空白を満たしなさい [ 平野啓一郎 ]

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物語は死んだはずの主人公「徹生」がこの世に蘇り、自分が死んだ理由を探し求めることから始まる。死因は自殺だったと周囲から言われたが「徹生」には死ぬ直前の記憶がなく、自殺する理由も思い当たらなかった。世間から見て十二分に幸福であったし、自分もそう感じていた。自分は殺されたのに違いない。自分が何故死んだのか?死の直前の空白を埋める作業は苦しみを伴った。
現実には起こりえないシチュエーションが、現代の日本の平均的な30代既婚で小さな子供がいる男性の生活描写のなかに違和感なくとけ込む平野啓一郎の筆致がすばらしく一気に読み進んだ。心理サスペンス的な要素を含みながら「徹生」を殺した犯人を捜して物語は展開していく。しかしながら、これは娯楽的なサスペンスなどではない。

対面する人ごとに、その人との合わせ鏡のように映し出される自分の姿を、それが思いもよらぬ姿であっても、拒絶するのではなく、違った風に眺めることができたら・・・・

この少し前に書かれた平野啓一郎の'私とは何か 「個人」から「分人」へ'を小説として表したのがこの「空白を満たしなさい」だと、氏は説明している。詳しくは、この本も合わせて読んで欲しい。


私とは何か 「個人」から「分人」へ

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この本が私の十代のころに出版され、分人という考え方に触れることができていたら、私の社会人としての人生はもっと明るく、もっと自然体で社会へ溶け込むことができていたかもしれない。
上手く表現できないけれど、生きるのが少し楽になる物語でした。