みずのこえ ことばこころほどき

ことばこころほどき、とは
あなたのかたくなった部分をほどくメッセージです。


テーマ:
今日もお話です。

始まりは実になる花~追伸①からどうぞ。

性描写がありますので、
苦手な方、嫌悪感のある方は
決して読まないでくださいね。


10年前に
最初に夢で見た時、
え?
これを本当に書くの?と
戦々恐々とした芸能人のお話です。


何故なのか、これを書かなくてはいけない
書き上げたい衝動に突き動かされています。

とりあえず
この回のラストエピソードが書きたくて、それまでに到るシーンを頑張りました。
いや、ほんと寝ないで頑張ったよ。

そして、それを書かせるための状況になってました。
マジで?うそっ~。
という状況です。


とりあえず起承転結の転ですね。

夢で見た時には気づかない
その伏線がそこに繋がるのかという
書き手もびっくりの事が
こういうお話では間々あります。



前回のお話は
実になる花~追伸②
確認がてらにどうぞ。



……………………………………………………………………………



実になる花~追伸③



三、山吹


「そうなの、お義母さん。あたしは大丈夫よ。つきあう前のことだし、椎也にそれでもつきあえるかって念を押され、それで了承してるの。それで、つきあう時に、椎也がうちの父にちゃんと全て話してる。父も相当反対したんだけどね。結局、許してくれて。」

「そうは言ってもねえ。バカ息子が実花ちゃんに迷惑かけまくって、本当に申し訳ないわ。アイツ、とっとと去勢しとけばよかった。」

電話をしながら、義母は、きっと頭を下げている。

「それ、切実に困っちゃうわ、お義母さん。」

椎也から詫びと報告の電話が入ったと、義母は実花に電話を掛けてきた。
実花は学校に提出をする書類に記しながら、義母の話に頷いていた。

「昨日、子どもたちにきちんと話したの。うん、ショック受けてたんだけど、かなり。特に瑠璃が。」

「そりゃあそうよ。子どもたちがいちばん可哀想だわ。あの子たちは、何もしてないのに。」

ただ、生まれてきて生きているだけで受ける罪。
実花は何も言葉を継げられなくなった。

「こんなにいろんな事しでかすと、生まれる前に闇に葬っておけばよかったかと心底思うんだけどね。それでもね。」

もしかしたら。
母を責められないから、責めたくないから、椎也は無言で自分を責め続けているのかもしれない。
自分が生まれた罪を。
優秀であること、人の興味を引くことに拘るのは、自分が生きていることの世間への証明なのかもしれない。

「どうしようもない奴でも、一生、自分の子だからね。ごめんね、実花ちゃん。迷惑かけて。」

瑠璃が生まれた時に、義母が聞かせてくれた話がある。

「椎也、保育園の卒園アルバムに『将来の夢』で何と答えてると思う?『お父さんになりたい』て。父親を知らずに育ったからか、どうなのかは判らないけれど。それが叶ったのね。」

本当は、瑠璃よりも早くに生まれた子に、椎也は実は何を感じたんだろう。

「うん、ほんと迷惑ね。」

「ごめんね。」

電話の向こうで、義母は笑っていた。

「ところで、実花ちゃん。本当に大丈夫なの?」

「どうして?」

「その喋り方。いつものゆったりした喋りと随分違うじゃないの。他の娘と喋ってるみたい。ショックでおかしくなっちゃったかと思ったわ。」

「夫の不義理に涙を抑え、義理の母に静かに訴える妻を演じてみました。」

「実花ちゃんがそれを演じると、こうなるの?静かに訴えられてないけど。」

「うーん、現実的に経験不足だやあ。」

「大丈夫ならいいけどね。大丈夫なフリはしないで。実花ちゃんが椎也を見限っても、あなたはわたしの大事な娘よ。」

「ありがとう、お義母さん。」

大丈夫なフリ。
通話を終えたあと、実花は自分の額を押さえた。



……………………………………………………………………………




昨日、ゴシップ報道になる前に、子どもたちに真実を告げた。

「ママもね、判っとってパパとおつきあい始めたし、結婚したの。それからも、その子がどんな風に育ったか、パパもママも気になりながらね。」

「だからって、酷いじゃない!あたしたちの他にパパの子がいるんだよ?」

実花の胸がズキンと痛んだ。
瑠璃は自分がパパの最初の子だと思っていたのだから、悲しむ点も苦しむ点も多い。
瑠璃が立ち上がって、椎也に向かって怒鳴った。

「どんだけ女好きなの?ママ泣かせてばかりでっ。パパ、最低っ!」

瑠璃はその場から駆けて出て行った。二階ヘ上がる足音が聞こえてきた。
椎也は黙ったまま、ただ顔を上げていた。

「その人さ、パパに顔が凄く似てるんでしょ?」

幹也が実花に向かって話してきた。

「うん。それでもう、隠しきれないってないって。」

「ふぅん。」

瑠璃も幹也も父母を足して上手く割ったような、眼が大きく愛らしい顔立ちをしている。

「今までの写真、あるよ。見て。」

生まれた時から今までの、事務所を通して受け取った写真がある。
幹也はその写真を、じいっと観察していた。
同じ男の子でも、自分は父とそっくりとまではいかない。片や、生まれ変わりのような、そっくりの顔立ち。
これは複雑な感情が芽生えるだろう。

「ー判った。俺は姉ちゃんよりかは、大丈夫だと思う。」

「大丈夫に見せかけんでもいい。」

「ショックはショックだけどさ。ママが騙されてたとか、いま浮気して、とかじゃなきゃ、まあいいよ。昔の失敗した事、何度も叱られたら、俺だってイヤだよ。」

大人びた発言に、実花は微笑んで、幹也の頭を撫でた。

「パパとママの子どもってだけで、いろいろ言われるのに、それがひとつ増えるだけじゃん。」

「ひとつ増えても、やだよ。」

すました顔の幹也に、気苦労をかけさせていたんだな、と改めて申し訳なく思う。
テレビで、思ったことをすぐ話さないようにするとか、バカさ加減を引き立たさせる発言はやめておけば良かったとか、何処でも下ネタは控えればとか、後からなら、反省すべき点は多い。
なのに、その場に居ると、すぐ忘れてしまう。

「俺はパパとママ、そのキャラで最高だと思うし、その変なとこがみんなに人気だよ。」

我が子から見て変な処は、何処ら辺なのだろうか。心配になったが、この場では問い質さなかった。

「ごめん、幹也。」

黙っていた椎也が幹也の横に屈み、幹也の頭に手を置いて、自分の頭を下げた。

「うん。」

幹也が部屋に戻った後、椎也は何も語らず、リビングに座ったまま考え込んでいた。



……………………………………………………………………………




あの夜、実花の誕生日の夜、問い詰められて致し方なく、来週に報道されることを椎也は話した。
実花の怒りが頂点に達した。

「何でー何で、今まで黙ってたの?何で、実花にすぐ言ってくれんの?」

咄嗟的に椎也の顔を引っ叩こうと思ったが、その手を引っ込めた。
顔を売る商売だからだ。

「ごめん、黙ってて。言いたくないとか言わないで済まそうとかじゃなくて。実花には直前まで言うなって止められた。」

誰に?そう聞く前に判った。

椎也はトラブルメーカー。

そう言った公子はあの時、機嫌が悪かった。

「前も……そうじゃん。」

こんな時に泣かないで淡々と追い詰めたら、大人の女性なのに。
そう思っていても、涙は溢れてきた。

つきあう以前、それまで実花を避けてきた椎也が、箍が外れる出来事があった。
飲みに行った帰り、実花が倒れた。それを抱きかかえ、タクシーに乗せて家まで届けた。
タクシーの中で実花が眼を醒ました時、椎也が自分の腿に実花の頭を載せ、腰を片手で押さえていた。とても大切にされていた。
身体がそんなに接触をしたのは初めてだった。

実花に触れてしまったら、もう、止められない。

ギリギリの際どいラインで触れてくるのに、椎也は、はっきり気持ちを伝えてこない。

ふたりの変化に気づいた公子が、椎也にストップをかけていた。
その時、大事が起こっていたからだ。
椎也の子かもしれない子どもを妊娠した女性が居る事。
それまでの家族を捨て、その子をひとりで産むと決意した事。

大事な仕事の前に、それは実花には告げられない。
仕事に支障が出ては困る。

「椎也が気にするのは実花の仕事なの?それとも怖い公子さんなの?」

「どうして、その選択肢に実花自身は無いのでしょうか?」

「椎也は、実花じゃなくて、事務所の意向が大切なんだ!」

「バカ言うなよ!」

険しい顔になり、実花を強く抱きしめる。

「本心言っちまえば、実花に仕事させたくない。誰にも触らせたくない。誰にも見られたくない。そんな小せえ奴が事務所の言いなりになるかよ。」

怒鳴りながら震えている。

「知らねえよ、実花の仕事なんて。」

こんな激情、こんな時でなければ良かったのに。

「囲っておきたいよ、ここに。いつも。」

きつかった力が少し弱まり、実花の眼を見つめた。

「公子さんは実花が大事で、心が壊れないようにいつも大切にしてて、この世界でいちばん信用が出来る。」

こんな時、鬼気迫る表情になる。
瞬きもせず、褐色の瞳が実花を凝視している。

「実花をこの世界から守るなら、公子さんに任せとけば安心。僕は歪んでるから、判断が自分で信用できない。実花の仕事に差し障るから。」

視線が少し動いて、実花の頭を抱き、髪を撫で始めた。

「あの子、顔が僕に似てるから、噂が出始めてる。」

いつかそれは出るだろうと、ふたりで話していた。
その時は、ふたりで乗り越えようと。

事の始まりは、椎也が尊敬するピアニストとの対談だった。
その時に個人的に食事に誘われ、そして。
清楚で物静かなのに、中には風にも雨にも消えることの無い青白い炎があるようだった。椎也は、そう語った。
地位も名誉も家庭もある女性なのに、何故に全てを捨てようとしてまで、椎也を一晩だけ欲したのか。子を成そうとしたのか。
判らないままだった。

認知もして欲しくない。援助も要らない。だから、この子だけ欲しい。そう願った。
実花は、この女性をとても怖いと感じた。そして、美しいとも。
純真な白い悪魔のようだ。

「ゴシップが出るって言うから、相手側と事務所とで話し合ってもらって、遺伝子検査して、結果が出て。僕がそうだと認める会見をする事になった。」

目眩がする。
何故だろう。
乗り越えられると決意していたのに。
その時が来たら、どうして、こんなに寂しいのだろう。

「自分がした事の始末なのに、本気で過去を消したくなった。あの時の自分を殴ってやりたいよ。あの時だけじゃない、ずっとずっとだ。」

実花の額にくちづけて、実花の両頬に触れ、実花の涙眼を柔らかく見つめた。

「いちばん大切なひとを苦しませてしまう。そんなの僕の希望じゃない。そうしてしまう他の邪な欲望なんて、本当は要らなかったものなのに。」

大切にされているのは判る。
深く愛されているのも判る。
それなのに、他の女に眼が行くことも、この男の真実。
今、これ程に悔いていても、すぐに欲望に負けてしまわないだろうか。

ニャー。
猫の鳴き声に、思考が現実に戻っていった。
仔猫は実花を見上げ、ニャーニャー鳴き出した。

真っ直ぐな曇りの無い翠の瞳。
欧州では緑の眼は嫉妬を示すという。

「翠ちゃん。」

実花は屈んで、翠の口元に手を出した。
嫉妬……。
だから、この仔は、あたしの誕生日に家族が運んできてくれたんだ。
こんなに嫉妬しているのに、沈めて、そんな暇ないって、浮上しないようにしてきた。
嫉妬して狂い死にしてしまいそうだったから。
心臓が赤黒く激しく波打ち、ドロドロした血液が身体中を廻り、その毒は苦しみもがきながら、のたうち回る。

「実花……。」

「今日、公子さんに逢った。」

椎也の言葉を遮った。

来週放送のスペシャルドラマの番宣に、情報三番組の録画用を撮った。
いずれも数分で済むものだが、それぞれの番組スタッフでの録画なので、少し間が空いてしまう。
朝にテレビ局に入り、専属のヘアメイク師に首を見せた。

「えー、実花ちゃん、これは悲しいですよ。春らしい、軽やかなブラウス用意してあるのになあ。首出したいのに。」

「ごめんね。」

「まあ、ストールで隠しましょ。淡いパステルで。」

後ろで、マネージャーの吉田が、鏡にはっきり映った実花の首を見て眼を見開いて驚いていた。鏡から見てとれた。
それでなのか、偶然なのか、最後の番組の撮影の待ち時間に公子が現れた。

「実花。」

「あっ、公子さん。」

楽屋で雑誌を捲っていたので、顔を上げる。
公子はそのまま実花の横に立ち、実花の掛けていたストールを掴んだ。
言葉を失っているのが息遣いで判る。

「吉田、外に出ていて。」

「判りました。」

吉田が出ていったドアが閉まり、公子は鍵を閉めに行った。

「実花、これは酷すぎる。」

鏡の前に実花を座らせ、しっかりと確認させた。
その鏡に青ざめた公子の顔も映っている。

「男がキスマークを何故つけるか判る?お前は俺の所有物だって、周囲に知らしめてるのよ。」

実花は頷くしかなかった。

「後は女の反応が面白いから愉快犯もある。」

実花のブラウスのボタンを外していく。胸に広がる痣に、公子は溜め息を漏らした。

「ひとつふたつなら、今日なら見えても、好奇心の話題になるからいいわ。でも、はっきり言うわね。」

実花は眼を瞑った。

「これは、虐待レベル。」

唇を噛む。その唇に公子は指を当てる。

「荒れるから、やめなさい。」

商品として傷がつくことの恐れから言っているのではない。
いつも公子は、実花がいちばん美しく見える仕草や角度をよく観察していた。
実花は綺麗な子なんだから、もっと綺麗に見えるよう、自分に意識しなさい。
よく言われた言葉だ。

「お母さんみたい、公子さん。」

涙がボロボロ落ちていった。
そしてママが生きていたら、実花のこの姿を見たら、泣くだろうな、と思った。

「実花、これを隠さず、このままテレビに出れる?」

実花は首を横に振った。

「キスマーク判ってながら、そのまま出た事何度もあるわよね。堂々と出せられない。隠さないといけない。それは、どういう事だと思う?」

判っていながら首を横に激しく振る。

「いけない事、認められない事だと自分で理解してるから。」

見ない言わない聞かない。
それで全て巧くいくから。
本心だったら素直に口にしないといけないから、そんなものありません、って自分も意識しないように奥に隠す。

「こんなの出したら、椎也が糾弾されるわね。むしろ出したい気分だけど。」

公子はブラウスのボタンを閉め直していく。

「普通、こんな説教するの、せめて二十代までのタレントなんだけど。」

「ごめんなさい。」

「性嗜好は別に何だって問わないわよ。夫婦の問題。身体を傷つけなきゃね。でも、これは認めちゃダメ。タレントでなくてもね。」

「実花が首筋が特別感じちゃうでね。それが大好きで、椎也も張り切っちゃう。」

「それだけなら解決は容易いけど、そんなもんじゃないしね、あんたたちの闇の深さは。」

闇。
それは人生の何処で生まれたんだろう?
椎也は小学生の時、中学生三人に襲われた。
綺麗な顔の線の細い美少年。
オカマと揶揄される日々の中、その事件は起こった。

アイツら、オカマオカマって嘲る癖に、そんな僕に興奮して勃ててんだぜ?ぶち込んできたんだぜ?
アイツらの方が、変態じゃねえか。

事件の起こった後、椎也はそう言い放ったそうだ。
そして、犯人の名前を言わなかった。それは決して庇う為ではなく、自ら復讐する為だった。
身体を鍛え、勉強に励んだ。犯人たちを蔑みたかったからだ。
わざとオネエ言葉を使い出し、オカマキャラを確立した。それは世間の注目を浴びた。絶対に下心ある男は寄せつけなかったが。
学校や街角で犯人たちを見つけると、ニヤついて見やった。そして彼らは、やがて屈服した。
それでも、晴れない恨みがある。

確かに、椎也が事件に遭わずに純真爛漫なままで生きていたら、今の椎也のややこしさまでにはならないだろう。

では、闇とは先天的なものはないのだろうか。
実花は、自分の元からある闇に怯えている。
知らずに使っていた、惑わす力。

涙で眼が腫れたが、それはそれと、公子はそのまま撮影させた。

「公子さん……何て?」

「これはダメって。」

実花は巻いていたスカーフを外した。
椎也には個人的に話すから、と公子は言っていたので、詳しくは伝えなかった。

「虐待男だな。」

「そうだって。」

「隠し子に虐待か。最低。」

「そこにもっと入るよ。変態、自虐、根暗、自己中、自信過剰……えっと、あと何?」

「相変わらずね、実花ちゃん。」

椎也は実花の両手を握った。

「そんなアンタが隣りにいてくれて、アタシはしあわせものよ。」

首に軽くキスをして、実花の眼を見つめた。

「きちんと話がしたいの。日曜に会見するわ。だから土曜日、時間頂戴。」

何の話?
もしかして別れ話?
実花は、そのまま動けなくなった。

「いい子ね、大好き。」

そのくちづけですら、何かを孕んでいるの?

「今日、客間で寝るわ。実花をもっと無茶苦茶にしちゃいそうだから。」

「無茶苦茶にして。」

「……バカ。」

軽く笑って、椎也はリビングを出て行った。





……………………………………………………………………………





出かけて帰ってきて、ソファに腰掛けた。頭を押さえる。
頃合いよく、養父から電話が掛かってきた。

「おとうさん。」

「声に元気が無いな。」

「ちょっとね。ちょっとじゃないか。」

「だろうな。椎也くんから電話があってな。真摯に謝罪してきたぞ。実花が憔悴しとるって。」

「おとうさんの言う通りになったよ。そんな簡単には遣り過ごせないって。ほんと、そうだった。甘かったやあ。」

大粒の涙が落ちてくる。

「自分に子どもができたら、子どもの葛藤がすごい判る。パパ大好きだし。実花の心の問題だけじゃ済まなかった。」

「ほいでも現実は前にあるし、解決してかんとなあ。」

「解決できるかやあ。」

「俺には判らんけど、実花はいつも、凄い山を登り切っていったぞ。こりゃあ無理だろうとハラハラしとるのに、気づいたら、いつも笑って頂上におるしな。」

泣いていたからか、仔猫の翠が、実花を見上げてミャーミャー泣き出した。

「猫が鳴いとるな。」

「うん。こないだの誕生日プレゼント。まさか猫だよ。」

「瑠璃から写真送られてきたで、知っとるぞ。」

「あれ、そうなんだ。」

「瑠璃は何かと頼りをくれるでな。」

「知らんかったなあ。じゃあ、今度のお正月はこの仔も連れてくでね。そうすると車かなあ。でも……。」

翠を抱き上げて腿の上に乗せると、たまらない悲しみが溢れてきた。
翠を連れてきた時の、椎也のキス。

「ダメかもしれんね、もう。」

「何が?」

「椎也と。」

「何か言われたか?」

「そのつもりかもしれんよ、態度からすると。今日話し合うんだけど、何言われるかな。」

「まさか……お前が三行半叩きつけても、それは無いだろう?」

「このままだったら、実花をダメにするって、思っとるよ、椎也は。だもんで。」

「あの執念深い奴が、それは無いだろう。太陽が落ちても、それは無い。趣味が実花なんだぞ。」

「おとうさん、椎也のこと相当、変人に思っとるね。」

「あれが変人でなくて何を変人と言うんだ?」

本気でそう言っているから、実花はおかしくなって笑った。

「うん。もしさ、離婚とかになったら連絡するよ。」

「そうでなくてもな。」

通話を終えて深呼吸した。
翠の背中から腹部を擦る。
その闇から何が出ても、見るしかない。見据えるしかない。
見続けることで、ここまで来た。



……………………………………………………………………………






顔をかする車のヘッドライト、車の転回する音。
緊張して立ち上がる。
玄関まで行こうか迷いながら、足がその場から動かなかった。

「ただいま。」

「おかえ︙……」

リビングのドアを開けて入ってきた椎也の顔を見て、実花は言葉を失った。

「どうしたの?」

「公子さん。あれ、女じゃねえな。こんなパンチ出せるなんて。何やってんだよ、普段。」

椎也の左頬が赤く腫れ上がっていた。

「久し振りに顔に受けたよ。油断して、まともに受けちまった。」

実花は椎也の左頬に触れた。

「嫁さんにやられたなんて誤解されたくないから、明日、公子さんも同席するって。日頃の怒りが爆発しましたって表明するみたい。」

売られた喧嘩は買う。喧嘩早くって怪我が耐えなかったのよ。義母はそう語っていた。

「あれ?ほら、長テーブルに白い布被せてて、一同が立ち上がって頭下げて、そこにフラッシュがピカピカってヤツ?」

「そんなんしねえよ。」

笑いながら、実花の右手を握り、自分の左頬にピシャッと軽く叩きつけた。

「実花、ここ。」

「え?」

「気が済むまで、どうぞ。今なら、もっと腫れ上がっても公子さんの所為になるから。」

ほら、と、促した。

「いつも僕の顔に傷がつくの心配して躊躇してたろ。やめろよ、そういうの。そんな余計な心配いらねえよ。お前の力ぐらいで、大した傷にならねえよ。」

顎を上げて憎ったらしい顔をした。実花は思わず椎也の左頬を平手打ちした。
少し首がグラついたが、椎也はニヤついて実花を見やった。
この嘲笑。
カッとして、拳で打った。
打たれた椎也が、その拳を握った。

「実花、グーで叩く時は、親指を中に入れないと手を壊すぞ。」

その声に実花は感極まった。
椎也の胸を叩く。

「これからは、叩きたい時は叩いてこいよ。我慢するなよ。大丈夫、気持ちいい事で倍にお返しするから。」

「最低っ!」

何と返事していいか判らず、少し間違えた感はあるが、とりあえず叫んでおいた。

「ごめん。自分勝手過ぎて。」

実花の腰を抱き、実花の涙を吸った。

「今、キスしないからな。血を飲ませちまう。」

「血が出た?ごめん。」

椎也は、キッチンの蛇口を捻り、コップに水を注ぎ、飲み干した。

「傷が開いただけだよ。公子のヤツ、容赦無かった。」

「公子さん、情があって優しいよね。」

実花は公子の愛に微笑んだ。

「本当は偏っちゃいけないけど、見てるタレントで実花がいちばん可愛いってさ、公子さん。」 

「嬉しいな。」

シンクに置いてあった皿も、何気についでに洗って仕舞う椎也に、実花は抱きついた。

「子どもたちは?」

「お義母さんに預かってもらったの。」

「そっか。顔を見れないのは残念だけど。」

唇で実花の首をくすぐりながら、背中を擦り、シャツの下から手を入れてきた。

「実花のその顔が好きだよ。たまらない。いちばん最初に首を触って反応で気づいた。でも、吸い過ぎないよう気をつけなきゃな。」

「首……タクシーの中で触った時、実花、死んじゃうかと思った。」

「すごい身体ビクついたもんね。可愛い。」

乳房に触れ、優しく回す。

「久し振りに、ここでやるか?」

「久し振りね……。」

幹也がまだ夫婦の寝室に寝ていて、神経質なので、ちょっとした振動で、すぐに泣い目覚めてしまう。
その間、ずっとLDKで愛し合っていた。
子どもたちが急に入って来ないか慎重になりながら。

「今日は声、好きなだけあげていいぞ。いつも大変なんだからなあ、抑えるの。実花、すごい声出すから、ヒヤヒヤしてる。どうやったら、声があがらないか研究してるんだぞ。」

「だって。」

早速、悲鳴に近いものをあげさせられた。

「たまらないねえ。」

指、舌、唇、自身。一気に攻められる。気がおかしくなりそう。

「声出すな、なんて無理か。実花、いやらしいからな。」

いやらしい。
あの時も言われた。
こんな時に思い出してしまった。

あたしが、いやらしいから。
全て、あたしの所為。
椎也がおかしいのも、あたしの所為。

ほんとかな?
ほんとだよ。

実花の先天的な色気を、性衝動の正当化にしてない?
あ、先天的にあるから、実花の所為なのかな。
いや、実花の存在が相手の性衝動を発動させるとしても、その人の倫理の問題でしょ?

結論は出ないけれど、実花は性行為が好きだった。椎也でなくとも、交際してきた男には、気持ちがいい事は何でもさせた。
椎也に惚れたからと、別れを告げた相手。それでストーカーになった男。
怖い思いもした。

それでも、椎也に命令されるのが、いちばん身震いして感じる。言葉にしなくても、実花がその時にいちばん触れてほしい処を察知して、先回りして苛める。

考えられない。
ただ、感じている。

仔猫の翠が鳴いている。
実花が喘いでいるのを、泣いていると勘違いしたかな。
犬の鉄子は、椎也といちゃつき始めると、また始まったかと、チラ見してから、うたた寝をしていた。
いつもの事だった。

実花、実花……
何回も呼ばれている。
あたしは何処にいるんだろう?
気持ちいい……。

「今でも、こうして実花と抱き合っていても、夢かと思う時がある。」

実花の気が戻った時に、椎也は息を切らせながら、耳元で囁いていた。

「実花を悦ばせながら、嘘だろ?っていう自分がもうひとりいる。あの南藤実花をよがらせてるの、自分かよって驚いてる。何、軽々しく実花って読んでんだよって突っ込んでる。」

「実花も……そうだよ。」

身体がぐったりする。記憶がない。

「大丈夫?すごかったよ。」

「叫んでた?」

「叫びまくってた。」

「声出していいなんて、最高だね。」

「僕もどうにかなってしまいそうだった。いや、なったのかな?」

実花の濡れた髪を撫でながら、額にくちづける。

「名前、呼んでた?」

「壊れたかのように呼んでた。」

唇にキス。

「実花、僕もう、シャワー浴びて支度しないといけないんだ。」

「えっ?」

実花は慌てて上半身を起こした。何処にいるのか判らなかったが、リビングの床にふたりで転がっていた。

「あたしたち、何時間してたの!?」

「驚愕だよな。」

苦笑いして、椎也は、床に座り込んだ。そして、実花の両頬を手で挟む。

「アルバム制作があるから、しばらく帰らない。」

「えっ?」

いきなり、そんな台詞を聞くとは想像だにしなかった。

「ーもう戻らないって事?」

「そうじゃなくて。楽曲制作の時は、いつも籠もるだろ。」

「何で、今、なの?」

「その時期だから。」

「そんなの聞いてない。」

実花は、首を横に振った。

「離れたいの?実花から。」

喉が苦い。痛い。苦しい。

「そうじゃなくて。」

抱きしめるのではなく、実花の肩を掴み、真っ直ぐ見据える。

「少し、離れて考えた方がいい。」

「何を考えるの?あの子の事?あのヒトの事?」

「そうじゃなくて。」

苦々しい顔をしている。

「実花は本当は何をしていきたいのか?どうしていきたいのか、考えて。」

椎也が、公子に何を諭されたか判った。
実花を潰さないで。
そんな願いを読み取れた。

「僕に遠慮するな。その結論で、僕が邪魔なら捨てていい。」

「それでも、本当に、いい?」

実花は、椎也を睨んだ。

「本気で言ってんなら、怒るよ?」

「本気だよ。」

バチーンと音が響いた。

椎也が出ていく時、実花は玄関で見送った。

「寝てないのに大丈夫?」

「そんなの大丈夫よ。」

椎也はニヤリと笑った。

「ちゃんと、喋って。」

「ちゃんと喋ってます。」

「お前は子どもか。」 

「子どもです。」

「それは判っとるけど。普通に喋って。」

「実花、それは人格否定だわ。アタシの人格も認めて。」

「認めてますから。」

実花は頭を押さえた。

「会見、頑張ってね。」

「頑張るってのも変だけど、傲慢にならないようにするから。」

何かを言おうとして、椎也は実花の腰を引き、唇を覆った。唇が離れて、椎也は実花の額に軽くコツンとする。

「瑠璃と幹也、よろしくね。」 

「ん。そうだね。」

いろんな事を語りたいのに、実花は何を喋ったらいいのか判らなくなった。

「そのほっぺ、髪も短いし、やんちゃ坊主みたいだやあ。」

「なら、やんちゃ坊主キャラバージョンも作るか。」

玄関のドアを開け、椎也は後ろ手を振り、出て行った。
実花はその場に、へたり込んだ。




……………………………………………………………………………




昨年春から夏のドラマの特番を放映していた。
杓子定規な判断をする機械的なキャリア組の刑事を実花が演じている。
事件解決の度に、事件の周辺にいる人物たちとの関わりによって人情を覚えていく、というストーリー。
機械的な判断の流れが滑稽で、老若男女に好評だったドラマだ。
実花と瑠璃、幹也の三人で笑いながら観ていた。
笑っている間はいいが、CMに入ると思考が巡ってくる。

頃合いよくスペシャルドラマの放送となるのは、夫の隠し子報道を使った売名行為、という穿った見方もある事はあった。
実花はこの件について、マスコミ各社に声明を出した。

この度は夫が関係者皆様方にご迷惑をお掛けして、世間を騒がせました事、深くお詫び致します。

私、南藤実花は、夫の血を分けた子が存在する事を承知の上でおつきあいし、結婚を致しました。
よって、この件は、これ以上の何事も隠しようもないし、恥ずべき点もありません。

子どもたちが静かに暮らせますよう、ご配慮お願い致します。

南藤実花


この子どもたちとは、瑠璃と幹也だけではなく、あの子の事も示している。
これまでもこれからも、多分いちばん辛いのは彼だ。
穏やかに暮らせますように、静かに祈るのみ。

当日のドラマの番宣でも、この件については一切語らない約束をしていた。

椎也の隠し子報道も、仲睦まじい夫婦仲と実花の隠し事をしない明るいイメージもあってか、それ程、否定的な意見は出てこなかった。
むしろ椎也ならば有り得る、という世間のイメージであった。

ずっと隠してきた事の肩の荷が下りたような気分ではあるが、まだ子どもたちの傷が癒えるわけでもない。

「ねえ、ママ。」

幹也が、実花に話しかけた。実花は横を向く。

「パパ、いつ帰ってくるの?」

その問いに、胸がドクンと鳴った。

「パパ、帰ってこないの?」

瑠璃が恐る恐る聞いてきた。瑠璃は父が帰ってこない事を、詰った自分の所為だと思い込んでいるようだ。

「帰って……来るよ。楽曲制作が終わったら。」

「ほんとに?」

ほんとに?
本当に椎也は帰ってくるの?
募らせた悲しみが爆発した。
涙が溢れてくる。

「ママ!?」

「ママ!大丈夫?」

ふたりの子どもが実花の背中を擦る。

「ごめんねぇ、ごめんね、瑠璃、幹也。」

泣きじゃくる母にふたりも戸惑いながら、涙が溢れてくる。

真実を知ったら苦しむの判っていたのに、あなたたちを産んで、ごめんね。

ごめんね、実花ちゃん。
謝る為に、急に夢に現れたママ。

「ごめんね、ごめんねって、ママに謝られたら子どもは辛いって判るの!こないだ、夢にママが出てきてねーママのママね、ずっとごめんねって言ってるの。これ、辛いよね、謝られた方は。」

ママが何を謝っているのか、ようやく判った。
あんな人を愛してごめんね。
あんな人でも、愛してしまっていて、ごめんね。
あんな事をする人を、実花の父に選んでごめんね。
母は恐らく、ずっと、謝り続ける。
もう、いいよって、子どもが伝えても、きっと。

娘を犯している夫を目撃した時の、母の心情はどんなものであろうか。
絶望と後悔と懺悔だろうか。

こんな人だと想像も出来ずに、愛してしまった罪。

もちろん、誰も罰しないのに。
母に罪など欠片も無いのに。

ごめんね、実花ちゃん。
十字架を背負ったかのような義母の謝罪。
それも、ようやく判った。

父の名を明かせない、化物のような子どもを産んでしまって、ごめんね。
ごめんね、許してね。

何を、そんなに謝るの?
あなたたちは悪くないのに。

どうして、そんなに謝るの?
謝られても、嬉しくないのに。

母たちの懺悔が、ようやく判った。

人は罪を背負うから。
だから、謝るのだ。

そして、実花も。

「ごめんねえ、ごめんねえ。」

この時は、ただ謝り続けるしか、無かった。


続く


……………………………………………………………………………



このシーンが書きたいがために
書いていた、と言っても過言ではないので一安心しました。

何故、この子たち
しんどい運命なんでしょう。
だから、ドラマなのかもしれません。

わたしの脳内では
ドラマ仕立てです。

映像で観ているので
文章に悩むのです。
映像なら、さらっと流せることも
文章にすると
情景説明を入れないといけない。


♪公子ふぁ~ん
あなたのファンです。

さて、一話に一回エロシーンを
というセカンド・ラブ形式です。
書き手は非常に恥ずかしいですよ。
あの子たち、アレですから。 

ちなみに脳内映像では
カツーンのあの曲と嵐のSAKURAが流れてます。
♪ナマセファンもね。


本当にあなたが求めるものは何なのか。

人生、何処かで
何回か問いかけられる事があります。

そのたびに修正です。



いま、あなたが本当に求めるものは
なんでしょうか?




お読みくださり
真にありがとうございます。

AD
コメント(0)  |  リブログ(0)

みずのこえさんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

SNSアカウント

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。