みずのこえ ことばこころほどき

ことばこころほどき、とは
あなたのかたくなった部分をほどくメッセージです。


テーマ:
今日もお話です。

これは長めの話になるので、数回に分けてアップします。 
性的描写が処々出てきますので、苦手な方は決して読まないでくださいね。

深刻過ぎて話を暗めにはしたくないので、天然実花ちゃんに笑いをお願いしてます。
心揺さぶられるかもしれませんので、落ち着いたお時間にどうぞ。


「実になる花」という長編小説を以前書きました。
いや、長かったよ。
九年、十年くらい前かと思います。
これも何かに応募しました。

実花という女性の、十一歳から二十五歳までの人生です。
奥三河での生活から、後半は全く違う舞台でした。

これも夢で観たお話です。
その前夜に、この話に出てきますが、椎也という男の成り立ちを描いた長い夢を観ました。
これは精神的につらいお話。この子は根暗だから。

その翌日に、続きともなるお話、「実になる花」を夢で見たのです。


「実になる花」の前に、その前夜の話を書いたのですが、タイトル思い出せないや。
実花ちゃんへの愛の方が大きいのかしら。

何れにしろ、わたしの全く知らない世界の話でしたので書くのが泣けましたが、降りてくる話ですので。


で、登場人物って、書いた時のお話の年齢のまま、姿形が止まるのですよね。
先日、短い夢で、この続きをみたのですが、あれっ?実花ちゃん、もう三十半ばなの?と驚きました。

あらから十年近ければ、当たり前なのに。
それが不思議で仕方ありませんでした。

そう思うと、十年って、あっという間。


「実になる花」というタイトルに思い入れが強くて、神さまどうか、このタイトルを他の人が使わないで、と、その時強く願ったのです。


いまも願います。


その後の話なので、「実になる花~追伸」としました。

「来る潮帰る波」の彼も主要人物のひとりです。


おたのしみくださいませ。


……………………………………………………………………………








実になる花~追伸①


プロローグ


実花は立ち上がり、テーブルの上に置いておいた企画書を椎也に手渡し、ソファに並んで座った。

「秋ドラ、決まったんだけどさ。」

「アラ、いいじゃないの?スペシャルもクランクアップしたし。六月インなら瑠璃と幹也も新しいクラスに慣れ出してるかもね。」

椎也は渡された企画書に眼を落とす。

「よく読んでくれん?内容。」

「二十歳の娘の男と、ありえない罪を知る。」

長身の椎也は、目線を実花に合わせる為に背中を少し曲げ、キャッチコピーを読み上げる。企画文章に眼を落としたが、すぐに顔を上げる。

「娘の彼氏と恋に落ちる、ねえ。」

「有り得ないことじゃないんだけどさあ。そこじゃなくて。」

「実花の年で、二十歳の娘でしょ?十五、六の時の子ね。アリだわね。」

「アリだけど、さあ。」

実花は、片頬を膨らませてから溜め息をついた。

「何?年を感じるってこと、かしら。」

椎也は、何気なく、実花の肩を抱いた。
それは、日常のよくある仕草。

「実花さあ、ちょっと、そのイメージには合わん気がするよ。それは、もっとオトナの女性、って感じがする。」

「企画としては、二十歳の娘と、そう変わらない外見の可愛い母親が、でも三十半ばで、やる事はアダルトってこと狙ってるんでしょ。それだったら、アンタが適役じゃない。」

実花もいつもと同じように、椎也の脇の下に入り込む。

「んんー、でも、さあ。」

「オトナの女性を演じたらいいじゃないの。」

椎也は実花の頬に指を当てた。

「大丈夫よ。アンタ、普段は、そんな十代のバカ娘みたいなイタい喋り方だけど、演じる時は、アナウンサーみたいな語りも立派に出来るじゃないの。」

「バカとかイタいって普通言うかね?眼の前の妻に。」

「だって、本当にイタいもの。」

実花の首筋を指先でいじりながら、椎也は端正な顔の表情を変えずに言い放った。

「しーやだって、相当イタいでねっ!未だにオネエ言葉のアーティストなんてさあっ。」

「アタシは未だに敢えて、なのよ。だって天才だもの。」

「しなくなってたのに、最近、また使い出すようにしたでしょ。」

変わらず首筋を指が這うから、実花は怒りながらも、軽く息を漏らし始めた。

「そうやって簡単によがっちゃうところとか、実花は最初から全然変わらない。」

ほくそ笑みながら、実花の耳の中に中指を入れ込む。

「ばかっ……しーや、やめて。」

「実花のやめては、もっとしてって、翻訳必要、でしょ?」

ああ、これは、このドラマはNGだな、と実花は悟っていた。
興味なさそうに企画書をスルーしたが、椎也は内容をすぐに読んだ筈だ。理解した筈だ。
相手の男とラブシーンが毎回あることを。

ドラマや映画で激しいラブシーンの撮影があった後は、椎也の攻めが執拗になる。

「パパー、用意できたよー。」

急にリビングのドアが開き、子どもたちが慌ただしく入って来た。

「うん。じゃっ、行こっか。」

椎也は実花の首筋を弄りながら、立ち上がった。
瑠璃と幹也のふたりの子どもは、生まれた時から両親がいつも触れ合っているのを見て育ってきたので、いちゃついていても、通常の光景として捉える。

「いいなあ。実花も行きたい。」

身体の疼きを抑えながら、実花は、甘えた声を出した。

「ママは徹夜で寝てないでしょ。大人しく寝てなさいよ。」

十一歳の瑠璃が実花の頭を撫でると、実花は渋々頷いた。

「お土産買ってくるからね。」

喋り方や振る舞いが、椎也に似ている。実花は娘の世話焼き加減に微笑んだ。

「しょーがなーいなあ。」

「ママにたい焼き買ってきてあげる。」

平均より小柄の八歳の幹也は、実花がよく彼に言う口癖を、真似するのだ。

「うんっ。ど美味いたい焼きねっ。」

小指と小指で約束を交わす。

「瑠璃、幹也、いってらっしゃーい!」

玄関で笑顔で手を振って子どもたちを送り出すと、椎也がいつも通り、実花にくちづけをする。
一緒に暮らし始めてから、どちらかが出かける時は、喧嘩中でも必ずそうしていた。
険悪でそれをしなかった日があった時、実花が熱烈なファンに追い掛けられ、転んで打撲を負った。
形式にならないように留意しつつ、気持ちのこもった儀式は、以来、欠かさない。

今日は更に、尻を抱きかかえられた。指先が危うい動きをして、かすめていった。

「ばか……。」

「夜、ね。」

椎也はニヤついてドアを閉めて行った。
とりあえず、明日、事務所に話そう。実花はそう決めて、欠伸をし、バスルームに向かった。




……………………


一、 木蓮


「結局、これは降りたいってこと?」

所属事務所のタレント管理部長の吉澤公子は、実花を前に、機嫌悪そうに発した。

「降りんでもいい。濡れ場を無くしてくれれば。」

「実花、わたしが怒ってるのは、何を今更ってことよ。」

吉澤公子が機嫌悪そうに話すのは、やや、日常茶飯事だ。
実花がアイドルとしてデビューする時に、公子はマネージャーとして付いてくれた。
彼女は実花の私生活も丸ごとを熟知している。

「企画が来た時に、突っぱねれば良かったのよ。」

「ごめんなさい。」

深く頭を下げた。

「最初から何か判らんモヤモヤがあってね。実花だから濡れ場入れるって当たり前になってない?」

「だから、最初から、そこに異議を唱えなさいよ。」

「ごめんなさい。」

違和感があった時に、断れば良かった。
それなのに曖昧に返事をしたのは、断ればこの局のドラマキャスティングに次は無い、という恐れなのかな、と実花はぼんやり考えていた。

「どうせ、椎也が機嫌悪くなったんでしょ。」

「ううっ。」

椎也は実花の所属事務所に、後からシンガーとして入った。
公子は実花の後に椎也にマネージャーとして付いて、その後、また実花に戻り、そして、他の女優へと移動した。
実花と椎也がつきあい出したのは、公子が椎也に付いていた時期だ。

「いつもの事じゃない。」

「公子さん、実花はもう、疲れたよ。いつもおかしくなって、だから実花もおかしくなって。帰ってくればイジられ続けて、眠れなくて。でも、何をされんでも、じわじわ精神的に追い詰められて眠れんけど。」

苛々した様子の公子は、冷めた珈琲を一気に口に含んだ。

「あんたらのバカップルぶりは、もう、うんざり。」

「散々、うんざりされまくっとるけど。」

公子は更に眉間に皺を寄せた。

「実花、あんたは椎也が嫌がるから、濡れ場をしたくないの?やりたくないのは、あんた自身なの?」

そうだ。自分の意志が第一だった。
アイドルになりたての時、公子によく叱られたものだ。
怒られるから、やりたくないのか。
やる気が無いから、怒られるのか。

「脈絡もなく、したくないです。話が気持ち良くて、その成り行きが違和感無くて飛び込めれば、ラブシーンは有りだと思う。でも、視聴率稼ぎたいからって、頻繁に入れるのは、実花は好きじゃない。」

公子は長い溜め息をついた。

「わたしは十代の駆け出しのアイドルと話してるのかしらね。」

「実花がバカってことね。」

「あんたがバカなのは直らない。」

椅子から立ち上がり、公子は実花に背を向け、窓の外を見やっていた。
ここに来るまでの道中、外の明るい陽射しの景色は、春を匂わせていた。
長く寒い冬の後の、徐々に移行する季節の序盤。

実花は俯いた。
いつもこうやって、人を苛立たせる。
三十五歳という年齢に合わない、自分の幼さには、とうに嫌気が差しているのだ。
巧く立ち回ろうとしても、空回りをする。
台詞なら、演技なら、幾らでも、気持ちいいくらい遣り熟せるのに。

「実花は自分を低く見過ぎている。」

公子の言葉に、実花はパッと顔を上げた。

「デビューして二十一年もテレビに出続けることが出来るなんて、並大抵じゃない。」

公子さんは、いつもこうして、下げてから上げてくれていたな。
実花は、ぼんやり考えていた。
ここで口を挟むと、説教が長くなることを実花でも学習している。

「実花が絶賛されているのは、嘘を許さない濡れ場だけじゃないのよ。何にでも入れ込んで成りきる演技力なのよ。」

おそらく実花は、誰よりも公子に褒められることが嬉しい。
口元がニヤニヤしてきた。

「仕事、選びなさいよ。嫌だと思ったら、断るか提案しなさい。それで干されると思ってたら、あんたボロボロになって、使い捨てられるわよ。」

「干されないの?」

「だから、バカなのよ。」

公子は実花に向き直って、軽く頬を擦った。

「あんたは引手数多の実力派女優なんだから。」

ふっと笑んだ公子に、実花はポロッと涙を零した。
子どもを二回産んで、妊娠期間も少しは仕事をしたが、産後落ち着くまで、復帰は期間を開けた。
子育てで仕事量が減ったことは、それが実花の焦燥になった。
CM本数が如実だった。
しかし、幼い子を椎也なり他の者に任せて仕事に出ることは、実花なりの悔いがあった。
罪悪感ではなく、今、小さい我が子に集中できない寂しさ。
罪悪感があるとしたら、それでも仕事に入れば、役にのめり込んでしまい、子どもも含めて私生活が煩わしくなることだ。

「吉田でしょ。今の担当。あれ、甘いわね、チェックが。指導しとくわ。」

マネージャーの一人の吉田は、半年前に実花に付いた、まだ二十三歳の若手だ。

「実花は仕事選んで。一年に一回でもいい。腑に落ちる仕事だけして。それで、椎也がどうとか、もう言わないで。とっとと椎也と別れるか、こんな男だと、諦めるかして。」

仕事を減らしても、それでも、いいんだ。
世間に忘れ去られないんだ。

「つきあい出した頃から、公子さん、ずっと言っとるね。」

「言ったでしょ?椎也はやめときなさいって。あれはトラブルメーカーよ。アーティストとして、ピカイチでもね。」

はあっと大きく溜め息をついた。

「実花だっておかしくなるでしょ?椎也に濡れ場があると。だから椎也は、一年に一回しか役は入れないし。」

「あーうん。でもあれは、椎也がおかしくなってて、そんで実花に伝染する感じ。演技だと、変な抵抗感あるみたい。」

椎也は、自分の価値を知っている。
歌番組やバラエティに出るときに、毎回ネタのように自分が絶世の美男で、天才だと言い放っている。
演技は好きな癖に、程々にしかオファーを受けないないし、楽曲制作や、ツアーや、何より家庭に支障が出ないように自ら調整している。

「実花をいちばん大事にしとっても、何だかんだで椎也が浮気、ちょこちょこしとるんじゃないかと、それは大いに疑っとるよ。知るのが怖いって言うか、仕事して、子どもたちの世話もあるし、実花には容量オーバー。」

「判ってんなら、どうしようもないじゃない、あれは。」

椎也はアーティスト性も高く、長身で筋肉質で美男子で、女の野生度を上げる色気ある目つきだ。

実花と交際する前の椎也は、デビューする前から、本命がいても、寄ってくる女を喰い物にした。
週刊誌ネタも絶えなかった。

それでも。
三年年上の椎也が二十二歳でデビューして、初めて音楽番組で一緒に出演した時、しっとり歌う椎也に、実花はときめいた。

彼女がいようと、浮気性だろうと、狂気を孕んでいようと、幾度もアタックした。
友だちになって一緒に飲みに行くようになっても、椎也は実花を強固に拒み続けた。

「それでも、椎也の芸能界は実花で始まってるし。椎也が実花を離すことは、絶対に無い。愛想尽きて、実花が離すしかない。」

高校の時からつきあっていた彼女に見限られ、椎也は余計に実花をシャットアウトした。

それは、タレントなど全く興味の無かったのに、テレビの中で唄う実花に魅入ったことがきっかけで、街角でスカウトされてデビューを決めた椎也の極限の意地だった。
複雑なファン心理だった。

この女に手を触れたら、もう、二度と離せなくなる。
自分が、益々おかしくなる。
他の男が、この女に少しでも触れたら、狂ってしまうかもしれない。
怖かった。

震えながら、椎也が語ったことを、実花は、永遠に忘れない。

それを依存と言うんだよ。

ある人が言った。
そして、実花はもっと、椎也に依存している、とも。

だから、離せない。

「実花。今回、ドラマを断っても、事務所側は他に仕事を入れないわよ。」

公子の言葉に、実花は、ハッとして現実に帰った。

「自分を高く見なさい。向こうから、もっと条件のいいオファーがくると、信じなさい。」

信じるって、なんなんだろうか。
それが欲しくて、ひたすら椎也に告白し続けたが、自信なんてなかった。
バカにされようが貶されようが、ただ、ただ、欲しかっただけだ。
欲しくて欲しくて、求めて。

そのまま、流れで子どもも出来たが、妻としての自信など、これっぽっちもない。

芸能界も、いつ仕事が来なくなるのか、不安で仕方なかった。
精一杯、役に入り込む。
それが、好きだからだ。

それは危険な役作りと言われる。
全身全霊で、その期間は役に入り込むからだ。
その日の撮影が終わったから、自分に戻る、なんて、器用なことはできない。

それが、椎也には怖い。
その間、自分が蔑ろにされるからだ。

不意に、自分の中から聴こえてきた声に、実花は、ビクッとした。

もしかしたら、あたしの好きなのは、椎也よりも、演技、なのかもしれない。
いつか、何もかも捨ててしまう、のかもしれない。

「実花は、何になりたい?何が目標?」

公子の声に、再度ハッとした。

「デビューして軌道に乗りだした頃、実花には目標があった筈。いま、それがボヤけてるの。だから迷うし、周りに流される。」

誰にも認められる女優になりたい。
あたしの歌に心打たれる人が多くあって欲しい。

そんな目標があった。
忙しすぎて、がむしゃら過ぎて、確かにそれがボヤけていたんだ。

「考えてみる。」

「そうして。次の役入れるの、それからにして。」

公子は笑って、実花の頭を撫でた。



……………………




芸名、南藤実花―なんとうみか
本名、森下実花―もりしたみか
旧姓、南藤―みなみふじ

父の友だちは父の事を親しみを込めて、「ナントウさん」と呼ぶ。
そこで実花は、多くの人に馴染んで欲しいとして、芸名を「なんとう」とした。
実花も十代の頃は、メディアではよく、自身を「なんとうはね~」と呼称していた。

中学二年の時に、テレビ番組のオーディション企画に応募。
予選を突破して、見事、優勝。
上京し、アイドルデビューした。

幼くも色気ある人形のような顔立ちに、方言を駆使した飾りない発言がギャップとなり、天然おバカキャラとして確立。
自身の性体験をも何の躊躇もなく発するので、生放送では使えないアイドルとして話題に。

その様相にして、真に迫る演技力と、心打つ歌唱力に定評があり、幅広い世代に支持され続けている。

二十三歳でアーティストの椎也と交際を始め、二十五歳の時に結婚。同年、長女を出産。
二十八歳で長男を出産。


愛知県東部出身
身長161cm  Dカップ

それが大まかな公称としている。

実花のちょっとしたファンだったり、ネットで調べれば、もう少し込み入った情報は出てくる。

椎也と同棲する以前まで、一緒に上京してきた父とマンションで暮らしていたが、この父親は母の再婚相手で養父である。
母親は再婚後、実花が中学一年の時に、心筋梗塞で死亡している。

養父は、実の親子と何ら変わりなく愛情を持って育ててくれた。
実花は、この養父を命の恩人と呼ぶ。
今は愛知県奥三河地方で、五平餅屋を営む。上京する以前も、五平餅屋を生業としていた。
ファンはこの店に通い、実花が自慢する父の五平餅に舌鼓を打つ。

大事な娘をひとり上京させ、芸能界でアイドルデビューさせることが心配で付いてきたが、高齢ということもあり、実花を護ると誓った椎也の存在もあり、養父は故郷に帰ったのだ。

実花はつまり、実の父親の姓と、実花が十歳の時に母の実家に戻ってからの姓と、いまの養父の姓、三つの旧姓がある。

実の父親の存在は禁忌であるらしく、実花も公に語る事はない。
何より養父が実花の自慢であるから。






もう、二十一年も芸能界に居るのか。
公子の昼間の言葉に、実花は改めてデビュー前からの喧騒を思い返した。
昨年、二十周年の祝いをしたが、それも感動する間も無く、忙しく過ぎ去ってしまった。
いつの間にか、生まれて普通の暮らしをしてきたデビュー以前の年月よりも、デビュー以後の方が長くなっていた。

そんなに芸能界にいたかな?
振り返っても、そこまでの年月を感じられない。 

秋のドラマスケジュールは未定になったが、当分の仕事はある。
三誌の雑誌のインタビュー、記事に載せる写真撮影、四月第二週に放送するスペシャルドラマの告知、ラジオ番組収録……諸々と。

今も雑誌一誌の撮影とインタビューを受けてきたところだ。
三十半ばで、二十代と変わらない美貌の秘訣は?というテーマだった。
常に恋をして愛することだろうか、そんな気持ちを伝えた。
愛は子どもへの愛もあるし、力を貸してくれる仲間への愛もある。

そして、今はマネージャーの吉田が運転をする車で帰宅中だ。
吉田はマネージメント部長の吉澤公子に、こってり絞られた。
マネージャーとは、マネージメント一般だけでなく、タレントの意識向上を促し、精神的な支えになることだ。
タレントの交友関係を把握しておきなさい、と。

説教を喰らってから、吉田は、実花には平謝りした。
自分の至らなさの所為で、迷惑をかけたことを。

それでも実花は知っている。
仕事を受ける受けないは、単に自分の自己責任不足だと。
マネージャーが、夫がどうこうではなく、自分の意識の問題だ。

夜を走る車窓から、過ぎゆく街並みは、眺めているだけで、外気の生暖かさを感じられた。
車のライトも、街灯も、店舗の明かりも、冬の入り口とは柔らかさが異なる。

常に自然と供に生きられた奥三河での生活に、今も憧れる。
土を感じない、陽の光を感じられない、早朝から深夜までのスタジオが続く日々の暮らしは辛いことが多い。
でも、ここで、生きていきたい。

ふと、スマートフォンに連絡が入った。
画面を見ると、二花―つぐはるからで、『今朝、帰ったよ。』、だった。

「ちょっと、電話かけるでねー。」

実花は、運転しているマネージャーの吉田の頭に声を掛け、スマートフォンの操作をした。

「おかえりーっ。」

「ただいま、実花。仕事終わったの?」

繋がった、見えない相手からの声。
沈んだ心に、脈動が蘇った気分になった。

「うん、さっきね。成田?」

「いや、セントレアだよ。」

「えー何それ?実花に逢いに来んの?わざわざ、時間掛けて経由で帰ってこんでも、さあ。」 

「また、いつでも、すぐ行けるだろ。十一月に逢ったし。傷心で帰ってきてんだから、俺だって心和ませたいよ。」

実花は、ふふふと笑った。

「一年持つなんて、二花くんには、長かったよ。すごい偉かったよ。」

「俺は、もっと持たせたかったよ。」

「無理だよ。二花くんは、男の人には、いつもドキドキしたいら。ドキドキ持続は出来んもん。慣れちゃって穴の刺激無し。」

「やめろよ。そういう過激で悲惨な通告は。」

電話の相手の二花は、一年前、恋人の赴任に付いてこないかと誘われて、悩んだがパリに旅立った。
日本なら隠しても、フランスなら男同士の同棲は普通だからだ。

「いいよ、もう。アイツ、本物にしてやったから。パリで遊べるだろ。」

彼の特技は、全く男色の気のない男でも、狙ったら逃さない事。
実花が知っている限り、今までで物に出来なかった男はひとりで、狙わないようにした男はひとり、だ。

「男狂わせ。」

「お前に言われたくない。」

「二花くん、女の人には一途なのにね。女の子は、ひとりひとりの期間が長いよね。」

「片手しか知らないからな。」

「二花くんとつきあえる女って、自分の男が男咥えてても尋常でいられる程の精神力要るじゃん?そんなヒト、そうおらんじゃん?だから、二花くん、凄く大事にする。その愛され方が心地好いけど、果てにはイヤんなるよね。虚しくなる。」

「俺の全てを否定するな。」

「実花には無理ってこと。」

電話の向こうで、少し躊躇してから、小さい声が聞こえた。

「椎也と何かあった?」

「椎也と、って言うより、自分への嫌気かや。」

「俺が相当落ち込んでるからな。」

「今回は酷いね。」

「当たり前だろ。これで俺も落ち着ける、って歓んで日本出たんだからな。最後にしたかったよ。」

本当は、相手に一生守って欲しいし、寄り添いたい。
毎回期待するのに、叶わない。
時々、無性に生きていることが嫌になる。
自分が自分を殺したくなる。
その度、実花の存在に救われてきた。

それは実花もそうで、辛い時には、二花が必ずいて、支えてくれた。

実花が小学五年生で、母の実家に住んでいる時に、中学二年生の二花はその近くの遠縁の家に預けられて、ふたりは出逢った。
初めて話をした時に、奇妙な感覚に包まれた。

この人を知っている。
昔から、この人といた。
初めてなのに、既視感があった。

よくよく話を辿ったら、同じ時に親からの悲惨な虐待に遭っていた過去が、判明した。
いろんなことが、いろんな感情が共鳴していた。

「でも大丈夫。実花は今日も椎也に激しくしてもらうから。」

「自慢するなよ。」

「自慢したいもん。」

二花の笑いが聞こえてきて、実花は落ち着いた。

「実花のアホな喋りが聞けて良かった。」

「いつも耳元で喋ったげるわ。また、おいでんよ―。みんな逢いたがっとるよ、二花くんに。早く来りんよ。」

「また、お土産持ってくよ。」

電話を終了して、実花は安心してミネラルウォーターを口に含んだ。
情緒不安定なのは、この所為だったかと気づいた。

「実花さんのお友だちって、みなさんワールドワイドですよね。」

頭は振り向かずに、マネージャー吉田が声を掛けた。

「新宿二丁目とかが、ワールドワイドかや?」

「僕にしたら、それも、結構そうですよ。」

「まあねー。実花、二丁目のお友だち、多いね―。」

そういえば、最近お店に遊びに行ってないな。そんな時間もめっきり少なくなったということは、心の余裕も少なくなるな、と実花は気づいた。

「今の電話の人、噂になったあの人ですか?」

それは人間としての好奇心なのか、実花の交友関係の調査報告なのか、知らない。
隠して悪い事は、実花は出来ないと公子は知っている。
隠す事が出来ない。
だから、実花と椎也の様子が変わってきて、つきあい出す直前に、公子は異変に気づき、忠告した。

椎也だけは、やめておきなさい。

「そうそう。懐かしいね、それも。まだ、実花十代の時じゃん。」

実花がアイドルデビューをして、慣れない環境と生き馬の目を抜くような世界に心細かった頃、二花は神奈川の大学に進んだ。
一流大学も余裕で入れる筈なのに、何故、わざわざそこなのか二花に聞いたら、色んな人がいて面白そうだと笑って答えた。

二花は、いつも近くに居て支えてくれた。
まさかその大学で、二花は椎也と友だちになっているとは、実花はまだ、知らなかった。

芸能界に入っての最初の彼氏に振られ、傷心のまま、二花としょっちゅう遊んでいた。
それを週刊誌にスクープされた。

「あの時は、それもいいかやーと思ったんだけどさ。そのままつきあってみるってのも、アリだねって案もあったけど。」

実花とそれを笑い合ってから、押し黙って実花を凝視した二花は、首を横に振った。

やろうと思えば、簡単にやれる。
何回も妄想では実花を抱いている。
実際そうなれば実花も濡れて悦ぶことを知っている。
でも。
でも、実花は、俺が男に抱かれてること想像しても、イケるか?

そして、二花をマスコミから守る為に、その建前で、二花から少し遠ざかった。

あたしには、無理。

大学を卒業して、二花は海外を巡り出した。
再会は、実花が椎也とつきあい出してからだった。

あの時、あの返事に間違いは無かったと思う。
そして、二花の肌の温度を知らないままで、良かったとも。

肌の温度を知りたかった。その欲望はあったとしても。

「でも、まあ、お陰で二花くんは、椎也より特別な存在になったしねー。」

「いいんですか、それ?意味深な。」

「いいのよ。」

実花は眼を瞑って微笑んだ。

「あれは特別。あれは、もうひとりのあたし。」

二花が永遠に味わえないこと。
あたしが堪能してあげる。
実花が恍惚となると、離れていても二花の肌も紅潮することを知っているから。



続く


……………………………………………………………………………





平成のバカップル。
また書けて嬉しいです。
十年前、このバカップルをどの俳優さんが、わたし脳内劇場で演じたか、お考えください。

続きは、少し先だと思います。
書くのに時間がかかるからです(汗)


お読み下さり、ありがとうございます。




























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