朝来みゆかの「あさごはん、たべた?」

恋愛小説やシナリオを書くお仕事をしています。
三度のご飯よりアイドルが好き? でも本はもっと好き!
記事内容に無関係の宣伝コメントは削除させていただきます。


テーマ:
「お届け物でーす」
 
 まだ空気の冷たい三月、正義は手作りのお菓子を持って更紗の部屋を訪ねてきた。
 そこまでは想定内だったけれど、そのお菓子というのがふるっていた。
 バウムクーヘン。木の幹に似たケーキだ。
 スクールに通い、お菓子作りをたしなむ友人や同僚を二、三人思い浮かべる。こんな本格的なものを作る子はいない。
 薄い層が重なった年輪状の模様をどうやって生成したのか訊ねると、ラップの芯を使って、こうやって巻きつけて、と身振り手振りで教えてくれた。
 
「それでこの空洞ができたのね。おもしろい」
「もっと細い芯があればそれっぽくなったと思うんだけど」
「どうやったのか全然わからない。オーブンの中で回すとか無理だよね、紙の芯だと焦げちゃうだろうし」
「そのあたりは秘密にさせて」
「……クックパッド?」
「そう」
 
 照れたように笑いながらうなずく。
 更紗は二人分の小皿を出し、扇形に切り分けたケーキを並べた。
 重なった層の厚さが均等でないのも手作り感があっていい。味は甘すぎず、素朴でおいしかった。
 
「製菓学校に入ってたら、今頃は一流ホテルのパティシエだったかもね」
「んー、料理人とかお菓子作るひとになりたいって思ったことはないんだよな」
「そうなの?」
「うん。作るのはあくまでも自分の腹を満たすためっていうか、パーティーとか、他のひとのために用意するのが好きなわけじゃないし」
「でもわたしには作ってくれるよね」
「それは、まあ」
「しかも見映えにもこだわってるじゃない?」
「そうかな。それほどでも……あっ」
「どうしたの?」
 
 正義がしまった忘れてた、と鞄に手を突っ込む。
 
「バウムクーヘンの空洞に仕込んでおけばよかった」
「え、何、何?」
 
 取り出したのは手のひらサイズの白いパッケージ。
 
「はい、どうぞ」
「それもくれるの?」
「うん」
 
 パッケージの表面に記された銀色の箔押しは更紗の知らないブランド名だ。
 期待に鼓動が速くなる。
 三月に入って間もない頃、「さっちゃんって金属アレルギーないよね」と正義が確認してきたのだ。
 他に花粉やら食べ物やら、アレルギーの話を続けて、何でもないふりを装っていたけれど、更紗にはぴんときた。
 ホワイトデーには、身につける工芸品をくれるつもりだと。
 もしかしてもしかするかも、と「その言葉」を言われたときの返事をお風呂で考えた。
 はい、よろしくお願いします……無難。ありがとう、お受けします……ちょっと固いか。うん、よろしくね……多分これが一番自分たちらしい。
 湯船に漬かったまま、左手をしげしげと眺めてみたりもした。
 自社製品の指輪を買ったことはあるけれど、プレゼントでもらったことはない。
 顔を引き締める練習も抜かりなく、神妙な感じで受け答えするイメージトレーニングも万全にした。
 どきどきしながら包みを開くと、転がり出てきたのは、一対のピアスだった。
 
「あ……綺麗。かわいい」
 
 ハート形の台座にいくつものガラスストーンが埋め込まれた華奢な銀色のアクセサリー。
 そっとつまみ上げてみる。
 透明のガラスは光の加減で色が変化する。ポップだけれど大人っぽく、派手なわけではないけれど存在感がある。
 ピアスか……嬉しいことは嬉しい。予想と違っていただけで。
 考えてみれば指輪のサイズは聞かれていないのだから、そんなサプライズがあるわけがなかった。
 二週間ほど継続していた早とちりにあきれながら、つけていたフェイクパールのピアスを外して、新しく正義がくれたものにつけ替えようとすると――
 
「貸して」
 
 正義の指がピアスをさらう。
 
「鏡がないと難しいんじゃない?」
「そうね」
 
 自分のピアスホールの位置は憶えているけれど、やってくれるというのでおとなしく従った。
 くくっとわずかな抵抗を感じ、小さな穴にポストが通ったのがわかる。
 左に続いて、右も。
 耳たぶの裏からキャッチをはめて、正義が息を吐いた。
 
「緊張したー……」
 
 ピアスつけるのってちょっとエロいよね、とかなり本気っぽくつぶやく。
 
「息止めてたの? 大丈夫よ、もう安定してるから、膿んだり血が出たりすることもないし」
「いやーまぁ、そうかもしれないけど」
 
 いつかこの指に指輪をはめてくれるときも、そんな風に息をつめるのかしら。
 空洞を埋めたり、より大きなもので包んだり、そんな繰り返しで自分たちは日々をつむいでゆく。
 正義がほっとしたときの顔が好きだと、あらためて思った。
 
「似合う?」
「うん。選んでよかった。さっちゃんの会社のやつじゃなくてごめん」
「いいわよ、たまには違うのもつけたいし。見てくるね」
 
 洗面所の鏡に映すと、髪をかき上げたときにきらめく光が綺麗だった。
 これなら職場にもつけている。どんな服にも合いそうだ。わかってくれているなぁと嬉しかった。
 
「正義って小さい頃、何になりたかったの?」
「言わなかったっけ。バットマン」
「それは、わりと普通……? でもないような……ちょっと玄人好み? 完全に亜美さんの影響よね」
「子ども向けの戦隊モノとかは見なかったからさ。そういうのを見てたら、そっちに行ってたと思う」
「関連グッズもいろいろ出てるわよね」
「さっちゃんは? 何になりたかった?」
 
 問われて答えにつまった。
 幼稚園の思い出アルバムに綴られた夢。
 大人になったらなりたいものとして「およめさん」と更紗は答えた。
 でも今それを挙げるのは、あまりにもあざとい気がする。おつき合いしている関係で、更紗は適齢期と呼ばれる年齢で。
 
「何だったかな、忘れちゃった」
 
 忘れたふりでごまかそうとしても、正義は逃がしてくれない。

「それこそケーキ屋さんとか、お花屋さんが人気なんじゃない? 女の子のイメージ」
「そうね、幼稚園の先生とか。多分わたしもそこらへんだったんじゃないかな。そんなに奇抜な夢は持ってなかったと思う」
 
 ちなみに美少女戦士が流行ったときには、既に小学生だった。
 
「当然だけど、知ってる以上の職業は思いつかないよね。俺、バットマンの次は科学者だったな。脈絡がない」
「さすが、ついこの前までランドセルを背負ってたひとの言葉はリアル」
「大げさだなぁ。十年近くも前だよ」
「わたしはその頃、もう成人してたもん」
「あ、禁止事項破ったな」
 
 唇をふさがれた。
 年齢差の話はしないと約束をしたけれど、つい口に出てしまう。その度に罰としてキスをされるのも恒例だ。
 やがて離れた二つの唇から、ふんわりと甘くバターが香る。
 
「また思い出したら教えて、子どもの頃の夢」
「……思い出したらね」
 
 世の中にこれほどたくさんの職業があるとは知らなかった頃。手の届く世界は小さくて、未知の世界はどれだけ広いか想像もできなかった。
「およめさん」は最も身近な大人の例で、居間に飾られた両親の結婚式の写真を見て、母親に憧れた幼い日の自分はきっと幸せだったのだ。
 気恥ずかしくなるひそかな夢は、多分いつかかなう。正義が「おむこさん」になりたいと願ったときに。
 そしたら教えてあげよう。昔の夢。今思い出した、と言って。
 耳たぶに触れると、新しいピアスは既に更紗の体温になじんでいる。
 
 
ゲットHeart
わたしも最近、ピアスを買い足しました。(上の画像のではないよ。) アレルギーなので、純チタンのフックタイプに限ります。金銀、両系統そろったのでピアスライフ楽しむ~。
 
  電子書籍『いびつなハートの包み方
編集部による作品紹介は クリック こちら ブログ
 
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元気に冬を乗り切った!

まだ寒いけれど、春だなと感じる瞬間が多くて嬉しい。

と思っていたら、家族が歩行中に突風に飛ばされて怪我ガクブル 広範囲の擦過傷絆創膏

 
他人の傷の手当てなどしたことなかったわたしですが、

一気に看護経験値を積みました。(大げさ)

最近は怪我しても乾かさず、体液で湿った状態を保つのね。湿潤療法ができるのが売りの絆創膏は確かに優秀でした。しかもフィルム部分は防水。

 

皆さんはどうですか。
風に飛ばされちゃう方は少ないと思いますが……
花粉症の方、症状が軽く済みますよう願っています。

 

青空

最近はお仕事で初めての場所を訪ねる機会が多く、

冬眠していた動物が穴から出るときの気分を思い浮かべてがんばっております。

 

そして公私ともに打合せが続いています。

派遣、執筆のお仕事だけでなく、ボランティアも。

先方の話を聞いたり、こちらが喋ったり(もっとおもしろいこと言いたい…)

とにかく「ひとと会う」のが楽しい。

 

でもほとんどの会議がそうであるように、

会議=仕事ではないわけです。

楽しい打合せだった→ハッピー! で終わっちゃ駄目なのです。
相談して、問題点を明確にして、何かを決めて、そこからどうするかが重要なわけです。

 

……。

遠くないうちに形にできるものも、まだまだ先の企画もありますが、

そのどれもが待ち望むひとのところに届き、

皆さんを笑顔にする結果となりますように。

 

音符

ツイッタでも少し書いたとおり、川村結花さんのライブに行ってきました。約一年ぶり。

ご本人のブログ記事はこちらハート 客席写真にわたしも写ってる赤

 

結花さんのこと、とてもリスペクトしてます。

わたしの名前「みゆか」を漢字表記にするときは「未結花」にしようと決めているほど。

どうですか。朝来未結花。未来がひっくり返ってるな。バランスをとって、「朝来」を「あさご」にした方がよいかしら。

あさご未結花。悪くない字面だけど、自分の名前だとは思えないな。

ちなみに男の子を授かったなら、「俊」と名づけよう、きっと真面目で努力家に育つだろうとありえない妄想をしたことがあるくらいに染谷も好きです。

染谷と結花さんがジョイントライブやってくれたら私得なんだけど。

(ピアノ弾き語りのミュージシャンなら誰でも好きなわけではないので、お二方は特別……Wハート

 

松たか子さんに提供された『コイシイヒト』から始まったこの日のライブ、

『朝焼けの歌』や、桜の季節の『ビューティフル・デイズ』も聴けてごちそうさまでした。

 

カバー曲も多く披露されました。

「カラオケではなく」結花さんの歌になってましたよー。(オリジナルを聴いたことがあったのは『サヨナラCOLOR』だけなのだけど、とにかくどれも結花さんだなぁと…。)

『ラルゴ』(上田現)

『サヨナラCOLOR』

『愛の仕事ミュージシャン』

『国立』(芝草玲)

 

アンコールで芝草さんもステージに上がっていらっしゃって、

連弾での『わたしたち~歌にせずにはいられない』はぐっと来ました。ぐぐっと来ました。

 

結花さんと芝草さんの意見が一致する点として、

「他人からの評価ではなく、自分で“これはいい”と思える曲がひとつできたら、そのとき、他の状況がどんなにひどくても、一週間は生きられる」んだそうです。

一曲で一週間か。

気持ちわかるなぁと思った。


わたしも、その日に書いた小説の中に、“書けた~”と思える部分があれば、

(もちろんすべての文章を最低合格ラインにしながら執筆するわけですが、そういう喜びは滅多にない)

小さな達成感にじーんと嬉しくなって、

他のことは耐えられちゃう、というか耐えてる。


不本意なプライベート、まだ続いてるんですよー。

まぁ、今年いっぱいで終わらせるので、それまでの間、自分で合格だと思えるフレーズをたくさん生み出して乗り切るつもりです。

自分の力は自分で作る。創作者の自家発電。

 

あと他にも結花さんがMCで、

「世の中こんなにたくさんいい曲があるんだから、もう自分が作らなくてもいいんじゃないかと思うときもある」というお話をされていて、

これもあるあるだよね。

読書楽しい。

 

お茶

担当編集者さんと最近読んだ本の話をしたとき、熱く語ってしまい、

「ぜひお手紙を(その作家さんに)書いてさしあげてください」って言われたけど、

人気作家さんはお手紙やプレゼントを開封する暇も惜しいだろうし、

わたしなんかが書かなくても…と思うし、

間違いなく真夜中のラブレターになりそう、投函した後に恥ずかしくなって後悔するに決まってるから、書かない方が精神衛生上いいわという結論。

 

好きな相手に直接向かっていって、ばしっと告白するよりも、

安全地帯できゃいきゃい恋心を打ち明け合ってる方が楽しい女子校育ち。(女子校関係ない)
 

先日、とある読書会に参加し、『蜜蜂と遠雷』を皆さんと語りました。幸せでした。みんなで賞賛できるから嬉しいわけではなく、同じ本を読んだひとたちが集まっている場が幸せに満ちていた。
明石ぃぃぃ……これは明石の物語だよ(感涙)。あ、えいでんちゃんも好きよ。

 
今はWシリーズの新刊を読み途中ですが、『私をくいとめて』に手を出しかけていて、額賀澪さんものぞいてみたくて。
お仕事資料として読んだ本(担当さんから参考にせよと指令があったりする)はタイトルを出せないので、このところ話せていませんでしたが、純粋娯楽として読んだ本の話は再開していこうかな。
本が好きで、小説が好きで、それが自分の出発点なわけだし、ブログで好きなものの話をして何が悪いんだ。一人で考え過ぎるけど、そもそもこのブログ見てるひとの数も(
 
あぁ、でも読んだ本について語ると、語らない本=読まなかった本と受け止められるんじゃないかと思って、それも嫌なんだよね(笑)。面倒な性格やで。
 

村上春樹先生の新作も近いうちに読むことになると思う。

『鎌倉香房メモリーズ』が完結間近とのこと。まだ途中巻追いついていないので、今月はそれも必須!
 
虹
画像もなしにだらだら続けてきましたが、ブログってこんなんでいいんだっけ。
ブログで話してほしいことがあったら教えてください。
……って、手紙ひとつ書かないわたしが言ってもブーメラン。そもそもこのブログ見てるひとの数(
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チョコ
 バレンタイン商戦の最中なのに、ぽかっと時間が空いた二月初旬の午後、職場でチョコレート会議が開かれた。
 トレンドに敏感な女子(自称大いに含む)が多く在籍する会社ならではの、バレンタインデーに向けた情報交換だ。おしゃれ番長の華が招集した。
 男性社員や関係取引先に対する施策を各々発表し、問題がないと判明したので散会。
 その後、広告宣伝室のいつものメンバーで、個人的な購買計画を述べるフェーズとなった。
 
「今年はエリカのトリュフにします。前にいただいたのが優しいお味でおいしかったので、食べさせてあげたいなって」
 
 一番年下(ただし既婚)の深冬が言い、華が首を傾げる。
 
「ダーリン用よね? 自分用は?」
「え、華さん、ご自分に買うんですか?」
「もちろん。ピエールマルコリーニのタブレット、がんばってるご褒美としてね」
 
 更紗は口をはさまず、耳と目だけを参加させる。
 
「ほええ……二千円以上しますよね……」
「だからいいの。普段は贅沢に思えるようなことを思いきってやっちゃう。わたしたち、ちゃんと仕事して稼いでるし、それくらいしてもいいと思わない?」
「確かにインスタ見てると、プチリュクス? な投稿が多いですよね」
「ま、本当の贅沢は他人の目を気にせずに、自分のためだけに時間もお金も使うことだけれどね」
「深いです先輩……」
 
 しみじみと感じ入った深冬が、そっと切り出す。
 
「やっぱり男のひとって本音では手作りが嬉しいんでしょうか」
「作るって言っても、製菓用チョコを溶かして固めるだけでしょ? ありがたがるのは十代の青少年くらいじゃない? 後は一周回って四十、五十になったら、ぐっと来るひとも中にはいるかも」
「四十代……一応まだですね」
 
 深冬の配偶者であるところの八坂専務はダンディー一直線だ。そのうち『MEN'S EX』からお呼びがかかるんじゃないかと更紗は思っている。
 
「自分用も、旦那様用も、間違いのない高級ショコラティエで選ぶのがいいと思うわ」
「そうします」
 
 二人は他にも、あれがいいこれがいいと盛り上がる。
 現物が目の前にないのに、想像だけで熱くなれるのがすごい。
 当初は告白に結びついたギフトだったのに、女性たちがチョコレートそのものに熱狂するから、このイベントは日本に広く定着したのだと思う。
 
「更紗さんはどうするの?」
「まだ決めてないんです。お二人の意見を参考にしようと思って」
「順調でよかったわ。泣かせちゃ駄目よ、仔犬系の年下くん」
「ええっ? 更紗さんのつき合ってる方って年下なんですか?」
「深冬さんもバーベキューで会ったじゃない」
「え……あっ、ああそうでしたそうですよね、失礼しました」
 
 弟だと思われていたのか。親戚の子に見えた? 聞くのが怖い。
 
「ただいまー。SABONのゴマージュでチョコの香りが出てたから、買ってきちゃった。太らないチョコって最高だと思わない?」
 
 いいタイミングで権藤室長が外出から戻ってきた。
 やがて議題はチョコレートから離れて、フォアグラのサンドイッチに到達。
 ふわふわのサンドイッチ用パンにはさまれた、濃厚なフォアグラ……食べてみたい気もする。組み合わせの妙。未知の食感を想像して、更紗は唾液を呑み込んだ。

チョコケーキ ピグ
 バレンタインデーの四日前が、正義の誕生日だ。
 二人にとって、「正式につき合った記念日」でもある。
 一周年に誕生日、バレンタインデーも控え、心が浮き立つのは確かだけれど気忙しい。
 献上するギフトがかなりの大荷物になったので、会社帰りにタクシーで正義の家へ向かう。
 正義は、まず誕生日プレゼントの包みを開封し、ボディバッグを取り出した。イタリア製で、素材は本革とナイロン。嬉しそうに背負って室内を練り歩く。小学生か、と突っ込みたくなったけれど、喜んでもらえて更紗も嬉しい。
 
「これは?」
「ケーキ。作ってみたの」
「え、さっちゃんのお手製? マジで?」
 
 目だけじゃなくて声もきらきら輝くんだから、若さってすごい。
 
「何の変哲もないガトーショコラよ、つまらないかも」
「お菓子は基本レシピに忠実に作るのが一番。わ、開けちゃうのがもったいないな~」
 
 ラッピングにも目を留めてくれるのが正義らしい。つくづく女心をくすぐるいい子だ。
 
「あとね、テオブロマでも買ってきた」
「え、どういうこと」
「間違いないらしいから」
「いやいや……散財しすぎでしょ」
「どっちがいい?」
 
 手作りガトーショコラと、高級ショコラのアソート。
 
「どっちか片方なの? あ~迷う! 迷うけど、やっぱりガトーショコラだな」
「じゃ、こっちは冷蔵庫入れてね」
「ちょっと待って」
 
 そう言って台所から正義が運んできたのは――
 
「まさかの、ガトーショコラかぶり……」
「気が合うよね、俺もびっくりした」
「嘘でしょ……。料理対決なんて、わたしが正義に勝てるわけないじゃない」
「対決じゃないよ」
「比べるでしょ?」
「それは……まぁ両方食べるけど」
「だから食べたら比べるでしょ?」
「なんだよー。作った僕が悪者?」
「違うって」
 
 正義の性格というか習慣はわかっているのだから、更紗の方が手作りを避ける手もあったのだ。
 ことあるごとに手料理を振る舞ってくれる年下彼氏とは、記念日前にスイーツ会議を開催して認識のすり合わせをする必要があるかもしれない。
 
「チョコ尽くし、楽しいじゃん」
 
 正義が浮かれているので、更紗もふてくされるのをやめた。
 
「キャンドルは立てなくていいよね」
「うん、さすがにそこまではいいや」
 
 テーブルの上に焦げ茶色のケーキが二つ。植木鉢から取り出した土の塊に似ている。土と違って、口に含めばほろほろ甘く溶けるはずだ。
 
「春みたい」
「ん? 春って?」
 
 種をまいて芽吹きを待ってるみたいだから、と指さしながら連想を話すと理解したのか、ああ、とうなずいた。
 
「正義といると、よく春みたいって思う。空を見上げてても、部屋の中にいても。この一年、ずっと春みたいな気分。頭のねじがゆるんでる」
 
 淡くかすんだ景色は目に優しく、かと思えばさざめく光に驚かされる。たまに感じるほろ苦さも、季節のご褒美のように深呼吸を誘う。ゆるやかに時を刻む常春の世界。
 
「俺、春好き。『桜咲く』っていい言葉だし。くうう……桜咲けー!」
「桜咲けー!」
 
 二人で頭上にこぶしを突き上げた。
 司法試験合格のあかつきには、とびきりのお祝いを用意するつもりでいる。……財力の範囲内で。
 自称「僕」じゃなくて「俺」の登場頻度が上がってきたのが、この一年の正義の変化だ。
 カカオの配合を増すように、ぐっと大人に寄ってきた。
 とはいえ肌はつるつるで、さすが二十一歳になったばかりと思わせる。
 これからも変わっていくんだろうなぁ。まだ老化じゃなくて、成長なんだろうなぁ。
 しみじみしていると、腕をつつかれ、大きなスプーンを手渡された。
 
「せっかくだからホールからやってもらってもいい? あーん、って」
「え? 切らないの? 食べさせてほしいってこと?」
「お行儀よく待ってる」
 
 賢い犬のおあずけのポーズ。
 にじみ出る大人成分をぬぐってしまえば、無邪気な甘えも健在で。
 まぁ減るもんじゃなし、それくらいやってあげましょう。誕生日の正義は世界の王様。更紗は従者として仕えるのみ。
 ケーキの端にスプーンを入れる。
 表面をさくっと崩す感触もかすかな音も、ふわりと香るカカオも、大好きなひとの唇までの距離も、やっぱり更紗の心を震わせる。
 正義が口を開ける。
 銀の鈴の音が聞こえてきそうな夜。
 何もかもが春めいている。
 
 
chocolate*apollo*chocolate*apollo*chocolate*apollo*chocolate*apollo*chocolate*apollo*chocolate*apollo*chocolate*apollo*
 電子書籍『いびつなハートの包み方
今月は「らぶドロップス誕生月キャンペーン」(割引)が各電子書店で行われています。
編集部による作品紹介は クリック こちら ブログ
 
バレンタインイベントを書く機会は多い気がするのですが(作中で二月をまたぐ場合、触れないわけにはいかない)、チョコレートがタイトルに入ったお話といえば……忘れてません!
 電子書籍『潮風はいじわるな恋の運命
収録作品の『十二年目のチョコレート』がそれです。
アオイ冬子先生のモノクロ口絵もついています(挿絵っぽい感じ)。
お試し読み&販売サイト一覧は クリックこちら ブログ
 
もろもろお読みいただいた皆様、どうもありがとうございます。
チョコ好きな方も、そうでない方も、Happy Valentineお茶
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既刊について、お知らせが3つあります。

 

1

各電子書店にて、1月30日~3月6日まで、

「らぶドロップス誕生月キャンペーン」が行われます。

 

恋愛小説レーベル「らぶドロップス」がスタートした2月を記念し、

昨年末までにリリースされた全作品(電子書籍)が割引になります。

 

私の作品は3タイトルありまして……

 

50%オフになるのが2作品、

『彼の手は秘密のスイッチ』 300円→150円(税抜)
『予定不調和な恋 秘密の彼氏とロマンス始めました。 600円→300円(税抜)

 編集部ブログ    編集部ブログ

 

昨年11月に出た最新作も、早くもお得、30%オフになります。

『いびつなハートの包み方』 500円→350円(税抜)
 
キャンペーン実施期間は、電子書店によって異なり、それぞれ3週間とのこと。
お得なバナーを見つけた際には、どうぞお見逃しなく。

 

2
Kindle Unlimite
au ブックパス読み放題
Yahoo! ブックストア
 
などの、各電子書店の読み放題サービスに、
『彼の手は秘密のスイッチ』
『恋するノベル』 (MilkyKissレーベル) の2作品が入りました。
 
定額でばりばりダウンロードするぞ!という方は、ぜひ探してみてください。
 
3
日本では読み放題サービスに入った
『恋するノベル』 (MilkyKissレーベル) が韓国で配信開始されています。
翻訳の手間を考えると、いっぱい読んでほしいなぁ…と思うわけなのです。
韓国にお友達がいらっしゃる方は、おすすめくださると嬉しいです。
 
以上お知らせでした。
 
今年はもっと著作を増やしていきますね~。
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門松

新しい年になりました。

 

去年(2016年)の初めに書いた原稿がお蔵入りになっていたのですが、

ちょうど今、生まれ変わらせているところです。

ちゃんと世に出れば、

一年前に費やした三ヶ月という時間が無駄ではなかったことになります。

(プロットは通ってます。わたしにとって初挑戦となる「コメディ風味」です。)

あ、でも本当は「世に出す」だけじゃ駄目で、

広く読まれたり、深く愛されたりしないと、お仕事としては失敗です。

 

四月以降を振り返ると、基本的にエンジンはずっと燃やして、

がんばっていたのですが……

期待していた結果を得られませんでした。

全力で書いたのに、届いてほしいひとに届かなかったというのは、

失恋みたいなものですね。

 

潮時かな……夢だけ見てきた日々を終わりにするべきかな、

その方が自分も楽に、幸せになれるんじゃないかな、と考えました。

今もその考えが頭から離れない日はありません。

 

ひとまず取りかかっているお仕事が二つ、

これを今年中に本の形でお目にかけられるとして(実現できればとても嬉しい)

最後だと思ってがんばります。

うまく飛べれば、「しゃがみ込んだ2016年」が「力を溜めた2016年」になります!

あのときの失敗(数々の失恋?)があったからこそ、

ここにたどり着けました、という過去への意味付けができます。

もしかしたら、さらに未来へもつながるかもしれない。今は想像しづらいけれど。

そう、今年次第で去年も来年も変わってくるってことです!

 

 

ハート

ハッピーでワンダフルできゅんきゅんしてエロくておもしろくて許せる恋愛小説って、

なかなか出合えない……。

(自分のお仕事しているジャンルでね。)

 

わたしの好みがとても珍しいのかもしれません。

あるいはリサーチが足りないのかもしれません。もっと読まないとなー。

 

既存作品に理想を見つけられないということは、

何を目指せばいいかわからないということでもあり、

霧の中、むしろ闇の中にいる気分です。

(昔々、初めて小説に取り組んだ頃は、燦然と光る憧れの作品がありました。もちろん。)

 

新作をリリースするときに、

これがわたしの理想です、一番大好きな世界です、と

胸を張って言いたいです。

書き手としての自分と、読み手としての自分、どちらもが満足する作品を、

ちゃんと出したいと思います。

(まぁ、100点を目指しても99点しか取れないから、満足できなくて、次を書くんだ…っていう作家としての在り方もよく聞きますが。)

 

新年早々ぐだぐだかよ…と思ったら、なんか前向きに締められそう。ハート

 

ほとんど誰も期待してないのは知ってます。

でも言います、今年こそは。

わたしに期待してください。

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