みずのこえ ことばこころほどき

ことばこころほどき、とは
あなたのかたくなった部分をほどくメッセージです。

ことばこころほどき


 ことばこころほどき、とは
あなたのかたくなった部分をほどくメッセージです。


その人の、心の中、
もしくは、身体の凝り固まった部分を
ほどくメッセージが、ずばりと訪れます。
  
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人間だれしも
ほんとうは悩むことへの答えを自分で持っていて

ただ、それが深層にあるもので
見えにくかったり
聴こえづらかったりするものです。


ことばこころほどきで、ほどかれますように。

あなたを言祝ぎ(ことほぎ)ます。


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NEW !
テーマ:
小説です。 

たったひとりの人に伝えたくて始めた、この綴り。
人に言えない嗜好や秘密、官能
人間はそれをどう思うか
自分でどう対処していくのか。

瑠璃シーン⑥のキャッチコピーは、
俺とお前の攻防戦。
じわじわ迫りくるサスペンス劇場。

トーチカ~瑠璃シーン⑥の中編、
神楽シーン⑥中編1からの流れの瑠璃側の視点です。
多発事件的で、ごった煮のように大勢の人が出てきます。

瑠璃シーン⑥中編は、
不貞、不倫、禁忌の闇を傍観する旅。

神楽シーン⑥よりも闇を見る!
けれど、笑いと呆れが混在としている脱力系。

男の嫉妬、男のトラウマの癒やしも、神楽シーン瑠璃シーンともに⑥のテーマですね。

瑠璃シーン側では、何が起こっていたのか?
真実は、こんなだったという答え合わせ。



前回の
トーチカ〜瑠璃シーン⑥中編22
神楽にも性的なアドバイスが出来た瑠璃は、また神楽から幹也の強さを教えられた。
自分に見える神楽の知らない神楽の姿と、神楽に見える瑠璃の知らない瑠璃の姿とを知り、瑠璃は神楽の存在をより愛おしくなった。


トーチカ〜神楽シーン⑥中編3からの二花の家でのお好み焼きパーティー、瑠璃側の視点編終わり。

さあ、ロンドンコレクションにむけていきます。



トップモデルとなった瑠璃の真骨頂とも言える、瑠璃シーン⑥。
瑠璃の魅力、瑠璃チカの結婚式、そして妊娠までを書きます。


わたしが書く小説というのは映像で見えてくるのを文章化しているのですが、この文章で女性の(もちろん男性もね)オ ーガズムのお手伝いにもなればいいな、とも思っています。

トーチカ神楽シーン①
東三河に住む、未来を知っている少女
神楽の眼線
神楽シーン⑥で、東三河から神奈川に嫁入りしました。

トーチカ~瑠璃シーン①
神奈川に住む、ティーンズモデルの美少女
だった瑠璃の眼線
今は世界に立つスーパーモデル

神楽シーン瑠璃シーンの同時期を交互に書いていきます。
どちらにも童顔、永遠の少年の二花(つぐはる)が絡んできます。


トーチカのこれまでの話のリンクはこちらから
トーチカ以前のお話もこちら↑

BGM
"カルメン組曲"

"LUNA SEAの"I for You"



トーチカ〜瑠璃シーン⑥中編23







ロンドンに来てからは、凄まじい流れだった。

「すぐに曲を縮めて編曲してくれ。出来る限り早く、デモを送って欲しい。」

「えー。」

チカの勢いある声に、二花の怠そうな声が被さってきた。
アルバム内の四曲を、コレクション用に指定の時間に縮めて欲しいと、ショーを統括する監督から指示があったからだ。

「俺がどんな氣持ちで作ったと思う?」

スマートフォンから二花の苛立った声が響く。

「それは、判る。いや、作り手のお前の深い感情は俺には判らないかもしれない。けど、二花。頼むから。これはお前のチャンスなんだ。」

チカは下手に謝った。
チカが悪い訳ではない。
それは二花も理解しているだろう。

「最初から指定された時間で作るのは、判るよ。でも、流石にこれは、俺もかなり、カチンときたよ。」

二花の怒りは溶けない。
当然だろう。
自分が納得いくまで遂行した曲たちだ。
それを縮めろというのは、芸術家にしたら屈辱なのだ。

「二花、俺はあなたの曲が好きなんだ。絶対に今回のコレクションで使いたい。お願いします。」

チカは見えていない相手に頭を下げた。
普段は慇懃なチカの、このマネージャーとしての下手の真面目な態度に、瑠璃はきゅうんとときめく。

「うん……うん。俺も使って欲しい。俺が大きな事言えないよね。曲を使って貰うんだから。」

その様子が見えないでも、二花にはチカの真摯な態度が判るのだ。
しかも、別にチカが悪い訳でもない。

「頑張ってみるよ。」

「ありがとうございます!」

チカはまた、頭を下げていた。

「いや……。」

照れたような二花の声が聞こえてきた。

「いいね、チカのそんな感じ。」

「惚れ直すのはいいけど、お早めにお願いしますよ、先生。」

チカは元の調子に戻っていた。

「惚れ……チカがマネージャーっていいなって改めて思ったよ。俺が有利でいられる。」

「そんな悠長な事、ぶっこいてないで、とっとと取り掛かってくださいよ、先生。」

チカにも余裕がないのだ。

「判りましたー。」

二花はわざと、ゆったりとした口調で返事をしてきた。
チカは通話を終了する。
スマートフォンを見て、そしてふっと笑った。

「なんだかんだ言っても、二花くんに仕えるのが好きなのよ、チカは。」

花柄のワンピースの瑠璃は、珈琲飲みながら微笑む。

「そうだよ、俺は執事だ。ボクのお世話もしなきゃな。機嫌取りもしないと。」

結局、マネージャーという職業が大好きなのだ。
チカはすぐにスマートフォンを操作した。

「Hello! Mike? Yes! I gained his approval. He makes it right now, please wait for a few days. Yes! Thank you so much, indeed.」

監督のマイクに、そう伝えたのだ。

「I ask it to be completed immediately! 」

スピーカーにはしていないが、スマートフォンからマイクの大きな声が聞こえてきた。

「Yes, I hurry him up.」

穏やかに答え、通話を終えた。

「バカだな。そこに神経を費やしている芸術家を急かしたら、余計に遅くなんだよ。」

ひとりでスマートフォンに怒っていた。

「チカのその、腹黒さ好きよ。」

相手に面と向かって文句を言えない訳ではないが、立場を弁えて、聞こえないように反論する処が、だ。

母の実花にも、そうだった。
マネージメントをしていない今は平氣でツッコむが、椎也に知られると叱られるので程々にしている。

「俺は瑠璃のその美しさが大好きだよ。」

チカはニヤッと笑って、瑠璃にくちづける。

「あ、ん、瑠璃もチカの格好よさが好き。」

瑠璃もくちづけを返した。

「俺はもっと好きだよ。」

そこでキスの連続になった。
ノックがして、返事をしないうちにドアを開けられる。
それをする相手は、ひとりしかいない。

「ルリ、着てみて。」

キスをし続けている瑠璃とチカに構わずに、チャスは声をかけた。

他のモデルたちの衣装は既に、プロたちの手により縫製されている。
それまでにデザインを終わらせているので、今はトップモデルの瑠璃の衣装に、少しの妥協も許さず、追求を続けている。

「ええ、判ったわ。」

瑠璃は唇と腕をチカから離し、チャスを見た。
チカと手を繋ぎ、衣装部屋に移動する。

「二花が曲を縮めてくれるそうだ。」

「それは、アリガタイ。」

またも、康平の口癖だろうか。
そう口にしながらも、チャスは衣装を手にしていた。
チカにファスナーを降ろされ、瑠璃はブラジャーを外される。
そしてチカがチャスの手から衣装を取り、瑠璃に着させた。
チャスはずっと、見ないように後ろを向いている。

「チャス、どう?」

チカにファスナーを上げてもらい、瑠璃はチャスに声をかけた。

「Nmmmh…」

苦虫を潰したようなチャスの顔だ。
白のタイトなドレス。
これまでに何回もウエストの空いた部分と裾の開きを直している。

瑠璃の周りを何回もぐるぐると廻って観察している。
裾が氣になるのだろう。
摑んで、持ち上げていた。
瑠璃はドキッとする。
しかし、今のチャスにはそのつもりもない。

より美しく見えるシルエットを探っているのだから。

「見えたら美しくない。」

流暢な日本語を使っていた。
何が見えたら美しくない、のか。
瑠璃はハラハラしていた。
チカはじっと、見守っている。

「It must not be too short. 」

そう、結論づいたようだ。

「I lengthen length a little and add the gap between back a little more. 」

「Please decide that as you would like.」

渋い表情のチャスに、瑠璃も、そう答えた。

「Yes! 」

チャスがそこで型紙を取り出し、また布地を置いていた。
これはもう没頭していると、チャスに声をかけず、チカは瑠璃の肩を抱いて部屋を出た。
また、ミーティングルームに戻る。

「あなたの髪も切らなきゃ。」

瑠璃はチカの頭に手を伸ばした。

「いいよ。俺ひとりで行ってくる。」

「そうすると、絶対にあたし好みのカットにしないわ。」

まだ、もう少しは刈り上げたいのだ。

「あたしも毛先を切ってもらいたいのよねえ。」

「では、今空いているか聞いてみますか?」

自分の事なら後廻しにするのに、瑠璃の事なら即決なチカだ。
スマートフォンで美容室に電話をかけていた。

どのみちチャスが作業に取り掛かると、完成するのに何時間かはかかる。
通常、デザイナーはここまでトップモデルにかかりきりで作業しないが、チャスは精神を研ぎ覚ませて、来季のコレクション作品を仕立てる。
ここにデザイナー生命を賭けている、ようだ。

それと並行して、ショーのバランスも取らないといけない。
ステージの構成も出来たが、今は曲無しでリハーサルを進めなくてはいけない。
出来るだけ早く、二花の直しが必要なのだ。

それに瑠璃は、より自分を綺麗にする、という仕事もある。
ロンドンに来てから三日に一回は、エステを受ける事にした。
それまでチカの手で肌を美麗にしてきたが、こうしてプロの手を借りるのは、精神的にもゆとりの出る事だと、瑠璃は知った。
お姫さま氣分になる事も大切な事項だ。

瑠璃がエステを受けている間は、チカも仕事や連絡業務に打ち込める。
一石二鳥だった。

チカは美容室で髪は長めに、襟足もサイドもさっぱりと刈ってもらい、瑠璃も毛先をカットしてもらった。

「意外にもっと短くしたら、いいんじゃないかしら?」

帰りにレストランに寄り、アフターヌーンティーの簡素版のクリームティーを食している。
瑠璃は、腰まで伸びた自分の髪を束にして摑んでいた。

「ダメです。」

カップを優雅に持ち上げているチカに、きっぱりと否定された。

「あなたの等身だからこそ、そこまで長い黒髪が似合うんだ。」

「でも、乾かすのが面倒……。」

「僕が毎回、誠心誠意込めて乾かしますから。」

結局、毎回、チカによって却下されるのだ。
髪を切る事を。

「こんなに濡羽色の黒髪を生かさない手は無い。金髪が憧れて止まない、この美しい漆黒の髪を、ヨーロッパの人々に見せつけて下さい。」

チカは手を伸ばし、さらっと、瑠璃の髪を摑んだ。
自分の唇に置き、キスをしている。

「あたしは金髪が憧れだわ。」

「僕は正直、金髪には見飽きている。」

「誰の?」

「主にNanaですよ。」

自分も母のクロエも黒髪とはいえ、ロンドンで生まれ育ったチカの周囲に金髪が多いのだ。
だから黒髪を好むのだろう。

が、瑠璃には判っている。
チカが女性の黒髪が好きなのは、母のクロエが黒髪だからだ。
そして、クロエは髪が長かった。

クロエに似ている瑠璃も、豊かな長い黒髪が、いいのだ、きっと。

「バカだな、この人は。」

チカは瑠璃の髪にくちづけしつつ、くっと笑った。

「僕は、あなたを単体で見ているのに。」

考えを読まれたかと、瑠璃は赤くなる。

「母親の影を、そこまで愛する女性に追い求めないよ。大体、氣持ちが悪い。」

「そうね。」

瑠璃は素直に謝った。

「あなたの身体を隅々まで愛し、体液まで愛しているのに、そこに母親の影を引き摺っていたら、それはもう、性質が違う。マジ、キモい。」

「でも、世の中にはそういう人もいるわ。」

「そういう人?」

チカは髪から手を離し、瑠璃の柔らかい指を摑んだ。
指先にキスをする。

「つまり、あなたは僕をそんな風に見ていると?」

「違うわ。」

チカが幾ら超マザコンとはいえ、そうではない事は、既に実感している。
あれだけ泣かれたのだし。

「確かに、もし瑠璃が僕の母親だったら、その氣にもなったかもしれない。」

人前なのに、瑠璃の指を口に含んでいる。

「喩え、僕の妹でも。瑠璃なら。」

瑠璃、だからこそ。
何処の誰であろうと恋をした、という熱烈な告白だ。

「さあ、瑠璃。どうする?こんなにも、あなたに、狂信的な僕だ。それでも僕と、結婚をするかい?」

その、緑の眼に取り込まれる。
吸い込まれてしまう。

「はい……勿論、登規さん。」

瑠璃はうっとりと、婚約者を見つめている。

「あたしと結婚してください、登規さん。」

何回プロポーズされたろう。
その度に、胸がぎゅうんと熱く高鳴る。

「良かった、瑠璃。ありがとう。また、受け入れてくれて。」

手を握り合い、見つめ合っている。
いい加減、周囲も困惑するだろう、このバカップルに。

クロテッドクリームたっぷりのスコーンを堪能し、社屋に戻った。
またチャスの試作を着てみたが、裾は満足しても、背中の空き具合がチャスは氣に入らない。

「お尻の割れ目まで、見えてもいいわよ。」

瑠璃は自分の後ろ姿を鏡で映して確認している。

「見える……No! We must not look.」

それもチャスの、この衣装に対する拘りだろう。
衣装によっては、モデルのバストもはっきりと見せるのだから。

「見える、見えない、それくらい。」

チャスは瑠璃を観察しながら、ブツブツと独り言を口にしている。

「...emphasizing the cleavage...」

チャスは瑠璃のサイドラインに触れてきた。
そして、すっと、胸の谷間に指を入れた。
真剣な顔のチャスだ。
谷間を指何本で強調するか、測っているのだろう。

チカは冷静に、その様子を見届けている。

「I see! 」

チャスは納得したように、急いでドレスを脱がそうとする。
はっと氣づいたようだ。

「Sorry! 」

ファスナーを途中まで降ろして、手を離した。

「いいのよ、チャス。」

瑠璃は微笑みながら、見えてしまっている乳 房を隠そうとせずに、ドレスを押さえていた。

「モウシワケナイ!」

チャスは、くるっと背を向けた。
チカが後ろから瑠璃のファスナーを降ろして脱がす。
そして、ブラジャーを着けてきた。

「うふふ。氣にしないで。」

制作に夢中になると、その他の日常の細かい事が見えなくなる性質なのだ、チャスは。

ワンピースを着させられる時、チュっと、チカに背中にキスをされた。
チカも理解しているが、それなりに嫉妬する、のだ。 

モデルがデザイナーに裸を見せるなど、日常茶飯事だ。
だからこそ、チャスの行為は紳士的なのだ。
最初はその勇氣があるのかと、瑠璃を試してきたが、それは当然なのだ。

「ルリ、オレ、頑張る。」

「ええ。楽しみにしてるわ。」

チャスにドレスを手渡し、瑠璃は再度微笑んだ。

「チャス、家に帰ってるの?」  

「帰る。遅くなっても、帰る。」

強張っていたチャスの表情も緩んだ。

「コウヘーの hug is necessary! 」

「そうね。」

康平を大切にしているからこそ、どんな時間になろうと帰宅し、康平の手作り料理を食べるのだ。
康平も夏休みとして一週間だけ日本に帰ったらしい。
どう、妻と休暇を過ごしたのかは、判らない。

康平の氣持ちは判らない。
しかし、とてつもない葛藤があるだろう。
一度は妻との離婚を決意した、のだから。

「チカ、何が食べたいの?」

「疲れたでしょう?食べていきますか?」

チカは瑠璃の肩にショールを掛けた。
社屋内で社員たちに挨拶しながら、外に出る。
背筋をピンと伸ばしたにこやかな美女に、社員たちは男女共に見惚れている。
我が社の専属モデルは、非の打ち所の無い美女だと自慢なのだ。

「いいえ。スーパーかDelicatessenで買って帰りましょ。」

今は家で寛ぎたいのだ。
人に見られている時間が長いから。
そして、ロンドンの八月はまだ、日本よりも随分日没が遅いから、日本の感覚でいると時間の感覚が狂ってしまうのだ。

「はい、瑠璃さま。」

繋いでいる手の甲に、チカはちゅっとくちづける。
いちいち、そんな気障な行為がチカには似合うのだ。

「これも食べてみたいわね。」

瑠璃は少量しか口にしないが、残りはチカが食べてくれる。
デリカテッセンで惣菜を選んでいたら、店員の三十代くらいのブルネットの男性と眼が合った。

「I give a service. 」

「Brilliant! 」

増量してくれるというので、笑顔で応えた。
どうせ腹を空かせたチカが食べ切ってくれるのだ。

ハーブとオリーブの色鮮やかなサラダやローズマリーのローストチキン、マッシュポテト、キッシュ、チーズ、ブレッド、スープなどを頼んだ。

「You are absolutely fantastic! 」

瑠璃を見つめ、眼を輝かせてくる。
そういう男の顔を見ると、瑠璃は純粋に嬉しい。

「Thank You. 」

にっこりと微笑めば、相手は天にも昇る氣分なのだ。
会計するのはチカなのだが。
チカという相手がいる事も判った上での、上質なこちらへの誘いなのだ。

「瑠璃の笑顔が、いいんだろうな。」

「そう?」

帰り道、左手でどっさりと荷物を抱えたチカは、瑠璃の左手を握って歩いている。

「損得氣にしないで、瑠璃は誰にも笑うだろ?こっちだと、そう笑顔見せなくても挨拶さえあればコミュニケーションは成り立つ。はにかみ屋が多いからな、ロンドンは。」

「笑いすぎ?」

曖昧に笑っているつもりはないが。

「それが、いいんだよ。男女問わずに、魅力するんだ。」

「そう、よかった。」

人々を惹きつけたいのだから。
そして、このブランドの愛用者を、もっと増やしたいのだ。
実際、瑠璃が専属モデルになってから国内での購買量も、かなり増えたそうだ。
日本では更に右肩上がりだ。

特質なのはヨーロッパ各国での売り上げが伸びている点だ。
これはブランド側にしたら、いちばん良い結果なのだ。
他国のブランドよりも、このロンドンのブランドが勝つ、というのは。

「Cheers! 」

チカのビールグラスとミネラルウォーターの入ったグラスを合わせた。
外食もいいが、こうして家でのんびりと食べながら、チカにビールを飲ますのがいい。
そして、なるべく早くに寝る。

「僕は幸福者だ。」

チカはナイフとフォークを使いながら、よく口にする言葉を発する。

「なあに?今日は作ってないわよ、あたし。」

「こんな美女を眺めながら食事が出来るのだから。」

瑠璃の顔を見ながら、チキンを口にした。

「嬉しいわね、そんな褒め言葉。」

「褒め言葉じゃない。当然だよ、瑠璃たんには。」

チカは急に立ち上がってカメラを用意した。

「お化粧直してないのに。」

瑠璃は首を横に振った。

「いや、あなたはそのままで充分過ぎるほどに美しい。」

そう言うと、シャッターを押していく。

「ほら、食べて。」

チカに急かされ、サラダを口にする。

「あなたの口は、とてつもなく美しい。」

その上擦った口調が、瑠璃をさらに輝かせる。

「女神の饗宴。このアフロディーテの口に入る黄金の林檎のように、食物たちは歓びの生命の詩を届けてくる。あなたのその魅惑の口の中に、早く入りたがっている。」

林檎は食べてないけれど、と瑠璃は思いながらもサラダを食べていた。

「チキンを食べて。」

チカのリクエストで、瑠璃はチキンをナイフで切り、口に入れる。

「Brilliant! その舌に動かされる鳥の羽ばたきを、あなたの御口の動きに見つけたようだ!なんと美しく食すのだろう。」

瑠璃は興奮しているチカに構わず、スープをスプーンですくった。

「あ、ああ!その鮮血のような唇の微細な隙間に流し込まれる、生命の息吹の葛藤!あなたの体内で、活液となる。あなたの熱量としての源になるのだ!」

もう、訳が判らない。
ただ、そんなチカに奉られ撮られているのが嬉しい。

「美しい……」

そして、キスをされた。

「僕も、あなたに食べられたい。」

「いやよ。」

瑠璃は、チカのその唇を指先で撫でた。

「あたしを食べるのよ、darlingが。」

そして、指を唇に挟む。

「そう……だね、瑠璃。」

瑠璃に舌先で味わせたあと、チカはその自分の指を幸福そうに口に入れた。

「美味しい。今夜も、美味なる瑠璃を食そう。」

「食べて。」

チカのその舌遣いを見ていたら、もう疼 いてくる。
チカはカメラを仕舞い、また食卓に着く。

「その前に、俺はしっかりと腹ごしらえだ。」

「お腹いっぱいにしてね。」

チカはまた優雅に食べ出した。
ビールもしっかり飲んでいく。
この、口の動きが堪らなくセクシーだ。
口に運ぶナイフの使い方すら、男の色香を感じる。

「ほら、僕に見惚れてないで、瑠璃も食べなさい。」

「え、ええ。」

瑠璃を薄い緑の眼が捕らえ、舌先がちらちらと動いている。

「瑠璃は、そんなに僕が大好きなんだね。」

チカの自信満々な言い方だ。

「大好きぃ!」

瑠璃はチカに手を伸ばし、唇を奪った。
チカは、それをさらに情熱的に返す。

「僕の方が大好きだよ。」

そして、瑠璃を離した。

「あとで、どれだけ好きか、証明してあげるからね。」

身体で証明してね。
瑠璃がときめきながら食事を終え、チカが片づけている間、ワンピースを脱いでストレッチをする。
適当にヨガのポーズになる。

「実に美しい。」

チカは惚れ惚れと、その長い手脚を眺めていた。
チカが見ているから尚更だ。
瑠璃は床に寝転び、両脚を上げた。
腰からぴんと脚を伸ばしている。

「瑠璃、そのまま降ろして。」

チカの望む体勢など判る。
瑠璃は脚を頭の上に降ろした。

「瑠璃は身体が柔らかいから、いいね。」

チカの表情は判らないが、きっと悦んで瑠璃の身体を見ている。
これはチカの好きな体位。

身体が記憶している。
この格好でいれば、あの氣持ちよさが身体に広がっていく。
泉が湧き出る場所から。

「丸見えだよ、瑠璃。」

脚を開けば、下着をチカからよく観察出来るだろう。
もう、その赤い下着は、中心が赤黒くなっているのかもしれない。

「瑠璃はもう、欲しいんだね。」

チカの低い声が脳に絡みつく。
もう、欲しい。
そのまま、ください。

瑠璃は下着の右の紐を解いた。

「と……ちかさぁん。」

今すぐ、ここに。
瑠璃は、はらっと下着を左の股関節に降ろす。

「いや らしい。」

その声が嬉しい。
チカに全て見られている。
いや、見せたのだ。

あたしはもう、こんなになっているの。
だから、早く頂戴、と。

「瑠璃、その溢 れてきてる場所に指をいれてご覧。」

「ふうっ、」

チカの、その焦らしに脳が震える。
いじめないで……。

瑠璃は、その命令に従う。

「ほら、指を動かして。」

命令されれば、この身体はその通りに動く。

「ああ、いい音だよ、瑠璃。」

嬉しそうな声が近づいてきた。
至近距離で見られていると判る。

「あふっ、」

「あっ!」

今、飛び出したのが自分でも判った。

「あ……ああっ!僕の為に、瑠璃っ!」

震えた声のあと、すぐにチカの指が入ってきた。

「ああっ!あっ!」

「かけて、瑠璃!もっと、かけて、僕にっ!」

それでチカの顔にかかったのだと判った。
恥ずかしい。
しかし、嬉しい。
チカにそう、求められている。

だから、お願い。
あたしの身体。
チカが望むように、して。

ああ、その二本の指が、指の動きが、微妙に異なる動きが、頭の中を真っ白にさせる。
その快感に身を緩ませる。

「ああっ!瑠璃!」

チカの望むように、また顔にかかったのだと判った。
脚を戻され、床に降ろされる。

呼吸を荒くしてチカを見ると、髪も顔も濡 れていた。

「瑠璃、素晴らしいよ。」

頭を撫でられ、激しく舌が絡む。

「んっ、」

「ありがとう!なんて、美味しい!僕は幸福者だ。」

眼を見開いて、深い緑の瞳孔を小さくして、瑠璃だけを直視して小さく震えている。

こんなに崇拝されているのだ。
その衝撃もまた、瑠璃の胸を打ち震えさせる。

「チカ……そんなに嬉しいの?」

瑠璃はチカの首に手を廻す。

「嬉しいなんてものじゃない。これは、妙なるご褒美だ、僕にとって。」

その、全く瑠璃以外を視界に入れないチカの真っ直ぐな視線が、痛いほどだ。
まるで光線のよう。

「あたしも。なんだかとても達成感あるの。これって、男の人の射 精と一緒かしら?でも、疲れるわ。」

オーガズムとも異なる、一氣に一点に集中する感覚だ。
これを男が毎回しているのだとしたら、相当に疲れるだろう。

だからチカは、射 精の前も、自分が動くのではなく、瑠璃の昇りつめる感覚に身を任すのだ。
それが満足感と幸福感を増やすのだろう。

「射 精ね。疲れちゃった?瑠璃。」

「少し。でも、」

「でも?」

表情が面白そうに変化していた。

「もうちょっと、出してみたい。」

なんだか、体内にまだ残っている感覚。
それを出し切りたいのだ。

「よし。」

チカは顔をそちらに向け、再度、指を入れて関節を曲げ、動かしてきた。

「あ……あ は ぁ、あっ、」

この動作が大好きだ。

「あう……もっと ぉ、」

瑠璃がもっととねだれば、チカは二本の指の時間差をつけてくるのだ。
器用な指。
瑠璃は、この指が好物なのだ。

こんなに瑠璃の好みを熟知出来る男は、他にはいないだろう。
決して離さないわ、あなたを。

チカの脚を摑む。
握りしめて、昇る勢いを感じている。

「あ、……くっ、うっ、」

達しながら、力まず、自然に任せた。

「あ……ああっ!あっー。」

チカはまた、悦びの声を揚げている。
ならば、こんなに悦ばしい事はない。

瑠璃は、はあはあと息を切らしながら、チカの濡れた頭に手を伸ばした。

「嬉しい?チカ。」

「嬉しい……こんなにかけられたよ。」

チカの髪と顔から滴っている。
それを自分が出したなどと、到底信じられない。

「だけど、俺……恥ずかしい、」

「え?」

チカは瑠璃の手を自分のボトムスの中心に置いた。

「出ちゃったの?」

チカはかすかに頷きながら、逆さまの赤い顔を瑠璃に向けてくる。

「そう。」

そこまで興奮したのだ。
瑠璃にかけられて、我慢が出来なかったのだ。

「可愛いわ、チカ。」

頭を引き寄せ、キスをした。
ここまで瑠璃に陶酔しているチカが愛おしくて仕方ない。

そのまま、ふたりでバスルームに行った。
互いに身体をすりつけながら洗い合う。

今はコレクションに向けて氣持ちの高まる時だ。
余所見をしないで、まっしぐらだ。
リックには帰国した旨は伝えているが、まだ逢ってはいない。
リックの件はとりあえず、コレクションが終わってから、だ。

チカはロンドンに来てから、優しい愛 撫に終始している。
これがチカの得意だし、瑠璃も今はこれがいい。
柔らかいタッチで指先が肌に触れてくる。

「ん……」

喜び、歓喜。
今はただ、この人の腕の中にいて、この逞しい熱い肌を感じ、温もりに包まれるのが、どうにもとろけるように心地好い。

指、唇、舌。
身体中を這うそれに、身の全てを委ねる。

「頂戴、チカ。」

手を伸ばして、しがみつく。
この愛する男に。
そうするとチカは微笑み、抱きしめ、すぐに瑠璃に入ってきてくれる。

「ん……ん、あっ、ああっ!」

「そんなに嬉しい?瑠璃。」

笑みつつ喘 いでいる瑠璃を見下げ、チカは瑠璃の頭を撫でる。

「うれっ、しいっ!」

ぎゅうっとしがみつく。

「ああ、判るよ、瑠璃。瑠璃がこんなに悦んでいるって、ちゃんと判るよ。」

「んふっ、んっ!」

瑠璃は中でもしっかりチカをつかまえて、離さない。
その動きで、チカの顔も嬉しそうに綻んでいる。

「瑠璃……僕の天使。ああ、なんて氣持ちがいいんだ。」

チカがこんなに感じてくれているのも、ただ嬉しい。
だからもう、氣持ちよくなろうとは考えない。
既に最初から氣持ちがいいのだ。
身体がしたいように任せる。

交わりながら抱えられベッドに連れて行かれる。
胸に貪りつくチカに、瑠璃はその頭を押さえる。
指をうねった髪の中に入れ、愛しく押さえる。
もう、秩序などない。
身体の動くまま、思うまま。
チカが変えていく身体の向きそれぞれが氣持ちがいい。

「ああっ!あっ、あっ、あーっ!」

ベッドにうつ伏せでチカが奥まで入り、止まっている時に瑠璃は大きく震えた。

「ああっ!ああっ!」

チカもその渦のような流れに飲み込まれる。
中でのチカの動きも、瑠璃には判る。
直接ではないが、瑠璃の中で達している。

こうして一緒に達せられるのが嬉しい。
心地好くまどろんでいる瑠璃に、チカは後ろから身体中にキスをしてくる。

「最高だよ、瑠璃は。氣持ちがいい。ありがとう。」

「その、誰かと比べた感じも、いいわ。」

チカにとって最強ならば、比べられてもいい。

「最上級だしね、瑠璃は。俺が出そうとすると全力疾走並みに疲れるんだけど、瑠璃に出されるのってスゲえ、あはんな感じでいいんだよ。満足だし。」

「ん……。」

最高の褒め言葉だ。
男の射 精を促せられる女のオーガズム。
同時に果てられる快感。

「眠い?瑠璃。」

「ん……。」

終わったあとに、このまま眠りに移行出来る幸福。

「俺が髪を乾かすし、肌のお手入れしておくからね。」

「ん、。」

チカに全てを任せられるから、瑠璃は安心している。

「愛してるよ、my one. 」

「Yes…」

この人で、良かった。
この人に巡り逢えて良かった。
至福の中、眠りについた。



………………………………………………………………



「判った!ありがとう、二花!」

チカの話し声に瑠璃は目覚める。
裸のまま、ベッドで寝ていた。
時計を見ると、朝の五時だ。

「すぐに確認して、聴いて貰うよ。」

「ああ、俺も時間きっちりに作った筈だけど、確認して。」

二花の疲れたような声が聴こえる。
きっと昨日のチカの知らせを受けて、そのまま熱中して編曲したのだろう。
二花もまた、音楽に集中すると周りが見えなくなる。
食も睡眠も限界まで投げやる。

ピアノに向かい、ただ指を動かし楽譜に変更を書き換える。
芸術家は仕事に集中すると普通の生活は出来ない。

今は神楽が家にいないのかもしれないが、一緒に暮らすようになると神楽も二花の扱いに苦労するだろう。
二花はある意味、偏屈だ。

機嫌を損ねて重い空氣になると、神楽の行き場がなくなる。
しかし、二花がそれで家を出て、遊びに興じると帰らなくなるだろう。

春からのふたりの生活もまた、甘い事ばかりではなさそうだ。

「ああ、ありがとう!二花!こんなに急いでくれて。」

「うん、急いでるのは判るからね。疲れたから、風呂入って寝るよ。お腹も空いたけどさあ、今は寝たい。」

「……ぐっすり寝てくれ。ロンドンに来たら、急いで収録だけどな。」

昨日から食べていないのかもしれない。
日本にいればきっと、チカはこんな時に慌てて二花に差し入れをするだろう。

「ん、判ってる。」

瑠璃は裸で立ちつつ、ノートPCに指を動かしているチカの後ろ姿を見ている。

「じゃ。」

二花はチカの返事を待たずに通話を終えた。
チカはそのままガチャガチャと指でタイプしている。

「ああ、瑠璃。まだ寝てていいよ。」

視線に氣づいたのか、チカは振り返り、瑠璃に微笑む。

「二花が作ってくれたデモを、今からクラウドで確認するんだ。」

「そうね。」

全曲のタイムを確認してすぐに、ショーの監督や関係者に配るのだろう。
ならば瑠璃は、まだ寝ていた方がいい。
チカも集中して作業する。

チカの後ろ姿を見ながら、知らぬうちにまた微睡んでいた。
腰の辺りを唇で愛 撫されているのに氣づく。

「チカ……」

「瑠璃たんはスゴいね。寝ながらも感じてる。」

チカの仕事が終わったのだろう。
一仕事終えると達成感からか、男は欲しがるのだ、愛する者の身体を。

「舐 めて……」

「喜んで。」

「あっ!」

瑠璃が望んだ場所ではない処に、舌が入ってきた。

「いや あ あ ぁ、」

「嘘だろ?いい、だろ?」

その舌の動きにとろけるのだ。

「ほら、氣持ちいいって物語ってるよ。」

溢 れてくるそこには、指が入ってくる。

「はあ……あ んっ、」

「そうだよ、瑠璃。そうやって、身体を緩ませてて。」

そうして、おはようの儀式をさせられるのだ。

「うん。今日も健康。美味しいよ。」

チカは満足そうに、自分の口の周りを長い舌で舐 め廻している。

「あたし、大丈夫かしら?」

「うん?」

「こんなのに慣れちゃって。」

瑠璃の戸惑いに、チカはおかしそうに笑う。

「俺だって慣れたよ、瑠璃の望む変態行為。」

「だけど。」

自分が望む行為は、変態と言われようと悦びがあるから、そうも抵抗はない。
しかし、チカに望まれた行為に最初は抵抗したのに、今では当たり前かのように日常になっている。

慣らされるという生活。
慣れは時に怠惰を産む。

「バカだな、瑠璃は。」

そうやってチカに貶されても、もはや愛情しか感じない。

「瑠璃は努力家だって、俺は知ってるよ。」

腕を引っ張られ、起こしている上半身をベッドに寝ているチカの上に乗せられる。

「親の七光りとかさ、瑠璃はバックボーンが恵まれてるって言う奴は放っとけ。」

チカの上で抱きしめられ、頭を愛しく撫でられる。

「これだけ美女でいられる努力ってさ、相当なのに、やってない奴には判んないんだよ。それで僻むだけ。」

チュッチュっと、顔中にキスをしてくる。

「瑠璃なんて、命賭けて身体中で毎回、悦んでるもんな、make love。それが普通の人間には出来ないの。体裁とか後ろめたいとか理屈につけて、身体も緩まずに悦べない。」

「それ、関係あるの?」

瑠璃は恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「大アリだよ。その生き様は人生全てに当てはまる。だから瑠璃は、人を惹きつけるんだ。な?」

優しく微笑むチカは、瑠璃の褐色の眼を捉えている。

「今のお前を見て、ロンドンの男たちは興奮してる。瑠璃を欲しがる。ん?そうだろ?それを目撃するのが嬉しいんだろ?」

「嬉し、いわ。」

そうして的確に煽ってくれるから、チカでないとダメだ。

「氣になる男がいれば、報告しろよ。」

「判ってるわ。」

きっと、ロンドンコレクション成功のご褒美的に与えるだろう、瑠璃に。

「チカもよ。」

「ん?」

瑠璃はチカのうねった髪に指を差し入れた。

「チカもしたい男の人がいたら、瑠璃に教えて。」 

「ソウダネ。」

チカは眼を閉じた。

「起きる前に一回させて。」

瑠璃の胸の谷間に顔を埋める。

「しあわせ……」

窒息しそうな様相の中で、チカは満足げに笑んでいた。
それを見て、瑠璃も胸がじんわりと熱くなった。

愛されている。
愛している。

また、愛情が変化していっている。
相手の幸福がまた、そのまま自分の幸福になっているのだ。

「大好き、チカ。」

瑠璃はチカの汗に濡れた頭を愛おしく抱え、髪にくちづけをした。



トーチカ〜瑠璃シーン⑥中編24に続く


………………………………………………………………………



互いが大好きなバカップルを書いているのは、嫌味も通り過ぎ笑いも含め楽しいものです。


たとえば昔小さい頃「ファッション通信」を何氣に見ていたのですが、コレクションの映像が流れてたりで、ファッションの世界は詳しくないのに、そういうのも瑠璃の話を書くのに礎になっているなあ、と。 

洒落た映像って物凄く記憶に残っている。

人生無駄がないわ。

プレタポルテやらオートクチュールやらの言葉が馴染むのは、そういう英才教育(?)なのです。

ああいう帯番組、もうやってないのかなあ?
見たいなあ。




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こんにちは。
みずのこえ まき です。


昨日、映画『君の名は。』を観てきました。

前から観ようと思いつつも焦らなくていいかと。

しかし、この日に観るかと決めていた昨日は、とても氣分的に家にいたくて

なのに、どうしても今日観なくてはいけないような氣がして

迷いつつも決めました。


結果、観てよかったと思います。






冒頭から泣いていました。
なんというか嗚咽を抑えられない氣持ち。


全体的な流れだけでなく
伏線や小道具が
これは今のこの時代だからこそ
ようやく世間一般的に出せたんだ、と感じます。

そうしてここまで大衆に受け入れられヒットしたのも。



台詞にはないけれど
アカシックレコードという言葉が出てきたり。


組紐


巫女






結び
ムスヒとわたしの頭の中で変換された言葉


御神体


それは、まるで、


(ネタバレなので、以下略。)




いま、この世に生きている人は間違いなく


忘れてしまった何か
誰か

それらを探し求めています。


出逢える日を心待ちに打ち震え


生きている、此の世で。





夢の話を少し前に書きました。


昔から見続ける同じ光景
同じ道の夢

わたしの現実では知らぬ光景


これはまさしく
他の誰かの見ている視点を
わたしは夢で見ているのだと
以前から確信していました。


そこに行きたい
その眼に逢いたい


人は探し求め続けます。

その瞬間を。



『君の名は。』

そう、ふたりの声が揃う瞬間が
ゾクッとしました。


忘れてしまっていても、大丈夫。


ちゃんと、わかるから。



大切なものやひとに

逢いに行こう


この人生という旅で。





お読みくださり、ありがとうございます(*^^*)

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ファンタジー小説です。
剣と騎士と女王のお話(ざっくり。)

双頭の龍國 一、月照
ホウの國の女王シャサは、齢十七。
十二の年に父王の突然の死により女王となる。
十二のときから身体的成長が無い。
ホウには緋、蒼、黃、の剣の三騎士がいて、彼らの父もまた、先の國王と共に事故により亡くなり、息子たちが騎士を継いだのだ。
これまで女王の治世で和やかに過ごしてきたが、友好國の戦の影などからシャサの婿問題が表面化していく。


双頭の龍國 二、血交
幼いシャサとフレイリーの純恋の行き先を断ったのは前王だった。
シャサは自らの恋が結ばれぬとも、フレイリーの優れた洞察力故に父王に疎まれてはならぬと決意する。
マニーの後進のお付きの侍女ハヤとの生活も始まり、黃の騎士キーンとマニーの婚礼の日の朝が来る。
フレイリーの選んだ朱の衣を身に着けたシャサは、強烈な騎士の誓いをフレイリーにされる。
ふたりだけの秘密の婚礼の儀、血交の儀式をした。


双頭の龍國 三、蜜夜
黃の騎士キーンとマニーの婚儀も済み、楽しい宴となった。
宴の後、シャサはフレイリーに、その衣装に隠された双頭の龍の印を聞いた。
双頭の龍はまるで二人の姿のようであった。
二人だけで踊る。
それが秘密の婚礼の蜜夜だった。


愛が深い故に残酷。
その全体的なテーマは、あらゆる方向から、どんどんとそれを見せつけてきます。



双頭の龍國



何れ我らは全て塵となる。
養とも為らずに朽ちるかもしれぬ。
さあ、この刹那を生きようぞ。







四、癒合


日中も肌寒さを感じる程に秋めいてきた。
シャサは遠くなった空を眩そうに見上げた。

「これは稽古とは言わないのではありませんか?」

緋(あけ)の剣を左手に持ち、袍を降ろし上半身を晒している、眼鏡を掛けていないフレイリーは、壁に持たれ地に座っている女王を呆れて見ている。

「いや、其方の無駄の無い動きを見ることは、大きな学びとなる。」

シャサはにこやかに笑みながらフレイリーを見上げていた。

「で、あるならば宜しいのですが。」

フレイリーは大きな剣を持つ左腕を真上に上げた。

「ああ、陛下。脚を拡げてお座りになるのはお止め下さい。はしたない。」

下袴を穿いているので、シャサは胡座をかいて座っていた。

「大丈夫じゃ。其方しかおらぬ。」

シャサは楽しそうに笑っていた。

「そういう油断が体裁の悪い事態を引き起こすのです。癖はふと表れます。婿殿に、そのような格好を目撃されたら幻滅されますよ。」

腕を上げたまま、説教が始まった。

「それくらいで幻滅する程の懐の狭い婿など、此方から願い下げじゃ。」

「其れは、そうなのですが。」

「しつこいぞ、フレイ。早うせよ。」

まだ続きそうなので、女王は話を断ち切った。

「恐れながら。」

不服そうにも、フレイリーは剣を上げたまま、自らに内側に集中した。
然し同時に外からまるで俯瞰するかのような意識にもなる。
視点が高く広くなり、全方向に神経を向ける。
何時如何なるときも、女王の守護の緊張は抜けぬ。

勢いよく大剣を振り廻し、前に構える。
そのまま次は右側に振り廻しつつ、頭上に切っ先を向けた。
この重厚な剣を振り廻すには、腕だけではなく相当に肩が強くないと不可能だ。
それを支える浅くも深くもある胸筋や背筋、腸腰筋、首の筋肉全てが、然と鍛え上げられていないと二度と剣を持てなくなる。
ましてや要の下半身が甘いと無理なのだ。

故に騎士は若輩にして先代から継いでいく。
十五から十七歳位が継承の最時期である。

フレイリーは片脚を上げて剣を左右上下に構える動作を続ける。

そして鞘を両手で持ち、眼光鋭く背後に勢い良く剣を向けた。
この殺氣と迫力だけで敵も怯むだろう。

フレイリーの剣舞を見ていると、筋肉には無駄な動きがないと知る。
全ての筋が流れるよう潤滑に作用する。
美しい動きだ。
汗が滲み出て落ちていっている。
シャサはフレイリーの肉体に見惚れる。

ふっと嗤いながら、フレイリーは女王の眼前に剣を構え、ぶんっと振り、切っ先を向けた。
その、殺氣。
シャサは座っているが、腰を抜かしたのを自分で知った。
両手のひらを地に着ける。

「相変わらず、お弱い。」

そうして鬼に扱かれるのだ。

「陛下は余りに無力ですね。このような場となったら、もう大人しく抗わず、刺客のされるがままにして下さい。」

剣を左手で持ちつつ、女王に近寄る。
大きな右手がシャサの左手首を摑み、またその手であっという間に右手首をも重ねて摑み上げた。

大きな身体が覆い被さる。
剣を地に置き、フレイリーの左手はシャサの口を押さえた。

「んんっ!」

「さあ、どうする?此れで抗えぬぞ。短剣も使えぬな。」

身動きも取れず、叫んで助けを呼ぶことすらできない。 
なんと無力だろう我は。
シャサは恐怖の中で然し、フレイリーに身を任せた。

「はぐっ!」

フレイリーの指がシャサの口中に押し入り、舌を摑む。

「此れで自害もできぬ。どうする?女王。」

「ぐっ、うっ!」

吐き氣が襲ってくるし、舌根が痛い。
これが現実だとしたら、辱めを受けるしかない。

「こうなったら致し方無い。そのまま身の内に受け入れよ。」

フレイリーの膝がシャサの両脚を押し、拡げさせた。

「凌辱にも耐えよ。意識をしっかり保て。」

その紺碧の両眼は厳しくシャサを見下ろしているが、シャサはもう怖くはなかった。
それは、フレイリーだからだ。

「男は僅か油断するときが必ずある。発射に向かう間は、どうしても緩む。そのときだ。狙うのは何処でも良い。鼻に頭突きでも頸動脈を噛み切るのでも短剣で根元を断ち切るも。一瞬の隙きを確実に狙え。」

かなり強引だが、実地で危機の際の動きを教え込んでいる。
フレイリーがシャサの舌から指を離した。
解放されたシャサは、咳き込みつつも息を大きく吸う。

「男の前で股を決して拡げるな。それは受け入れる、という了承だ。」

未だシャサの両手首を摑みながら、フレイリーは見下ろしている。

「わ……かった。もう、しない。」

「実に物判りのお悪い御方だ。」

バッとシャサの手を離し、後ろ手の右手で剣を摑みつつ立ち上がった。
剣を鞘に戻す。

「私が教えねば、殿方の前で如何にはしたない女王にお為りか。」

「……此のように、毎回稽古をせねばならぬものな。」

フレイリーは右膝を跪いた。
自らの左手指がフレイリーの口中に入る。
シャサはゾクゾクと背筋の小刻みな震えを感じた。

「私のみが、あなたさまに稽古を致します。」

眼を逸らしたシャサを、フレイリーは面白そうに見下ろしている。

「そのような扇情の御顔を為されるようになった陛下ですから。益々、危惧せねば。」

扇情。
はっきりと指摘された。
フレイリーを悦ばせる、そんな顔をしているのだ、我は。

シャサの口中に入り舌を摑んだ、唾液に塗れた(まみれた)その指を、フレイリーは自分の口に入れていた。
その行為と顔を見たら、背筋から何かが立ち昇っていき、下腹に力が入った。

「……脚を閉じなさい。そのような御顔とその誘う仕草では、私だとて何をするか判りませぬぞ。」

シャサは眼を逸らしながらも脚を急いで閉じた。
膝を抑えられたので下袴が膝まで上がっていたが、直す氣力も無かった。

「実に女人の顔を為されるようになった。その御身も。」

フレイリーは右手を前に出した。

「此れが、此れに為られた。」

初めはそのままで、次は手のひらで膨らみを作った。
胸の膨らみ度合いを示したのであろう。

「今は触れておらぬ癖に。」

「見れば判ります。」

「わたくしの乳房が突き出たら、其方は笑うのであろう?笑え。」

「いいえ。」

フレイリーは愛おしそうにシャサを見つめていた。

「御身、全てが柔らかい女人の円い成りに変わられた。」

背丈は変わらぬが、シャサは乳房が膨らんできて臀部も丸くなった。
顔付きも大人の女らしくなった。
僅か一月半の間に、此処まで変化した。
其れがどうしてなのかは、もはや自らが判る。

フレイリー、其方が欲しい。
以前よりも尚、その逞しい肉体にシャサの身体全体で焦がれている。

「お陰で私も此れに忙しいのです。」

フレイリーは左手を丸め腕をシュッと上下させた。

「手が、どうかしたのか?」

その動作にシャサは聞き返した。
フレイリーは眼を丸くして、苦笑した。

「流石、未通女(おぼこ)ですな。」

「何を馬鹿にしておるのじゃ?失礼な。」

シャサはムッとして不快を表した。

「いえ。婚礼に向けて特別な稽古が必要か?否、あなたさまはただ、横たわって任せておられれば宜しい。満足させられなかったり、御懐妊させられぬのならば、其れは婿殿の責ですので。」

その話の流れで、シャサはなんとなく理解した。
顔を益々赤らめる。

「であるならば、あなたさまは公然と男妾を作られますし。御子を御懐妊なさるまで、幾人とも受け入れたら宜しい。」

「其れでいいと?其方は。」

その物言いに、シャサはフレイリーに睨みつける。

「まさか。許しませぬよ。」

怒りを含むと、その紺碧の眼が深まる。
そして今や、その恐ろしい荒れた海のような眼すらもシャサは見ていたいと願うのだ。

「ホウの國も王子であれば性儀の教えは当然ありますし、他國に嫁がれる公主であれば殿方を悦ばす術も習うでしょう。相手國の王子を虜にせねば、他に妾を作られます。逆に謂わば、あなたの婿は相当に性儀を施されております故に御安心下さいませ。」

「何を御安心なさるのか。」

とすれば、我は楽な身の上なのだと、シャサは改めて知る。

「陛下がお望みであれば、私が身を持って隅々まで教えて差し上げますが。」

「お望みでは、ないわ。」

嗤っているフレイリーに、シャサは威勢を戻してくる。
そんな相手で、では嫌だし、フレイリーに触れられたらきっと、もう離れられなくなる。

「ですから、陛下は婚礼の夜まで何も知らぬ未通女(おぼこ)で宜しいのです。」

フレイリーは立ち上がり、シャサに背を向けた。
然し、もう何も知らぬ女人ではないと、シャサは自覚していた。
愛しい男に見つめられ、触れられ、それだけで身の内から震え上がるくらいに昇り詰めるのだから。

「私は抱えませぬよ。お一人で立ち上がって下さい。」

シャサは立ち上がり、尻に付いた土を払った。

「此れでは剣の稽古に為りませぬ。」

「なりました。わたくしは、大きく学びました。身を護る術を。フレイリー。」

女王の強い凛とした声で呼び掛けられ、フレイリーは振り向いた。

「この様に、また稽古を付けてください。」

「私の身が持ちませぬ。」

「持たせて下さい。」

その逞しい胸に、そっと触れた。

「わたくしは、其方の此処におります。」

ぬるっと汗で指が動く。
熱く、鼓動の早い胸だ。

「あなたが指導して下さい。はしたないわたくしを。」

そのまま、フレイリーを見上げている。

「あなたは……実に、」

フレイリーは左手で自分の顔を押さえていた。
微かに震えている。

「其れは無意識ですか?誘っているのですか?あなたに無体をしたくなる、こんな扇情な言葉を私へ吐き出すとは。」

「誘う―など、其のようなつもりは有りませぬ。」

そんな言葉がフレイリーを悦ばすのだとシャサは知った。

「その御顔で、その御身で、私を誘う。あなたは実に、」

フレイリーは、ふっと笑った。

「私好みの女人に育られた。」

「乳がですか?」

「そのような。」

フレイリーは胸にあるシャサの手を優しく摑み、握った。

「外見ではありませぬ。私に従順な女、ということです。」

その握られた手の熱さと共に、シャサはフレイリーの言葉で、一氣に全身に立ち昇る熱を感じふらついた。

「ほら。こういう素直さが宜しい。」

そんなシャサの手を引き、フレイリーは楽しそうに笑っている。

「そ……なたは、鬼か。」

「鬼ですよ。」

震えるシャサの声に、フレイリーはきっぱりと告げた。

「あなたのそんな御顔を見れて、鬼は嬉しいのです。」

フレイリーが女人を制圧して楽しむのは知っていた。
複数の遊女宿の好みの美女たちの元へ通い、そう楽しませていた。
女たちはフレイリーの通いを楽しみにしていたのだ。

キーンに実地で調べ上げさせたが、彼も遊女と遊びながらなので、嫌な役目をさせたかとシャサは思っていた。

「え?俺も楽しめたし。美味しい仕事だよ。」

そう笑っていた。
キーンという男が幼馴染ながら一番不可解だ。
マニーを大切にしながらも、やはり男は簡単に他の女と遊べるのだな、と、自らが指示したのにシャサは不快になった。

シャサは機嫌が悪くなり、ぷいっと横を向く。

「ですから。」

フレイリーはシャサの手をぐっと引いた。
自分に顔を向かせる。

「あなた以外の女人に、もう触れてはおりませぬ。」

真剣な眼差しだ。
それは本心からの訴えだと、シャサも判る。

「あなたもヤンに触れられてはなりませぬぞ。」

こうして幾度も確認してくる。
ヤンはシャサに逢う度に何氣に肩や頭に触れてくるからだ。

「わたくしが阻止しようとも勝手に触れてくるのじゃ。其れに、」

ヤンは無邪氣だ。
こうしてシャサとフレイリーが秘密に恋をしているとは考えもしない。

「ヤンも憐れじゃ。諦めがつかぬのだ、奴も。」

女王が他国の王子と親しげに文を交わすようになっても、容易にシャサへの想いを消せる訳でも無い。
その、恋を諦めなくてはいけない辛さは、シャサも身に沁みている。

「で、同情して身を許す、など、止めなさいよ。」

フレイリーの、その殺意に似た眼付きに震え、シャサは慌てて眼を逸らす。

「そんな訳無かろう。」

その様な同情くらいで、ならば、シャサは既にフレイリーに身を許している。
大体、男たちは本命に傷つくと直ぐに、簡単に身を任せてくれる他の女に甘えるのだ。

「わたくしは其方以外の男になど、抱かれたいなどと思いませぬ。」

そう思わず勢い良く口にして、はっとして黒眼を見開く。
フレイリーは間近で楽しそうに笑っていた。

「益々あなたは大胆に為られた。」

これはそう言わされた、のだと氣づいた。
シャサは赤い顔を逸した。

「常日頃、そう考えておられたのですね?」

「知りませぬ。」

恥ずかしがるシャサの顔を見ようと、フレイリーは手を引く。

「大体、其方、近い処は見えにくいと言いつつも、結構よく見えておるではないか。」

眼鏡無しで、シャサのその顔が見れて嬉しいと言っているのだ。

「見えませんよ。ぼんやりとしか見えませぬ。だから、近くで見せて下さい、シャシャ。」

「嫌じゃ!」

背けるシャサに、何回もフレイリーは楽しそうに覗いてくる。
その恋人の楽しい時間が僅かだと知りながらも、ふたりはそんな日々を過ごしていた。








ホウの國も他の國も領土として一つの惑星を持つ。
その惑星間の移動手段として箱船があるのだ。

もはや有史以前から箱船はどの國にも存在し、その原動力が何であるのか如何に空間に浮いて進めるのかは、今や誰も知らぬ。
何処にも文献が残されていない。

不可解で不可思議な世界だ。
シャサは夜空の星を見上げた。
光るムウの國の星は、点のように小さい。
隣りの國なのに、こんなに小さく見える。
然し、箱船に乗れば二日で届くのだ、あの國にも。
どうして?
通常の理念では不可能だ。

説明もできぬ不可思議な現象が、この世界の人間には常であり、人々は疑問にも思わず毎日の生活を享受している。
シャサはその真実を知りたかった、ずっと。

「ムウのルカ王子は趣味が宜しい。」

フレイリーは露台に居るシャサの首に、その首飾りを当ててきた。
茜色に輝く宝玉の幾つも付いた首飾りを。

「そうですね。まあ、其れも侍女か商人に選ばせとしても、最後に王子が吟味されたでしょう。」

「着けますか?」

「いや、いい。」

シャサは首を横に振った。

「其れにルカ王子は風流で博識じゃ。芸術の話をしたら、飽きぬであろうな。」

そして、文面は優しい。
知識をひけらかす、世間知らずの鼻持ちならぬおぼっちゃまとは類いは異なるようだ。

「では、陛下の目下の最有力候補は、ルカ王子であられると。」

「其れはどうであろうな。」

シャサは夜空の星を見上げていた。

「人は対面せぬと、其の本質は見えぬ。」

「では、手筈を整えますか。ルカ王子と、シュイのハヌル王子と、お顔合わせを。」

「そうだな。其方に任せる。」

「御意。」

フレイリーは頭を垂れた。
ハヤが室内で茶の用意をしているから、シャサの縁談の話もフレイリーが着々と進めてくるのではない。
二人きりでもフレイリーはこうして自ら、シャサの婿の話をしてくるのだ。

それは臣下の者として摂取として守護騎士としての役割なのだ。
逃れようもない運命ならば、フレイリーはシャサの一番近い処に在りて、自らが女王の最も幸いな道へと導く。

そう決めているフレイリーだからこそ、シャサには心地好いのだ。
其方は我の半身。
だからこそ、歓びも痛みも苦しみも共に味わう。

「未だ、花開くのですね。」

「陽の一番よく当たる室内だからな。何時まで持つか。」

シャサとフレイリーは室内の、鉢の前に来る。
鮮やかな夜の官能の香りを、其の夏の花は開いてきていた。
秋が深まって冬の来る時期でも。

「この香りを嗅ぐと、私は陛下の御顔を思い浮かべます。」

フレイリーはシャサの顔を見下げつつ、微笑んだ。

「わたくしも。其方が浮かびますよ、フレイリー。其方がよく纏う香りだからな。」

「其れは陛下が、この香りをお好きだからです。」

その言の葉の何処にも、特別な好意を匂わせない。
シャサの好む香りを着けることも、親しい者には必要な氣配りでもあるからだ。

それでも。
シャサは眼を閉じた。
この香りを纏い、フレイリーは他の女を抱いた。
其れはフレイリーにしてみれば、他の女はシャサの代わりでしかないからだ。

シャサを想い、違う女の中で果てる。
その女の記憶には、フレイリーの妙なる行為と逞しい身体は、芳しい茉莉花の香りと共に甦るのだ。
シャサは知らずギリっと唇を噛んでいた。

「陛下。」

フレイリーはシャサの顎を摑んで下唇を開けさせた。

「ああ、済まぬ。考え事をしていたら、つい。」

薄っすら血が滲んでいるのだろう、その唇を心配そうにフレイリーは見下ろしていた。

「心配するな、此れくらい。」

シャサは、ふっと笑み返した。

「絹布をお持ちします!」

ハヤは足早に扉へ向かっていた。

「良い!こんなもの、舐めておけば良い!おい!ハヤ!」

女王が止めるのも聞かずに、ハヤは部屋を飛び出て行った。

「全く。そこまで過保護にならずとも。」

シャサが溜め息をつくと、フレイリーはそのままシャサの顎を更に上げさせた。

「陛下は血を流されてはならない。」

真剣な面持ちで見下ろしていた。

「お前こそ、わたくしの此処に剣で印を付けたろう?」

シャサは自分の眉間を指した。
あのとき薄っすら、血が滲んだのだ。

「其れは証ですので。」

フレイリーはシャサの眉間に唇をそっと置き、そしてシャサの唇の血を右の親指で拭った。
其れを自らの口に持っていく。

「血を流しては、なりませぬ。」

舌先で指に付いた血を舐めていた。
その行為を間近で見たら、シャサは腰が抜けそうになった。
フレイリーがそんなシャサの腰を左腕で確かと(しかと)抱えた。

「ほら、お可愛い、あなたは。」

からかうような口調がまた、シャサを動揺させる。
フレイリーは右親指をシャサの口に入れてきた。
無意識にシャサはその指を舌で舐めている。

「実に可愛らしい、あなたは。」

紺碧の眼で見つめられている、狂おしい程に。

「私を此処まで恋うておられる。可愛い、私の従順なシャシャ。」

どうして、こんなに。
以前よりも、尚。
氣持ちを抑えられない。
他の女に嫉妬する。
より激しく。

知らずにフレイリーの指を吸っていた。

「教えておらぬのに、其のような行為をされる。だから、あなたには何も教える必要は無い、愛しいシャシャ。」

愛おしく、他の指でシャサの頬から顎を撫でていた。
腰を摑んでいる手が熱い。

「わたくし……変ですか?」

フレイリーの指が離れ、シャサは熱い吐息と熱い眼線でフレイリーを見上げていた。

「まさか。とてもお可愛いらしい。」

フレイリーは満足そうに笑んでいた。

「私の腕の中でこんなにも乱れる。私の最も好みの動きをされる。そんな女性(にょしょう)はシャシャ、あなただけです。」

「比べおって。」

そうとだけ憎まれ口を叩くのがやっとだった。
腰を抱えられ、椅子に座らさせられる。

「陛下、此れを。」

ハヤは慌てて戻って来た。
濡らした絹布をシャサの唇に当ててきた。

「有り難う、ハヤ。もう大丈夫だ。血は止まっておる。」

「然しながら陛下。血を飲まれてはなりませぬ。血を飲まれるとお身体に宜しくないと。」

ハヤは心配そうにシャサの顔を覗いている。

「そうなのか?」

シャサは驚いてハヤを見上げた。

「吐き氣など催すと……私も其のような機会がありませぬので真偽は判りませぬが。」

ハヤは絹布を外した。

「そうなのですか?フレイリー。」

シャサはにっこりとして、横のフレイリーを見上げた。
我は其方の血を大量に飲んだぞ。
飲まされたぞ。
シャサはそう、心の中で訴えていた。

「大丈夫ですよ。」

フレイリーは、いやににっこりとしてきた。

「私も幾度となく自分の口中の血を飲みました。殴り合えば口が容易に切れますしね。自分の血で吐く程弱くありません。」

では、他人の血ならば、どうなのだ?
シャサはフレイリーを見ながら、結論を己で出していた。
フレイリーもヤンもキーンも、騎士の誓いのその血で不快にはならなかった。
其れは服従の証故に。

そしてフレイリーの血には噎せたが、それはまた甘美でもあったのだ。
愛する者の血を大量に飲み込む。
その血交。
官能たる儀式。

「其方でも殴り合うのじゃな。」

シャサは意外そうにフレイリーを見ていた。

「男ですから。無様に殴られもしましたし、殴りもしました。此れでもヤンともキーンとも、殴り合ったことはよくあるのですよ。」

フレイリーは事も無げに言った。

「そうなのか。」

シャサの知らなかった男同士の関係だ。
其れはただ、激しい争いなのではない。
ちょっとした行き違い等で直ぐに殴り合いになるのだろう。

「然し、女王は血を流されてはなりませぬよ。」

最後に厳しく諭された。

「血など。おなごは毎月流すわ。見慣れておる。」

シャサはハヤの淹れてくれた花茶を口にした。
今夜は茉莉花よりも香り高い花だった。
ハヤもシャサの体調や顔色で、花茶の種類を変えて淹れてくれる。
故にシャサは安心して茶を含めた。

「月経の血は、また異なります。陛下、其れは健康な女人の証です。御懐妊可能という、大切な陛下の血です。」

「其方には無いだろう、月経など。」

よく知っている風な口を聞くので、シャサは嫌味を放った。

「有りませんが。シャシャの周期は、よく存じております。御身冷やさずにお過ごし下さい。」

フレイリーは花茶を一氣に飲み干した。

「では。お休みなさいませ、陛下。」

「……お休み、フレイ。」

フレイリーは頭を下げてから部屋を出て行った。

「―そうだったな、ハヤ。忘れておったわ。」

シャサは鼻息を吹いて、腹に手を当てた。

「月も隠れた。我が身に血も降りてくるわ。」

フレイリーはシャサの月経も言い当てていた。
よく知っているのだ、シャサの体調も全て熟知しているのだ。

「ええ、陛下。御用意はしております。」

ハヤは頭を下げた。

「なので無理をなさりませんよう。」

「そうだな。」

女人は月経の折に、仕事をせずに休んで過ごす。
そういう風習がホウの國にはある。

「フレイに全てを任せよう。」

様々に感情も動き廻り、身体も疲れる昨今だ。
また忙しくなる前に休んでおきたい。
シャサは花茶を含みながら、眼を閉じ、瞼の中の宇宙を眺めていた。








「陛下のお好きな烤鴨もご用意しました。」

黃(れい)の館に招待され、フレイリーと共に訪問し、セレンはにこやかに出迎えた。

「おお。それは有り難いな。」

シャサは笑んで返した。
あれ以来、フレイリーは週に一度は烤鴨を出させるようにしたので飢えている程ではないが。

「シャサさま!態々足を運んで下さり、有難う御座います!」

黒髪を結っているマニーは、嬉しそうに女王に駆け寄った。

「マニー、とても元氣そうだ。安心しました。」

そのマニーを抱き寄せる。

「こんなにお胸が出ていらして。」

マニーはその感触に驚き、泣きながら笑顔を見せた。

「ほほほ。女人の柔らかい乳がこんなに心地好いとは知らなかった。自分で触れては驚くのです。」

マニー程にも飛び出てはいないが、それまでのシャサの胸にしたら驚くべき成長だ。

「随分と変わられました、この御身体。」

「そうだな。」

フレイリーに触れられ、触らされ、悦びが体内を駆け巡る。
その度に自分の身体が柔らかくくねるように変化するような氣がする。

「いや、わたくしのことよりも、マニー、お目出度う。」

シャサはそっとマニーの腹に触れた。

「有り難う御座います。」

マニーは恥ずかしそうに眼を落とし微笑んでいた。

「早い受胎、慶ばしいことだ。」

「はい。」

頬を赤らめている。

「いや、きっと婚礼前にいたんだろうってサタ先生がね。」

後ろからひょいとキーンが顔を出して説明する。

「だとしても、目出度いではないか。」

婚礼後に、それが判明して良かったのだ。
妊娠したと知り、慌てて婚儀を進めるよりも。

「キーンも父親に為るのか。」

シャサはしみじみと語った。
幼い頃から常に傍に居た。
生まれも十日しか変わらぬので双子のように育った。
一緒に同じ寝台で眠った。

キーンは何処か不思議な少年だった。
未だに彼がどういう性格なのか、シャサにも判らぬ。
優しいのには違いないが、シャサが女王として酷な命(めい)を下しても、平然と其れを熟した。 

守護騎士ならば当然、というのも異なる。
飄々としながら罪悪感も無しに冷静に対処する。

殺せ、と十二歳の彼に命じたことがある。
それはお付きの侍女のマニーを個人的に付け狙う軍の警護の者が居たからだ。
恋しいマニーを狙う者に役目以上に怒りを合わせ、殺意を持ち処分するならば、判る。

然し、キーンは淡々と黃の剣を振るい落とし、首を刎ねていた。
一撃で。

此れで宜しいですか、と返り血を浴びたキーンは女王に平然と確認していた。

大剣を未だ腰に下げられぬ背丈の少年が、継いだ黃の剣を両手に持ち、何の感情も顕わにせず、初めて人を殺した。
 
そして、後も其の感想を一言も漏らさなかった。
ただ、シャシャもマニーも俺が守るからね、とだけ口にし、笑っていた。

命ぜられたから、その様にした、だけ。

鬼とは、この様な者かもしれぬぞ。
シャサは独り心の中で、そうフレイリーに語りかけていた。

「嬉しいよ、俺、早く父親に為りたかったんだ。」

そう喜ぶキーンの顔はとても綻んでいた。
故にシャサも安心した。

黃の館での五人、いやマニーの腹の中の子を合わせれば六人での晩餐も穏やかに楽しく進んだ。

「陛下はお小さい頃から烤鴨がお好きでしたね。」

セレンはそう、楽しそうに想い出話をする。

「これ程に美味なる物は有りませんから。」

シャサが黃の館を訪ねる度に、セレンは烤鴨を用意してくれていたように記憶している。
セレンは其のようにシャサが公主、というからだけでなく、息子と同じくして生まれたシャサにも娘のように可愛がってくれていた。

「やはり、陛下には足りなかったのですねえ、精の付くものが。」

セレンは頬に手を当て、ふうと溜め息を付いた。

「此れだけ急に女性(にょしょう)に成られたのですもの。」

そうでは無いとシャサ自身は知っている。
其のセレンの豊かな胸元を見ていた。
十六でキーンを産んだセレンは今が女盛りだ。

「申し訳御座いません。」

フレイリーは仏頂面で頭(こうべ)を垂れた。 

「でもマニーは肉が苦手なんだよね。食さないでも、此れだけ立派な胸だし。」

何氣にキーンは妻を褒めた。

「マニーは魚が好きなのにね。容姿の雰囲氣は似ているのに、二人は好みが全然違ったよね。」

キーンは愉快そうに笑い、妻の頭を撫でた。

「そういえば、マニーは悪阻は無いのか?大丈夫ですか?」

香ばしい烤鴨の匂いも羊肉を焼く匂いも、煮込む鯰の匂いも漂う室内だ。

「今は大丈夫で御座います。時折、全て駄目になるときもあるのですが。」

「あ、マニーの好きじゃなかった羊肉、食べたがるんだよね。匂いは駄目だから鼻摘んで食べるけど。面白いよね。」

その新婚夫婦の睦まじい様子で、キーンは何時も館に居るのだと判る。

「羊肉はキーンが好きであろう?」

「そうだね。そうだ。俺の子だからだね。」

キーンは納得したように頷いていた。
妻が自分の子を身籠ってくれて幸福なのだと見て取れる。
シャサは幼馴染のキーンとマニーが結ばれてくれて、実に嬉しかった。
そして二人の子が、とより胸に温かみを感じていた。

食後に白酒を嗜んでいた。
酒の匂いでか、マニーが顔を顰め口を押さえ、急いで食堂から出て行った。

「氣にせず楽しんでて。」

キーンはにっこりと笑み、妻の後を追っていった。

「悪いことをした。酒など止めておけば良かった。マニーがあんなに辛いのに。」

シャサはマニーが心配になり、出て行った扉を見ていた。
マニーのあんなに調子の悪そうな顔を見たのは初めてなのだ。

「陛下、どうかお氣に為さらずに。身重の者はあの様なものですので。」

セレンは女王を氣遣い、柔らかい声を出した。

「いや。わたくしが無知なのです。身籠るという経験が有りませんし、身近にそういう者もおりませんでしたからね。女人ですのに。」

恋うた男の子を身籠る、という経験はシャサにはこの先もできぬのだ。
然し、激しく恋うというまでにはいかなくとも、迎える婿とは睦まじく過ごしていきたい。
キーンとマニーのように互いを想いやって楽しく生きていきたい。

「陛下は、致し方ありません。本当にお氣にならさないで下さい。どうぞ、お飲み下さいませ。」

其れはセレンの優しさからの発言だ。  
理解しているが、シャサには不快だった。
成人も過ぎ十七の今になって、ようやく女人として成長してきた娘には、身籠った婦人の心中も何も察せられないでしょ。
暗にそう言われた氣がしたのだ。

「セレン。口が過ぎます。」

フレイリーは顔をセレンに向けずに、そう厳しい口調で言い切った。
セレンの顔色が変わる。

「……申し訳御座いません、陛下。」

私は何も悪いことは申しておりません。 そうと責めたい不満顔を、セレンは有り有りとフレイリーに向けていた。

「陛下が妊娠についてお詳しくないのは当然でしょう。悪阻の経験の有るあなたが、女人として如何にも勝ち誇ったかのように語り上げるのも笑止な話です。」

「私はそのような!」

セレンは怒りで立ち上がった。

「勝ち誇ったなどと!フレイ、あなたはどういうおつもりでそのような戯れ言を、」

怒りに打ち震えるセレンも美しいと、シャサはただ見上げていた。

「戯れ言?あなたが不満があるのは陛下では無い、私だ。はっきり物申したら良い、私に。見苦しく陛下に八つ当たりをなさらぬように、セレン。」 

「何を!」

冷酷な紺碧の眼でセレンを見上げているフレイリーに、シャサはゾクッと背中の震えを感じていた。

「私があなたの誘いに応じないのは、あなたが悪いのでは無い。然し、其のようにあからさまに醜く騒ぎ立てるのであれば、私もあなたを憎みますぞ、セレン。」

其れなりに愛した女だ。
激しい愛ではないにしろ、フレイリーも美しいセレンに惹かれ愛でたのだ。
女の身体の愛し方も存分に学んだろう。

その女に、こうも侮蔑の眼差しを向けられるフレイリーの覚悟と女王への忠誠と、そしてシャサへの秘密の血交に、シャサは恐怖と共に身震いをした。
この男への恋情が溢れた。

「フレイリー!」

シャサは大声でフレイリーを制した。

「何故(なにゆえ)に痴話喧嘩の痴態をわたくしに見せつけるのだ?」

女王としての威儀を正し、シャサはフレイリーを凝視した。
怒りではなく、ただセレンが憐れだったからだ。

「申し訳御座いません、陛下。」

フレイリーは声音を変えずに、頭を垂れた。

「セレン、悪いことをしましたね。マニーの身体を頼みます。マニーもセレンのような優しい義母(はは)を持て幸福です。」

「陛下、そんな勿体無いお言葉、真に有り難う御座います。」

セレンも肩を震わせ、頭を垂れていた。
その震えは怒りからだ。
シャサには判っている。

「フレイリー、行くぞ。」

「は。」

シャサは裳を翻し、頭を垂れているセレンの前を歩いて行った。
そのまま黃の館を出て、先を歩んでいく。
フレイリーは背後から氣を張り巡らせている。
何も会話せずに歩んで行った。

本来ならば女王が御足で歩むなど有り得ない。
通例ならば輿で移動するのだ。
然し、黃の館から王宮までの短い移動なのでシャサは徒歩でいいと宣言した。
其れには守護騎士への絶大なる信頼が有るからだ。

あちら此方に張り巡らされている警護の者も、女王が通ると頭を垂れている。
女王は背筋を伸ばし前だけを真っ直ぐ見て、堂々と歩んで行く。

細い月もとうに隠れた夜なので、辺りに松明があれど暗い。
それでもシャサには全く恐怖は無かった。
フレイリーが護ってくれているからだ。

王宮に着き、皆(みな)が女王を迎えてくれる。
シャサは安心して微笑み、私室へ向かった。
ハヤが扉を開けてくれ、部屋に入る。
フレイリーも後から付いてきた。

「ハヤ、フレイリーと話が有ります。」

「はい。失礼致します。」

ハヤは直ぐに下がった。
この娘は賢いが勘が鋭そうだ。
シャサはハヤの伏せた眼を見つつ、頭を垂れたままのフレイリーに氣づいていた。

「申し訳御座いません、陛下。」

「わたくしが何を怒っているのか判りますか?」

姿勢の変わらぬフレイリーに、シャサは威厳を持って接した。

「存じております。」

「判っていながら失態を、なのだな。」

「申し訳御座いません。」

シャサは溜め息をつきつつ、椅子に座った。

「お前がセレンに怒りを覚えるのは判る。然し、彼処でわたくしを巻き添えにしてはならなかった。」

「その通りで御座います。」

「フレイリー、此方へ。」

フレイリーが近くへ歩んで来る。
情けなさそうな表情のフレイリーの顔が見えた。

「あれでは、わたくしと其方に何かがあるかのような口振りです。」

「仰る通りです。」

怒りの余り、つい理性を無くすのもフレイリーの悪い癖と言える。

「わたくしとお前は、他人には一切秘密なのです。」

「はい。」

喩え、シャサがフレイリーに密かに恋慕していると氣づかれても。
実は血交をしたふたりであることは見破られてはならぬのだ。

「沓を脱がせて。」

「はい。」

フレイリーは跪き、シャサの沓を脱がせた。

「足が疲れました。」

「―失礼致します。」

フレイリーはシャサの足に触れてきた。
足の裏を優しく揉んでいく。

「痛っ!」

「失礼を。」

フレイリーはシャサの足を上げ、足裏に口づけてきた。
シャサは顔を赤らめながら、フレイリーの紅毛に手を置く。
指を髪の間に埋めた。

「それでも嬉しかったのです、わたくしは。」

フレイリーは愛しそうにその足に唇を這わせていた。

「セレンを愛していましたか?」

「愛しておりました、間違いなく。あなたへの想いとは異なりますが。情、とも言えるでしょう。若しくは、」

「あっ、」

フレイリーはシャサの足の親指を口に入れて吸い、離してシャサの顔を見上げている。

「身体への執着、かもしれません。セレンは激しく私を求めましたので、私も期待に応えるのが嬉しくて。彼女はとても感じやすく、うねるかの様に、」

「其れ以上は聞きたくはありませぬ。」

「失礼致しました。」

フレイリーは頭を下げてから、またシャサの足裏を優しく押していった。

「元より優しい方です、セレンは。私といても陛下のことをよく氣にかけていらっしゃいました。」

「そうだな。セレンはまた、わたくしにとっても母親のような存在だ。」

それでも今は互いに嫉妬を感じているのだ。
シャサはフレイリーの身体を知ることができないのに、セレンはその肉体をよく知っている。
然しフレイリーの傍にはいつもシャサが在る。
こうしてフレイリーの妻にもきっと胸の内では激しく憎悪を抱かれるのだろう。

我はフレイリーのいちばん近くに在る。
その柔らかい紅毛を愛おしく両手で撫で廻していた。

「セレンも軍人としての務めに忙しい夫の不在にただ寂しく、其方の熱い誘惑に耐え切れず求め入れたのだ。憐れなのだ。」

フレイリーはまた唇でシャサの足の裏に口づけをしていた。
シャサは、ぐっと奥歯を噛み締めた。

「女の欲情は男の其れよりも強いのです。内に堪らなく男を欲しくなるのです。セレンはその様な顔をしておりましたので、私は沈めたくなりました、無性に。十三の幼さ故に無体をしましたが。」

その少年の無体さもセレンには堪らなく甘い切なさだったのだ。
抑え切れなくなり、自らの口に手を当て顔を逸したシャサに、フレイリーは左の足指全てを口に入れた。

「ああっ!」

「そう。そうやって我慢せずに声を出しなさい。」

フレイリーの紺碧の眼が捉えている、潤んだシャサの眼を。

「何とお小さい御御足だ。よくもこんな小さな御足で立てられるものだ。」

指を吸っては離し、指の股にも舌を入れている。

「んっ、くうんっ、あっ、んっ!」

そんな風に自然と声を発してしまうのだ。
知らなかった、女の身体とはこんなにも容易に欲情と添うものなのだ。

「良い御声を揚げられる。初めてですか?こんなにも悶えたのは。」

「止めよ……」

息も絶え絶えにシャサはフレイリーの頭を押さえた。

「止める?そんなにも悦んでいらっしゃるのに。」

シャサは涙を流していた。
室内は未だに開く官能の花の香りが噎せ返るように漂っている。
フレイリーが左足を降ろしたのでシャサは安堵して息を深く吐いた。
然しフレイリーはシャサの右足を上げ、足の裏の上から下に熱い舌を降ろしてきた。

「ああーっ!」

「敏感でいらっしゃる。」

これがフレイリーの真骨頂だと、背を反らして震えているシャサは身を持って知った。
女人をこの様にジワジワと焦らし、昇り詰めそうになると離し、向こうから決めの言葉を吐かせるのだ。

誘われた?
お前が俺を誘ったんだろう?

そう事後に、女人に冷たく言い放つのだ。
然し女人は既にフレイリーの虜になっているので離れようとはしない。

得意の征服力でセレンも悦びに泣かせていたのだ。

「氣持ちいいのですか?」

小刻みに震えて泣いているシャサの指の股を執拗に舌で責めて、シャサの顔を嬉しそうに見上げている。

「御返事が無い。では、止めましょう。」

フレイリーは舌を離して右足を降ろそうとした。

「フ、フレイ、」

「はい?」

フレイリーの頭を摑んで離さないシャサは、震えながら呼吸の仕方を忘れたかのように荒くハッハッハと息を吐いていた。

「足が疲れて……癒やして下さい。」

「続けて宜しいと?」

「は、はい。」

恥ずかしさで顔を背ける。
フレイリーは笑いながらシャサの足の指を吸った。

「んっ!」

「氣持ちいいのですか?」

どうしても、そうと言わそうとする。
シャサは全身にむず痒さのような感覚を覚えた。

「仰らないなら止めます。」

ちゅぽんと勢い良く口から離した。

「あ、あっ、氣持ちがいいのです!」

陥落させられる。
この痺れに翻弄される。
自分が遂にそうと発した事実にもシャサは大きく震える。
征される悦び。

「ああ、素直で宜しい。とても可愛いですよ、シャシャ。もっと気持ち良くして差し上げます。」

フレイリーは更に指を吸い、舌で全体を刺激してきた。

「この様なことは普通の殿方は為さらないと思いますよ。」

「ふ……ううっ、」

「この悦びを忘れられないのならば、婿殿にお頼みなさい。わたくしの足を舐めて、と。」

「いやっ!」

其れは屈辱なのか愉悦なのか。
どちらにしろシャサに判るのは、この男の術中に嵌まってしまったのだという事実だ。

「果たして私の様に悦んでしてくださるかな。」

「あっ!あっ!」

「そうです。悦びの渦に飲まれてしまいなさい。もっと!」

そんな感覚は初めてだった。
足の裏が吊るかのように指の先からずっと脚を昇り、熱くなった下腹に力が入る。

「極まったな。」

震えながら、はあはあと荒く呼吸をしているシャサの足の甲に口づけをして、フレイリーはシャサの黒髪を撫でた。

「初めてですか?」

「な……にが。」

力が入らない。
然し、達成感、満足感がシャサの全身を暖かく包んでいた。

「私に拠って、あなたは絶頂に参られた。」

絶頂、此れが。
シャサは頭の中が白くなるような感覚で、咄嗟にフレイリーにしがみついた。

「何とお可愛らしい。」

耳元での低い囁きに、シャサは身体を揺らし震える。

「益々敏感に為られた。」

何故、こんなにも力が入らぬのだろう。
フレイリーの言の葉の一つ一つに、ただ身体が震える。

「実に素直な御方だ。」

フレイリーはシャサに腕を廻し、抱きしめた。

「可愛い。」

頭に唇を置かれていると感じる。

「わ、たくし、おかしいのですか?こんな……足など。」

「まさか。私の最大の好みの女人ですよ。」

フレイリーはそう喜びながらも、身体を震わせてくる。

「何を愚かな、私は。」

急に自らを貶めてきた。

「あなたにこんなことを。触れてはならぬと決めているのに。」

その決意も愛らしいシャサを眼の前にすると崩れてしまう。

「フレイ、わたくしは嬉しいのです。」

更に腕に強く力を廻し、フレイリーの紅毛に唇を埋める。

「わたくしは其方が欲しいのです。」

「シャシャ!」

フレイリーは勢い良くシャサを離した。

「わたくしは……あなたを、」

身の内に、欲しい。
フレイリー、わたくしを貫いて。

それを口にすることは叶わぬ。
だから、熱くフレイリーを見つめた。
フレイリーは立ち上がって、シャサを見下ろした。

「夜毎、あなたは私の愛し方を想い出して悶えるがいい。」

そう口にすると、すうっと息を吸い込み、深く吐いた。
シャサは自らの身を抱きしめ震えていた。

「私は此れまで何回も何百回も、毎夜胸の内で、そんなに可愛らしいあなたの中心を埋めている。今夜も、此れからも。」

そんな言の葉だけで、脚に震えがくる。
先程のように足の裏が熱くなる。

「実にお可愛らしい。私のシャシャ。」

ふっと笑い、フレイリーは踵を返しカツカツと沓を鳴らし去っていった。
官能の花の香りの中、シャサは口を押さえ震えながら、あ……と甘い息を漏らした。




続く


……………………………………………………………………



この後にクライマックス第一弾的な転換話を入れたかったのですが、字数制限でした。
絡み合う糸。

首の筋肉の総称が無く連ねて書いてましたが長くて略しました。
筋肉♡

ホウでは十五で成人、元服ですね。
男女の婚姻が可能になる。
寿命は今の地球よりも短い。

詳しくは、また次回にて。

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こんにちは。
みずのこえ まき です。


台風こちらは去りました。
朝から
やたらと眠くてね。

流石に午後は頚椎や胸椎が痛み
衝撃と歪みがあるのだなあ、と改めて知る。
ヒーリングを受けながら
ただ、寝る。


あ、最近
スペースシップという
眼に見えない(見てないだけ?)
謎の仲間たち
グループに助けられてます。

怪しいでしょう?(笑)





16時過ぎに外は静かになるも

台風はまだ和歌山だったのよね。

でも、体調もよくなると
あ、台風の影響はもうないねーと知る。

台風の進路はこちらに来ていても
本当に静かでした。



午前中に暴風警報出ちゃったから

畜生、給食食べて帰ってこれるように!
と念じる。

早くに給食届くそうで
食べて早めの帰宅、となり一安心。


今はメールでお知らせくるからね、学校から。






さて、前回書いた夢から醒めるときに

 
女性が唄う



You can reading the paramita!



と聴いたの。

TRFのYU-KIさんの唄い方と声に似ていた。


↑の言葉は違うかもしれないけど。
私には、そう聞こえた。


パラミータ

波羅蜜多



意訳すると到彼岸 


お彼岸だから、かしら?



その、意味は判りません。



以上!



双頭の龍國 三、蜜夜の続きを書いていて
明日の出張の用意とご飯作らなきゃな

と保存したら


き、え、た。


3時間分のデータ、返して泪


数秒前に戻りたかった。

保存ボタン押した瞬間嫌な予感したの。


コピーしとけば…がっくり。

確信に迫る部分まで書いたのにー!



じゃ、またね☆




お読みくださり、ありがとうございます(*^^*)

水に穴を開けられる岩のような日です☆



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みずのこえ

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ファンタジー小説です。

剣と騎士と女王のお話(ざっくり。)

双頭の龍國 一、月照
ホウの國の女王シャサは、齢十七。
十二の年に父王の突然の死により女王となる。
シャサは十二のときから身体的成長が無い。
ホウには緋、蒼、黃、の剣の三騎士がいて、彼らの父もまた、先の國王と共に事故により亡くなり、息子たちが騎士を継いだのだ。
これまで女王の治世で和やかに過ごしてきたが、友好國の戦の影などからシャサの婿問題が表面化していく。


双頭の龍國 二、血交
幼いシャサとフレイリーの純恋の行き先を断ったのは前王の復讐だった。
シャサは自らの恋が結ばれぬとも、フレイリーの優れた洞察力故に父王に疎まれてはならぬと決意する。
マニーの後進のお付きの侍女ハヤとの生活も始まり、黃の騎士キーンとマニーの婚礼の日の朝が来る。
フレイリーの選んだ朱の衣を身に着けたシャサは、強烈な騎士の誓いをフレイリーにされる。
ふたりだけの秘密の婚礼の儀、血交の儀式をした。



シャサの決意とは?
そして、この物語の世界観も、次回から。

今回が終わると、本題に差し迫っていききます。



愛が深い故に残酷。

全体的なテーマのこれは、何が愛で何が残酷かなのかを問うてきます。







双頭の龍國 




全て嘆きは力となる。
逃げず恐れず、身の内の嘆きを咀嚼せよ。







三、蜜夜



「お目出度う、セレン。」

こうして姿を前にするのは、三月振りであった。

「陛下、有難う御座います。本日は黃(れい)の騎士の婚儀の為に、陛下にはご足労頂き、真に幸せに存じます。」

控えた輝きの金の衣を身に着けた黃の騎士の母親は、頭(こうべ)を垂れていた。
相変わらず艷やかな女人だと、その豊かな胸元をシャサは見ていた。

「頭を上げて下さい、セレン。」

微笑みを湛え、シャサは柔らかく言う。

「わたくしも慶ばしく思います。こんなに晴れやかな澄んだ空の下、衆人に見守られ婚姻できるキーンもマニーも、神に愛されています。重畳である。」

「勿体無いお言葉に存じます、陛下。」

今漂っている、金木犀の香りのような女だと、シャサは華やかなセレンを客観的に観察している。
夫の前黃の騎士が亡くなり、後家御となっても、その花に虫は吸い寄せられるだろう。

「それに、実に久しい慶事です。どれ程に美味なる饗であろうな。烤鴨は出るだろうか。楽しみだ。」

嬉しそうにしているシャサに、セレンは焦って少し離れて立っているフレイリーに近付いて見上げた。

「フレイ、きちんと陛下にお食事をさせているの?飢えさせていない?」

「まさか。陛下のご命令で質素倹約としておりますが、私も日々、同じ物を食しております故に。」

フレイリーはセレンに向かい、顔を変えずにそう口にした。

「質素って。だって、陛下よ?精の付く物を沢山摂取して頂かねば。足りていないんじゃないの?だから、成長なさらないのでは?」

「いや、そんな訳は。私はこれだけ成長しましたが。」

フレイリーは自らの朱の長袍の胸に手を置き、自信満々に答えた。

「あなたはそれまでに良い物を食べてきたでしょ?シャサさまは、成長期なのですよ!烤鴨くらい、日々食べさせて差し上げて。」

シャサだとて公主として、父王の存命のときは贅沢な食を得てきたのだが。

「―判りました。セレンの御意見は有り難く承ります。」

フレイリーは紺碧の眼を見開いて、眼鏡越しにセレンを見下ろしていた。
説教をされて、その剣幕にたじろぐのは珍しいこと。
そもそもフレイリーに説く存在など、今やもう過小なのだから。

そして。
その二人の距離感は近い。
親しい者同士の会話にしても、近いとシャサは感じていた。
何も知らない世間の者は、そうとは嗅ぎ取らぬかもしれぬが。

「セレン、フレイリーを許してやれ。わたくしが王宮の食は日々質素であれと、下したのですから。」

シャサは微笑みつつ、艷やかな褐色の髪を結ったセレンを見ていた。

「ですが、陛下。もう少し豪勢になされても。」

「そうだな。留意しよう。」

セレンは判っているのか。
シャサは笑みつつも、その黒眼が嶮しくなる。
王家の食も衣も、全ては國民が担っているのだと、知っているだろうか。
財政も民の生活も知れば、父王が存命のときのようには、食に時間をかけ過ぎなくてよい。

質素であっても、栄養の吊り合った品目で日々、丁寧に作られた餉を美味に頂いている。

しかし、セレンの其れは、シャサに対する優しさ故、なのだ。
セレンは息子のキーン同様に、幼い頃から公主を愛しく扱ってきたのだ。
ときに厳しくも。

「フレイ、烤鴨を毎日食していると、セレンのような豊胸になるのだそうだ。」

シャサはフレイリーを見上げた。

「シャサさまっ!」

セレンは以前からのように親しく、シャサの腕に触れ、少しの困り顔をしていた。
セレンだとて毎日烤鴨を食べている訳では無いと、シャサも知っている。

「それは……試してみる手はありますね。」

フレイリーの紺碧の眼は、じっと、膨らみの少ないシャサの胸を見下ろしていた。

「であろう?もしや、其方の好きな突き出た乳になるやもしれぬ、わたくしも。」

「あっ、は、はっ!」

途端、フレイリーは声を揚げて笑い出した。
フレイリーが爆笑するのは珍しいことだ。

「何が可笑しい?」

笑われたシャサは不機嫌に、赤毛のフレイリーを見上げた。

「公主(ひめ)が、その幼い御顔で乳房だけふんわりと出ているのを想像したら、つい。」

「失礼な奴だ。」

相当に可笑しかったのだろう。
笑いを堪えて震えているフレイリーの肩を見ていると、シャサも笑いが込み上げた。

「陛下には、御身全て成長して頂かないと、私が陛下を直視できませぬ。」

「であれば都度、笑うのであろうな、其方は。」

「ええ。」

シャサにも、真実のからくりは判らぬ。
どうして、自分の身が成長しないのか。

母方の祖父である医師は、父王たちの突然の死、事故による精神的な打撃が身体に影響を与えたのではないか、と説明してきた。
そして、シャサにも思うところがある。

「陛下、どうか此れに。」

「ああ。」

セレンに勧められて椅子に座った。
そのときの、セレンの衣から溢れ落ちそうな豊乳を眼の前にしつつ、シャサはすうっと勘付かれぬよう、深呼吸した。

フレイリーの好きな、大きな乳。
それに指が触れ、口に含んだに違いない白い柔らかな乳。

まさか、未だに嫌悪感があるとはな。
シャサは拭えていない自らの嫉妬心に可笑しくなった。

不義が公にされていないので、セレンは今でも先(せん)の黃の騎士の妻として居られる。
先王や先の騎士たちが亡き今や、フレイリーとセレンが顔を合わせて会話をしていても、誰にも詮索はされぬ。

そして、あの奇禍の後も時折、フレイリーはセレンに求められ悦びを与えている。
キーンに自らの母の情交を諜報させるとは鬼だな、とシャサは身に沁みた。

いや、母上も若いのだから男が必要でしょう、とキーン自身はあっけらかんとしていたが。

「それは花弁?散りばめられたかのように模様が入っているのですね。とてもお綺麗な……陛下によくお似合いです。この朱の衣は。」

セレンは女王の朱の衣をよく見て、そう心より褒め上げた。

「ありがとう。セレンも、美しい。」

本当に、若く美しい。
その豊満な胸も尻も張り上がっている。
フレイリーの愛したその身体が妬ましくも、実に見惚れる。

シャサの朱の衣に時折入っている花弁のような模様は、最初からは無かった。
これはフレイリーの血飛沫。
フレイリーがシャサに付けた誓いの証なのだ。

この血飛沫の花弁を纏う。
血に抱かれている。

そんな女は、この世にたった一人のみ。

激しくも狂おしく、フレイリーに抱かれ続けているのだ。

ふと、シャサの右背後に立っているフレイリーがシャサの右手をそっと取る。
セレンにも誰にも判らぬように、フレイリーは緋(あけ)の剣の鞘に触れさせた。
熱い波動を感じられる。

フレイリーの血の花弁と共鳴しているかのように、ドクドクと脈打っている。

「この先、あなたさま以外の女人に触れませぬ。」

セレンが場から離れたので、フレイリーは視線を前に向けながら跪いて、誰にも氣取られぬようにシャサの耳元でそう囁いた。

「誓ったでしょう?今朝。」

「―そうだな。」

シャサも何事も無いように、平然な顔で前を見ている。

誰も知らぬ、血交をした。

「私のこの血は、あなただけのもの。」

「わたくしも―。」

「あなたが婿を迎えるまで、私は他の女人には決して触れませぬ。」

其れはきっと、フレイリーとセレンのことをシャサが氣にしていると、眼の動きで勘付いたからなのだろう。

なんと甘い女王だ。
フレイリーに悟られるくらい、こんなに愚かな嫉妬で冷静さを失っていたとは。
シャサは失笑した。

「お前は誰のものだ?」

その低い声に、シャサは途端に鈍い血の味を口中に想い出し身震いした。
脈打つ緋の剣が胸に刺さってくるようだ。

「わ、わたくしは―」

「誓ったろう?判らぬのなら、幾度でもこの血を浴びさせるぞ。」

それは甘美な鎖のような、花弁の締め付けだ。
この花弁がある限り、あの鮮血を浴びているのに。

「わたくしの眉間に印(しるし)を付けた者の……」

最後まで口にすることができなかった。
シャサは喉を微かに鳴らして口中に溜まった唾液を飲み込み、立ち上がった。

「サタ先生!」

より無邪氣に笑って迎えた。

「シャシャ、どうした?」

「何事が、です?」

灰色の長袍を着た老体を見上げながら、シャサは不思議そうな顔をした。

「綺麗だな、シャシャ。」

「もう。サタ先生は。わたくしはいつも、こうです。」

常時の彼のからかいだと思った。

「女人の顔をしておるぞ。」

「わたくしは最初から女人です。」

然し図星を指されたようで、シャサは心臓がひっくり返るような感覚を得た。

「そうじゃ。私は孫娘を得たのだからな。それにしても女の顔をしておる。」

祖父に背を撫でられ頷く。

「このような衣装だからではないでしょうか?」

「大人の女性(にょしょう)の衣だ。このような衣が似合うようになったのだな、シャシャも。」

「フレイが選んでくれました。」

「そうか、フレイがか。流石、女人を見る眼に長けておるな。」

サタは長身のフレイリーを見上げる。

「恐れながら、サタ先生級には未だ比すりませぬ。」

フレイリーは頭(こうべ)を垂れていた。

「フレイでも、未だ千人には足りぬか。」

「そのようなお話は此処では。」

然し、恥ずかしがらずに平然とした顔をしていた。

「シャシャ、フレイは以前、女人を手のひらで転がす術を尋ねてきたので、私は千人の女人を知れと課したのだ。」

サタはシャシャの隣りに座り、耳打ちしてきた。

「ですから、未通女(おぼこ)のシャシャに態々そのような秘事を晒さなくても宜しいのでは無いでしょうか。」

フレイリーは平素な表情で、きっぱりとサタに物申した。

「どちらかと言うと、フレイの方が卑俗で慇懃無礼じゃな。」

「それは失礼を、陛下。」

フレイリーは更に深く、シャサに頭を下げた。
千人の女人か。
シャサはフレイリーの紅毛を見ていた。
これまでに何人の遊び女の相手をしてきたかは判らぬが、その挑戦も放棄した訳だ。
今朝の血交で。

「それで、どうだ?成果は。」

サタは愉快そうに、顔を上げた真面目な表情のフレイリーを見上げている。

「女人は各々、心も身体も異なります。より数多くの女人というよりも、限られた人数と時を置き愛情を持って接する方が私には合うと知りました。其々に情が出てきます。女人を征するなど無駄であった、と内省致しております。」

その紺碧の眼が柔らかくなっていた。

「制圧するのが好きであろうに。」

シャサは不意に溢れた言葉に自らが驚き、口に手を触れた。

「……よく御存知でいらっしゃる。」

殺氣にも似ているような、しかし嘲りにも似たような、そのフレイリーの言の葉のビリビリとした空氣に、シャサは一瞬眼を閉じ、そして開けて意図的に威圧した。

「フレイリー、茶を持て。」

「御意。」

頭を下ろしてから、フレイリーは踵を返した。

「シャシャ、どうした?珍しいな、其方の苛立ちは。」

サタはまだ、愉快そうであった。

「さあ。何故(なにゆえ)でしょうか。」

感情の起伏が激しすぎるのだ、今日は。

「身体の均衡が崩れたのかもな。おなごの顔をしておるから。」

「そうでしょうか。」

シャサはそう答えながらも、実感していた。
フレイリーの一挙手一投足にいちいち、引っ掛かる。
恋など、とうに諦めた筈なのに。

「そうですね。陛下は女人の顔をなさるようになりましたわね。」

セレンは横から、口を挟んだ。
微笑んでいるが、その褐色の眼の奥には、深みがあった。
強いて理由づけをするならば、それは女の嫉妬、だろう。

セレンに、そうと見破られるのならば、愚かなのだ我が。

「幼馴染のキーンとマニーの婚姻だ。シャシャの氣持ちも何処か高揚しているのだろう。そんなときは怒りやすくもなる。」

「かもしれませぬ。」

シャサは、くすっと自らを嗤った。
愚かな只の女、なのだ、ここに在るのは。

サタは元より御典医だ。
國王に嫁いだ娘の子、孫のシャサには通常、恭しく敬わねばならぬ。
しかし、先の國王もサタを信頼し崇めていた。
ふとすれば傲慢になる王族に、厳格に助言できる存在は貴重なのだ。

シャサを甘やかさずに時に厳しく接せられる目上はもう、サタとフレイリーとセレンだけだ。

「嬉しいのですわ、わたくしは。大好きなマニーとキーンが結ばれてくれて。」

何を語らずとも、この二人が深く想い合っているのを見て取れていた。
その純恋を永遠に約束したい。

だからもう、キーンの添い寝も止めるのだ。
シャサは決めていた。
フレイリーは他の女には触れぬと約束してきた。
シャサも、その誓いを守るのだ。
婿と為る者が決まるまで。

「シャシャは、一安心なのだな。」

「ええ、これで安心です。」

ようやく、自分の婿を本格的に探すのだ、この婚礼が終わったら。
戦が本格的に現実のものとなる前に、婚姻の話を進めていく。
ホウの國の最大の駒である自分を、どう活かせるかが課題なのだ。








金の眩い長袍を着て腰に黃の剣を下げたキーンの元に、母親に連れられた白の花嫁衣裳のマニーが歩んできた。
キーンは誇らしげにマニーの手を握る。

男としての自信。
キーンから、それが漲っていた。
愛する女を、こうして迎え入れる。
それは男の強き矜持なのだ。

見つめ合う、若い夫婦。
二人共、どれ程にこの日を待ちわびたろう。

祭司により婚礼の儀が行われ、神の御前で愛の証を誓う。
キーンは自らの妻としての印(しるし)を、紅でマニーの眉間に付けた。
婚儀で夫に付けられた眉間の印が、新妻の証である。

眉間に。
シャサはそっと、自分の眉間に指で触れた。
緋(あけ)の剣の切っ先が微かに眉間に触れたとき、僅かにシャサの血が滲んだのだ。
跡すらも残らぬ位の、印だ。

誰も知らぬ、誰も判らぬ新妻の証。
ただ二人だけが、その誓いを覚えておればよい。
我の全ては密かに良人のもの。

そして、衆人に見守られ、この野外の神殿にて、今、若き夫妻が誕生したのだ。
どうか末永き幸福を、この夫婦にお与え下さい。
シャサは神に祈った。

「シャサさま。」

涙を流しているマニーの頬に、シャサはそっと触れた。

「お目出度う、マニー。とても美しい、この婚礼衣装も、其方も。」

白の清楚な、然し艷やかに金の比翼の鳥の刺繍の入った花嫁の衣。
若き女性(にょしょう)ならば誰しもが憧れる衣装だ。

「有難う御座います、シャサさま。」

このマニーの白い肌に映えるのだ。

「シャサさまこそ、お美しいのです。その朱の衣装、身に着けられると更に、お綺麗です。」

「今日の日の主役が何を言うか。のう?キーン。マニーは誰よりも美しいな。」

マニーの肩を抱き微笑んでいる黃の騎士を見上げる。

「ええ、とても。俺の嫁さんは、女王よりも綺麗だ。」

その、漲る男らしさが、女王でもあり友人であるシャサにも誇らしい。

「ああ、綺麗だよ、マニー。」

横から現れた青い長袍の蒼の騎士は、人妻の手を握り、褒めちぎった。

「なんと美しい花嫁だろう。」

「ヤン、離してくれ。これは俺の嫁だ。」

キーンはヤンをマニーから離し、しっしっと手で追い払った。

「良いじゃないか。美しい女人は、人妻と為っても美しいんだからな。」

ヤンはマニーの頬を撫で、そして女王の腰に手を触れた。
これは極自然に、無防備な女王の背中を護ろうという仕草だ。
マニーは可笑しそうに、泣きながら笑いを堪えている。

「ヤンは、どうも誑しだ。」

キーンも可笑しくて笑った。
明るいヤンの周りには、いつも人が集まるのだ。

「誑しでいいよ。キーン、マニー、結婚お目出度う。」

「―有り難う、ヤン。」

友人の祝福に、キーンも眼を細めた。

「有難う御座います、ヤンさま。」

マニーも頭を下げた。

「次はヤンの番、なのかな?」

「どうだか。」

ヤンは他人事のように鼻息を吹いた。
確かに、シャサの婿問題が片付けねば、ヤンも次に進めぬ。
シャサは一人、頷いた。
早くにヤンも解放してやらねばならぬ。

「お目出度う御座います、キーン、マニー。」

マニーの両親と話していたフレイリーが、後ろから現れる。
三騎士共に長身だが、フレイリーが一番長身が故に、取り囲まれた小さいシャサは、更に陽の光を失ったかのように暗い中にいる。

「有り難う、フレイ。」

「有難う御座います、フレイさま。」

初々しい夫婦の微笑みの元、フレイリーは何氣にシャサの肩に触れ、日照の先の陽向へ出した。
それでヤンの手がシャサから外れる。

影に覆われた女王を明るみに出したのか、それとも女王に触れている他の男の手から外したのか。
何れにしろ、シャサにはそんなフレイリーの行動が嬉しかった。

「本日はホウの幸先の良い慶事です。國民の倣いになるよう、仲睦まじい夫婦であって下さい。」

「それは、勿論。」

キーンは腕を伸ばし、フレイリーの紅毛に触れた。

「フレイでは無理だしね。」

「そうでしょう。」

キーンの嫌味にも、フレイリーは穏やかに笑んでいる。

常に王宮に在りて、自らの館に帰る機会は滅多に無い。
私が嫁を貰ったらば、妻の喜びも子の成長も全て顧みない、不実な夫と為るでしょう。

フレイリーは時折、そう語る。
女王の守護と政務が全てだ、フレイリーには。
彼にとって嫁とは、跡継ぎを産み育てる道具にしか過ぎないのだ。
家庭に人生の重きを置けない故に。
それは逆に、守護騎士としての誇りなのかもしれぬ。

軍事に尽くしたキーンの父、先の黃の騎士は館に帰ることも少なかった。
妻のセレンはただ、寂しかったのだ。

その痛みも苦しみも傍で見てきたキーンだからこそ、マニーを大切にする。

どの騎士の生き方が正解、とも言えぬ。
而も、騎士は自らが望み得る生き方ができるとも限らぬ。

「だからキーン。マニーと幸せに在れ。」

「フレイ。」

フレイリーの覚悟した笑みだ。
私は鬼となる。
それを決めたのだ、フレイリーは騎士となった日に。

「そう、しんみり言われると暗くなるよ。」

「流石、フレイだ。」

深刻に為りがちな年長の友人に、ヤンもキーンも野次を飛ばす。
その天秤の均衡が取れるように成っているのだ、この三人は。

「ええ、私の暗さはお墨付きです。そうでしょう?シャシャ。」

フレイリーは笑みながら、シャサを見下ろした。

「そうじゃ。フレイの暗さで、今年の夏も涼しく過ごせたからな。」

その陽の光が眩い程に、影は濃く見えるのだ。
フレイリーは元より陽のような存在であった、シャサの。

影を作ったのは、我の父の所為だ。
消えぬ痛みが有るからこそ、シャサは女王で居られる。

「然し、本日は騒ぎましょう。」

来たる暗い日々を恐れても仕方無い。
今、此のハレの日を楽しむのだ。

「幸多かれ。騒いで、この夫婦を祝おう。」

水色の空を仰いで言祝いだ。







「うわあ、肉が一杯じゃ!」

シャサは眼を輝かせ、すぐに眼の前の皿を平らげた。
フレイリーは自分の顔を手で覆った。

「どうした?食べぬのか?」

「御免なさい。済みません、申し訳御座いません、陛下。行き過ぎました。」

よく判らぬ謝罪をされた。

「此れからは程良く精の付く物を出させますから。ここまで飢えていらっしゃったとは。」

セレンに言われたことが、身を持って堪えたらしい。

「いや。一遍に贅沢な食が味わえたから嬉しいのじゃ。氣にするでないぞ。」

「不憫な。王なのに。」

フレイリーは深い贖罪の溜め息をついた。
質素倹約にさせたのは女王なのにと、シャサは可笑しくなった。

「シャシャはもっと喰わねば。」

ヤンも笑っていた。

「肉付きの良いおなごにならねば、骨が当たって痛いぞ。」

「骨が当たる事態にならねば良いではないか。」

「いや、それは、な。」

ヤンは苦笑した。

「実際、シャシャはもっと食べてもいいのだぞ。シャサの具合ならば、太りはしない。」

サタの言葉に、フレイリーはそっと自分の皿をシャサの前に出した。

「フレイ、其方が倒れるわ。食べよ。」

シャサはまた、それを返した。

「体格の良い其方が食べぬとな。」

「―此れ、女王陛下に同じ物を持て。」

フレイリーは給仕に二皿目を頼んでいた。

「フレイ。お替わりは全ての品を食べ終わってからだと常々、其方が言うのに。」

「今日は特別です。祭りのようなものですから。」

「うわあ!」

出てきた新しい皿に、シャサは感激して眼を潤ませた。
烤鴨が先程よりも多く載っていた。

「フレイ。」 

「そうでしょう。これは私の失態です。」

女王の無邪氣な様子に半ば焦っているヤンはフレイリーの顔を見る。
フレイリーは額に手を置き、返した。

「申し訳ありません。これから公主には、もう少し精の付く物を出させます。」

シャサに、というよりもその場の全ての者に謝罪をしていた。

「質素も大切なのだが、女王あってこそのこの國。シャシャが健やかでいられることが民の歓びでもあるな。」

「はい。肝に銘じます。」

サタの助言にフレイリーは恥ずかしそうにしていた。
然しシャサは普段、幾ら何でもそこまでの量を食べはしない。
今日は何故かとても食がすすのだ。
シャサ自身、それを不思議と思っていた。
慶びごとの興奮なのか。

もしや。
フレイリーの血を大量に飲み込んだからやもしれぬ。
この男の性質の影響を受けたのかもしれぬ。
そんなお伽噺のような思考に、シャサは苦笑した。

いや、フレイリーの全てを受け入れる、と誓ったのだ。
シャサは急に熱くなった。

「フレイリー、もう良いから食べなさい、其方も。好きであろう?」

「御意。」

命(めい)により、フレイリーは口に運び出した。
長身で体格も良いだけあってか、フレイリーは量を多く摂るのだ、毎回。

この男の血を受け入れた、この身が熱い。
フレイリーの血がシャサの体内に巡る様子を思えば、体内が熱くなる。

この後に続く、室内に香ばしい香りの漂っていた仔羊の丸焼き肉も、シャサは完食した。
流石にフレイリーも驚愕していた。

「シャシャ、そのお小さい御身の何処に入っていくのですか?」

「判らぬ。しかし、今日は食せるのじゃ。」

葡萄酒と共になので食が進むというのもあるだろう。
幸福な氣持ちの真っ只中にいた。

饅頭を食しながら、楽しそうに両親と会話をしているキーンとマニーを見やる。
マニーは地方の役人頭の家の出身だ。
五歳のときに家を離れ、以来シャサに仕えているので、両親といってもその仲は何処か余所余所しさがある。
マニーは一入甘えたい時期に両親に甘えられなかったのだ。

そうさせたのは他意的とはいえ間違いなく自分だが、だとしてマニーに寂しさは有れど、シャサのお付きの侍女になれて本懐なのだろう。

何時でもこのマニー、シャサさまの為に命を遣わさせて頂きます。

侍女としての最後にも、マニーはそう女王に告げた。
形ではない、それがマニーの本心であり、歓びだ。

仕える近辺の者は、皆そう言う。
陛下の御為ならば命も投げ打つのが喜びと。

無駄に命を散らす訳にはいかぬが、確かに國王とはそのような存在でなければならぬのだと、シャサは理解もしている。

であるならば、王も民の為に命を遣うのだ。
恋が叶わぬとて、我は喜びの中に一生いられるのだ。
フレイリーは生涯、共に在る、と誓ったのだから。
其れが故に、フレイリーの妻が寂しい想いをしても、だ。

今はただ、この婚礼の歓びの中にいよう。
楽師たちの奏でる楽しげな音色に、シャサは身を小さく揺らす。
建鼓や笙、笛、編鐘の大きな音に踊り子が舞う中、キーンとマニーも中央に出される。
二人で手を繋ぎ、楽しそうに踊り始めた。

ヤンが意を決したように剣を腰から外して立ち上がり、シャサの横に来て右手を差し出した。

「踊って頂けませんか?」

女王が御座する場で女王が踊らなくては、新婚以外の他の者は出にくい。
然し、女王を踊りに誘うなど、位の高い男でなければできぬ。
このホウの國ならば、三騎士かサタくらいだろう。

だから、ヤンが女王に踊りを申し込んだのは妥当なのだ。
フレイリーは決してこの場で、シャサを誘わぬだろう。

「そうだな。」

シャサも微笑んで立ち上がった。
ヤンの手を取る。
硬い手だ。
重い剣を持つ、騎士の逞しい手だ。
シャサはその手を握った。
手を繋ぎ、祝いの曲で笑いながら踊った。

「失礼。」

ふわっとシャサの身体が急に宙に浮かんだ。
ヤンに摑まれた両手から足が浮き、くるくると小さな身体が廻される。
拍手喝采と歓声が沸き起こった。

「もうっ!」

地に降ろされ、ヤンにしっかり腰を抱かれたふらつくシャサは、怒ってヤンの胸を叩いた。

「失礼しました!」

然しヤンは面白そうに笑っていた。

「目眩がします。」

「しっかり捕まっていて。」

仕方無しにヤンに身体を預ける。
この楽しい宴の場だ。
誰しもが女王と騎士の余興に喜んでいる。

「シャシャが、こんなに軽いとは思わなかった。」

「飛ばされるかと思いました。」

「それはそれで面白い光景だな。」

面白がられても困るが、ヤンは決して手を離さないだろう。

「シャシャ。」

「なんだ?」

「こうして、この場でシャシャと踊れるのは、俺だけです。」

「そうだな。」

それは確かなのだ。
座っていた席を見やると、フレイリーの姿が消えていた。
何処に行ったのやら。

「即ち、ホウの中で、俺が一番、婿に好都合だと思います。」

「かもしれぬな。」

大臣たちが婿として推してくるのはフレイリーだろう。
事実、フレイリーは女王の片腕だ。
故に、フレイリー自身が名乗れば、婿としての地位は容易に確立できる。
父の前國王も亡き今は。

それでも、フレイリーはそうしないだろう。
現実的にそうにはならないと知っているし、女王の意志を尊重しているからだ。
平和な世であれば、結ばれた筈の二人でも。

我に今できることは、國民の為に生きること。
國の力を高めること。

女王が婿を得ないといけないのだから、もう、友好國の血を求めるしかない。

「だが、やはり、それは無いのだ、ヤン。」

他の者に聞こえぬよう、ヤンの腕の中で口にする。

「だとして。」

苦しそうな重い声が聞こえてきた。

「簡単に、そうですか、と諦められるものではない。」

恋は身を狂わせる。
想いは身を焦がさせる。

「そうだな。」

今このときに想うのは、フレイリーの血の味と、緋の剣の脈打つ波動だ。

フレイリーの姿が見えた。
宴席の端で、壁際に腕を組んで仁王立ちをしていた。
女王の警護をしているのだろう。
眉根を顰めた顔付きで。

血交をして、そのときめきが増えた。
隠していかねばならぬ想いなのに、より強まってしまった。
我が秘密の良人。
シャサの体中でフレイリーの血が沸き立つ。

「ヤン、今は楽しもうぞ。」

「ええ。」

ヤンは笑ってシャサの手を握った。
この先がどうであろうと、祝いの宴席ではただ慶びの渦にいる。

踊っている中、シャサの脚がキーンにぶつかった。
四人とも笑った。
ヤンとキーンはふざけて背でぶつかり合いながら踊った。
ただ、楽しかったのだ、その戯れの一時は。
この婚礼の日に、誰しもが喜んでいた。







「ああ、楽しかった。」

椅子に倒れ込んだシャサは、勢いで沓を投げ脱いだ。

「随分、酔われましたな。我を忘れたかのように踊るからですよ。」

フレイリーは屈み、沓を直して並べている。

「あれだけ皆(みな)が笑んでいる中、其方だけだぞ。苦虫を噛み潰したような顔で辛苦を醸し出していたのは。」

「申し訳御座いません。平時から、このような顔ですので。」

眼鏡のフレイリーは立ち上がり、表情を変えぬままシャサを見下ろしていた。

「何処に刺客が現れぬとは限らぬがな。深刻に厳しさ(いかめしさ)を漂わせていられたら、皆の緊張感が抜けぬわ。あの場で緋の騎士がふざけながら踊ってみろ。皆もより楽しめたろうに。」

「命であれば次の機会に、そうしましょう。」

フレイリーのそんな姿をシャサは頭に思い描いて笑った。

「次、とはいつだ?」

「凡そ女王陛下の婚礼の宴でありましょう。」

シャサの婚礼の日に、フレイリーは馬鹿踊りをしてくれる訳だ。

「其れは楽しみにしておるぞ。」

「御意。」

花茶を注いで出してきたハヤの肩を、フレイリーは優しく叩く。

「ハヤは下がって宜しい。陛下と政(まつりごと)の話がある。」

「承知致しました。」

ハヤは頭を下げてから、部屋を出て行った。
芳しい花茶の香りが漂っていた。

「其れで?フレイならば、どの王子を迎え入れる?」

フレイリーはシャサの隣りの椅子に座り、眼鏡を外して卓に置いた。
戦闘以外で眼鏡を外さないし、普段、人前でその様に寛ぐことはない。

「シュイ國の第三王子、若しくはムウ國の第二王子を。」

「そうだな。」

「御人柄を図るに、文(ふみ)を交わしましょう。間者も入れますが。」

「お互いさまじゃな、其れも。」

向こうの國だとて、平時の女王の姿を探るのだ。
だからこそ、人の眼の前で氣を抜けぬ。
シャサは茶杯を手に取り、鼻に近づけその香りを楽しみ、口にした。

「シャシャ、その襟の龍、一体のみ異なる龍がおります。」

「間違い探しか?」

突然、フレイリーはそう告げてきた。
髪を後ろでまとめてある金具を外し、パサッと柔らかい紅毛を手で拡げた。
男ながらに、その様が美しい。
赤毛が行燈の光に映える。

シャサはフレイリーの様を見つめてから、自分の襟をよく見た。

「此れ、か。」

一つ一つ龍を見ていかねば、誰も氣付かないだろう。
其れは隠れた左の胸元に居た。

「双頭の龍……」

何の違和感も無く、其処に存在していた。

「私の胸にも。」

フレイリーの長袍の胸元には、よく眼を凝らさねば見えぬだろう刺繍があった。

「一体の龍に、二つの頭。私の誓いです。」

「まるで、わたくしと其方のようだな。」

シャサは可笑しそうに笑った。

「御意。」

「こんな仕掛けを。お前は。」

「暇人、とおっしゃいたいのでしょう?」

誰も知らぬ。
誰も判らぬ。
ふたりしか、この約束は見えぬ。

「お前は、」

涙など見せぬ。
五年前の奇禍の知らせにも、動かない身体の帰還にも葬儀にも泣かなかった。
然し、涙が止め処も無く落ちていった。

「シャシャ。」

フレイリーの指が、その涙を掬った。
自分の口に入れ、そしてまた手がシャサの頬を覆った。
顔が近付いてくる。

「失礼を。」

シャサを大きな両手が包んでいた。
間近にフレイリーの顔があった。

「よく見えませんので。」

紺碧の眼が、すぐ傍でシャサを捉えている。
フレイリーは遠い処は視力が良いが、人が会話する程の近い処はとても見えにくい。
眼鏡が無いと極接近しなければ、眼の前の物がぼやけて見えぬのだ。

その唇が、シャサの右眼の下に当たった。
暫くそのままで動かなかった。
涙を受けるように下唇が動いた。

「失礼しました。よく見えませぬので当たってしまいました。」

つっと離れ、フレイリーはそう囁く。
もう一回、唇が寄ってきた。
シャサの眉間に、唇が置かれた。
何かを語るかのように唇が動いていた。
つっと鼻筋を移動し鼻頭を押し、顎に飛んだ。
唇が顎を挟んできた。
シャサの顎が上がる。

シャサはフレイリーの背中に手を廻していた。
熱い身体だ。
この身体を、とても、もっと知りたい。

そのまま首筋に唇が流れてきた。
身体中の血が沸き立った。

「あ……」

声が自然と出た。
肌の官能で声は勝手に出るのだと、シャサは知った。

バッと勢いよく離された。
その声に我に返ったというよりも、限界を知ったかのようにフレイリーは自分の口を手で押さえていた。
赤い顔を逸らして、眼鏡を掛けて立ち上がる。
腰から緋の剣を外し、壁に立て掛けた。

「シャサ。」

見下ろしてくる。
照れている顔だと判る。
フレイリーのそのような顔は、そう見たことが無い。

「踊って頂けますか?」

右手を差し出され、シャサは微笑んで、その手を握った。

「ええ。」

頷いて、手を引かれて立ち上がる。
曲は無いが、二人は両手を繋ぎ見つめ合って踊っている。

「楽しいな。」

「とても。」

「だから、フレイも皆と踊れば良かったのだ。」

「私は、あなたさまと今ここで踊れて、嬉しく思います。」

「―わたくしも。」

誰にも知られぬ、こうして二人で踊られればよい。
シャサは額をフレイリーの胸に付けた。
身体は熱く、鼓動が早鐘の様に早かった。

「あなたは知らないでしょう。」

その声に、シャサは顔を上げる。
フレイリーの腕がシャサの腰をしっかり包んだ。

「あなたのこの御身に、私がどれ程に欲情しているかと。」

直接的な言葉にシャサは顔を赤らめ、フレイリーの苦しそうな表情を見つけ、またフレイリーの胸に顔を付け、隠した。

「だから到底、人前でなど、あなたと踊れぬ。」

感情の吐露が抑えきれない。
表情に顕れてしまう。
愛しい、この御方への氣持ちが露呈してしまう。

「この、お小さい御身にその氣になる男とは、私のことです。」

苦しげに本音を置いてきた。

「もう、ずっと、あなたを想って私は。他の女人で誤魔化してきました。」

シャサの後頭部に手を置き、顔を上げさせる。 
その殺意にも似た眼の光が、シャサに降り注ぐ。

「だからこそ、もう、お前以外の女には触れぬ。」

誰も知らぬ婚礼の儀を二人で挙げた。
眉間に印を付けた。
この男の妻だという証を。

「お前も男に触れられてはならぬ。」

「はい。」

ヤンに触れられた。
其れを責めているのだ。

「誓いを破るのか?」

「いえ、破りませぬ。」

「お前は誰のものだ?」

珊瑚の簪を外され、黒髪が拡がる。
髪に指を入れられ、更に頭を押さえられた。

「あなたのものに御座います。良人。」

その鋭い眼に眼を合わせ、声を震わせ誓った。

「そうだ。」

眉間に弾力を感じる。
熱い、湿った唇が置かれている。

「お前は俺のものだ。」

「はい。」

「他の男が触れるなど、許さぬ。」

「はい。」

其の、眉間にある唇の感触に身を委ねる。

「俺だけだ。」

「はい。」

熱しそうな身体。
怒涛の如く押し寄せる感情。
自分がこんなにも女だということを思い知らされた。
フレイリーに征される。
それが悦び。

「誓え。」

フレイリーの左手首をシャサの唇に置かれた。
傷はもう、瘡蓋になっていた。
そこに添い、愛おしく唇を動かす。

「わたくしの全ては、あなたのものです。」

声が震え、唇も震え、掠れた。

「お前は実に……」

更に熱い息が顔にかかった。

「愛らしい、制圧したくなる。」

その言の葉に、身の内から爆発しそうになった。
シャサは口を大きく開け、フレイリーの左手首を唇で挟み込む。

「お前は素直だ、俺の命(めい)には昔から。」

そうだったかもしれぬ。
普段、柔軟な喋り方のフレイリーがきつく口調を変えると、シャサはただ素直に反応する。

「お前が只のシャシャであったら、俺たちは似合いの睦まじい夫婦になれたな。」

然し、其れは有り得ないのだ。

「生涯、ここからお前を離さぬぞ。」

フレイリーは手首にシャサが付いたまま、左手を自分の左胸に当てた。

「俺もここから離れぬぞ。」

右手をシャサの襟の内に入れてきた。

「あ……」

「誓え。」

フレイリーの、そのままの手が熱い。
シャサは震えていた。

「わ……たくしは、決して離れませぬ。我が良人。」

「その誓い、了承した。」

「離さないで下さいませ!離さないで!」

思わず氣持ちが昂り、泣きながら縋り付き懇願していた。

「離さぬ。」

フレイリーは息を荒くして、左手でシャサを強く抱きしめてきた。

何があろうと、互いのここから氣持ちは離れない。
其れがふたりの婚礼後、夫と妻の交わりの儀だ。

誰も知らなくてよい。
此れはふたりの蜜夜。

暫くそうしていて、互いに震えていた。
もう、こんなには触れ合えぬことを知っていたからだ。

すっとフレイリーの手がシャサの襟から抜けてきた。

「此れ以上は抑えられぬ。」

身体をシャサから離した。

「あなたを無体にしたくなる。」

女王を清らかな身体のまま、婿を迎えさせる。
それがフレイリーの当然の使命だからだ。
シャサは何も言えず、自らの腕を抱いた。

「わたくしは此の衣を生涯大切にします。」

シャサは身に着けている朱の衣の血の花弁に触れた。

「あなたは、わたくしの龍。」

死ぬときは、この婚礼衣装を着けて逝く。
それが証。
生涯、胸の中で添い遂げた証の代物。
涙を流しながら、そう心の中で訴えていた。

「私の龍。」

微笑んで、フレイリーはシャサの黒髪を撫でた。
そして歩み、シャサに背を向ける。

「お休みなさいませ、陛下。」

「お休み、フレイリー。」

叶えられるものならば、叶えたい。
今、このときから時間を動かしたくはない。
しかし無情にも時は止まらず、ただ流れていく。

小さくなっていく沓音を耳にしながら、シャサはその場に崩れ落ちた。

あれは、わたくしの龍。
わたくしの半身。
決して離れられぬ。

誰にも告げられぬ想いを、シャサは胸に閉じ込めた。

この日からシャサの身は徐々に、女性(にょしょう)らしく丸みを帯びてきた。
穢らわしく思えていた大人の女の身体に為ることに悦びを得たからだ。


続く


…………………………………………………




第一章終わり、のような感じです。
起承転結の、起が終わったのですね。

はあ、これからようやく、念願の剣の話を書けます。
本題に入れます。


サタ先生もセレンも、まだこれから、人となりが出てきます。
この二人の名前もしっかり、変わりなく。
ずっと忘れていないのに、何故、蒼の騎士だけは…(以下略)。


フレイリーの隠れ野獣ツンデレなキャラは、わたしの中で、このお話ができた二十年前のこの頃から育っていったのでしょうね。

やがて、チカという強烈なキャラが育まれる。


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お読みくださり、真にありがとうございます。

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