緒方拳、石坂浩二、高橋幸治、平幹二朗、岩下志麻…大河ドラマの忘れられぬ「光景」として大河の歴史を刻んできた名優は幾人か名前は挙がっても、栗原小巻と来たら、やはりその別格感に、大河を愛する者達ならば、多くが同意してくれると私は信じている。

 

 ここ最近の大河ファン以外には改めて説明の必要すらないかと思うが、いま一度ここで、「栗原小巻」という存在を、大河の歴史とともに、どうしても振り返らずにはいられない。

 

 現在は舞台女優としてのブランドを確立している栗原さんが大河ドラマ初出演にして主役の座に就いたのが1967年。大佛次郎の原作をベースとした『三姉妹』にて、三女・雪(長女役・むらに岡田茉莉子、次女役・るいには藤村志保)を演じて以来、数々の大河の名作においてその凛とした存在感を映像として残している。

 

 

 1970年、『樅ノ木は残った』の「たよ」が放った、原田甲斐(平幹二朗)に恋い焦がれるあまりに孕んだ狂気にはドラマの枠を超えた真実が痛ましい程に伝わって来た。

 

 

 1972年、『新・平家物語』における北条政子。後年の『草燃える』にて、史上最強にして前人未到の政子を演じた岩下志麻には存在感で劣るものの、高橋幸治の源頼朝と偲びあいの末深く結ばれる女(ただし『草燃える』や『源義経』の様に、静御前の助命を嘆願したりといった、歴史的なひと幕を担う役割は演じていない)としての北条政子として、源氏サイドの物語を紡いでいる。

 

 そして栗原さんが、大河ドラマの忘れえぬ光景としての地位を決定づけたのが、何といっても大河屈指の名作・1978年の『黄金の日日』である。ここで演じられた美緒役で、今井宗久(丹波哲郎)に養子として拾われる元・京都の公家の娘で、宗久の息子・宗薫(林隆三)と夫婦になるにも関わらず、主人公たる納屋(呂宋)助左衛門(六代目市川染五郎/現・松本幸四郎)と激しく恋に落ちる逞しい女性を演じている。

 

 

 『黄金の日日』の印象があまりに鮮烈で、松本幸四郎の助左の印象すら弱めんばかりであったが故に、栗原さんの大河における印象はどうしても『黄金』の美緒に代表されがちだが、私個人的にはやはり『樅ノ木』でのたよ、何と言ってもこれである。何せ栗原さんが『樅ノ木』に出演していたのは、山本周五郎の原作にはないオリジナルストーリー…主人公・原田甲斐(平幹二朗)の青春時代における第13話「雪の香華」までである。現存する「総集編」をご覧になったことのない方に向けてあらすじに触れておくと…身分の違いにより甲斐と結婚出来ないことを悟り、遂に気が触れてしまったたよは、懸命な甲斐とたよ父・与五兵衛の介護で何とか生きていたが、ある日与五兵衛が呟いた「寒芹が食べたい」の言葉に応えようと、雪の積もる川べりで寒芹を積む。しかしそこに、大角を生やしたシカが現れ、正気を失い、虫や動物など無心に動く対象にしか反応しなくなったたよは、このシカに恐れることなく近寄り、結果角で突かれて死する…というのが、最終的な栗原さんの『樅ノ木』における退場である。


 栗原さんの狂気に蝕まれるたよのシーンは、いま現在の放送コードに触れて地上波等では放送できないのではないか、という位真に迫ったモノで、同時に成就せぬ激しい恋に身をやつした挙句に命をも失う女の悲しさ・切なさを、陳腐な言葉など超えた真実をもって我々に伝えてくれる。

 

 さてそんな栗原小巻さんが、伝説の『黄金の日日』以来39年振りに大河ドラマに出演するというから、これはもう、胸の高まりを押さえ切れない。なんでも、制作統括・岡本幸江サンがいちおう『黄金の日日』をリアルタイムで観ていた世代の様で、ハッキリ言うと『黄金』への思い入れというより、中高年の大河ドラマファンのノスタルジアにおもねっての起用と、私は解釈している。

 

# この辺り、純粋に過去の大河ドラマやNHK大型時代劇が好きで、『真田丸』で思い入れの強い『黄金』の呂宋助左衛門(しかも他ならぬ、松本幸四郎本人)を躊躇なく出演させてしまう三谷幸喜とは、一線を画した方が正しいと思う。

 

 そしてその配役は徳川家康(阿部サダヲ)の実母・於大の方(おだいのかた、享禄元年(1528年)~慶長7年(1602年))で、マザコンであった家康の人生に多大な影響を与えた女性(家康は最も多感な時期に、今川の人質として実母と離れ離れに暮らして来た)のみならず、家康最初の妻・築山殿(菜々緒)を激しく嫌い、のちに信長の命による家康の手による殺害に深く関与している人物でもある。

 

 『黄金の日日』のマドンナでもあった栗原さんが、39年の歳月を経て柴崎コウ(井伊直虎)に、高橋一生(小野但馬守政次)に、柳楽優弥(龍雲丸)に…どの様な影響を与えるのか考えただけでゾクゾクモノ…おちゃめな役作りを宣言している松平健の武田信玄以上に、これは期待出来るのではないか。近年の大河に対する栗原さんの考え方・テレビと一線を画して舞台女優を極めてこられたそのスタンス含め、寿桂尼(浅丘ルリ子)退場前の『直虎』以上の、妥協を許さない姿勢を、今から私は期待せずにはいられない。

 

 ちなみに可能性としては極めて低いが、甚兵衛を演ずる山本學との共演が実現した場合、これは『三姉妹』以来50年振りの共演となる…もしももしも、これが実現した場合、『おんな城主 直虎』は別の意味でモニュメント的作品となることは疑いも無い。

 

 

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