「そうね、当り前だら?」

記憶に無い事がいっぱいある。
もう少しすると、記憶が、かなり飛び飛びになっている。
いつの間にか、二花の恋人になっている。
それが何時かは、映像に日時や時間が表れて来る訳では無いので、服装や話の内容や風景から察するしかない。
だから不安な事がいっぱいある。
ヘマをしないようにしないといけない。

ヘマ……?

あたし、何しにこの世に生まれてきたんだろう?

答え合わせの為に、生きているんだろうか?

「え?」

気がついたら、涙を流していた。

「ごめんなさい。」

何で、謝っちゃってんだろう。

「そんな、簡単な事じゃないみたい。」

「え?神楽、何?どうした?」

戸惑っている二花。

「じゃあ、今度また、ドライブに連れてって。」

考えてもしていなかった事を、突然口にしていた。
二花は、その言葉に笑った。

「いいよ。じゃあ来月、行こうか。」

「う。うん。」

「楽しみだなー、何処に行こっか?」

ああ。そうか、あたし。
ドライブ、楽しかったんだ。
だから、二花とまた、ドライブに行きたいんだ。
予定に無い事を、言い出していいんだ。
わざわざ、答え合わせをしようとしなくていいんだ。

大体、未来が決まってんなら、何したってそうなるって事じゃんな?ほんなら、崩してやれ、道のりを。

昨日の父の言葉を思い出していた。

今、何をしたって、二花に行き着くのなら、もっと柔軟性を持って生きていきたい。

帰りの電車で、父は神楽の頭をポンポンと叩いた。
あたしのお父さん。

「俺は今日、“クララが立った!”というような気分になったぞー。」

「何、それ?」

神楽はアハハと笑った。
あたしのお父さん。
大好きなお父さん。
娘の為なら、愛する人と籍を入れられなくても、何も気にするなって言えるんだね。
お父さん、未婚なのにね。
男手一つで、あたしを育ててくれて、ありがとう。
ありがとう、お父さん。





……………………………………………………………………………




「リクエスト無いんだったら、飛行機見に行かない?」

「いいよ。」

何処でもいい、向かう場所は。
ただ、二花とドライブに行きたかっただけ。
そうも快晴ではないけど、曇り空の少し気温が高めの温かい冬の日。
あと少しすれば春の陽気を実感できる時。

「あっ!」

そういえば。

「どうしたあ?神楽。」

この喋り方、未来の二花そっくり。
いや、本人だけど。
余計に焦るわ。

「そういえばバレンタインのチョコの事、すっかり忘れてたわ。」

「いいよ、そんなの。」

「そうだら。二花くん、チョコ好きでもないしね。今年はー」

今年は瑠璃ちゃんからビターなチョコ貰えないね。
苦い珈琲に合う、ビターチョコ。
そう口にしようと思ってやめた。
切なすぎる。
何故、あたしが泣けてくるんだろう。

「そうだね。」

二花は腕を伸ばして、神楽の頭をポンポンと叩いた。
涙が零れたのが判ったのか、それとも言いかけた事が判ったのか。
もっと泣けてくる。

「どうしたの?」

視線は前に向けながら、二花は微笑みがちで尋ねてくる。
涙の訳を。

「何でだか。」

何の琴線に触れたのか。
切なくて仕方ない。
瑠璃ちゃんの笑顔が脳内にずっと浮かぶ。
もう、あの顔にも触れられないんだ。
何で。
何で、あたしが切ないんだ?

「最後にあの笑顔、見たかったなあ。」

二花はポツリと呟いた。
どうしてだか。
共鳴している。
泣けて泣けて。
泣き続けて。
涙が収まったら、やっぱり。

チカが無邪気に笑っている顔が浮かぶ。
額に額をつけて、眼の前で少年のように笑う。
この笑顔が大好きだ。

「I love you……I love you……I love you…my sweet.」

抱きしめて、そう囁いてくれていた。
もう、こんな事、二度と無いんだ。
胸が切ないし、痛いし、苦しいし。

「笑って見て欲しかったなあ。もうずっと、チカの笑顔を見てなくて。それが心残りかな。」

あの写真。
瑠璃を見下ろして穏やかに笑っていた。
眼は黒い棒線で隠されてたけど。

「俺は犯罪者かっ?て絶対に怒ってる筈。……俺もこんな風に笑いかけて欲しかったなあ。悔しいよ。」

そして瑠璃の安心したような笑みを見ていたら、腹が立った。

「こんな頼りきった笑顔は見た事ないから、やっぱり背が高い男の方がいいんだって怒りと嫉妬がごちゃまぜ、だな。」

複雑な感情に囚われる。
ふたりに対して、それぞれ未練と嫉妬と怒りが混ぜ合わされる。

ハタっと我に返った。
今のは何?
どうして急に、こんな共鳴なんか。

「俺かな?」

涙を手の甲で拭って。
二花は前を向いて運転しながら、呟いた。

「俺がそうさせるみたい、よ。感情が激しく動くと。どうやら。実花は離れてても向こうの感覚の方が常に強いけどな。あと三実と。」

一呼吸置いて。

「今日、初めて神楽と。」

何でだか。
嬉しい事と、恥ずかしい事と気まずい事と。
絶対に二花くんの方だけ、だよね?
あたしの感情も共鳴されとらんよね?
大丈夫だよね。

「何らかな条件が整うと、こんな風になるみたいだけど。」

その条件、何となく、判る気がする。

「何で今日、神楽と初めて、なのかな。」

多分、今まではあたしが強い緊張感のもと、二花と接していたからだ。

「ごめんな。感情乱れさせて。」

「ホントに。」

「ごめん、ごめん。俺も恥ずかしいんだよ、全部見られると。……まあ、神楽はもうすっかり、俺の恥ずかしい処、よく見てるだろうけどね。」

捉えようによっては、とても恥ずかしい言い方だけどね。

「二花くん、自分は随分、特殊能力持ってる癖に、あたしが未来を知ってるというのを、なかなか信じなかったでね。」

「ほんと、ごめん。だって、お前と結婚なんてーなあ?」

照れて笑う。
あたしも何だか急に恥ずかしくなってきた。
二花くんと結ばれて、結婚、そして。
よく知っている未来なのに。
隣にいるこの人と、いつかそうなるんだ、と思うと、とてつもなく恥ずかしくなってきた。
今まで、こんな気持ち、無かったのに。
どうしよう、きっと赤くなっている。
どうしよう。

居た堪れなくなって、バックからポーチを出す。
そこから鏡を取り出して、髪を直す振りして、確認する。
何て顔しとるの、神楽。

「それ、使ってくれてるんだね、ありがとう。」

「あ、うん。」

二花が十三歳の誕生日にくれた、古布で出来たポーチ。
本当に嬉しかった。
あたしの趣味を判ってんじゃん。
そして、笑顔を失い、生きる希望を失っていた二花が、あたしの誕生日にあの海で笑って渡してくれたから、本当に嬉しいの。
一生の宝物。
きゅっと、そのポーチを握りしめる。

「俺、瑠璃に革のヤツ貰って嬉しかったんだ。もう、あれが本当に最後になっちまったなあ。未練がましいけど、多分、俺は一生捨てない。」

「そうね。一生、大事にしとりん。」

くすっと、笑って二花をちらっと横目で見やる。
二花は真っ直ぐを向いて、柔らかな眼で微笑んでいた。

空港で飛行機の離発着をずっと眺めていた。
風が冷たかったけれど、曇った空からの熱が生暖かった。
二花は飛行機が好きだと言った。
あたしが一度も飛行機に乗った事無いと言うと、じゃあ、今度はここから飛行機に乗って、何処かに遊びに行こうかと笑って言った。
他意は無いだろうから。

でも、あたしはとても恥ずかしくなって、横を向いて、そうね、楽しみね、と言った。

二花のスマートフォンが鳴り出した。
画面を確認して、二花は硬直していた。
神楽は隣りのそんな二花の様子を見つめて。
二花がスマートフォンの画面を神楽に見せた。
電話を掛けてきたその相手は、“Chicca”と出ていた。

「怖い。」

二花は髪の毛をグシャッと掴んで顔を押さえた。
震えていた。

「怖いー」

もし、チカに誘われたら、そのままチカの処へ悦んで向かってしまう。
また、ふりだしに戻る。
また、苦しみと悦びの世界に戻る。

「ー怖い。」

でも。声が聴きたい。
苦しんでもがいている。
今、無視した方がいいのか。
賭けてみる方がいいのか。

「もし、二花くんがチカのトコに行こうするんだったら、あたしはここから二花くんを突き落とす、ていうのはどう?」

何だか恐ろしい事を、口が勝手に言い放っていた。

「神楽を犯罪者にさせられっかよ。」

苦笑して二花は唾を飲み込んで、スマートフォンを指で操作した。

「ーうん。」

チカの声を聴いた途端、二花はとてもしあわせそうに微笑んだ。

「どういたしまして。ーははは。やられたな。……悔しいよ、本気で。お前たちを恨んでるよ。許せないし。んー?……まあまあ、かな。いや、まだかなり、苦しいけど。」

チカとの会話に、笑顔が出てくる。

「うん……うん……うん……そうだね。辛かった。苦しかった。前みたいに優しく愛して欲しかった。お前の笑顔が見たかった、ただ。でもー俺もチカとおんなじようなもんだ。」

切なそうに、悲しそうに。

「そりゃあな。まだ夢に出てくるし、うなされるし。多分、これからもそうだと思うし。ずっと苦しいし。」

頷いて、そして神楽を見る。

「え?聞こえない!うるさくて聞こえないんだよ、ここ。何?えっ?」

少しニヤリと笑って、目を見開いた。

「マジかよ……まさか。え?今まで?え?え?よくまあ……そうかあ。おめでとう、いや変だな、それも。あーっ!腹立ってきたわ!ちくしょうっ!」

大声で怒鳴って、涙を零した。

「で?ふーん。おのろけのご報告?してくんなよ、そんなの。バーカ。」

叫んで通話を切った。
そして、滑走路を見ている。
口ずさむ、セクシーな“Carnival”

「それ、椎也くんとのハモり、すごく良かった。」

神楽は二花の横顔と飛行機の着陸を見ていた。
本当に可愛い人。

「チカがね、よく口ずさんでた。俺はそれが好きで。」

唄い終わってから、二花は神楽の方を見た。

「椎也が想い出の曲は?て言うから。変なヤツだろ?リハの時に急遽練習して合わせて。あの日から毎回唄うようになった。」

「……椎也くんらしいね。」

「東京オーラスで恐らく瑠璃も来てたから。」

瑠璃はそれを聴いて、どう感じたのだろう。

「椎也の唄い方がセクシーで……そこも、複雑。」

二花は恥ずかしそうに呟いた。

「複雑過ぎるねえ。二花くんは。」

「頭が混乱しそうだよ。神楽、ラクにしてくれよ。」

「他力本願だよ。」

神楽は首を横に振った。

「ふーん。あのさあ、俺、もし本当に狂うような事あったら、神楽どうする?」

「はあっ?」

また突拍子も無い事を言い出す。

「どうする?」

少し笑って。
流し目の様に。
ドキンとした。

「そんなら二花くん殺して、あたしも死ぬわっ!」

苛々して、叫ぶ。

「ふーん。」

二花は神楽を見ないようにして、神楽の肩を叩いた。

「神楽、激しいよな、意外と……いや、それが本性だよな。」

ドクン。
その時、自分が足元から抜けていくような、頭頂から飛び出していくような、感覚を憶えた。

「これから俺に、そういうトコ、どんど見せてきて。」

何だろう、この痺れ。

「煙草吸ってくるね。」

神楽の肩をポンポン叩いて、二花は神楽を置いて歩いていった。

あたしの今の本音を出したら、あなたはどう思うの?

神楽は赤くなって震えながら、飛行機の離陸を、涙を溜めた潤んだ瞳で見ていた。



瑠璃シーン③に続く

……………………………………………………………………………







ああ、好きです、この回。とても。
どうしても、ここまでは書いておきたかった。

The CardigansのCarnival

この曲が好きで。
好きだけど、
もう何年も誰の何という曲か判らなくて。

ようやく判明したのが、2、3年前
ラジオで流れたので、サイトでオンエア曲を調べたのでした。

いま、CMでもカヴァーが流れてますね。

男の人がコレを歌うとセクシーだと思います。

是非。



“時をかける少女”神楽

“共鳴させる男”二花

新たなふたりの特技が(笑)
披露されました。


あとは何が披露されるのでしょうか?

今回は伏線が、いろいろツッコミどころ満載ではありました、わたし。



そして。
次回は謎の男チカの正体が明らかに。

これはゆっくり行きますので
よろしくお願いします。



お読みくださり、ありがとうございます。

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