みずのこえ ことばこころほどき

ことばこころほどき、とは
あなたのかたくなった部分をほどくメッセージです。


テーマ:
今日もお話です。

実になる花~追伸①の続きです。

性描写が苦手な方や嫌悪感ある方は決して読まないで下さいね。
共依存のカップルです。

闇に光を当てた時、そこに何を見出だせるか。

相手の自由とは?
相手の束縛とは?

何を捨てて
何を得るのか。

直感として感じるだけでなく
考えることも必要となってきます。

深刻になると辛いので
笑いながらでいこう。



……………………………………………………………………………





実になる花~追伸②


二、桜



光が射し込み、眩くも、その下には濃い影が出来る。
そんなスペシャルな日だった。
六年前に海の近くに一軒家を建てた。
都心からは遠くなってしまったが、心の余裕と、身体の伸びやかな健康を強く感じられるようになった。

「新しいクラスは、どんな感じ?」

「んー。まだ、判んない。でも、好きな吉見先生が担任になったから、きっと、楽しい!」

娘の瑠璃は、嬉しそうに語尾を上げた。

「吉見先生、よく笑っとるんだよって、前に瑠璃、言っとったもんね。」

「そうだっけ?ママ、よく覚えてるねえ。」

ソファに並んで腰掛け、実花は学校からのプリントに眼を落としていた。

「覚えとるよ。瑠璃の言う事は、よく。」

子どもは大きくなるに連れて、どんどん、小さな時の記憶を忘れていってしまう。家族で何気なく笑い合った小さな出来事も、大きな出来事も。
それは、子育てをしていて、初めて気づいたことだ。
だからこそ、大切な毎日の積み重ね。

子どもだった自分も、そうして日々の生活の中の言った事、言われた事、した事、された事も忘れてしまったんだろう。
親子として過ごした全部の記憶を、捨ててしまいと思った事もある。
親になって判った事は、どんなに酷い結末があったとしても、それでも、無償で愛して慈しんでくれた日々があったという事。
それが、真実だという事。

「あっ。」

付けっ放しにしていたテレビの昼の情報番組で、椎也の唄う姿が映し出された。
二日前のファンクラブ会員限定ライブが行なわれた様子だった。

その指の感触を忘れない
気持ちの高さを計った温もりを
忘れることはできない

新曲の切ないフレーズが流れた。

「かっこいいなあ……やっぱり。」

身を乗り出して、画面に見入った。
椎也は先日、いきなり短髪にして帰ってきた。
それまでずっと長めの髪型しか見た事がなかったので、新鮮なときめきを感じた。
以来、毎日家で見てるとはいえ、テレビで短髪を初めて観察すると、ライブで汗を掻いているからか、男らしさが際立って感じられた。
ロングショットだからかもしれない。
家ではいつも、隣りか眼の前に居るから、少し離れて見る機会が無い。

以前はメディアでは必須のようにメイクをしていたが、最近は眉毛を整えるくらいだ。

ずっと画面を眺めている母に、瑠璃は笑う。

「ママ、パパのこと、大好きだね。」

「うん。ずっと好き。」

映像が切り替わってから、視線を瑠璃に移すと、彼女は微笑んでいた。

「いいなあ。そういうの。」

「ん?」

「ずっとラブラブだもん、パパとママ。パパもさあ、ママがテレビに映ると、ジッと観てるよ、いつもだよ。」

「うへへ。」

照れて、変な笑い方になった。

「そういうの、いいな。」

ソファの上で体育座りになり、瑠璃はテレビに視線を置いていたが、本当に見ているものは、何処か遠くのようだった。

この子もお年頃なんだな。
恋に憧れる年になった。
実花が小学六年生の頃は、夢見るでは無く、現実的に多感だったが、改めて、この年頃の子を可愛らしく思った。

「ねえ、瑠璃。」

「ん?」

「パパとママさ、変わっとるじゃん。」

「まあ、かなり特殊よね。」

生まれてきて、どの時点で、うちの親は余所の親と何か違う、という疑問は生まれたのだろう、と、実花の気になる点もあるが。

「それで、瑠璃が辛い思いをしたことも間々あったろうと考えるわけ。」

瑠璃の頭を柔らかく撫でる。

「ごめんね。ありがとう。」

瑠璃は頬を赤らめ、頷いた。

「でも、うちのパパとママがいい。」

「ありがとう。ママも瑠璃が大好き。」

自分の子どもに愛を伝えられること。それが、こんなに心が満たされるということ。
知っていたら、もっと伝えたのに。
ママが生きている間に、ママが好きって、もっと。

「お腹空いたね。」

瑠璃は少し照れて、話題を変えた。

「そだね。パパと幹也、遅いね。ちょっと出掛けてくるって言ったのにさ。お昼ごはん、どうすんだろ?」

家事は時間がある方か、その時にしたい方がするという、緩いルールが夫婦間であるが、大概は几帳面な椎也が率先してやってくれる。
実花の非効率な動きが許せないのだろう。

その時、家の前で椎也の車の音が聞こえてきた。

「あっ。帰ってきたね。」

玄関で待ち受けようとしたら、瑠璃が実花の手を引いた。

「何?」

「待ってて。」

「ん?」

不可解な瑠璃の笑いに、実花は首を傾げた。
そうこうしてる間に、バタバタ小走りに来る幹也の足音が聞こえてきた。
ガチャッとリビングのドアが開くと、ニヤニヤした親子が現れた。

「ママ、お誕生日おめでとう!」

大きな声が重なった。
瞬間、実花の眼からジワッと涙が溢れた。
毎年サプライズを仕掛けてくれるので、やや動向が読めるが、それでも心底嬉しいものだ。
幹也が抱えたバッグを、床の上に置く。

「ママにプレゼントー。見て見て!」

ファスナーを開けると、そこには縮こまった黒い仔猫が一匹いた。

「うわっ!ニャンコちゃんじゃん!」

まさか生き物パターンでくるとは想像しなかったので、実花は驚いた。

「幹也の友だちの家で仔猫が産まれたって聞いてね。パパが、そういえば前にママが
今度飼うなら、黒猫がいいって言ったって言うからさ。」

瑠璃が矢継ぎ早に、そう語った。
幹也が話そうと思ったのにー!と、瑠璃の腕を引いて怒った。そこで、瑠璃は続きを促した。

「仔猫は産まれて三ヶ月はお母さんから離したくないんだって。だから三ヶ月後って言ったら、ちょうどママの誕生日ぐらいだから、誕生日プレゼントにしようってなって。」

「で、この仔なのね。」

仔猫に触れた事がなくて、実花は家に来たばかりの慣れてない仔に触って良いものかどうか判らず、躊躇した。

実花は黙って椎也を見上げた。
覚えていたんだね。

飼っていた柴犬の鉄子が死んですぐ後、テレビに黒の仔猫が映り、それが愛らしかった。
大切な家族を失ったばかりの、ぽっかり空いた穴に、仔猫の愛らしい仕草がジワッと沁みた。
次に飼うなら、黒猫もいいかもしれんね。
何気に呟いた事を、椎也は覚えていた。

八年前、鉄子は十八歳で旅立った。
奥三河から連れてきた犬。
普通サイズの柴犬で、のびのびと自然の中で暮らしていたのに、マンション暮らしでは、さぞ窮屈だろうと、やきもきしていた。
それでも、大切な妹であり姉であり友であり、命の恩人だったから、手放す事など出来なかった。
元々は養父の飼い犬で、母が養父の店に勤めるようになり、年も離れているのに、どうしてかふたりは惹かれ合い、夏休みということもあり、実花はよく、店に遊びに行くようになっていた。
その時に鉄子を散歩してあげていたのが始まりだ。
鉄子という、適当なのか特徴的なのか判らない名付けは、養父の鉄男の名前から取ったものだった。

鉄子が逝って、物凄く大きな喪失感があったが、幹也を妊娠していたし、その後も子育てと仕事に奮闘して、ペットどころでは無かった。

そして三十六歳になった今日、この黒猫が来た。
実花は恐る恐る、仔猫の背中に触れた。

この、動物特有の高い温もりは、鉄子の背中を連想させた。
いつも鉄子に甘えて、背中から抱きしめていた。

「猫、どうしたらいいか、判らんよお。」

「大丈夫!ちゃんと猫の飼い方勉強してたから!」

幹也が自信持って応えた。

「この仔、人懐っこい仔だよ。今は慣れないとこ来たから怯えてるけど、すぐ慣れるよ、きっと。」

椎也は屈んで、仔猫を掌に抱き上げた。
椎也の大きな手では、仔猫が余計に小さく見えた。
よく見ると、眼が緑色に光っている。

「緑の眼だ。出来過ぎだねえ、黒猫のタンゴ。」

「いや、黒猫のタンゴは、緑の眼とは言ってないぞ。」

両親の会話に、子どもたちはついていけなかった。

「この仔の名前、決まっとるの?」

「ううん。貰われるならって、名前付けなかったんだって。三匹産まれたから三号ちゃんって仮に呼んでたって。」

幹也の言葉に、実花は苦笑いした。

「じゃあ、三号ちゃんって名前だと、自分で思っとるら。」

「新しく付けてあげてよ。女の子だよ。」

椎也は実花の両手を開かせ、仔猫を抱えさせた。

「実花が?」

「そう。ネーミングセンスの無い、実花が。」

手の中の仔猫が、いきなり実花の手をチラッと舐めだして、実花は驚き、思わず仔猫を放り出すところだったが、胸元で柔らかく抑えた。
慌てた椎也が、実花の手を咄嗟に覆おうとして、そのまま実花の胸元に手が被さった。
実花の眼の前に、椎也の短い前髪と長い睫毛と高い鼻と薄い褐色の瞳があった。
綺麗だなあ。
椎也の伏せた視線を、実花は、そのまま見惚れていた。
スローモーションのように椎也の眼球が動き、実花の眼を柔らかく見つめ、そのまま口づけてきた。

これには流石に驚いて、胸が高鳴った。
いきなりキスをされることは多々あっても、今回の状況が掴めなかった。
眼と眼は見つめあっているので、眼で語りかけてみた。

何ですか?これ。

魔法から解けたように、椎也は急に眼に力が戻り、そっと実花から離れて立ち上がった。さっと横髪を手櫛で直す。短くなっているので、特に横髪は乱れてはいないが。

あ、少し照れてる。
何気ない素振りだが、実花には判った。
こういう時は出るぞ出るぞ、アレが。

「萌えたのよ。仔猫を抱きしめる姿に、つい。」

約束のネタかのように、オネエ言葉になった。
椎也は後ろを向いて、そのままキッチンに入っていった。
子どもたちは、ヒソヒソ笑っていた。

「名前、付けてあげなさいよ。」

冷蔵庫を開けながら、椎也は大声で言い放った。

「はい、はい。」

笑いながら、実花は胸元の仔猫を撫でていた。

「翠。」

「ん、?」

「緑の眼だから、翠ちゃん。」

その温もりに慣れてきた。人間の子とも犬とも異なる、その柔らかな骨格に。

「いいじゃない!翠ちゃん!」

瑠璃が喜んだ。

「他の仔も緑の眼だったよ。」

幹也が水を差すような発言をした。

「でも、あの家に残った仔には、翠って名前は付いてなかった。」

椎也は鍋に水を入れながら、幹也を制した。普通の喋り方に戻っていた。

「じゃあ、翠ちゃんに決定!」

瑠璃が締めた。そして、実花の抱く仔猫を撫でた。

「鉄子より、可愛い名前だし。」

「いや、瑠璃は判っとらんなあ。鉄子は鉄子って顔しとったもの。」

「鉄子って顔かどうかは判らないけど、覚えてるよお、少し。鉄子と遊んでたことも、ちょっと。」

「え?鉄子の事、覚えとるの?」

「うん。」

鉄子が死んだ頃、瑠璃は二歳だった筈だ。そういう物心つく前の断片的な事を覚えていて、どうしてその後の大きなイベント事を忘れてしまうんだろう?

「軽くご飯食べたら、外でお花見しようよ。綺麗だよ、桜。それでケーキ買ってきてさ。」

人参を刻みながら、目線を上げず、椎也は実花の誕生日の家族での何気ない時間を提案した。
こうして四人でゆっくり過ごせる日が大切だと知っているから。

手の中の温もりと、夫と子どもたちの優しさに、陽だまりのような穏やかな幸福を味わっていた。










水色の霧のような、柔らかな素材のボイルカーテンのような空間に、いつの間にかいた。

ここは何処だろう?

音がしないのではなく、音が籠もった状態だと気づいた。
まるで胎内にいるみたい。
振動が吸収されて、耳の奥にその元の音がが直接籠もるよう。

実花……

何処かから響くように呼び声が聴こえてきた。

実花ちゃん。

キョロキョロするが、発信元が判らず、仕方なく前を見ていた。
そこにいきなり、姿が現れた。

「実花ちゃん、大きくなったねえ。」

その人物は、涙目だった。

「……ママっ!」

実花は、母に勢いよく抱きついた。

「ママ、ママ!」

涙が雨のように溢れ出す。

「逢いたかった!ママ!」

「ママも逢いたかった。」

実花の頬を両手で覆い、ジッと、実花の顔を見つめる。

「大人になったのね。」

「ママ、実花もう、ママがいなくなった時の年になったよ。」

「そうね。とても綺麗になったね。ママの知っている実花より、もっともっと。」

慈しむような眼差しで、母は実花を眺めた。

「ママは変わらない。綺麗なまま。」

はにかんでから、実花の額に自分のそれをつけた。

「実花、ごめんなさい。」

そして、力強く抱きしめた。

「何で?ママは悪くないでしょ?」

「守ってあげられなくて、ごめんなさい。」 

折角、逢えたのに。 

「そんな事、言わないで!」

「ごめんね、実花ちゃん。」

泣きながら、実花の頬を擦る。
死んでもずっと、娘に謝り続けているだなんて、切なすぎる。

「ママのせいじゃない、ママのせいじゃないよ。それにね。」

実花が涙の流れる母の頬を拭った。

「実花、今すごくしあわせ。超エロくてドSだけど優しい旦那さんがいて、子どもがふたりいて。女の子と男の子と。そんで今日、仔猫も来て。あ、二花くんも、たまに来るよ。」

母は頷いてから、また実花を抱きしめた。

「おとうさんもね、元気だよ。でも、全体的に身体が小さくなったかやあ。細くなったって言うか。ああ、大丈夫だでね。元気だから。」

抱きしめているから、母が頷く度に身体全体が揺れる。
ママ、こんなに小さかったかな?十三歳の時の自分の身体の大きさでしか、母の身体を覚えていない。不思議な感触だった。

「ママはしあわせ?」

実花に微笑んでから、大きく頷いた。

「こんなにいい子に恵まれて、しあわせよ。」

「ママ、大好きだよ。」

突然、すぅっと霧が流れていくのと同時に、母の姿は遠ざかっていった。

「ママ!ママ!行かないで!」

「ごめんね、実花……ありがとう。」

「ママっ!ママっ!」

どんどん遠ざかり、姿が見えなくなり、霧が晴れていった。天空から緑色の光が射し込んできていた。

ガバッと起き上がると、自分が今何処にいるのか判らなかった。
暗い辺りを見渡す。
実花の右手を握ってくる感触が判った。

「今、誰か来てたな。」

椎也は低い声で喋ってきた。キュッと指に力が入る。

「判るの?」 

「何となくね。」   

実花は起き上がった上半身を、椎也につけるように寝直した。こうして一緒に眠る時は、いつも、ふたりとも裸のままだ。

「ママが来た。」

つぅっと涙が一筋落ちてきた。

「ママが死んでから、初めてだよ。」

あんなに感触がはっきりあるのに、あれは本当に夢なのかな?
現実とは違う、中間の世界だったのかな?

「ママ、ずっと謝ってた。謝らんでいいのに。」

「うん。」 

泣きじゃくる実花の頭を腕で抱えるように、椎也は優しく抱きしめた。

「ママの所為じゃないのに。」

「うん。」

額に感じる冷たい、実花のものではないものに、気づいた。

「しーや、泣いとるの……?」

「……うん。」

小さな嗚咽が聞こえてきて、実花は、椎也の額に額をつけた。
ああ、これ。小さい頃から、ママがよくしてくれた仕草だ。

「何で泣くの?」

「悔しい。」  

「ん?」

「悔しい。僕がタイムスリップできたら、いいのに。」

予想もしない答えが返ってきて、実花は躊躇した。

「はい?」

「過去に行けるなら、あの時の実花を守るのに。」

「そっか。」

自分より激しく泣かれてしまったので、実花は、どう引き止めたらママは消えなかったんだろうか、と深刻に考えるのをやめた。

「ありがと。」

椎也に口づける。

全ては過ぎ去ったこと。

「しーやは守ってくれとるよ。今がしあわせだったら、過去の憎しみとかって、力が入らんくなるよね。」

「僕は結構、今でも激しく憎んでるけどな。」

「しーやは仕方ないよ、根暗だもん。犯罪を侵さずに、ひたすら、どうやったら精神的に追い詰められるか、研究するタイプだもんね。んっ。」

首筋を強く吸われた。そのまま、首中を唇と舌が這いながら移動していく。

「黙れ。」 
   
低い声のその強い言葉に、身体がピーンと収縮する。一点から燃えだしていく。

「ダメ、番宣あるから……跡つけないで。」

「声を出すな。」 

我ながら、相当歪んでるかと思う。ゾクゾクする。
実花は自分を苛めたいのか、椎也を苛めたいのか、時折どうなのか判らなくなる。

「ダメ……。」

「声を出すなって言ったろ?外に聞かせたいのか?窓開けてするか?」

「やだ……ダメ。」

「もう、こんなになって、何がダメだよ。」

椎也のスイッチが入ると、途端、実花のスイッチも切り替わる。
身体がとろける。
それが悦びだった。




……………………………………………………………………………



シャワーを浴びてからタオルを巻いて、リビングに出てきた。
仔猫はどうしてるだろうと、薄暗い中を見回したら、ソファの下に置いた猫用ベッドの上で丸くなって目を瞑っていた。
それが寝ているならば、いいのだけど。

「翠ちゃん。」

心配になり呼び掛けると、暗闇に緑の眼が光った。
確かに実花を見やって、そしてすぐに眼を閉じた。

まだ慣れてないのもあるけれど、犬と猫では全く違うんだな、と感じた。
鉄子は、実花の帰りがどれだけ真夜中であろうとも、リビングから玄関まで出てきて待ち受けていた。
そして姿が見えたら、実花に飛びついてきた。

「おやすみ。来たかったら、こっち来てもいいんだからね。」

声を掛けてから、寝室に戻った。
ドアを開けると、寝室のテレビの中に、実花のあられもない姿が映し出されていた。
息を呑んで、後ろ手で急いでドアを閉めた。

「身体が綺麗だね、実花は。」

乳房を顕にした初めての作品。
体当たりの演技が好評となった映画は、椎也とつきあい始めて一年後の撮影だった。

実花のそれまでにないイメージ、薄幸でか弱い愛人役を椎也とスペシャルドラマで共演した時、新たな一面を賞賛され、そのような儚げな娼婦の半生を作りたいと熱意を持って製作側に誘われた。

ベッドに座り、画面を見つめている椎也は手を伸ばし、実花のタオルを引っ張り、裸体にした。

「でも、今の方がもっと、身体の線がいやらしいね。」

眼の奥に強い感情を含んでいるのに、声のトーンは低いまま落ち着いている。

映像は実花の腰を掴んでいる男優側からの俯瞰で、実花の恍惚の表情を捉えていた。

「本当に気持ちいいんだね。このよがり方。」

音声は小さくしてあるが、実花の小さな喘ぎ声が聞こえてきた。

「椎也……」

実花はベッドに並んで座った。

「椎也、本当に根暗だよね。こんな遊びするのって。」

「まあね。」

「何の罰ゲーム?」

「まさか。」

吸われて内出血だらけになった実花の首と胸元に唇を軽く這わす。

「ごめん。また、こんなになっちゃった。どうする?」

「もう、いいよ。いつもの事だもん。うちの亭主はいつも、こんななんですーて、メイクさんに見せると、超引かれるけどね。」

ふふふと笑い、実花を背後から抱きしめた。
実花は、リモコンに手を伸ばし、再生を止めた。

「こんなん見て怒っとるんなら、椎也にしか見せない実花のやらしいとこ録画して観とってよ。」

「いいね、それ。」

「その方が実花は気持ちいい。」

「実花が調教されてるところ?」

「うん……。」

「やっぱ、ダメ。撮ってたら、僕が萎えるわ。実花は興奮しても。」

いじわる。
実花は回されている椎也の腕を少しつねった。

「成り立ちで性衝動って変わるのかな?僕たちって、かなり異常だよね。」

その台詞の意味を、実花は、暫し考えた。

「ちょっと待って。その、『たち』って、もしかして、二花くんも入ってる?」

「まあね。」

実花は、くるりと椎也の正面に向き直った。

「あなたたちって、お互い、アイツよりマシって思っとるよね。」

「えっ?」

「えっ?」

互いに疑問系のまま、無言で見つめ合った。

「全然、僕、マシだけど。」

「そんな訳、無いじゃん。あんな事しといて。」

実花は呆れて、大声を出した。

「だって、二花だぞ?」

「二花くんだって言うよ、『だって、椎也だろ』って。」

「何よ、それ。」

唖然として言い放ち、そして椎也はその時に、クシュンとした。

「首が冷える。」

「そんな短いもんね。椎也が短髪なんて有り得ないと思っとったけど、意外に似合うもんだね。」

実花は笑って、椎也の髪を手で、グシャグシャ回す。

「ほら。」

掛け布団を被せ、抱き合って横になった。

「急にどうしたの?」

布団の闇の中で見えない椎也の頭を撫でる。

「気分転換。」

「何の気分からの転換?白状しりんよ。」

「初めてしたのって、僕の誕生日だったな。」

「話を逸らさんで。」

どうも椎也が最近おかしくなっている。
それは実花の所為だけでは無いし、気にかかるのは、ここにきて、改めての公子の台詞だった。

椎也だけは、やめておきなさい。

そして。
ふたりが初めて交わる事を伸ばし伸ばしにしたのは、あの事があったからだ。

「ん?」

答え合わせするかのように、椎也の眼を見据えた。布団の中の暗闇も、眼が慣れてきた処だった。
予感はあった。

「ごめん。」

「ごめん?」

的中した。

「僕の隠し子報道が、来週、出る。」

それなりの穏やかな暮らしが続いていた。
また、強い風が吹いてきて、空は蠢き、波が激しくなり、嵐がくる。



続く

……………………………………………………………………………



本編を書いた時に時期尚早で解決できなかった案件が、今回、ようやく動き出せるので、一安心です。


が、そこ、スルーしていいの?
という場面が今回出てきました。
そこ、いかんでしょう。

次回は、やっつけてもらいます。




お読みくださり、ありがとうございます。
AD
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)

みずのこえさんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

SNSアカウント

AD

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス

      ランキング

      • 総合
      • 新登場
      • 急上昇
      • トレンド

      ブログをはじめる

      たくさんの芸能人・有名人が
      書いているAmebaブログを
      無料で簡単にはじめることができます。

      公式トップブロガーへ応募

      多くの方にご紹介したいブログを
      執筆する方を「公式トップブロガー」
      として認定しております。

      芸能人・有名人ブログを開設

      Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
      ご希望される著名人の方/事務所様を
      随時募集しております。